2006年版中小企業白書『時代の節目』に立つ中小企業-海外経済との関係強化・国内における人口減少-

開催日 2006年5月15日
スピーカー 花木 出 (経済産業省中小企業庁事業環境部調査室長)
モデレータ 植杉 威一郎 (RIETI研究員)
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議事録

花木調査室長は87年入省。資源エネルギー庁、中小企業庁、産業政策局、大臣官房などを経て05年8月から現職。今年4月28日に閣議決定された中小企業白書の取りまとめにあたった。白書は3部構成で、第1部は恒例の景況判断となる「2005年度における中小企業の動向」。この後のテーマ分析で、第2部では「東アジア経済との関係深化と中小企業の経営環境変化」、第3部では「少子高齢化・人口減少社会における中小企業」というマクロの視点から、日本社会の構造的な変化が中小企業にもたらす意味を整理した。

攻めの経営に転じる環境が整いつつある中小企業

中小企業の景況判断については、05年3月時点で戦後3番目の長さとなった景気拡大局面は中小企業にも波及し、「大企業よりはDIで見劣りするが、機械など大企業と遜色ない業種もあり、全体として回復傾向にある」と分析。今後も「足元の拡大傾向には余力がある」と予測している。

回復が遅れている地域、業種が見られるなど、バラつきが残っているものの、90年代の景気回復のボトルネックとなっていた債務、設備、雇用の「3つの過剰」については、「(中小でも)債務削減が続き、前向きの設備投資が増加。雇用も過剰感が解消しつつある」と分析。「倒産も減り、収益性はバブル崩壊後の最高水準にまで回復。守りの経営から攻めの経営に転じる条件が整ってきた」という。

第1部ではこのほか、「開廃業の動向」も調査している。開業率は01~04年で3.5%(前期比0.4ポイント増)と緩やかに改善しつつも、廃業率が同6.1%と上昇を続け、差し引きで年間12万社ずつ減っている。その最大の要因は、個人事業主が高齢化して引退の時期を迎えていることで、後継者難で廃業しているケースが多いと指摘する。

海外との市場競合を意識せざるを得ない中小企業

こうした状況の中で東アジアに進出する中小企業が目立つという。特に中国がWTOに加盟した2001年以降、中小製造業のアジア進出が急増している。この進出企業の進出時の経営状況をみると、「80年代半ばまでは儲けている企業が進出したが、90年代以降は増益、減益企業を問わずに進出している。減益の企業は生き残りをかけた進出」と花木氏は説明する。

進出した中小企業は、海外で販路の拡大、高付加価値製品の開発、下請から自立への転換などを成し遂げ、たくましさを増し、収益を国内に還流させている。その証左として、中小企業の進出動機が、進出時は「コストダウン」や「取引先からの要請」が理由だったのに、現在では「現地市場の開拓」へとシフトしつつあることをあげる。

白書は、国内に残った企業への影響も調べている。自動車分野は海外投資が旺盛だが、電気・情報通信を中心に「投資の国内回帰」が起こっている。その中で下請ネットワークに変化が見られるという。売上げ上位3社が全体の8割を占める中小企業の割合が、10年前に比べて減少しており、特定の長期の取引関係に依存しない取引先の「メッシュ化」が進展している。

製造業で東アジア企業に技術優位性を感じる企業は5年前の89.6%に対して現在は83.3%。ところが5年後となると63.1%にダウンする。技術優位性をもつ企業ほど5年後も競合を恐れないので、花木氏は「中小企業の研究開発比率は売上高の2%といわれるが、この虎の子の資金による技術開発が重要だ」と強調した。

高齢化により事業承継・技能承継に問題

第3部では、まず事業承継問題を取り上げている。日本の経営者の平均年齢は58.5歳(04年時点)で、55歳以上の経営者が引退したい時期は65.1歳というアンケート結果がある。高度成長期に創業した世代が、まもなく一斉に引退時期を迎える。しかも、承継問題の検討の遅れや相続対策の遅れなどもあって、年間廃業社29万社のうち約25%は後継者難による廃業という。これをベースに試算すると「事業承継を理由として毎年7万社が廃業し、20~35万人の雇用が失われる」ことになる。花木氏は「事業承継は大きな問題。M&Aなども1つの解決策になりうる」という。

少子・人口減少社会における中小企業の役割

さらに「子供を産み育てやすい社会」に向けた中小企業――というユニークかつ今日的な視点で、若者と女性の就労問題にも取り組んだ。白書は、現在の情勢が変化しないと仮定すると、いま20代前半の若者が30代後半になったとき、フリーターが2割、無職が1割で、子供を持つ世帯は49.2%だけだという。また、女性の子育て関連では、就労していた女性の43.5%が出産前に離職するなど7割が出産前後か育児休業後に退職してしまい、そのうち再就職するのは17.8%という厳しい現実を示している。

その対策として、若年者関連では、能力の高いフリーターの正社員化をはかることに加え、若者の定着率を上げるための「風通しの良い職場作り」や「若年者を成長させる取り組み」が効果的であるとも指摘している。

一方、子育てでは、中小企業は大企業に比べて女性正社員1人当たりの子供数が多いという。乳幼児期を過ぎた子供を育てている世代が多いからで、企業規模に関係なく働きたい女性は過半数を超えている。花木氏は仕事と育児の両立支援は、人材の定着を通じて企業にメリットがあると指摘。白書では、中小企業は大企業に比べて、(1)長期休業しても昇進に影響が少ない、(2)職住接近の職場環境にある、(3)こどもを職場に連れて来易い、(4)管理職に占める女性の割合が高い――ので、女性は仕事と育児を両立しやすいとしている。

(2006年5月15日開催)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。