住友化学 石油化学事業の海外展開 ~ラービグ計画の完成に向けて

開催日 2007年7月12日
スピーカー 米倉 弘昌 (住友化学株式会社 代表取締役社長/社長執行役員)
モデレータ 山根 啓 (経済産業省製造産業局化学課長)

議事録

日本を代表する化学企業の1つである住友化学は1958年に国内で石油化学事業へ進出し、83年にはシンガポールに石化コンビナートを建設してグローバル化への第一歩を踏み出した。それから4半世紀を経て2008年にはサウジアラビアのラービグで世界最大級の石油精製・石油化学の統合コンビナートをサウジ・アラムコと立ち上げる。米倉弘昌社長が同社の石化事業の伸展と、ラービグ計画の概要を説明するとともに、この計画が持つ日本・サウジアラビアにおける経済的、社会的な意義について述べた。

国内生産からシンガポールへ

住友化学は50年前に米英の生産技術を導入して愛媛で石化事業に進出、1970年には年産30万トンの大型エチレン工場を中心とする石化コンビナートを千葉に構えた。

71年にはシンガポール政府からの要請を受けてシンガポール石化プロジェクトの検討に入った。米倉氏は日本の石化産業にとって象徴的な成功例となったこのプロジェクトに担当として深く関わった。75年にフィージビリティスタディ契約を締結したものの第一次オイルショックの影響で経済環境は大変厳しかったが、アジア最初の国際事業実現へ向け、日本の石化メーカーを含む22社と共同で投資会社を設立、シンガポール政府と折半で出資というスキームをつくりあげた。そして原料を生産する「上流」企業を中核に、多数の企業の合弁会社が誘導品を生産する「下流」会社としてコンプレックスを形成、全体で共存共栄を図るというビジネスモデルで企業誘致を進めた。83年にメルバウ島で年産30万トンのエチレン設備を中心にした大規模石化コンビナートが完成。その後の増設で今や100万トンの大コンビナートに成長、メルバウ島を含むジュロン・ケミカル・アイランドを形成する企業は80社を超え、シンガポールの経済発展にも大きく寄与してきている。

ラービグ計画 ― グローバル展開の新段階

それから25年、2008年にはサウジアラビアのラービグで世界最大規模の石油精製・石油化学統合コンプレックスが動き出す。このプロジェクトは、世界ナンバー1の石油生産企業のサウジ・アラムコが合弁会社のパートナーを探していたことに始まる。2003年に世界有力企業35社がリストアップされ、最終的には住友化学を含む3社に絞られた。

中東情勢が混沌とする中で、リスクをどう捉えるかは大きな問題だったが、米倉氏は事業性、戦略性を徹底検討、最終的には「時期を失せずにやるべし」との経営判断に達した経緯を示した。

住友化学は、事業の基本理念の1つとして「自利利他公私一如」、すなわち、事業は自社の利益となるばかりではなく、パートナー、地域社会、国に貢献するものでなくてはならない、という考え方を大切にしてきた。フィージビリティスタディの交渉の最終段階で、こうした住友の経営理念を説明したところ、サウジ・アラムコ側からも同じ経営理念を持っていることが紹介され、相互にこの相手ならと具体化へ大きく動きだしたという。その後、共同でフィージビリティスタディを行い、投資額は当初より膨らんだが、お互いに事業性を確認、2005年9月に合弁のペトロ・ラービグ社を設立した。

なぜ候補の3社から住友化学がパートナーに選ばれたか。「総合石化メーカーとしての高い技術力、シンガポール石化プロジェクトでの実行力、今後も高い成長が期待できる東アジア市場における販売力といった強みを評価されたのではないか」と米倉氏はいう。「さらに両社が経営理念を互いに理解し、双方が響き合うものを感じたことが大きな要因になった」と指摘する。

ラービグ計画の意義

ペトロ・ラービグ社へは、サウジ・アラムコが持つ1日40万バレル規模の製油施設が移管され、さらに石油精製の高度化とともに石化プラントの新設が行われる。投資は98億ドルで60%がプロジェクトファイナンス、40%が出資金など。敷地は東京都中央区の2倍の規模だという。年産290万トンのナフサ、280万トンのガソリン、エチレン系誘導品(90万トンのポリエチレンと60万トンのエチレングリコール)やプロピレン系誘導品(70万トンのポリプロピレンと20万トンのプロピレンオキサイド)が主たる製品となる。

ラービグ計画の意義は、世界最大級の石油精製設備と石化設備を統合して規模の経済とシナジー効果を徹底的に追及し、世界トップレベルのコスト競争力を実現することだという。原料はナフサの約20分の1の価格という安価なサウジアラビアのエタンを利用する。住友化学は日本、シンガポール、サウジアラビアと世界に石化3拠点を保有することとなる。今後は、ラービグのコスト競争力を活かし、シンガポールはプレミアム品を中心に特徴ある製品を供給し、日本は最高機能製品に特化したマザープラントとして高度化、高付加価値を追求し、各拠点の役割を明確に、世界規模で戦える石化事業を育てていくという。

この目標を実現するために必要なものを米倉氏は「何より人が大事である。当社の社員が世界に通用する広い視野を持ち、相手の国をしっかり理解した上で主張のできるプロとして成長するためにもラービグ計画は絶好の機会である」と語る。さらに「日本、サウジアラビア両国の産業、社会にとっても実りあるプロジェクトにしていきたい」という。

日本とサウジアラビアの協力発展に向けて

ラービグでの2000人の雇用創出のうち、住友化学の社員は1割程度の予定であり、サウジアラビアの若い世代に活躍の場を提供していくことにもつながる。しかも「当初は住友化学の出向者が担う部分も、シンガポール石化事業で実施したのと同様に、粛々と現地化を進めていく」方針であるという。

本年5月の安倍総理とアブドラ国王の合意に基づき、産業多角化を目指してサウジアラビア政府が進めている「産業クラスター構想」に日本が協力することになっているが、現時点では大規模雇用創出や海外からの投資を積極的に誘致するため自動車関連、建設、家電などの産業が対象としてあがっている。住友化学のラービグ計画はその「先駈け」となり得る。米倉社長は、「石化製品を起点とした、より川下の事業分野でも、でき得る限りの協力を行い、日・サ関係の発展にさらなる貢献をしていきたい」という抱負を語った。

(2007年7月12日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。