IEA(国際エネルギー機関)と4つのチャレンジ

開催日 2007年4月4日
スピーカー 田中 伸男 (OECD科学技術産業局長/RIETI前コンサルティングフェロー)
モデレータ 田辺 靖雄 (外務省経済局審議官/RIETI前副所長)
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議事録

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2007年9月からIEAの事務局長に着任する予定の田中氏が、目下考えているIEAが直面する4つの大きなチャレンジについて語り、今後それらの課題に取り組んでいきたい旨を表明した。

課題1:IEA非加盟国の石油消費増大への対応

田中氏は、第1のチャレンジとして、エネルギー消費全体に占めるIEA加盟国以外の国々の割合が高まり続けていることを挙げた。一次エネルギー消費に関して、1972年にOECD加盟国で世界全体の62%を占めていたが、2003年には、非加盟国のウェイトが高まり、加盟国のウェイトは51%になってきている。この傾向は今後も変わらず、2030年には、42%になり、49%となる途上国と逆転する。

IEAの最大の仕事は、石油の純輸入90日間分の備蓄を積んで、非常事態で供給途絶が起こった際に戦略的に取り崩して市場に供給し軟着陸を図ることにある。しかし、加盟国以外の国々のウェイトが増大する中で、非常事態の際に効果的に市場に影響を与えるためには、中国、インド等非加盟国との協力を拡大していかないと、IEAの緊急時対応策の信頼性が失われかねない、と田中氏は指摘した。

課題2:包括的なエネルギー安全保障政策の構築

石油の供給は、今後ともOPECに頼らざるを得ず、ホルムズ海峡、マラッカ海峡を通るリスクは減らない。従って、石油依存度を下げて行かねばならないが、一方で代替エネルギーの需要の増加に伴うリスクも発生している。その典型例は、今後とも高い需要の伸びが見込まれる天然ガスで、供給国が偏っており、最大の供給者であるロシアは、果たしてガスプロムが供給約束に見合うだけの投資を行う計画を持っているのか不明な状況である。また、天然ガスはパイプラインの経路によってもリスクが変わる。田中氏は、従って、LNGを含めた天然ガスの総合的なセキュリティ、さらには、ウラン、再生可能エネルギーや省エネまで含めた包括的なエネルギー安全保障を考えることが必要であると提言した。

課題3:長期的なエネルギー投資の確保

以上は地勢学的リスクに関わる短期的な対応策であるが、3番目のチャレンジは時間軸にかかるものだと田中氏はいう。2000年代に入って中国、インドを始めとする新しい消費国が増え、エネルギー需要が急速に拡大して行く中で、中長期の需給関係が非常にきつくなってきている。従って、長期的に供給能力を増大させるための投資が、上流、下流に流れていくメカニズムを構築出来るかどうかが最大のポイントとなっている。IEAは、2030年までに電力なども含むエネルギーへの投資に20兆ドルが必要との予測をまとめた。この巨額の投資を、準備期間も考慮すると早めに実施して行かないと、エネルギーの長期需給に問題をきたすことになる。最近の投資の増加は、短期のコストインフレに対応するもので実際の生産能力増加に繋がっておらず、またOPEC等の投資計画も十分な状況とはいえない。IEAは、OPECが十分な投資を行わない場合、自らの収益機会を失い、市場シェアを下げて損をするとの「投資遅延シナリオ」を発表している。

課題4:環境、経済成長、エネルギー安全保障を実現する政策

田中氏は、4つ目の非常に大きなチャレンジとして、エネルギー政策を考えるに当たって、地球環境問題を考えざるを得なくなっている点を挙げた。CO2発生源の8割がエネルギーであるといわれており、IEAとしても環境政策との調整を如何に図るか、さらには環境、経済成長、エネルギー安全保障をいかにバランス良く政策として実現するかが最大のチャレンジとなっている。中国は、CO2排出量で2010年前には米国を追い越すと予測されている。CO2排出量が大きくなる中国、インド等のOECD非加盟国、米国なしの今の温室効果ガス削減メカニズムでは地球規模の気候変動問題は解決できず、これらの国々との協調を進めることが重要となる。

エネルギー安全保障及び地球環境問題に関するIEAの代替政策シナリオ

これらのチャレンジに関するIEAの回答として、IEAが各国の計1400のエネルギー政策を検討し、それらの政策の効果によって、将来の石油需要をどれだけ抑え、CO2排出量を削減することが可能かを提言した「代替政策シナリオ」を田中氏は紹介した。それによると、各国のエネルギー政策が上手く実現すれば、2015年以降のOECD諸国の石油輸入量は、横ばいに続いて緩やかな減少に転じ、2030年には標準的な予測シナリオより520万バレル減らすことが可能となる。また、さらに長期のIEAのシナリオでは、あらゆる技術開発が上手くいった場合、2050年には、CO2排出量を1990年と較べ16%削減できると予測されている。 従って、技術開発にいかに資金を投入するかが重要となる。IEAは、技術の中で、最終利用者における効率化技術と炭素隔離貯蔵技術の2つに着目している。田中氏は、「エネルギーを作り出す上流、下流への投資より、省エネ投資をした方が効率的というのがIEAの仮説で、需要サイドの効率化を図るアプローチに力を入れ、ベスト・プラクティスを積み上げることがIEAの重要な仕事の1つになると考える。日本は、エネルギーの効率的利用技術において進んでおり、これを活かして世界に貢献し得るチャンスがあると考える」と結んだ。

質疑応答では、エネルギーの価格効果は長期的には非常に大きくなるという考えは、現在の状況にも当てはまるか、また、省エネルギーに関して中国では価格メカニズムが機能しないのではないか、との問いに対し、「確かに中国をみるとエネルギー需要は価格効果より所得効果によって大きく伸びているように見える。しかし今後ますます需要が増えていく中では、価格メカニズムを通した構造改革のインセンティブ、特に省エネ技術開発へのインセンティブは強く働くと思われる。現在の石油高騰が続けば、長期的には価格効果は大きくなると考える。また、たしかに国内で価格統制をしている中国には価格メカニズムの効果は乏しく、今後国際価格に近づかない限り本格的省エネルギーの実現は難しい。その意味で、中国にとっては内外価格差の解消が大きな課題だが、中国はWTO加盟以来、国際経済メカニズムの中で競争政策を導入し、市場改革に意を尽くしている。IEAも中国をさまざまな政策対話の場に招待し、考え方を共有していく必要がある」と回答した。

(2007年4月4日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。