開催日 | 2009年1月13日 |
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スピーカー | 舘内 端 (自動車評論家/日本EVクラブ代表) |
モデレータ | 佐藤 樹一郎 (RIETI副所長) |
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議事録
EVの実力
今年のデトロイト・モーターショーは、米ビッグ3を中心に電気自動車(EV)が次々と発表され、あたかも北米EVショーの趣を示しています。
ところでEVの実力は一体どのようなものでしょうか。価格を左右する電池の性能と絡めて説明したいと思います。
東京プリンスホテルから北海道洞爺湖まで858.7キロメートルをEVで走行する実験を2008年6月に行いました。参加した車両は、三菱自動車の「i MiEV(アイミーブ)」と富士重工業の「R1e(アールワンイー)」(試作品)です。使用電気量は85.65キロワットアワー、CO2排出量は35.12キログラム(同等の軽自動車の4分の1から6分の1程度)という結果になりました。電気代は1713円、ガソリン車の燃料費1万2966円とは比較にならない安さです。深夜電力契約で充電するとこれがさらに500円に抑えられます。各国・地域の電力事情(電力会社の効率性、原発比率、など)や充電の時間帯により数値は変わりますが、いずれにしても、CO2排出量と燃料代が大幅にカットできることが実証されました。
この実験では、ホテルの100ボルト電源で夜間に100%充電した電池を東京電力の急速充電器を使って補足充電しながら走らせました。1日の走行距離は150キロメートル、途中2箇所で補足充電をしました。急速充電器を使うと、「i MiEV」は30分で約100~120キロメートル、「R1e」は15分で約60キロメートル分の電気が充電できます。
航続距離は電池の搭載量によって違ってきます。この点は論議があり、「EVは航続距離が短いのでシティコミューター向き」という案と、「航続距離を200キロメートルぐらいに延ばして、ガソリン車並に使用できるようにすべき」という案に分かれていて、充電1回当たりの適切な航続距離に関してなかなか結論に至りません。なお、今回は高速道路を殆ど使いませんでした。高速道路上に急速充電器を設置するのが難しかったことと、大きな電流を流すと電池の容量(航続距離)が低下するのが理由ですが、いずれも解決は可能です。後者に関しては、電池の性能を向上すること、電池を沢山積んで電圧を上げることが解決策となります。
普及の鍵を握る電池性能
日本の自動車をすべてEV化するとして、はたして電力供給は間に合うのか、原発に依存することにならないか。EV反対派がよく批判する点ですが、当方で計算したところ、日本全国の自動車が毎日400キロメートル走るための電力は2007年度の電力生産量でまかなえます。実際の発電能力はその2倍ですので、自動車以外の電力使用と合わせても設備能力的には十分間に合います。夏の電力ピーク時には、不使用EVから電気を吸い出すことで平準化が図れますので、EV使用はむしろ好ましいといえます。
使いやすさを左右する充電時間は、電池の充電状態、電源の大きさ、充電器の容量のほか、電池の容量や性能によっても変わります。家庭電源(1コンセント/ブレーカー当たり100ボルトX15アンペア=1.5キロワット)で同等の車載充電器を使うと、「i MiEV」(16キロワットアワー)の場合、10.7時間で95%、11~12時間もあるとほぼ100%充電できます。航続距離は152キロメートルですので、1キロメートル当たり4.2分の充電が必要という計算になります。より大きな電源(200ボルトX30アンペア=6キロワット)を使えば2.7時間で90%充電できます。1キロメートル当たり1.1分ですので、「自宅まであと少し」という距離で電池切れとなっても5分程度の充電で帰れます。そのような電源と充電器がコンビニなど街中に2、3箇所あれば、不安なくドライブができます。工場、スーパー、カーディーラー、県庁や市役所など大容量電源がある所で急速充電器を使えば、19.2分で80%充電できます(1キロメートル当たり14秒)。給油より早く済み、混雑の心配も無いため、それらを高速道路のサービスエリア(SA)と入口に設置すれば必ずしも自宅で充電しておく必要が無くなります。
電気代は、昼間電力契約で1キロメートル当たり2.5円。深夜電力契約で1キロメートル当たり0.75円です。ガソリンの場合、リッター10kmの燃費で1リッター100円として、1キロメートル当たり10円かかりますので、電力が圧倒的に安いことがわかります。深夜電力でガソリン車の13分の1、昼間電力でも4分の1ですので、商品化への説得力は大いにあります。
EVの開発動向
日本では、三菱自動車の「i MiEV」、スバルの「プラグイン・ステラ・コンセプト」(量産予定)のほか、日産も来年秋にEVを数万台規模で投入する予定です。日本で最大のEV実績を持つトヨタは「iQ」のEV改造車をデトロイト・モーターショーに出展しました。一方、欧州、特にドイツでは殆どのメーカーがEV開発に着手しています。米国からはGMの「ボルト」、クライスラーがGEMに委託して開発したEVのほか、テスラの「ロードスター」などが発表されています。また、「スマート」をEVに改造した「Smart ed」の実証試験が始まっています。
電池に関して大切なのは、画一性と信頼性です。リチウムイオン電池は組成が簡単なため試作品はわりと簡単にできますが、これを何千本単位で組むには、1つ1つの電池の性能がぴったりと合うよう画一的に量産していく必要があります。出力や寿命にかなり影響してくるからです。それと信頼性の2つが重要なノウハウとなっていますが、これらを現在有しているのがリチウムイオンを量産している三洋電機です。
電池の大量生産・調達は、どの自動車メーカーにとっても今後のEV量産の前に立ちはだかる課題です。電池開発の動向と自動車メーカーとの結びつきは複雑で、パナソニックとトヨタが1995年に設立した合弁会社パナソニックEVエナジーをはじめ、三洋電機、NEC、ソニー、GSユアサなどの電池メーカーが国内外の大手自動車メーカーと複層的な開発・供給体制を結んでいます。
価格と普及
EVのCO2排出量は軽自動車のおよそ6分の1。日本では自動車がCO2排出量の20%を占めるため、大幅なCO2削減が期待できます。
その普及を握る価格は、「i MiEV」が400万円前後(2009年価格)といわれています。個人への本格的普及は2010年以降ですので、実際にはもう少し低くなると見ています。仮に400万円として、そのうち経済産業省が改造費の2分の1という名目で137.5万円の補助金を出します。さらに神奈川県は68.75万円(国の補助金の半額)を、横浜市はそれに上乗せして30万円を補助します(2009年2月まで)。つまり、横浜市で「i MiEV」を買うと、自動車税を除いて163.75万円を個人が負担することになります。それと同等のガソリン車「i」との差額が38.75万円で、取り戻すのに約3.2年かかります。
もちろん、補助金無しで価格が150万円に下がれば理想的です。その鍵を握る試みとして、日産は電池をリースするとしています。そうしてリチウム電池の価格が1ワット当たり30円程度に下がると、リーズナブルな価格でEVが供給できます。「プリウス」の補修用電池が12万8000円、工場出荷ベースで計算して1ワット当たり32.6円ですので、量産化とメーカー同士の競争が本格化すれば決して不可能な数字でないと見ています。
ただ、EVを普及させるには、まずは充電インフラを整備する必要があります。コンビニやレストランなどに200Vの充電コンセントを設けるほか、人口10万規模の都市に対して急速充電器を4、5箇所設置することを提言します。急速充電器は1台300万円ですので、ガソリンスタンドと比べて安価に設置できます。
定額給付金2兆円の使い道
景気対策の定額給付金に関して、私は「定額給付金2兆円で売る国民EV構想」を考えています。政府が2兆円を使って200万円の車を100万台買い上げて転売する構想です。量産化となればEVの価格は確実に1台200万円程度に下がります。そこで政府がEVを100万台発注すれば、自動車や電池のメーカーは一気に量産設備を取り入れます。電池品質の安定化が進み、充電インフラも整いますし、何よりも100万台のEVを作って世界にばらまくことで、電池の種類、組み合わせ、コンセントの形、充電器の使用など、EVに関してデファクト・スタンダードを打ち出すことができます。コンピュータ産業の二の舞にならないためにも、早めに規格競争の主導権を握り、世界の市場にEVを供給すると同時に、自動車メーカーに部品を提供していくべきです。温暖化対策や雇用促進にも有効な戦略です。
さらに行政側で「EV何でも相談室」に相当する窓口を開設すれば、普及の課題であるユーザーの心配解消にもつながると思います。
EVで楽しいドライブを!
日本EVクラブでは、EV普及のため日本EVフェルティバル等さまざまなイベントを開催しています。いずれはEVのF1グランプリを東京ドームで開催すべく、EVの試作や小中学生向けEV教室の開催に取り組んでいます。また、2009年11月には、EVで東京の日本橋から大阪の日本橋まで、およそ650キロメートルを途中の充電無しで走行する世界初の試みをします。いずれは電池の容量が運転する人間の体力の限界を抜きますので、そうなるとEVに対する満足度が高まり、不安感は解消します。実際、1日600キロメートルを休みなく毎日運転することはあまり現実的ではありません。そうした実証を通じて、航続距離の議論に決着を見出したいと考えています。
質疑応答
- Q:
EVの普及が本格化すると、エンジンの需要が無くなるなど、いわゆる「パソコン化現象」が起きると懸念されます。自動車産業はどのような形で存続するのでしょうか。
また、充電に関して、自動車メーカー同士で規格を統一することは不可能でしょうか。
- A:
確かに、EVでは不要な部品が多くなるため、自動車産業は大幅に縮小します。ユーザーが一気にEVに流れる可能性もあるので、雇用面を含めて軟着陸の方法を考える必要があります。長期的に見ると、EVは部品数が少なく、モーターやインバーターがリサイクル可能なので、ガソリンエンジン車よりも確実に安くなります。自動車産業としては難しい局面となりますが、EV普及によってCO2の排出が減り世界中で多くの人々が車に乗れるようになりますので、EVへのシフトは止まらないと思います。
EVも3種類程度のJIS規格があれば十分だと思います。そうなれば価格も下がります。現状ではメーカーの事情もあって難しいのですが、少なくともリサイクルの観点から「入口」と「出口」だけは調整していただきたいと考えています。ただ、長期的には自動車産業が今の形態ではありえなくなるので、世界中で同じ自動車を同じ規格で作ることを考える時代が来ると思います。いわゆる「車離れ」は日本だけでなく先進国共通の現象であり、クルマが自らのステータスや個性を映すものでなくなりつつあります。いずれは電気冷蔵庫や電気洗濯機のような位置付けになってくると思われます。
- Q:
今後、日本の電池・EVメーカーにとって脅威となるえる欧米メーカーは。
- A:
米国ではGMが1990年に「インパクト」(後のEV-1)を発表していますが、その後、EV開発を中断したため、開発者が殆どベンチャーに流れています。そうした企業や軍の技術者が集まる米国のベンチャーはあなどれない実力を持っています。欧州はベンチャーはそれ程ありませんが、技術力のある小さな会社が数多く存在します。その中で日本がアドバンテージを持つのは、電池の量産・信頼性向上技術。このメリットを失わないよう、米国のベンチャーと提携しながら、量産体制を維持・拡大し、EVの規格作りの主導権を握ることが、10年後の国内自動車産業にとって非常に重要です。それができれば自動車産業の縮小に伴う雇用不安も軽減できます。
- Q:
電池の無い電池自動車、レーザー給電など、走りながら給電する自動車の可能性は。
- A:
非接触型の充電として、1970年代に電線を埋めて給電する実験がカリフォルニア州郊外で行われました。ですので、路上充電の可能性は非常にあります。全道路に電線を埋めるのが困難なら、メインロードだけ電線を配備して電池走行と併用させる方法も考えられます。そうなると一層の軽量化、低コスト化が実現し、電池の寿命もかなり延びてきます。
この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。