メガ・リージョンの競争力強化

開催日 2008年10月17日
スピーカー 細川 昌彦 (中京大学経済学部教授)
モデレータ 佐藤 樹一郎 (RIETI副所長)
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議事録

国内のメガ・リージョンに求められる意識

細川 昌彦写真「メガ・リージョン」とは簡単にいえば「広域経済圏」を意味し、これまでにも大前研一氏やR・フロリダ氏が提唱してきた概念です。

メガ・リージョンの代表例として、米国には西海岸のシリコンバレーのほかに、バージニア州、ワシントンDC、メリーランド州にまたがる「グレーター・ワシントン」があります。そこでは半官半民の組織が企業誘致などの海外マーケティングを展開し、600社以上のハイテク企業が集積しています。カナダのトロント市を中心とした6つの自治体で成る「グレーター・トロント」、欧州の「フランクフルト・ラインマイン地域」などもメガ・リージョンの代表例で、いずれの地域でも、人材・企業を呼び込む競争がなされています。

同様の競争は東アジアのメガ・リージョンン―中国の環渤海地域、長江デルタ、珠江デルタ、香港やシンガポール―でも起きています。

では日本国内のメガ・リージョンはどうでしょうか。国内のメガ・リージョンであるグレーター・ナゴヤ、北部九州圏、京阪神地域、東京圏は、国際競争に対する意識をさらに高める必要があります。国内の「勝ち組」がグローバルな意味での「勝ち組」となるとは限らないからです。とりわけ、日本を代表する特別な地域としての東京は、東アジアという土俵を超えたところでのグローバルな競争を意識すべきです。金融・サービスで成り立つ東京と、製造業で成り立つその他の地域では土俵が異なります。また、メガ・リージョンと自律循環型地域とではビジネスモデルが違うという意識も必要です。

・「日本の濃縮ジュース」 グレーター・ナゴヤ
日本の強みと弱みが濃縮ジュースのように凝縮されたグレーター・ナゴヤは、モノづくりのメッカです。ただ、情報発信力は弱く、人材・企業の誘致力は国内の他の地域を下回ります。これはグレーター・ナゴヤが克服すべき今後の課題です。また、ポスト自動車の布石をどう打つか、裾野の広いプラットフォーム型産業をどう育成していくのかも考えていかなければなりません。

・ 「アジア一番圏」 北部九州圏
自動車・半導体産業の集積が拡大する北部九州圏の課題は、研究開発機能の不在です。域内部品調達率が低いという問題もあります。地理的に近接する韓国や中国の部品産業との連携は問題解決の1つの方法になるのではないでしょうか。支店経済を克服できるかもこの地域にとっての大きなテーマです。

・ 「三都物語」 京阪神地域
京阪神地域を語る上で忘れてはならないのが、三都の仲の悪さです。たとえば、バイオ産業の活性化を目指し外国企業を誘致する場合も、申請は三都別々に行われています。なぜ有機的連携の話を具体的に進め、申請を一本化できないのかが疑問です。その意味で、三都がどう結束するかが京阪神地域の成功のカギを握っているともいえるでしょう。現在議論が進められているアジアの知の交流拠点になれるのかも、今後のテーマの1つになると思います。

・ 「グローバル感性都市」 東京
東京国際映画祭や日本ファッション・ウィークは、映画産業やファッション産業の活性化を目的としたものではなく、海外に向けた東京の情報発信力を強化する1つの手段にすぎません。私はこうした意識をさらに強く持つ必要があると思います。アジアでは東京国際映画祭に続く形で、香港、上海、釜山でも国際映画祭が開催されていますが、国際性に欠ける東京国際映画祭はたとえば香港の国際映画祭に負けているのではないでしょうか。話題性を高めるためにレッドカーペットにしたのは良いのですが、なぜその上を歩くのは日本の俳優ばかりなのでしょうか。なぜ日本のマスコミばかりが取材にくるのでしょうか。日本の国際イベントが真の意味で国際的なのか、今一度、振り返るときがきています。

国内メガ・リージョンが乗り越えるべき分野別課題

分野別テーマには大きく分けて、「企業をどう呼び込むか」、「創造的な人材をどう引き付けるか」、「集客ビジネスの成功に何が必要か」があります。

アジアでは、留学生獲得の熾烈な競争が繰り広げられています。そんな中、国内では留学生の「受け入れ」という言葉をよく耳にしますが、私は留学生は「獲得する」ものだと思っています。つまり、来る者を受けるという受動的意識から、外部の人材を取ってくるという積極的意識へと発想を転換させる必要があります。

日本は留学生の数が圧倒的に少ない状況にありますが、大学だけに任せておいても、状況の改善は見込めません。必要なのは産学連携であり、産業界のネットワークを駆使して、海外から優れた人材を獲得することです。そのためには、現在日本にいる留学生を活用する「出口政策」だけでなく、これから日本にやってくるよう留学生を呼び込む「入口政策」を強化すべきです。

たとえば中国内陸部には優れた人材が多く埋もれています。内陸部にビジネス展開している企業のネットワークを活用してそうした人材を発掘し、企業が奨学金を与える。そうして日本で勉強した学生を卒業後にインターンシップで引き受けて就職支援するという形も可能です。ただし、これを一大学または一企業だけの取り組みでやろうとしてもうまくいきません。留学生の獲得は、複数の大学や企業が関わる「地域」の取り組みとすべきです。

集客ビジネスについては、見本市・展示会ビジネスを例に考えてみたいと思います。東アジアでは国際会議や国際見本市の誘致合戦が繰り広げられています。一方、日本では東京ビッグサイトが一人勝ちをしているのが現状で、地方の展示会場では閑古鳥が鳴いています。ここで克服すべき課題は2つあります。

1つは、地方の展示会場の規模拡充です。見本市とは企業が出展して商談を行う場です。ビジネスチャンスを求めて海外からビジネスマンがやってきます。そこではスケールメリットが重要となります。人が多く集まるから企業が多く出展し、企業が多く出展するから人が多く集まるという好循環をもたらすスケールメリットです。勝負の別れ目は規模にあります。実際、世界の展示会場では10万平米以上あって当たり前です。ところが日本では、東京ビッグサイトでも8万平米、地方となると2~3万平米というのが現状です。これでは国際見本市を誘致できません。

克服すべき2つ目の課題は専門的人材の欠如です。見本市はビジネスであり、自治体の天下り先団体がやるべきことではありません。見本市の実態に精通しているプロ集団に入り込める人材を日本は育成できているでしょうか。答えは「ノー」です。

さらに、見本市を誘致するだけでは不十分です。求められるのは複合戦略ビジネスの発想です。たとえば空港近辺に建設された香港のアジア・ワールド・エクスポの会場は、国際ビジネスマンにとって非常に便利な立地となっています。会場周辺にはゴルフ場もあります。釜山でも、見本市会場の近接地域に巨大ショッピングモールやアミューズメントパークが建てられています。これらはいずれも、複合戦略ビジネスの視点を取り入れた結果です。ところが日本では、展示会場は展示会場のみ切り離して単体で赤字・黒字が議論されています。これではだめです。もうけは複合的に考えなければなりません。

このように、外から企業や人材を呼び込む仕掛けを作る際には、実態を見極めながら国際競争に打ち勝つ戦略が必要となります。にも関わらず、日本は内輪の議論に終始していることに私は危機感を抱いています。

地域ブランド力の構築に何が必要か

企業・人材を誘致するにあたっては、地域そのものをブランドとして売り込むマーケティングに意識的に取り組むべきです。ブランド戦略ではまず、ブランド名が必要となりますが、ここで意識すべきは海外のクライアントであり、域内の自治体や企業・団体ではありません。たとえば愛知・岐阜・三重を網羅する地域のブランド名を「グレーター・ナゴヤ」としたのは、世界のどこを見渡しても州・県の名前がブランド名となっている地域はなかったからです。ブランド名として使われているのは「シカゴ」や「ワシントン」といった「都市」の名前です。ブランド名を英語(カタカナ)にしたのも、海外のクライアントを意識してのことです。

ブランド戦略で次に重要となるのがブランドメッセージです。たとえばシリコンバレーと聞けば「イノベーションのメッカ」というイメージが頭に浮かぶのではないでしょうか。事実、シリコンバレーの大学・企業関係者の間では、そうしたメッセージ性が共有されています。日本のメガ・リージョンにおいても、それぞれのブランド名に込めるメッセージを地域全体で作り上げ、共有する必要があります。

地域の競争力を決定する地域経営力

自治体経営という言葉がよく聞かれますが、自治体の中だけでフルセットで物事を考えて、行政評価も自治体の中だけで考えるようなことがあってはなりません。経済の実態はあくまで地域です。必要なのは、行政機関、経済団体、大学が、広域地域という1つの企業体をチームとして共同経営するという発想です。

その点で、道州制になれば物事はすっきりすると思います。道州制の実現にはまだまだ時間がかかりますが、道州制の実態に近づけていく取り組みは必要です。

たとえば、地域を共同経営する各プレイヤーのトップがメンバーとなる広域戦略会議を立ち上げ、その下の分野別プロジェクトチームでチーム意識を高めていくというのも1つの仕掛けだと思います。個別の事業分野ごとに連携の実績を積み上げるビルディング・ブロック・アプローチも地域経営で必要となるシステムです。また、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回す仕掛けを地域にビルトインするという発想も必要です。それが無ければ広域連携の実態は作れません。条件が整い取り組みを先行する地域に権限移譲をするといったインセンティブを与えることも有効です。

会場写真

質疑応答

Q:

道州制の前に広域圏の実態を作るべきだというのはその通りだと思いますが、実際問題として、道州制の施行と同じレベルで国から地方への権限移譲が起きない限り、経済圏作りは難しいのではないでしょうか。

A:

ご指摘の通り、広域連携は権限委譲とパッケージでなければ進みません。広域連携に追い込む仕掛け作りが必要とはまさしくそのことです。構造改革特区では小さすぎます。私は、なぜ広域の取り組みを大胆に認める仕掛けにしないのかに疑問を持っています。グレーター・ナゴヤで外国企業誘致をするのなら、グレーター・ナゴヤとして申請して、その際には外国企業誘致規制に関する要望をすべて盛り込むくらいの仕掛けにしないと意味はないと思います。環境モデル都市にしても、環境で売り出すのなら個々の自治体ではなく、広域で取り組まなければ仕方ないと思います。

国の政策としても、広域申請はイの一番で認めるとか、補助金を倍増させるとか、大胆な発想を持たなければ、広域連携は成立しないと思います。自治体の側にも、権限委譲を求める際には、実態として広域連携でどんな取り組みをしているかを示す必要があります。国のサイドも自治体のサイドもパッケージの意識で仕掛けを作らない限り、広域連携の実現は難しいと思います。

Q:

地域経営を円滑にするには、どのプレイヤーが音頭を取るべきなのでしょうか。

A:

国の出先機関と自治体は、権限割りと地域割りのマトリクス構造になっています。この構造内でどこかがイニシアティブをとるのは不可能です。県と県を含めすべては対等な立場にあるからです。ではどうするか。私は現在の仕組みにおいては経済界の役割が非常に大事だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。