Developments in Arbitration in Europe and the Active Use of Arbitration by Japanese Companies

開催日 2007年9月27日
スピーカー Peter J. TURNER (Partner, Freshfields Bruckhaus Deringer)
コメンテータ 小寺 彰 (RIETIファカルティフェロー/東京大学大学院総合文化研究科教授)
モデレータ 松本 加代 (RIETI研究員)
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議事録

投資協定仲裁は、政府にとっても、海外投資を検討する企業にとっても、関心の高いものとなっている。私は、野村がチェコ政府を相手に仲裁を付託した事件で野村側の代理人を務めた。これは、現時点で日本企業が投資協定に基づいて付託した唯一の仲裁である。この仲裁が成功したことは、投資協定が単なる理論上の手段ではなく、投資受入国による不適切な行為に対して、実質的な成果を得るために利用可能な手段であることを示している。これはまた、政府にとっては自らの行動を投資協定の存在を前提として変えて行くべき教訓になっている。

投資協定の最も一般的な形態は、二国間投資協定(BIT)であるが、それ以外にも東南アジア諸国連合(ASEAN)やエネルギー憲章条約などの多国間条約や、自由貿易協定(FTA)、あるいは日本では経済連携協定(EPA)等と呼ばれるさまざまな形態がある。これらは投資家保護よりも遙かに広範囲の内容を有するものが多く、貿易に関するあらゆる規律を含み、協定に基づいてなされた投資の保護を定める章を有する。

投資家が投資協定を成功裏に活用した例は数多くあるが、それらは、規制や税制の変更、許可の拒否・撤回・更新拒否、行政手続における透明性の欠如、投資の収用又は国有化、裁判拒否等に対する請求に分類できる。

野村の仲裁における争点は、差別的待遇であった。投資協定上の実体的な権利のなかで最も重要なのは、「公正かつ衡平な処遇」である。具体的には、差別的待遇をしない、投資家の正統で合理的な期待を保護するという意味である。ほとんど全ての仲裁において、不公正で不衡平な待遇に対する主張が含まれており、これは国家による不適切な行為の多くに対して主張できる包括的な権利である。

投資を保護する条約がない場合、投資家は、条約の恩恵を受けられる国を経由して投資を行うこともできる。野村のケースは、これに該当する。日本とチェコとの間に投資協定はないため、野村はオランダに特別目的会社(SPC)を設立し、その会社を通してチェコの銀行に投資を行うことで、オランダ‐チェコ間の投資協定を利用できた。名目上の会社を通して行われたこの投資をオランダの投資と見なすべきではないという(チェコの)主張にも関わらず、野村の主張が認められた。これは議論を呼ぶ問題であるが、誰が投資協定の保護を受ける投資家なのかを定義するのは投資協定自体なのである。

投資協定仲裁を付託するメリット、デメリットは何か。仲裁が投資受入国との長期的な関係にダメージを与える可能性があることは明らかである。仲裁を付託することで25年、30年にわたる関係を台無しにしたいとは誰も思わない。また、自分の権利を主張することで、次の大きな政府との契約から外されてしまうかもしれないという不安もあるだろう。他方、仲裁を付託する以外に選択肢がなければ、仲裁付託の権利があるというだけで、政府と交渉する際に大きく優位に立てる可能性がある。権利の存在は、政府に中立性を保たせるという効果だけでも、投資家にとっては大きな価値を持ちうる。

(仲裁の付託先として)投資紛争解決国際センター(ICSID)は最良の選択肢か? 通常、投資協定は仲裁手続の選択肢を付与しており、世界銀行のもとにあるICSIDへの付託やUNCITRAL規則に基づく仲裁その他が可能である。国家が仲裁判断の命じた賠償金を支払う可能性について、ICSIDかその他の手続きかは関係ない。いずれにせよ履行を促す超国家機関は無い。また、ICSIDは、「投資財産」の定義および「投資家」の国籍要件について厳格なルールを有する。ICSIDの出した仲裁判断は公表される一方、UNCITRALルールに基づくものは必ずしもそうでない。ICSIDが最良の選択肢かどうかは簡単な問題ではない。

投資協定は、(仲裁を付託する前に)まず国家と交渉を行うことを義務付ける。国家はあまり真剣に交渉したがらない。(国民から)批判される可能性があるため、国家にとって和解することは非常に難しい。仲裁には最大で3つの段階があり、第1は国による管轄権への異議申し立て、続いて本案審査、そしてほとんどの場合、国家は敗訴すると判断に異議を申し立てる。これらの手続に5年かかることも珍しくない。執行については、現在では仲裁判断がほぼ全面的に遵守されている。賠償を支払うことは、その国が将来信頼できるパートナーであることを示すので、国にとって有益であるし、判断を遵守しなければ、それ自体が条約違反なので、投資家からまた別の請求を起こされかねない。

日本が結んでいる投資協定は、現在交渉中のものもあるとはいえ、非常に少ない。また、その中でも日本投資家に利用されたことがあるものは、まだ1つとしてない。中国との投資協定は極めて古い形式の協定で、協定上の投資家に与えられる仲裁付託の権利は、収用による損害額に限られている。今日本企業にできることは、第三国経由で投資を行うか、最恵国待遇条項を利用するかのどちらかだ。最恵国待遇条項を利用して、投資受入国と第三国との間の投資協定が規定する仲裁付託の権利を日本の投資家は利用できるだろうか。これについての仲裁判断は分かれており、最恵国待遇条項の文言に依存する。これを肯定する主張も十分に議論可能だ。

最後に、協定は諸刃の剣ということを忘れてはならない。日本は資本輸出国であると同時に輸入国である。時として、資本輸出国も仲裁の被申立人となる。アジアにおいては、20-25件ほどの仲裁があるが中国を相手とするものはない。しかし、私はそれが来る日は近いと思う。

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この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。