金融市場の勝者――銀行・ファンド・企業、複線化する金融

開催日 2007年8月1日
スピーカー 高田 創 (みずほ証券(株)市場調査本部統括部長/チーフストラテジスト)/ 柴崎 健 (みずほ証券(株)市場調査部シニアファイナンシャルアナリスト)
モデレータ 尾崎 雅彦 (RIETI研究コーディネーター)
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議事録

イントロダクション――「銀行解体」

高田氏:

従来、銀行が担ってきた金融機能は解体されていきました。私たちは金融仲介の複線化の流れが今後も強まるだろうとみています。

第二次世界大戦中に起きた資本家層の解体が「第1の財閥解体」であるとするならば、現在の銀行解体のプロセスは「第2の財閥解体」と位置付けることができます。そうした中で誰が新たな資本家層となるのか、あるいは、誰が日本のリスクテークをするのか。この部分でコンセンサスにいたれないのが日本の現状のようです。

バランスシート調整と国債

事業法人の特別損失は1990年代以降、累計で100兆円に上りました。同時に不良債権処理額も100兆円に達しています。日本でのバランスシート調整はこうしたパラレルな状況で進められてきました。国債を過剰債務の「身代わり地蔵」にして、バランスシートのギャップを埋め合わせた結果が、1990年代以降の国債残高の累積です。

金融政策を通して潤沢な資金が流し出されても、国債や短期金融商品等で吸収され、貸し出しまでは流れないという構造がこれまでの日本の低金利の源となってきましたが、貸し出しのプラス化や金融政策の転換でそうした構造にも少しずつ変化が生じてきているようです。

1980~2006年の部門別資金過不足状況を見てみると、最初の13年は「企業の時代」で、銀行は余剰セクターである家計の預金を不足セクターである企業に貸し出す機能を担っていました。しかし1994~2005年の「JGB(日本国債)の時代」には企業が余剰セクターに転じています。この時代、企業は需要を求め海外進出を積極的に進めます。そうして大手製造業や中堅・中小企業の生き残りをかけた競争が起きる中、公共投資や財政赤字を使って国内の需要創出が行なわれました。この時代の金融機関は国債を補助金として受けいれていた側面もあります。2006年以降の「グローバル化の時代」の不足セクターは海外です。金融機関や投資家の間で海外投資に関するいろいろな意識が出始めた時代です。

企業の収益性は2001年を底に改善してきています。ここで私たちが注目しているのが配当/資本金と支払利息/負債の乖離、つまり株主への還元はあっても銀行への還元がない状況です。あるいはデットとエクイティの極めて大きな乖離ともいえるでしょう。企業は1990年代以降のバランスシート調整の中で有利子負債の圧縮に合目的に対応しました。一方、銀行を中心とした金融機関もなかなか株が持てない。そうすると超過需要が生まれ、デットが割高になり、低金利となります。企業は少しでも多くの株を保有してもらうために、配当を含めた株主還元をします。その恩恵を受けたのが外国人とファンドであり、外国人とファンドに低金利で安い資金を供給したのが日本の銀行という構図です。

デットとエクイティが乖離する環境では割高なもの(デット)を売って割安のもの(エクイティ)を買うアービトラージが生まれます。こうした売買をしているのが外国人とファンドです。日本の企業はこれと逆のパターンで、エクイティで調達して有利子負債を圧縮しています。企業の自己資本利益率(ROE)が上がりにくいのはこうした構造に起因しているとも考えられますし、吸収合併(M&A)は極めて合理的なアービトラージとして理解することも可能です。

日銀が短期金利を引き上げていく中で長短金利差が縮小する局面もあり得るでしょう。そうなると銀行・金融機関の総資金利鞘と長短金利差の連動した動きが重要な論点になってきます。

市場型間接金融の発生

企業の資金調達は2005年度頃から10年振りにプラス化しています。ただ、従来のような借入が増えるというよりは、調達方法が極めて多様化しているのが特徴であり、銀行やファンド、ノンバンク等を金融仲介の担い手とする複線化した市場型間接金融が生まれました。これからはこうした金融の新たな姿を前提とした仲介が目指されなければならないのでしょう。

企業サイドへの仲介が変われば当然、入り口も変わらなければなりません。日本では2004年度以降、戦後初めて、家計の金融資産に占める預金がフローベースでマイナスに転じました。これは、米国で起きたようなディスインターミディエーションの兆しが日本でも一部で現れ始めたと解釈することも可能です。しかしストックベースでは銀行の預金がまだ多く、米国に比べると投信、株式、保険、年金の伸びは弱い状態です。そういう中で市場型間接金融の比率がマクロ的に伸びてきました。

「第2の財閥解体」で分解された金融機能を極めて効率的に担うのが金融市場の勝者です。

市場性クレジットの発展

柴崎氏:

国内デット市場と国内エクイティ市場の重複部分にハイイールド市場があります。ハイイールド市場の規模は日本ではそれ程でもありませんが、世界的には相当な規模に膨れ上がり、欧米資本市場が広がる中で大きな起爆剤になっています。

資本政策を行なう上ではデットとエクイティの中間にあるメザニンで調達をする必要があります。M&Aファイナンスでは将来キャッシュフローを生む力が担保になります。単純なシニアデットとエクイティでは不足分が出てきますし、リスクも出てきます。であるとすれば、金融仲介としてはリスクに応じたリターンをとることが必要となります。このようにM&Aとメザニンは切っても切り離せない関係になってきています。

事業会社として金融仲介で大きな役割を果たしているのが商社です。商社大手5社の短期貸付・受取手形・売掛金は右肩下がりで、投資・有価証券は右肩上がりとなっています。ここから、商社がアセット(またはビジネスモデル)を貸し出しからファンド投資に変えてきていることがわかります。銀行がリスクをとらない分だけ、商社を含めた事業会社自らがリスクをとる動きも一部ではみられます。

海外では2000年以降、過剰流動性が大きくなっています。企業のカネ余りに加えて、外貨準備からヘッジファンドへの投資が各国で活発化していることも流動性拡大の要因になっています。日本では社債と証券化商品の残高が拡大せず、信用仲介やリスクテークの面で欧米に差をつけられています。特に日本と欧米はオフバランスでのリスクの取り方で異なります。

過剰流動性を背景に、デリバティブの拡大を通した信用リスクの創造が技術的に可能になってきています。これはクレジットマーケット拡大の大きな要因となっています。クレジットデリバティブと社債等を含む原資産の比率を見てみると、金利とクレジットは大差の無いところまで拡大しています。最近の債務担保証券(CDO)やサブプライムの問題の根底にはこうした状況がある訳です。

金融機関の戦略

信用リスクに関連して、最近非常に大きな変化が生まれています。与信ポートフォリオ管理です。大手金融機関でも始まったばかりですが、この動きは早晩、一般化するでしょう。貸し出しをしたらそれでおしまいというのではなく、与信の状況が変われば――たとえば与信が改善すれば――そこでキャピタルゲインが出てくる。逆に信用状態が悪くなれば、早めに貸出資産を売却することでリスクヘッジすることもできます。これが与信ポートフォリオ管理の1つの考えです。また、リスク分散のために与信ポートフォリオを入れ替える動きも出つつあります。

世界の主要銀行と比較して日本の金融機関の時価総額が低迷する中、日本の金融機関がどのように国際競争力を高めていくのかが課題です。特に、資本市場の内外差の拡大にどう対応するのか、また、長短スプレッドが縮小し、金融機関の利鞘率が低下する可能性がある中で資本をどのように有効活用するのかが大きな課題となっています。

時価総額が低迷するとはいえ、日本の金融機関の間でも集約化は進んでいます。とりわけ地域金融機関では1990年代以降集約化が大きく進み、貸出シェア競争が激化しています。地域での再編も進みつつあります。貸出シェアを高め営業基盤を拡大しないと収益ベースで伸びていかないからです。今後はビジネスモデルをどのように変え、全体的にキャッチアップするのかが大きなポイントになります。

質疑応答

Q:

ファンドはファンドとして銀行が負えない重要な機能を担っていると思いますが、どのようなファンド規制が一番望ましいとお考えですか。金融商品取引法でプロ・アマの関係は整理されているのでしょうか。

A:

柴崎氏:
原則的には金融商品取引法でファンドに網がかかりますが、ファンド対機関投資家等の関係(プロ)とファンド対個人投資家等の関係(アマ)は分けて整理されています。プロ同士の取引については、世界との平仄を合わせ、金融競争力を高めるために規制緩和されている部分もあるようです。アマチュアでは適合性の原則を考えながら、回避すべきリスクを明確にする方向にあるようです。このように金融商品取引法ではプロとアマで方向性が分かれていると理解しています。

高田氏:
ファンドがないとリスクテークができなくなっているのは事実だと思います。一方、ディスインターミディエーションの流れの中で個人が新たなものに投資するということになれば、適合性の原則や消費者保護をかぶせながら検討する必要があると思います。

Q:

リスク要因として注視すべき制度や基準等があれば教えてください。また、投資信託が金融セクターでかなりのウェイトを占めることはリスク要因になるとお考えですか。

A:

柴崎氏:
バーゼルIIと会計ビックバンは銀行経営に大きなインパクトをもたらしました。バーゼルIIの方は一服感がありますが、会計の方は依然としてリスク要因となっている可能性があります。ただ、資産と負債の時価会計にはデメリットもありますが、メリットもあります。銀行としてはそうしたメリットとデメリットをみながらの対応が必要なのではないかと考えています。年金債務の時価会計の問題も注視すべき問題です。

高田氏:
時価会計やバーゼルIIの問題は振り返れば大きな問題です。一時的に出た大きな損がどんどんとスパイラル的に拡大したのが1990年代以降の状況だと思います。一方で良いスパイラルも可能で、それがここ数年、欧米で続いた状況です。こうした状況をどうコントロールしていくのかが重要な論点です。規制は一時的には下押しを加速させることもありえますが、長期的には資本市場のインフラ作りの役割を担うものです。ただし、過剰な規制はリスク要因となります。

米国ではディスインターミディエーションが進んだ1970年代以降、銀行預金からシフトする1つの大きな柱が投信となりました。日本でも投信への期待はあります。しかし日本では投信がリスク資産の本格的な導管になるところにまではいっていません。貯蓄から投資への流れの中で投信には商品の多様化が望まれているのではないでしょうか。

米国では401K等の年金がもう1つの大きな柱となりましたが、日本版401Kでは税制や規制等の問題解決に向けさらに工夫が必要です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。