企業価値研究会報告書 『近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方』について

開催日 2008年7月23日
スピーカー 新原 浩朗 (経済産業省経済産業政策局産業組織課長)
モデレータ 鶴 光太郎 (RIETI上席研究員)
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議事録

報告書の背景

新原 浩朗写真経済産業省に設置された企業価値研究会では、本年6月30日に「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」と題する報告書(以下、「本報告書」といいます。)をとりまとめ、公表しております。

本報告書の背景としては、第1に、「指針」策定以降、我が国企業に買収防衛策の導入が進み、米国の導入比率に比べれば少ないとはいうものの、500社を超えた実態があります。そこで、この際、本来のあるべき姿に立ち返って、株主や投資家に納得いただける「合理的な」防衛策とは何かについて整理をする必要があると判断したことです。第2に、防衛策の導入実態が進んだことによって、司法判断に至る事例も出現したので、これらの判例との関係でも考え方を整理する必要が生じたということです。

以上を踏まえ、本報告書では、まず、今日において、経済社会的観点からみた買収防衛策のあるべき姿(「合理的な」買収防衛策)とは何なのかを原点に立ち返って検討し、「後半」において、その結論として導き出された「合理的な」買収防衛策について、過去の裁判例との関係を踏まえてその適法性についての考え方を整理しています。本報告書の項目番号に即していうと、1、2、3(1)、(3)の3)、(5)が、主に「合理的な」買収防衛策とは何かについて論じた部分であり、3(2)、(3)の1)および2)、(4)が、主にその「適法性」について論じた部分となっています。

買収防衛策の目的・在り方

本報告書では、まず、合理的な買収防衛策とは何かを論じるにあたって、買収防衛策の目的を確認し、個々の問題を整理していく上での基本的視座として以下の4点を指摘しています(本報告書1頁)。

第1に、買収防衛策は、究極的には、株主の利益を守るためのものであることが前提となることです。米国におけるライツ・プランは、買収の是非が最終的には株主により決定されることを前提にして、買収者や被買収者の現経営陣から、株主にとってより優れた買収条件や経営提案を引き出すことを可能とする仕組みとして考えられています。この米国のライツ・プランの考えは、経済産業省と法務省が2005年5月27日に公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(以下、「指針」といいます。)導入の際に参考にされたものです。

第2に、敵対的買収がすべからく濫用的買収というものではなく、敵対的買収には積極的効果がありうることです。本報告書では、「敵対的買収には、積極的効果(その脅威の存在が経営陣に規律を与えることや、買収により株主共同の利益が向上する場合など)があることに留意しなければならない」としています。

第3に、企業価値ひいては株主共同の利益の確保の観点から、一定の場合に買収防衛策の発動を行うことはあり得るとしても、実際に発動して議決権を希釈化し、買収を止めることは、買収に賛成している株主が買収者に対して株式を売却する機会を奪うことになることを念頭に置くべきことです。

第4に、経営陣の保身を図ることを目的として買収防衛策が利用されることは、決して許されるべきものではないことです。

これに関連して、「指針」および本報告書においては、「企業価値、ひいては、株主共同の利益」(本報告書では、これを単に「株主共同の利益」と呼んでいます)が向上するか否かが考え方の1つの基準となるわけですが、「企業価値」については、企業価値研究会の「企業価値報告書」(平成17年5月27日公表)においても議論があったとおり、その概念について多様な考え方がありえ、恣意的に拡大解釈されるおそれが指摘されていました。本報告書では、この「企業価値」の定義として、「概念的には、『企業が生み出すキャッシュフローの割引現在価値』を想定するものであり」とし、「この概念を恣意的に拡大して、『指針』および本報告書を解釈することのないよう留意すべきである」としています。

現状認識を踏まえた買収防衛策の在り方

本報告書は、合理性のある買収防衛策の在るべき姿について、以下のとおり、大きく2つのメッセージを発しています(本報告書3頁・4頁)。

第1に、報告書は、買収者に対して金員等を交付して買収防衛を行うことは「健全な資本市場の育成の妨げとなる」として、「金員等の交付を行うべきではない」との判断を示しています。また、「金員等の交付は、本来、配当などの形で株主に還元されたはずの資金、あるいは、投資に回されることにより被買収者の株主共同の利益に貢献したはずの資金が買収者に移転する結果、被買収者の株主の利益が害されるおそれがある」としています。さらに、金員等の交付により「安易に発動を図るということを誘発するおそれがある」との認識も示しています。

裁判所は、買収防衛策の適法性を判断する枠組みとして、いわゆる「必要性」と「相当性」を挙げています。「必要性」とは、企業価値ひいては株主共同の利益が毀損されるおそれがあることと理解されます。「相当性」とは、買収防衛策の内容が相当の範囲に収まっているかどうか、という議論です。この「相当性」について、買収者に対する金員等の交付を行うことで株主間の平等性を担保すれば、「相当性」を満たしやすくなるという法技術論の観点からの議論があります。しかし、そもそも買収防衛策が米国で導入されたのは、グリーンメール行為を防止するためであったことを念頭に置くべきです。さらに、金員等の交付を行うと、買収者が、買収を行う前に一時的に立ち止まった上で、買収防衛策の消却に向けて、被買収者の取締役会や株主と交渉を行うインセンティブが生じなくなる結果、かえって買収防衛策が発動されてしまうことになります。これらは、本来の買収防衛策の目的に反する事態です。したがって、買収防衛策の在るべき姿として、買収者に対する金員等の交付を行うべきではありません。以上のように、法技術論を論じる前に、買収防衛策の在るべき姿という本筋で議論すべきというのが、企業価値研究会の判断です。

第2に、本報告書は、取締役の行動の在り方として、買収局面における被買収者の取締役には責任と規律ある行動が求められるとしています。株主総会決議に重きが置かれること自体に問題はありませんが、ともすると取締役の株主に対する善管注意義務が弱く読まれる可能性も否めません。取締役は法律上も善管注意義務を負っているので、取締役会には、まずは株主共同の利益の観点から買収提案がどうなのかという一次的判断を下し、それを株主にきちんと説明する義務があります。それをせずして株主に意見を仰ぎ、賛成多数を得られたことだけをもって買収防衛を成立させるという考え方には疑問が投げかけられています。本報告書では、この点について、「実際の買収局面において、善管注意義務を負っている被買収者の取締役が、買収提案が株主共同の利益に適うか否かに関する第一次的判断を自らは回避し、形式的に株主総会に買収の是非に関する判断を丸ごと委ねて、自己を正当化することは、責任逃れとさえいうことができる」と指摘しています。

検討

(1) 基本的視点と被買収者の取締役の行動の在り方
買収防衛策は、株主の合理的意思に依拠すべきであり(「指針」では、この考え方を「株主意志の原則」と呼んでいます)、買収の是非に関する最終判断は株主が行うべきです。一方、株主共同の利益を最大化する責務を負う取締役は、買収防衛策の導入・発動の要否の判断を総会に形式的に委ねるのではなく、自ら責任を持って判断を下し、その上で株主に対する説明責任を果たすことが求められます。このような考えに基づき、本報告書は取締役会の行動の在り方について、8つの事項を列挙しています(本報告書5頁・6頁参照)。

(2) 買収防衛策についての考え方の整理
合理性のある買収防衛策を前提としたとき、その適法性についてはどのように考えられるのでしょうか。その検討を行うに当たって、本報告書では、過去の裁判例を以下の3つに大別して整理しています(本報告書6頁から8頁)。

第1に、「株主が買収の是非を適切に判断するための時間・情報や、買収者・被買収者間の交渉機会を確保する場合」(本報告書7頁(1))です。これに関する裁判例として、日本技術開発事件東京地裁決定が挙げられています。これまで世の中で話題になった買収防衛を巡る裁判例のほとんどは、実際に買収防衛策を発動して買収を最終的に止めることを目的とした事例でしたが、同決定は、時間・情報や交渉機会を確保する場合に関するものであり、その場合には取締役会が敵対的買収に対し相当な手段をとることができるとしています。具体的には、「現経営陣と敵対的買収者のいずれに経営を委ねるべきかを株主が判断するために、取締役会は、必要な情報提供と相当な検討期間を確保すべく、敵対的買収に対し、関連法令の趣旨・法意に反しない限りにおいて、相当な手段をとることが許容されうる」という判断が示されています。

第2に、「買収提案の内容に踏み込んで実質的に判断を下して発動し、買収を止める場合」です。これは、買収提案が企業価値ひいては株主共同の利益を毀損するかどうかという内容の判断に基づいて、防衛策を発動する場合ですが、買収者や買収行為の性質に応じ、さらに2つの典型的な類型に分けて議論しています。

まず、「株主共同の利益を毀損することが明白である濫用的買収に対して発動する場合」(本報告書7頁(a))があり、これに関連する過去の裁判例として、ニッポン放送事件東京高裁決定が挙げられています。当該決定では、一定の範囲を濫用的買収として、取締役会限りで、買収防衛策を発動できることを肯定しています。

次に、「買収提案が株主共同の利益を毀損するかどうかという実質判断に基づいて発動する場合」(本報告書7頁(b))があり、関連する裁判例として、ブルドックソース事件最高裁決定が挙げられています。当該決定は、「買収提案が株主共同の利益を毀損するかどうかという実質判断に基づいて発動する場合」に関するものであり、株主の意志を尊重して発動を適法としています。

(3) 株主が買収の是非を適切に判断するための時間・情報や、買収者・被買収者間の交渉機会を確保する場合

1) 株主意思の原則との関係(本報告書9頁1))
株主が買収の是非を適切に判断するために必要な水準を超える情報開示を買収者に対して要求し、それが行われないことを理由に防衛策を発動することは許されないとし、必要な情報の水準を判断するに際し、これを恣意的に行うことは許されないとしています(本報告書9頁脚注10)。その上で、そういう恣意的な運用がなされないのであれば、時間・情報や交渉機会を確保する場合において、取締役会が自らの判断で買収防衛策を導入し、合理的と認められる範囲の手続に反して必要な情報を出してこない、あるいは交渉に応じない買収者に対し、取締役会限りでこれを発動することが認められうると整理しています。その背景としては、買収防衛策のあるべき姿との関係で、前記のとおり、取締役会が自ら行うべき判断を回避し、形式的に株主総会に判断を委ねることは結果的に株主の利益を害するおそれがあるとの研究会での討議結果があります。

2) 買収者に対する金員等の交付について(本報告書9頁2))
前記のとおり、あるべき姿として、買収防衛策の発動に当たって買収者に対する金員等の交付を行うべきではないとして、金員等の交付を行わない防衛策の適法性については、どのように考えられるでしょうか。 本報告書では、この場合、買収者は、時間・情報や交渉機会を与えて、株主に判断の機会を確保することで買収への賛同の意思表示をしてもらい、買収を成功させる機会があるのだから、合理的な手続を守らないということで発動する場合に金員等の交付を行わないとしても、いわゆる「相当性」の範囲内であり、適法と整理しうるとしています。

3) 株主に対する情報開示の水準(本報告書10頁3))
株主に対する時間・情報や交渉機会の確保が問題になるとして、買収者・被買収者にはどこまでの情報を開示することが求められるのでしょうか。

本報告書では、被買収者側には取締役や株主に対する説明責任を果たすことが求められ、こうした観点から、「経営ビジョン・経営方針や、代替案」を提示することが望ましいとされています。ただし、経営ビジョンや経営方針については、普段から株主との間で経営トップが不断にコミュニケーションを図り、自分がやりたいことを納得してもらうというプロセスが必要です。そうしたコミュニケーションが十分に行われていれば、買収局面では時点修正を行って提示するだけですむはずです。その他、「買収価格に対する現経営陣の評価」や、「現経営陣が買収により株主共同の利益が毀損されるという判断をする場合には、その旨」を開示することが望ましいとしています。ただし、本報告書では、買収価格に対する評価については、適正な買収価格がいくらかまで開示を要求することは困難であるとの認識が示されています。

他方、買収者側の情報開示について、本報告書は、以下の2つの理由により、限界があるとしています。第1に、敵対的買収の場合はデューディリジェンスが行われておらず、内部者が持っているのと同じ精度の情報を期待することはできないためです。第2に、買収後の利益の具体的な数値まですべて開示を要求すると、買収戦略上困難が生じるためです。以上から、報告書では、買収後の「詳細な」経営計画・見通しや業績予想の開示については限界があるとしています。しかし、買収者は何も開示しないでよい、ということではなく、「株主が買収の是非を適切に判断するために必要な時間・情報や交渉機会を確保するという買収防衛策の目的からすれば、買収者には、その属性や買収後の経営の基本的な方針については開示する」ことが求められています。

(4) 買収提案の内容に踏み込んで実質的に判断を下して発動し、買収を止める場合
このうち、研究会でも、「株主共同の利益を毀損することが明白である濫用的買収に対して発動する場合」については、株主意志の原則や買収者に対する金員等の交付に関する適法性の問題も比較的明白とされており、取締役会限りの判断により防衛策を発動することが認められるし、買収者に対して金員等の交付を行う必要はないと整理されている(本報告書12頁(a)および14頁(a))。そこで、以下では、「買収提案が株主共同の利益を毀損するかどうかという実質判断に基づいて発動する場合」について本報告書の考え方をご紹介します。

1) 株主意志の原則との関係(本報告書12頁1)(b))
この場合について、本報告書では、買収防衛策の発動は制限的であるべきであるとしており、買収開始前に、買収防衛策の内容が開示されている場合においても、買収者が合理的な手続を遵守し、株主が適切な判断をするための時間・情報や買収者・被買収者間の交渉機会が確保されたときは、原則として、買収の是非に関する株主の意思は、株主が買収提案に応じるか否かの意思決定、あるいは、株主総会における取締役の選解任についての株主による選択を通じて表明されることが想定されています。

もっとも、そのような場合でも、さまざまな理由により、買収防衛策の発動を検討する必要のある場合が考えられます。その際、本報告書は、「株主総会における株主による賛成の意思表示は、買収防衛策の発動が株主の合理的意思に依拠していることを示す事情と考え得る」としています。これに関して、本報告書では、いわゆる勧告的決議について「買収防衛策の導入又は発動についていわゆる勧告的決議により株主総会で議決権の過半数の賛成を得たという場合についても、当該買収防衛策が株主の合理的意思に依拠していることを示す事情としては考慮され得る」としています(本報告書13頁注1)。株主総会での決議要件を形式的にあまり厳しくする方向に動くと、そのために、会社は、本来必要のない安定株主工作に注力しなければならなくなるというおそれあります。また、適法性の観点から、ブルドッグソース事件の東京地裁と最高裁の決定文を比較してみると、決議要件について、東京地裁では何度か「特別決議」という形式に言及しているのに対し、最高裁は、「議決権総数の約83.4%の賛成を得て可決されたのであるから」とか「ほとんどの既存株主が企業価値のき損を防ぐために必要な措置として是認した」というようにしか書いておらず、「特別決議」という決議要件に全く言及していません。すなわち、形式的な決議要件ではなく、多数の株主の合理的意思に依拠していることを重視しているものと解釈ができます。

もっとも、多数の株主から賛成の意思表示を得たからといって、直ちに買収防衛策が正当化されることにはなりません。すなわち、適法性との関係では、取締役会が株主に対する説明責任をきちんと果たしたのかどうか、あるいは、被買収者の株主構成がどうなっているのかなどを総合的に勘案した結果、買収防衛策の発動が著しく不公正な方法によるものとして差し止められる場合もありうるとの考え方が示されています。

以上のように、株主の合理的意思によって発動の判断をすることを重視すると、特に導入時に株主総会を開催している場合に、さらに発動に当たっても再度、株主総会を開催しなければならないのかとのご疑問もあろうかと思われます。この点については、買収防衛策は株主の意思に基づくものであることが不可欠であることを踏まえ、発動の決定を取締役会限りで行うためには、少なくとも、防衛策を導入するに当たって、当該買収防衛策の発動の条件を個別の場合に応じて具体的に設定し、株主がこれを確認した上で、取締役会に実際の買収局面での判断を委ねることを予め承認しており、その承認の範囲内で、その具体的条件に従って取締役会が発動することが必要となろうとの考え方を示しています。そして、この場合は、承認の範囲内で当該条件に従って判断を行っていることについて、取締役会に特段の説明責任が課されるであろうことに留意すべきであるとしています(本報告書13頁注2)。

2) 買収者に対する金員等の交付について(本報告書14頁2)(b))
取締役の選解任等を巡って、株主総会等の場で買収防衛策の発動が争われ、買収者の提案が株主の多数の支持を得られない場合を考えてみると、自らの提案が多数の株主の支持を得られないということが明らかになった段階で、買収者に買収を撤回・中止する時間が残っていること等により、買収提案の撤回・中止により発動による持株比率の希釈化という損害を回避できる可能性があるのであれば、そういったプロセスは保証されているわけですから、それにも関わらず買収に踏み切った買収者に対して金員等の交付を行わないとしても、「相当性」を欠くものとはいえないとの整理を行っています。

(5) 特別委員会を設置する場合におけるその構成等について
買収防衛策の運用が恣意的に行われないことを株主に対して示すために特別委員会を設置して、その勧告内容を最大限尊重することが行われることがあります。本報告書では特別委員会設置の是非を巡る判断はしていませんが、もし設置するのであれば、取締役会がその必要性の有無やその構成等について責任を持って判断し、株主に対する説明責任を負うべきとしています。

特別委員会の中には、株主に対して善管注意義務を負っておらず、株主が責任追及も選任もできない人が委員になることも多くあります。そのため、そのような委員会を設置して勧告内容に従ったからといって、ただちに取締役会の責任が回避されたことにはなりません。この点について、本報告書は、「特別委員会を設置し、実際の買収局面においてその勧告内容を最大限尊重しなければならないとするとしても、取締役会は、その勧告内容に従うという判断に関する最終的な責任を負い、それが合理的であることを株主に対して説明する責任を負うことに留意すべきである」としています。

特別委員会の構成については、「独立の社外取締役を中心とする構成が望ましいとの指摘がある」ことを摘示した上で、そうした構成が難しい場合でも、「現経営陣からの独立性が実質的に担保されている必要はある」としています。

新原氏と鶴氏写真

質疑応答

Q:

被買収者側が情報をどの程度開示しているかは、株主共同の利益を毀損することが明白かどうかの判断にかかわってくるのではないでしょうか。また、経営者が何をしたいのかといった情報が、株主総会や企業のIR活動を通して発信される方向で変化は生まれているのでしょうか。

A:

最初の点に関しては、裁判所が判断できるかどうかということなので、研究会では議論は行っていません。

2点目は非常に重要なご指摘です。ライツ・プランのそもそもの目的で一番大切となるのは、経営者と株主のコミュニケーションが円滑に図れるのかという点です。経営者がやりたいことを普段からきちんと株主に伝えていれば、株主も自らのリスクをかけているので、わざわざ価値を毀損することを自ら選択する訳はありません。ですので、会社を成立させるには両者のコラボレーションが重要になります。それをするにあたって、現在の買収防衛策に特別決議の有無や特別委員会設置の有無等の形式が多く入りすぎると、中間の買収防衛産業が発達し、かえって両者のコミュニケーションが閉ざされることになりかねません。これは日本の会社にとって望ましいことではありません。

今年6月の総会では個人株主による株主提案提出が増加し、機関投資家による提案が減少する傾向がみられました。どうやら機関投資家が総会前に経営陣と接触する機会が増えたようで、そうした接触の際に確認した事項が会社からの提案に反映されているので、株主総会での機関投資家からの提案が減少したと考えられます。これは、普段からコミュニケーションをとることの重要性に関する認識がここ1年で広がっていることの証左だと思います。

Q:

「買収価格に対する評価については、適正な買収価格がいくらかまで開示を要求することは困難である」との注書きは、株主共同の利益の向上につながる買収を増やす上では逆効果になるのではないでしょうか。

A:

これはあくまで開示のルールです。マイクロソフトとヤフーのケースでもそうですが、取締役会には交渉し、状況を把握しながら買収価格を高める義務があります。株主共同の利益に資するにも関わらず曖昧にして交渉しないということであれば、買収条件を向上させるための交渉を真摯に行っていないことになり、善管注意義務の問題が生じうることになります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。