小さな政府政策の課題 ~1.4万NPO法人財務データベース分析にみる持続性問題~

開催日 2008年1月24日
スピーカー 田中 弥生 ((独)大学評価・学位授与機構准教授)
モデレータ 山本 哲也 (経済産業省地域経済産業グループ立地環境整備課長)
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議事録

問題意識―行政の下請化

NPO約 2000団体を対象とした2005~2006年調査の中で、収入規模が500万円以上の団体にアンケートを実施したところ、寄付金の占める割合が非常に少なく(2割近くが寄付金収入ゼロ)、公的機関からの委託金が主な収入源となっていることがわかりました。さらに、収入規模別にガバナンス、事業の運営方法、資金繰り等を比較分析し、九州、長野、関東圏の団体を無作為的にヒアリングしたところ、国内NPOのかなりの部分が行政の下請化していることを示唆する結果が出ました。

行政とNPOとのパートナーシップは重要でありますが、NPOがその仕組みをテコに自立を図れずにいる結果、社会的革新を軸とする本来の強さが萎縮しているのではという印象を受けました。

NPO法人財務データベース分析

当方では、下請化を示唆する要素の中で特に問題と思われる、組織・事業の持続力不足と刷新力―新規ニーズを開拓し新たな事業展開につなげる力―の低下に焦点を当てたアセスメントツールの作成に昨年末から着手しています。その一環として、国内NPO法人の財務状況を把握するデータベースを構築し、下請化の原因と見られる慢性的な資金不足を財務的・構造的に捉えるべくデータ分析を試みました。

具体的には、「NPO成長5段階説」(Greenlee & Tuckman、2007年発表、米国)のアプローチを参考に、同説でいう「誕生期」(組織を設立して軌道に乗せる時期)に相当する日本のNPOにとって課題と見られる、手元流動性と短期支払い能力に焦点を当てた分析を試みました。当初は大阪大学・国際公共政策研究科を通じて都道府県・内閣府から集めた情報をデータベース化する計画でしたが、実際の集積対象は2003年度の1年分に留まっています。

分析結果―全体傾向

収入規模の分布から、職員を1人雇用する目安といわれる500万円以下の団体が全体の6割を占め、最高で約35億円の団体がある一方、収入ゼロの団体が全体の15%(2300団体)に上ることがわかりました。設立後1年が経過した団体のみを対象としていますので、この結果は1年間収入の無い団体が結構あることを意味します。支出についても同様の分布となっています。

新規事業開拓を測る上で重要な指標となる、経常収支差額と当期収入差額(経常収支差額と繰越金との合計)については、残金ゼロの団体が多くを占め、当期収入差額で100万円以下の団体が83%、ゼロ円以下の団体が61.7%となっています。正味財産の分布で見ても、マイナス(債務超過)の団体が14.9%もあり、経営的にかなり苦しい状況であることがわかります。

分析結果―収入規模別

さらにNPO法人の財務状況を収入規模別に把握する目的で、「Funding wall」と思われる2000万円を軸とした上で収入ゼロの団体を「C0」、500万円以下の団体を「C1」と区別し、さらに「C2」(500万~2000万円)、「C3」(2000万~4000万円)、「C4」(4000万円~1億円)、「C5」(1億円以上)と、計6つのグループを設けて収入構造、流動負債、借入状況等を分析しました。

経常収支差額、当期収支差額ともに低い中、現預金と流動資産(月額)の中央値はいずれの層でも比較的良好な数値が出ています。その理由として以下の仮定を立てました。
(1)期末の委託金等収入
(2)NPO法人化以前からの流動資産の蓄積
(3)過度の支出抑制、具体的には人件費削減とボランティアによる無償労働
(4)借入金による現預金の確保

(1)の仮説については、収入の1割にも満たない寄付金よりは委託金が焦点となりますが、事業収入からの抽出が困難で、事例ごとに確認する必要がありました。(2)、(3)の仮説についても会計手法の関係から確認が困難でした。

ただ、(4)の仮定は当たっているようでして、その証左として全体の3割が借入金を現預金に計上し、そのうちの13%が固定負債化(1年以上の借入)していることを示す結果が出ました。借入先について複数の団体をヒアリングしてみたところ、金融機関からの借入は殆どなく(サンプリング団体中1件のみ)、組織設立や事業立ち上げに必要となる費用は主に理事・身内からの借入と内閣府からの「預かり金」によって調達しているとのことです。資金ショート時の対処法も理事・職員からの借入に頼るところが結構あり、NPO職員の平均年収が240万円であることをかんがみても、かなり苦しい状況にあることがわかります。また、事務局長が自らの給料の何カ月分かを遅延するケースもよく見られます。

分析結果―まとめ

非常に小規模な団体が数多く存在する一方で、数億~数十億円規模の収入を得る団体がごくわずかに(1%程度)存在していますが、はたしてこれらが同等の性質・目的を持った団体であるのか、今一度検証する必要があると考えます。

誕生期のNPOにとっては、事業を軌道に乗せるためにもやはりキャッシュフローが当面の課題となります。現預金や流動資産の月額比は比較的良好ですが、それらは剰余金よりもむしろ低賃金・無償労働による支出抑制と借入によって確保している部分が大きく、安定的経営を示すものではないといえます。ちなみに、会計担当者からは、できれば3カ月分の経費をまかなう余剰金がほしい、少なくとも1カ月分は無いと困ると聞きましたが、実際に少しでも余剰金があれば職員の給料に回したいのが心情だとのことです。

政策的インプリケーション

以上、冒頭の下請化の問題と関連して、NPOが官製市場をテコに自立経営を図れずにいることがデータ分析から判明しました。その下請化ですが、行政からの委託そのものではなく、むしろ委託に振り回され、依存する状態が問題であると考えます。

平成17年からNPO法改正の議論が進められていますが、草の根活動目的の小規模団体と専門的事業集団を目指す大規模団体とではかなり性質が異なると思われ、そうした多様化を踏まえた議論がもっと必要と考えます。現時点ではいずれも同じ制度枠内にありますが、はたして一律の政策で対応すべきか、あるいは全体としてどちらの方向で制度改変すべきか。それから、要件緩和の議論が多く見られますが、むしろ質的向上を図るべきと考えます。いずれにしろ、規模別・種類/性質別の対応が鍵となると思われます。

我が国の民間非営利セクターの制度設計を描くにあたり、「自立経営モデル」と「市民市場」(NPOの運営を可能にする環境)をセットで考えていく必要があります。

「自立経営モデル」を確立するには持続性の検証が必要で、その鍵となるのが「余剰金」の取り扱いです。所轄庁によっては非営利団体の余剰金を「内部留保」として否定的に捉える傾向があり、事業拡大の度に寄付を集めたり、身内から借りたりする体制では安定的な運営は期待できず、事業目的の基金を意図的に積み上げるなどの工夫を可能とする制度的環境が必要な時期に来たのではと考えます。また、NPOとしても自助努力によって自らの事業を常に刷新すると同時に、資金面で回っていく仕組みを作る必要があります。

さらに、官製市場と対峙する意味で、民間非営利組織、サービス購入者、寄付者(ボランティアを含む)から成る「市民市場」を整備することを提案します。民間主体がサービスを提供し、市民がそれを購入・支援する、租税によらないもう1つの公共領域があるべきで、まさしく、その点の欠如が寄付不足や資金難といった問題の根本にあると考えます。

市民市場を顕在化するには寄付行為に対する何らかのインセンティブが必要で、そのための税制上の優遇や税額控除があっても良いと考えます。ただ、その際には公益性の有無が問われますが、ここでも政府ではなく市民が判断するアプローチが重要です。寄付金の多寡によって公益性を測る、認定NPO法人制度のパブリックサポートテストもその一例です。これに、寄付金だけでなく、ボランティアを数値的に反映する仕組みを作れば、市民市場の規模ないし公益性の判断がより公平かつ正確に行われると考えます。

質疑応答

Q:

国民が規範を作る基本的アプローチには同意しますが、寄付税制を市民の判断に委ねた場合、たとえば欧米の豊かなコミュニティに見られるように、医療等の福祉事業より文化事業を優先させる意見が大勢を占めるなど、階級固定的な判断がされる懸念があります。今の日本でも格差固定化に対する政府のセーフティネット構築が求められていますが、そうした中で「市民市場」を提示するのは矛盾ではないでしょうか。

関連質問:

今後、公共サービスの分担化を進めるとしても、官民の線引きをするのは困難と思われます。国民が均質的で整合的な意思形成が可能ならともかく、格差社会が進んでいる現状において、すべてを住民の判断に委ねるのは社会の欧米化を加速しかねず、むしろ政府の拡充によって対処するのも1つの方法と考えます。

A:

仮に格差是正が国の政策課題であれば、国家が税配分で調整する仕組みを担保する必要がありますが、それとは別に民間が支援する分野があっても良いと考えます。市民の判断に委ねられない分野は政府が引き続きカバーするでしょう。
基本的には政府と民間非営利組織とで公共領域を分担すべきと考えますが、その際の線引きは政治的決定や有権者の判断にかかります。

A:(モデレータ)

政府がセーフティネットを担保した上で、それ以外の部分―住民サービスやまちづくりといった課題を民間で対処するのも1つの考え方だと思います。

Q:

2000万円以上の事業収入型NPOと中小企業とでは政策上の接点がありますか。
また、内部留保・資本が必要であれば、いっそのこと、株式会社にしてはどうでしょうか。NPOという形にこだわる必要は無いと考えますが。

A:

NPOと中小企業とでは規模の分布が似ていることから、ベンチャー支援との共通性を示唆する意見はあります。
事業規模によっては、株式会社、あるいは英国のコミュニティ・インタレスト・コーポレーション(公的目的株式会社)のような制度で出資を募るのも1つの選択肢だと思います。ただ、寄付を通じて公益を支える市民の意志も尊重する必要があります。また、非営利であるが故の強みもあると思います。たとえば、言論NPOは日中関係が悪化している最中から日中フォーラムを開催していますが、そこに著名な政治家・有識者が無償で参加するのも、社会的使命を目的とする非営利事業であるからこそと思います。株式会社ですべての公共領域を支えるのは少し無理があるのではないでしょうか。

Q:

寄付以外に事業収入を得ることも持続性を担保する上で重要だと思います。事業対価・利用料金を徴収するビジネスの手法を取り入れる観点から、「市民市場」を利用してニーズを経済化することが求められるのではないでしょうか。

A:

事業収入を得ることに関してはかつてのような抵抗は見られませんし、法的にも禁じられていませんが、法律家からは利益相反の可能性が指摘されました。海外でも営利活動と社会奉仕活動のいずれに資金を分配するかで意見が割れたという話を聞きますので、そのあたりの調整は必要です。
とはいえ、寄付のみでの運営は難しいのが現状です。特に大口寄付の場合は継続の保証もなく、新規寄付を募る際には莫大な経費・時間がかかります。もう少し自由な資金調達方法として、寄付にメリットを持たせるセレクティブインセンティブや事業活動の中で寄付的な意味合いの事業収入を得るといったさまざまな方法があり、まさにNPOのイノベーションが求められるところだと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。