中国の銀行制度改革:市場経済化のための更なる課題

開催日 2007年3月19日
スピーカー 岡嵜 久実子 (ランド研究所アジア太平洋政策センター国際客員研究員、日本銀行国際局)
モデレータ 黒田 篤郎 (経済産業省通商政策局国際経済課長)
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議事録

岡嵜氏は、2度にわたる中国留学経験を活かして1997年に日銀香港事務所次長就任など中国の経済や金融に関する分野で力を発揮、2006年からは米国ランド研究所アジア太平洋政策センターに出向し、中国研究に携わっている。セミナーでは、中国が取り組んできた銀行制度改革の状況を説明するとともに、市場経済化に向けた今後の課題として国有商業銀行の一段の不良債権処理、効率的な資金配分、コーポレートガバナンスの徹底、金融市場の規制緩和などの必要性を指摘した。

金融制度の市場化、対外開放を漸進的に実施

岡嵜氏は最初に、中国の銀行を含めた金融制度改革には3段階の大きな流れがあることを明らかにした。

具体的には、改革・開放政策がスタートした1978年から1992年が第1段階。この間に中国人民銀行が唯一の銀行というモノバンク・システムから脱却して4つの国有商業銀行が分離独立、さらに証券市場の創設、株式制商業銀行の設立などが行われた。

第2段階は1993年から1997年。政策銀行と商業銀行の分離が行われ、関係する銀行法、手形法、保険法などの一連の法律の整備、インターバンク市場、外為市場の統一などを実施し、「社会主義市場経済」の概念の浸透が図られた。

第3段階は、1997年のアジア通貨危機以降現在に至るまでで、アジア通貨危機に際しては、しっかりとした監督体制がなければ自由化を進めるのは危険との考えが広まった。また、2001年の中国のWTO加盟後の2002年以降、国有商業銀行の抜本的な立て直しがスタートした。中国の金融制度改革は、市場化の推進と更なる対外開放に向け大きく舵を切ったが、改革は道半ばであり、現状については焦点の当て方によって、「安定している」との見方と「かなりの不安定性を抱えている」との見方に評価が分かれると岡嵜氏は指摘した。

経済の国際化の中で金融制度改革は必至との認識

1990年なかば以降、中国経済を巡る環境は、第1に、WTOへの加盟交渉の過程における金融サービス分野の開放要求の高まり、第2に、アジア金融危機によるグローバル化の中での安定性確保の重要性認識の高まり、第3に、96年のBIS(国際決済銀行)への正式加盟などを契機とした国際ルール遵守の意識の高まり、という3つの大きな変化がおこった。そして、こうした環境の変化に対応するためには、金融制度の改革が必至との問題意識が党や中央政府で共有されるようになった。

一方、97年末の国有商業銀行4行の不良債権比率は公式の数値で25%を超え、自己資本比率は3%~4%という低い水準にあった。また、中国企業の外部からの資金調達は銀行借り入れが中心で、しかも国有商業銀行への依存度が極めて高かった。このため、脆弱な国有商業銀行の財務内容の改善が大きな課題と認識された。

国有商業銀行の大胆な改革を実施

こうした中で、97年、「銀行を真の銀行に変革する」というスローガンのもとで、人民銀行の金融監督機能の強化、国有商業銀行の商業化の促進、多層・多類型の金融機関体系の構築などが決定された。国有商業銀行に関する改革については、貸出総量枠規制の撤廃、預金準備率の引き下げ、財政部による国有商業銀行への資本注入や不良債権の資産管理公司への移管が実施された。さらに傘下企業の経営分離、省分行と省都所在市分行の合併などが進められた。

しかし、97年以降の改革が期待した成果を挙げなかったことから、2002年、国有商業銀行の抜本的建て直しが必要だとして、所有制に踏み込んだ改革の議論が行われた。2003年には、国有商業銀行を株式制に転換する方針が決定した。再度、公的資本の注入と不良債権の移管が行われ、外貨準備が資本注入に活用された。

岡嵜氏によると、中国政府は、今回の改革では「市場のプレッシャー」を活用することに重点を置いている、という。主要銀行の意思決定過程に外国投資家の関与を認めたり、国有商業銀行を海外で上場させたことにその意向が強く現れている。外国投資家の出資が「戦略的投資」と呼ばれるのは、資本だけでなく、先進的な経営管理手法や新たな金融商品のノウハウの伝授も求めているからである。海外上場は、厳格な会計制度の適用やディスクロージャー促進の上で効果があると期待されている。

改革の結果、2005年時点で、国有商業銀行の資産規模はアジアでは日本のビック3に次ぎ、世界でも20位台となり、主要行の多くの不良債権比率や自己資本比率も大きく改善した。

今後も多くの課題、金融再編、規制緩和が進む

しかし、世界のトップクラスの銀行と比べると中国の銀行の不良債権比率は依然高い。また、銀行自身による資産査定の信頼性の確保、移管した不良債権の抜本的処理という課題もある。収益性については、まだ楽観できない状況にある。また、リスクに応じた資本金のあり方が重視されるバーゼルIIへの対応に関し、リスク管理体制を強化し、貸倒引当金を積み増していくことなども重要な課題である。

金利機能を活用した資金の効率的な配分、コーポレートガバナンスの徹底、法執行力の確保、汚職・腐敗の撲滅、金融市場における為替や金利の自由化、長期的展望に立った場合の外国銀行との競合に備えられる技能の向上などの課題もある。

岡嵜氏は、最後に、「中国全体としてはなおオーバーバンキングの状況であり、今後も金融機関の再編が進むだろう。また、証券や保険を扱える総合金融機関を創設する議論も出てきているが、法律や監督体制の整備が整合的に進められる必要がある」と指摘した。

セミナー後の質疑では、日系銀行が外国戦略投資家として目立っていない点について、「日本の銀行はようやくバブルの痛みから回復し始めたところで、これまでは新たなリスクをとることに慎重だったのだろう。また、日系銀行は日系企業が活動するところに独自の支店網を張り巡らせているが、欧米の銀行の中には、支店を出すよりも、出資を通じて中国の銀行の支店網を活用した方が効率的と判断した先もある。既に出資した外国戦略投資家の目的も、一様ではない」と説明した。

(2007年3月19日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。