日本経済の再活性化に向けて 『急げ、国際見本市大国へ!』

開催日 2008年7月17日
スピーカー 石積 忠夫 (リードエグジビションジャパン (株) 代表取締役社長)
モデレータ 安藤 晴彦 (内閣府政策統括官 (科学技術政策・イノベーション担当) 付参事官 (基本政策担当))

議事録

見本市を取り巻く状況

見本市大国は日本経済復活の切り札になると考えています。

その根拠として、リードエグジビションジャパン(以下、リード)が手がける、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造技術展を例に見てみましょう。18年前の発足以来、毎年4月に開催される同見本市では、機械・部品メーカー668社が出展、来場者(パネルメーカー関係者)は5万6000人に上る等、世界中のFPD業界関係者が東京ビッグサイトに集結します。展示面積は東京ドームの約4倍。他のリードの見本市と同様に、圧倒的な集人力が特徴となっています。また、アジアを中心に海外から4000人の関係者が来場する、文字通りの国際見本市となっています。特に多いのは、日本のパネル大手と競合する韓国、中国、台湾のパネルメーカー。そして最も重要な特徴は、会期中だけで約500億円の商談が成立することです。それ以外にも、多数の専門セミナーやレセプションパーティを開催します。

世界各地で見本市が盛んに開催される大きな理由が経済効果です。先述のFPD製造技術展だけでも、出展料・装飾費等で21.7億円、宿泊費(8万9000泊分)で10億円以上、その他、飲食費や交通費を合わせると、経済効果は1回につき557億円に上ります。また、雇用創出効果も顕著です。

国際見本市の仕掛け人(主催者)として

石積 忠夫写真見本市の新規開催には約2年間の準備を要します。殆どの見本市はゼロから構想します。それから調査と企画を重ねた上で、開催の1年半前から産業界に協力を要請、1年前に正式発表をすると同時に出展者募集活動(いわゆる営業)をスタートします。営業では国内外の製造業を1件ずつ地道に回ります。そして3カ月前から来場者の誘致活動を開始します。見本市が終わると直ぐに次回の開催に着手します。見本市はすべて先行投資で開催しますので、失敗すると巨額の損失が出ます。しかし、リスクがあるからこそ、是が非でもビジネスの場として成功させねばという緊迫感が生まれます。

そうした意識で活動を続けてきた結果、リードは年間38本の展示会を手がける日本最大の主催組織に成長しました。展示会の内訳も、消費財、エネルギー、エレクトロニクス等、多岐にわたります。

その一例として、ネジ・ばね等を対象にした世界最大規模の部品の見本市「機械要素技術展」を3週間前に開催しました。その他にも、日本最大かつ世界有数の国際宝飾展や「花とガーデンの国際見本市」を手がけています。中でも注目度が高いのが、世界最大規模の燃料電池展と太陽電池展の同時開催イベントです。経済産業省とも連携して、同分野で世界最大の見本市を日本で開催したことから、日本を世界の新エネルギービジネスの中心と見る向きが強まっていますが、これも見本市開催の1つの効能であり、だからこそ各国は見本市開催に力を入れている訳です。また、東京だけでなく、地方でも国際展示会は十分に成功する例として、神戸で大規模な国際宝飾展を開催しています。

リードの見本市はここ14年間拡大を続けていますが、日本の展示会産業が全体として伸びている訳ではなく、縮小ないし廃止の憂き目を見た展示会も非常に多いのが現状です。その中でリードが成功した最大の理由は、従来の仕組みからの発想転換にあります。従来の業界団体主催による見本市は、恒例行事をスムーズに運営する発想がメインで、宣伝・PRが中心の「お祭り」的色彩が濃い印象でした。しかし、私はこうした従来型の運営ではいつか衰退すると直感しました。人間は「儲け」が無い限り真剣になれないからです。逆に、面談と注文がメインの海外の展示会のような形にすれば成功すると確信しました。そこで、民間企業によるリスクを伴う事業運営と出展者を儲けさせる仕組みを柱に、つまり「ビジネスの場」として、見本市を主催することに焦点を置きました。

私は、世界中で展示会産業が急成長する中で、日本だけが取り残されているという非常に強い危機感を持っています。その最も端的な兆候が見本市会場の総面積です。ドイツの300万平方メートル、フランスの100万平方メートル、英国の80万平方メートルに対して、日本の50万平方メートルはあまりにも小さ過ぎます。米国にいたっては700万平方メートルという圧倒的な面積を誇っていて、欧米を急追する中国でも280万平方メートルに上ります。そしてロシアやインドを含め世界の各国がさらなる会場の新設・増設に乗り出しているにも関わらず、日本の会場面積はこの10年間で殆ど変わっていない状況です。東京ビッグサイトの規模は世界第70位。見本市産業の発展度を見ても、日本は欧米だけでなくアジアにも引き離されている印象です。

なぜ各国は見本市に真剣に取り組むのか

世界各国が見本市に真剣に取り組むのは、企業にとって最も効率的な販売の手段だからです。また、先述の通り、見本市は開催地域にも定期的かつ長期的な経済効果をもたらします。たとえばFPDの見本市は18年間にわたって毎年開催されていますが、これ程大きな経済効果をもたらすイベントはそうありません。

さらなる利益として、見本市は企業に刺激を与え技術革新を促す効果もありますし、より大きな視点で見ると、国にとって新産業創出の強力な手段ともなりえます。また、ラスベガスのように観光振興にもつながります。

世界で見本市が加速している背景には、とにかく展示会場の新設と増設があります。民間主催会社の急増と競争の激化も成長を後押しする大きな要素となっています。中国でも外資系の民間企業や地元の民間主催者が積極的に参入しています。また、政治・行政が重要政策として推進している国・地域もあります。さらなる要素として、グローバル化によるモノと人の移動の加速化、自由経済の発展、さらには「見て、触って、会話してモノを買いたい」という本能への回帰が指摘されます。実は10年前の欧米では、「(インターネットの発展によって)見本市は今後衰退する」という説が流れていましたが、実際は逆で、インターネットによってむしろ見本市がより告知され盛んになったといえます。

急げ、国際見本市大国へ!

1.会場の新設と増設
まずは、何をおいても会場の建設と増設。これが最大にして唯一の問題です。現在の東京ビッグサイトでは、新規見本市の立ち上げも、既存見本市の拡大も、キャパシティ的にまったくできない状態です。たとえば太陽電池や燃料電池にしても、出展社数が激増しているにも関わらず、来場者は殆ど増やせない状態です。その解決策として、まずは東京、千葉、横浜の会場面積を現在の3倍の52万平方メートルに拡張しなければなりません。具体的には、東京ビッグサイトの約2倍、16万平方メートルの新会場を東京に建設する必要があります。

見本市会場は空港と港に並ぶ経済の3大インフラでありますが、インフラとして機能させるためにも安く造ることが鉄則です。東京ビッグサイトの建設費は1800億円ですが、実は500億円もあればその2倍規模の会場でも十分に造れます。芸術的な建築物である必要はなく、極端にいえば「巨大な倉庫」で良い訳です。また、公有地を民間に貸与して会場を建設させるのも1つの選択肢です。これが実現すれば中国、韓国、香港の見本市の誘致も可能となりますが、逆に実現しないと日本の見本市が中国等に移転するリスクも高まります。

関東において、リードが生み出す経済効果は少なくとも年間4000億円、全見本市が生み出す経済効果は2兆円と見積もっています。リードは新たに50件の見本市を企画中ですが、スペースが無いためにまったく実現できない状況です。そのことによる機会損失は大きく、逆に首都圏の会場面積を3倍に拡張すれば、低く見積もっても、6兆円の経済効果が創出できると試算しています。

2.見本市の国際化
国際化の遅れが、日本の見本市の魅力ないし対外競争力を失わせています。この根底には、国内企業を優先する保護政策的な考えがあります。十数年前までは国産限定の見本市が数多くありましたし、今でも「海外勢の参加は2~3割まで」という奇妙な制限が課せられるケースが見られます。それでは魅力のあるモノもできず、人も集まらなくなるのも無理はありません。

見本市の国際化は観光立国の強力な武器になりえます。見本市の参加者は最もリッチな観光客だからです。最も印象的な例が、エンタテインメント都市として有名なラスベガス。実は2006年に見本市での消費金額がカジノでの消費金額を上回っています。日本では観光庁が今年10月に1日に発足しますが、パンフレットを見る限りは、どうも「見本市」という言葉が抜け落ちているようです。

さらに、ビザ発給の迅速化をはじめ、海外からの出展と来場を後押しする取り組みを政府・行政に期待します。同時に、観光広報や旅行プラン等との連携や会場近辺のホテル・飲食施設に対する運営支援が必要です。海外では見本市開催中はホテルも飲食店も深夜1~2時まで営業していますが、日本では展示会場近くのホテルは9~10時ですべて閉まってしまいます。これも海外からの出展者が増えない理由です。また、羽田空港・成田空港からのアクセスの向上も急務となっています。

3.競争なくして発展なし
さらに見本市市場を活性化させる施策として、民間主催会社を育成し競争させる必要があります。日本では、権威ないし影響力のある団体が各種につき展示会を1年に1つだけ開催するのが一般的で、リスクをとって見本市に取り組む民間企業が少ないという、欧米とは正反対の風景が見られます。競争が少ないが故に、見本市開催のノウハウ開発が遅れるといった一極集中の弊害も見られます。そうした弊害を解消するためにも、主催会社の設立や新規見本市の立ち上げを奨励・助成する政策が必要です。先述のラスベガスでは、新規見本市の主催者に会場を1年目に限り無償で提供する等、官民を挙げた支援策がとられています。また、日本には主催会社ないし主催プロ育成のための各種プログラムも必要です。そうして多数の主催者が同種の見本市で競争することを官として奨励すべきです。これまで官はどちらかというと競争を抑制する姿勢でありましたが、むしろ(適正な)競争をさせるのが本来の官の役割だと考えています。

まず見本市を重要政策に定めること。そして今すぐ会場を新設・増設すること。それこそが日本経済復活の第一歩であり、そうすることで日本は再び世界の中心的存在、リーダーになれると信じています。

石積氏と安藤氏写真

質疑応答

Q:

大阪府の橋本知事が大規模見本市開催に意欲を示していますが、大都市以外の地方の方がはるかに大きな土地を確保し、かつ誘致等に関して地元の協力も得やすいと思います。いっそのこと、発想を180度転換して、見本市目的の都市を新たに造るのはいかがでしょうか。ただ、空港やホテルといった周辺インフラや関連産業の集積、さらには稼働率を考えると、年1~2回の見本市のためだけに巨大都市を造るのは現実的でない気もします。

A:

長期的にはこれまでに無い大規模な施設が必要になると考えますが、そうなると土地確保の関係から、ある程度不便な場所に立地せざるを得なくなるかもしれません。その中で今考えているのは、相模原の米軍基地。米軍撤退後に新しい会場が造れるかもしれません。

尚、インフラの心配はそれ程無いと思います。インフラは必ずできていくものです。現実的には既にインフラが整備されている所の方がより早くできるということで、まずは首都圏での拡大を提案していますが、これが絶対という訳ではありません。日本が一大コンベンション国家を目指すのなら、田舎でも巨大な会場を造るべきだと思います。

Q:

地域の魅力的な技術集積を活かす観点からも、日本は見本市開催のための装置作りにより積極的になるべきと考えています。装置といっても雨露さえしのげたら十分なので、わざわざ公共事業として立派な施設を造る必要は無いと思います。とにかく安く造ることが大事ではないでしょうか。

A:

日本に大きな会場ができにくい理由に、過去の巨額工事費があります。東京ビッグサイトと幕張メッセの建設にはいずれも巨額の予算が投じられましたが、海外の会場は低予算で造られています。ご参考までに、サンディエゴの展示会場の増設部分はテントです。それとは対照的に、東京ビッグサイトは大理石が使われていて見た目は豪華ですが、無駄なスペースが多く通路がやたら長いわりに、セミナーを開催する部屋はまったく足らない等、使い勝手が悪い印象です。

日本の公共事業の特徴は、使用者ではなく、権威や造り手(芸術家、ゼネコン)に意見を聞く点です。だから結局は造り手の自己満足にすぎないようなものができてしまいます。

Q:

新たな展示会をやろうにも空きスペースが無いと聞きます。ハノーバーの場合は、それ程積極的に稼ぐ必要も無いことから、無理にスケジュールを詰め込むことはせず、いつ新しいものが来ても受け入れられる体制となっていますが、それとは対照的に、東京ビッグサイトでは運営者が少しでも稼がなければならない事情があるため、1週間ごとに予定が決まっています。しかも、たった1日のイベントのために丸1週間つぶれてしまう、あるいは1室だけ抑えられているがために肝心の展示会場としての使い勝手が悪くなるといった悪循環に陥っているという話を聞きます。

A:

外国では見本市会場は見本市以外の用途には原則使えないようになっています。日本の場合は、稼働率を上げるためだけに音楽や落語のイベントをする等、外国では考えられない本末転倒な使われ方をします。それも日本に「原則」というものが無く、あったとしても直になし崩しになるからです。また、民間のホテルでも可能なイベントを東京ビッグサイト等で開催するのは民業圧迫にもつながります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。