中小・ベンチャー企業のサービスモデル革新と生産性向上、新産業創造に向けて

開催日 2009年2月18日
スピーカー 三本松 進 ((独)中小企業基盤整備機構シニアリサーチャー)
コメンテータ 板谷 敏正 (プロパティデータバンク(株)代表取締役社長)
モデレータ 星野 光秀 (RIETI研究調整ディレクター)
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議事録

三本松 進写真昨年9月、私が執筆し中小機構として「中小・ベンチャー企業のサービスモデル革新と生産性向上」研究を公表しました。そこでは、本来多様なサービス業において、業界に共通のサービスモデル革新の分析手法とその発展の道筋を研究して、かなりの程度体系化でき、サービスの4分類に対応する33の網羅的な先進事例研究で、この方式・アプローチの妥当性を確認しました。

今回のアプローチと33の事例を参照すれば、内外のサービスモデル革新、プロセス革新者を目指す方々の、それぞれの市場成功への道筋が見える化できるので、これを有効活用してもらいたいがため、本日ご説明する次第です。これまで、昨年11月以降、東京、大阪、広島、福岡でのセミナー、経済同友会、ASP協議会でのセミナー等、で多くの方から理解と共鳴を受けております。

今回、ケース企業の中からプロパティデータバンク(株)の板谷社長に、コメントの形で、自社のサービスモデル革新のポイントをお話していただきます。このサービスモデルは不動産管理分野での画期的なもので、昨年のASP大賞になっております。今回のセミナーでは、まず、事例説明から入り、最後に、抽象的なサービスモデル革新アプローチをご説明します。

先進事例紹介

事例1.(株)ハッピー(機能創造、プロセス創造、直営)

衣服を傷めることなく、水洗と石油系を組合わせて、あらゆる汚れを落とす手法を開発した京都のクリーニング会社で、サービスモデル革新の理念型ともいえる企業です。対人サービスにおける目の前に市場があるという市場の制約は、ネット受付や無料宅配で克服しました。顧客接点では、電子カルテをつくり、インフォームドコンセントを実施することで顧客満足を達成しています。バックオフィスの処理プロセスとして新洗浄方法を開発することで、新機能創造も実現しています。また、衣類の洗浄処理プロセスで同期生産方式を構築することで、品質、生産性の向上を達成しています。

どの物件から洗浄しても待ち時間をつくらないために工程を「見える化」し、複数作業を並列処理しています。 これにより、作業者、管理職の数を大きく減らすこともできました。水汚れの洗浄と油汚れの洗浄といったように作業が循環する場合でも、服にバーコードをつけることで、納入日に合わせて作業を収斂させています。プロセス間での組織の壁を串刺す業務プロセス連携の仕組をIT利用で稼動させて、バックオフィスでの生産性は大きく向上しました。

事例2.笹屋ホテル(機能強化に向けたプロセス革新、旅館部門)

旅館サービスは部屋サービスと食事サービスにわけられますが、そこでは女子従業員の問題がボトルネックとなります。たとえば温かい食事を運ぶことは、10室の場合は女子従業員ですべてできますが、50~100室になるとほぼ不可能となります。笹屋ホテルではアルバイトに食事を運ばせ、女子従業員はホステス業に専念させることでこの問題を解決し、顧客満足も達成しました。女子従業員の仕事を二分解して、顧客満足活動にシフトしたのが論点の1つです。

フロントにはすべての顧客データが入力されたパソコンがあり、注文への対応指示はパソコン画面をみながらだされます。このように、旅館モデルのIT化を進め、女子従業員業の業務改革も実施することで顧客満足を達成している。その意味で、機能強化に向けたプロセス革新と定義できる事例です。

事例3.キュービーネット(株)(機能削除、プロセス創造、フランチャイズ)

原則待ち時間なしで、10分1000円で散髪を終える新しいヘアカットサービスです。機能を削除し、コア作業だけにして、プロセスを創造し、フランチャイズにしている事例です。業務用資材はすべて本部で集中調達・集中購買し、データはすべてITで各店舗から本部に直列で入ってきます。

事例4.スターウェイ(株)(機能創造、プロセス創造、新連携)

リユースモデルにより機能・プロセスを創造し、そのために新連携を使った事例です。従来のノートパソコンの修理モデルでは、パソコンがユーザーと家電メーカーの間を往来する過程で、段ボール箱と緩衝材が使われていました。スターウェイは機能創造して2枚のフィルムの間にノートパソコンを固定する特許付のダンボールの通箱を開発しました。これは捨てずに100回再利用し、緩衝材は不要になりました。モノの移動に関しては、作業をするのはパソコンを運ぶ運送企業のドライバーだけです。

また、スターウェイでは修理・物流情報総合管理システム(ASP)を使って、各主体間のデータ、オーダーを一元管理することで、モノの移動を管理するデータベース、ソフトを家電メーカーや家電量販店で個別に開発・利用する必要がなくなりなりました。

事例5.高丸工業(株)(機能組合せ創造、プロセス創造、新連携)

尼崎市にあるロボット会社です。従来、ロボットについては各メーカー大企業が垂直のバリューチェーンを展開していました。中小企業では、これを導入しても上手く使いこなせず廃残ロボットが工場に散らばっているのが現状でした。中小・中堅企業に最適なロボットを入れてメンテナンスをするのは難しいことですが、高丸工業では最初に中小顧客にコンサルテーションを実施し、どのような生産ラインになっているかを確認した後、それぞれにふさわしいロボットを購入してもらい、メンテナンスまで提供するサービスを展開しています。大企業の垂直系列に依存しない、販売から据え付け、設計まですべてを担当する、バーチャルな流通企業としての垂直統合型新サービスです。

事例6.(株)サンテクノ(設計情報の連鎖モデル)

このサービスモデルは、地方工務店のバックオフィスを中心とした部材購買全体のアウトソーシングモデルです。従来のビジネスモデルでは、各工務店は2次元の平面図を使うだけで3次元CADを使っていないので、立体的な部材計算まではできません。しかしサンテクノでは3次元CADが使えるので、平面図が3つ揃えば、このCADを使って、建築に必要な部材の形、数、種類が特定できます。さらに、設計情報をオペレーション部門に流し、プレカット材や建・資材を代行発注し、工事現場に必要な部材を丸ごと納入するプロセスもつくりました。このようにバックオフィスプロセスを本企業がすべて処理することで、コストを1.5~2割程度削減させることができました。

サービスモデル革新アプローチの説明

(1)概要
経営者がリーダーシップを持って、新サービスを事前に(a)着想、(b)新サービスモデル形成、(c)新サービス開発、(d)開業、(e)安定成長への取り組み、の5つのレベルで鳥瞰的に構想、設計して事業性の高いものに練り上げ、これを直面する事業環境下で柔軟に進捗管理する。これが、新サービス事業開発、事業革新プロセスにおける中長期的な成功の要因です。

サービス供給における優位性形成のあり方は、基本的には(ⅰ)サービス提供の仕組設計の在り方に依存するが、更に(ⅱ)開業の仕方、(ⅲ)従業員の活性化の程度も重要で、これらの統合的な管理が必要です。ここでは、私が特に内容を紹介したい上記(c)と(e)の内容を以下に紹介します。

(2)新サービス開発(新サービス事業の創造)
新サービス開発とは、新サービスモデルの内容を新プロセス(供給システム)に具現化して、組織・仕組・業務の体系で業務設計し、この中でサービス供給上の優位性を形成することです。

全体で3階層を想定し、まず第1の全社戦略レベルでは、差別化した新機能を新プロセスに埋め込んで競争力のある新サービスを提供するために、全社最適な経営管理の設計をします。需給管理、マーケティング、顧客接点管理、ブランド形成、コスト・資金管理などをすべてやります。第2の業務プロセスレベルでは、新業務でのボトルネックを排除して、フロントオフィスの顧客接点での顧客満足と、バックオフィスでの効率化を同時達成する業務プロセスを新設計する必要があります。第3に実現手段レベルで、プロセスレベルでの革新は、データベース、情報共有、複数業務のリアルタイム・同期・並列処理というIT機能を使えば理論的には実現可能となります。しかしそれには前提があります。これが一番大切な点です。事前に組織の壁を串刺しにした業務プロセス連携を行うための全体最適に向けた仕組みを形成し、対応する機能チェーン、最適化に向けた業務ルーティンを設計することです。職員に同期・並列処理効果を実現する働き方の体系を設計できれば最適化は実現可能です。

(3)安定成長に向けた取り組み
従業員が就労環境に満足すればサービス品質が向上し、お客様満足が確保され、収益が拡大するという「サービス・プロフィットチェーン」の考え方があります。ここでは、新サービス開発で設定した業務ルーティンのレベル以上に従業員が働くかどうかは、従業員満足のレベルに依存するという点が重要となります。社長の意図する設計図通りに従業員が働くかどうかは、従業員が与えられた環境に満足するかどうかにかかっています。

(4)社内資源活用の最適化と外部資源活用の最適化
最適化といっても、社内資源活用の最適化と、外部資源活用の最適化は別々に定義されるべきです。社内資源活用の場合は、会社内の組織活動において、顧客、モノ、設計情報の流れなどと、データ・オーダーの流れを「見える化」し、一致させ、組織の壁を串刺す業務プロセス連携を行う仕組を作って、その上で業務の同期、並列処理を行う働き方の体系ができれば最適化は実現可能です。

外部資源活用の最適化とは、自社で統合上の知識を保持しつつ、外部にある自社には無い優秀な資源を最適に組合わせて活用する利益を確保することです。この場合には、追加的に組織間で補完性・適合性・コミットメント(WIN-WINの関係)の達成が追加的に要求される制約条件です。これがなければ、一緒になったことで損をしてしまいます。

(5)イノベーションによる生産性向上、新産業創造
イノベーションによる生産性向上については、プロダクトイノベーション、プロセスイノベーション、経営方式のイノベーションの3つの態様のイノベーションがあり、これらにより、フロントオフィスとバックオフィスの革新を統合的に実施して、持続可能な生産性向上を実現し、企業成長を図ることができます。これまでのケースでは、プロダクトイノベーションの機能削除のケースで規模の経済が実現されれば、新産業創造になるケースが多く観察されました。

板谷敏正 (プロパティデータバンク(株)代表取締役社長)コメント

板谷 敏正写真弊社は雑ぱくにいえば、不動産管理のソフトウェア会社です。「開業」という意味では、コーポレートベンチャーとしてある程度のノウハウや知的財産、資金は持ち合わせていました。ただし、親企業の本業とのシナジーはしないということで、営業・戦略も含め、すべて独立独歩でやってきています。

われわれのビジネスの背景には、特に2000年から起きた不動産業界・市場の変化があります。そうした変化により、不動産の管理手法も代わり、結果として、弊社のツールやソフトウェアへの需要が高まることになりました。

弊社は設立当初から、ネット上でソフト(ASP・SaaS)を貸し出すビジネスを展開してきました。不動産は場所が離れているので、ネット上で一元管理できなければ使い物にならないというのが開発の着想です。オーナーと管理会社の間、異なる地域に立地するビルの間、異なる会社の間で同じソフトを使う時代が到来する可能性を見据え、選択と集中により、ASPサービスの一本槍で事業を起ち上げました。当初は不動産関連情報をデータセンターに預けることに抵抗を感じる企業も多かったのですが、その後、ネットの環境も良くなり、逆にデータセンターにデータを預けた方が安心だというユーザーもでてきて、現在に至っています。

これは「サービスモデルの革新」の内容と関係しますが、いまは不動産を一社で管理する時代ではなく、オーナーと管理会社との連携が不可欠になっています。従来は、不動産管理業務は管理会社と不動産オーナーに業務がまたがり、各社が個別に2重計算・記帳の業務プロセスの連鎖を形成していました。しかしASP・SaaSを利用すれば、2重業務は解消され、また、データの履歴が残るため資産価値を維持・向上させることも可能になります。このようにして、ユーザーは、投資戦略やテナントのサービス向上など、より戦略的な業務に注力できるようになっています。

親会社である清水建設が営業に関与しないことで、逆にマーケットは広がりました。清水以外の建設会社が建てた建物も、既に建っている不動産も、すべてが対象になりますので、市場全体を手中に収めることができています。

BBLセミナー写真

質疑応答

Q:

失敗事例で特徴的な要素があればお聞かせください。また、日本の中小企業全体としての課題、さらに、グローバル進出ができている企業とできていない企業の違いについてもお考えをお聞かせください。

A:

サービスモデル革新アプローチの5段階、即ち、(a)着想から新機能形成、経営理念形成、(b)新サービスモデル形成、(c)新サービス開発、(d)開業、(e)安定成長に向けての取り組み、のいずれかで失敗すれば、モデル的には失敗となります。

企業経営の本質は、最適化したルーティンを設計すること、ないしは、オペーションすることにあります。モノでいえば、事業化のルーティンと量産化のルーティンがあります。事業化とは、新商品の設計図を早く、適切につくることです。量産化とは、設計図をサプライチェーンに回して、在庫を少なくし、スピードの経済を実現することです。

サービスの場合は、目の前が市場なので、マーケティングと生産を同時にしていることになりますので、非常に難しいのですが、ハッピーのように、その業務プロセスを見える化し、組織の壁を串刺しにする働き方の体系をつくることができれば、ITに載せることもできます。

それができるかは、日頃から本業の働き方の体系のどこがおかしくて、どこが良くて、どのように改善すれば固有のビジネスモデルが変えられるのかをイメージできるかどうかにかかっています。

グローバル展開するには、自社のサービス業務の設計図を現地人に転写して、異文化経営をする必要があります。誰が、どの言語を使って、どのように教えるのかという問題もあります。設計図を現地語にして現地人に転写するのが一番難しく、また、法人形態や契約形態をフランチャイズにする場合も、現地法人にする場合も、現地語を話せる人が介在しないと、盗まれる又は悪用される危険性があります。これがサービスのグローバル経営の最大のポイントです。内容的には別の民族の言葉に置き換えても、同じことが再現できる程きちんとしたロジックが仕組み化されていれば転写可能です。

Q:

従業員が満足すれば予想以上の働きをするとのことですが、中小企業にはどうしても数字を追求する傾向があり、見えない定性効果に関する理解を経営者層から得るのはなかなか難しいと思います。事例で紹介された企業はこのあたり、どのように納得されているのでしょうか。

A:

やはり社長が良くないとだめです。従業員満足を得るには、社長が良いこと、従業員が良いこと、従業員を教育訓練して表彰し、成果が上がれば誉めること―この3つがなければだめです。社長が遊んでいて従業員満足はあり得ません。社長に公私混同がなく、全部自分でやるのではなく、権限委譲して、従業員にやらせて、評価して、誉めて、また、研修するというサイクルが重要です。社長が会社の業務プロセスを「見える化」して、社長だけでなくみんなで、会社の業務プロセスをこなしていくことが求められます。社長が業務プロセスを「見える化」できない企業では従業員満足は達成できないというのが、私が達しつつある結論です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。