地方分権下における官(国と地方)と民の役割分担について

開催日 2006年4月14日
スピーカー 赤井 伸郎 (兵庫県立大経営学部助教授)
コメンテータ 片山 哲 (元内閣府地方分権改革推進会議事務局企画調査官)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

効率的で効果的な政府組織

バブル崩壊以後の厳しい財政状況がもたらしたコスト制約を背景に、財政投融資や特殊法人、第三セクター、地方公社に対する問題が浮上し、成熟化社会の多様化したニーズに対応できる効率的・透明的な政府が求められるようになりました。現在小泉内閣が進める「小さな政府」や行政改革へとつながる動きで、これまで道路公団民営化や特殊法人の独立行政法人化、郵政民営化、三位一体改革、規制改革といった改革が行われてきました。

経済学では市場の失敗がある場合に政府介入が必要とされます。しかし、政府の失敗というものもあります。政府の失敗とは何かというと、それは政府規模の拡大です。社会の成熟化や住民ニーズの多様化が過大な政府を引き起こすこともあります。民間のノウハウの蓄積や発展を阻害することも政府の失敗です。ここで政府の直接供給の必要性が議論のポイントとなります。

官と民の役割分担

すべてを民に任せるか、あるいはまったく任せないかの判断はそれほど難しくありません。問題はその中間部分です。地方公社や第三セクター、公営企業が担ってきた、一定の社会的責任が伴うサービスの供給形態が問題となる分野です。官と民では業務やサービスを提供する目的が異なります。そうした違いをいかにコントロールするのかを考慮した結果、間接供給の形態が今の時代に適合的と考えるようになりました。公共サービスの提供は官の責任ですが、公共サービスの提供主体が官である必要はありません。これは多様な所有形態という考えにつながります。

公営企業の経営主体形態としては完全公営、民間業務委託(アウトソーシング)、上下分離、公益的事業(PFI)、民営などが考えられます。サービス契約タイプにはインプットコントロールとアウトプットコントロールがあります。まず、公営企業を考えるにあたり問題となるのはリスクとインセンティブです。リスクを下げる、つまりサービスの持続的供給という観点では公営が望ましいわけです。民間委託度が高くなればサービス供給停止のリスクも高まります。一方で公営ではコスト削減や効率的サービスへのインセンティブが低くなり、民営では高まります。リスクとインセンティブのトレードオフの発生です。リスクがコントロール可能なら高リスク・高インセンティブの経営主体形態に、わずかのリスクでも問題となり、なおかつリスク管理が難しい分野では低リスク・低インセンティブの経営主体形態が採用されます。どの経営主体形態が望ましいかは業種により異なります。

公営バスを例に考えてみますと、公営バスを民営化する際には規模の経済性、ネットワーク外部性、リスク許容度の違い、生活保障などが議論されます。理論的には、リスク許容度の違いにはリスクを上で吸収することで対応できます。外部性に関しては複数企業がネットワーク的に協働することで利便性を維持できます。契約技術をうまく活用できれば、トレードオフの部分を除いて、民営化が大きく問題になることはありません。

PFI、官民パートナーシップ(PPP)、第三セクターともに民間のノウハウを活用している例は数多くあります。あいまいな契約から厳密な契約に移行する動きはありますが、依然としてあいまいな契約による事業は残っています。現在はBTO型PFI (Built-Transfer Operation=起ち上げ段階を民間に任せ、その後は公営とする手法)が大勢を占めており、海外の取り組みから見ても日本は遅れを取っています。

第三セクター、地方公社、公営企業の定義

第三セクターとは官(第一)と民(第二)の共同出資で作られたセクターを指します。総務省では政府が25%以上出資する団体と定義しています。地方公社は自治体100%の会社で土地開発公社、住宅供給公社、地方道路公社の3つがあります。公営企業は特別会計的位置付けで独立採算を目指しています。

現在日本には9947の第三セクターがあり、多くは、地域・都市開発、観光・レジャー、農林水産、教育関係の分野で活動しています。第三セクターには株式会社、有限会社、社団法人、財団法人の4つの種類があります。第三セクターの設立数はバブル期に大きく伸びましたが、1990年以降減少傾向にあります。現在の株式会社の設立数はピーク時の120から若干減少した程度で約80です。つまりバブル後の現在でも新規設立が続いているのです。こういった第三セクターは利益追求型ではなく雇用確保などを通して地域を支えるために作られているようです。

財政状況を見る限り第三セクターに十分なガバナンスが機能しているとはいえません。契約のあいまいさが第三セクターの問題として指摘されます。第三セクターの経営悪化の原因の1つにはリスクの背負いすぎがあります。官と民の責任分担のあいまい性が民の努力を低下させているのも注目すべき点です。官と官の責任分担があいまいであるため官の努力が低下することもあります。雇用確保を目的に設立した場合に失敗するケースもあるようです。政治的圧力、情報公開、リスクの審査能力の欠如も第三セクターが抱える問題です。

地方3公社の意義は社会や経済の変化に伴い希薄化しています。地方公社の業務範囲はバブル崩壊までは拡大傾向にあり、土地を買い続けていました。2000年に売りに転換していますが、地価は下落し時価と簿価に大きな差が生まれたため売却は困難になり、不良資産を抱え込む結果となりました。不良資産を引き起こした制度内的要因には情報公開の欠如、地域の企業保護、天下りなどがあります。こうした問題は情報公開を通して地方公社の意義を再確認することで解決できます。意義がない場合は廃止すべきで、地方公社の意義を再確認・再点検する制度が必要です。

次に公営企業についてですが、水道事業、下水道事業はそれぞれほぼ90%、100%が公営です。交通事業では鉄道で12.9%、バスで25.2%が、病院事業では14.6%が公営です。下水道と上水道は1万595ある公営企業事業の66%を占めています。水道事業の場合、市町村が細かい単位で提供しているのが非効率の原因となっており、広域化が求められる背景もここにあります。また、40万あまりの職員数のうち約60%が病院にかかわっています。公営企業の決算規模は全体で21兆円あり、上下水道が約50%、病院が22%を占めています。事業別収支額では交通と病院が赤字傾向にあり、水道は黒字です。交通は地下鉄の初期投資の問題を抱えています。病院の赤字は診療報酬改定の影響で悪化しています。水道が黒字なのは料金改定によります。建設投資額で交通がかなりの額に達しているのは日本各地で進む地下鉄建設によります。

では、公営と民営では何が違うのでしょうか。公営の特徴は資金提供者である自治体が監督する立場にある、公営企業は独占で競争にさらされない、リスク分担やチェック機能があいまいなままカネが流れる、などがあります。民営化されれば、競争が生まれ、議会のチェックも機能し、資金提供者もチェックの対象になります。何よりも民営化によりリスク分担が明確になります。

次に、公営交通の分野で官民の役割分担改革が進まない原因を分析しました。以下の6つです。

(1)現行の官民分担と民の受け入れ体制
民間会社が未発達では官民の役割分担がうまくいきません。大阪市、京都市、名古屋市では公営が大部分を占め、民営化が進んでいません。民営の占める割合が小さいので任せられないという論理です。もちろんこの論理が正しいかは別の議論となります。

(2)国土交通省の規制
バス事業では路線委託は包括的でなくてはならず、路線数の2分の1までという制約があります。バス事業免許は当該事業者に与えられるものであり、別の主体が運営するのでは免許の意味が問われるという考えが背景にあります。ただ、委託先の会社も免許を持っているため、別主体による運営がどの程度問題になるのかは疑問です。地下鉄の場合は委託できる路線数が決まっておらず、これも問題です。

(3)民間と比べ高額な給与水準
北海道や東北では営団職員の給与が中小企業の2.5倍近くの水準にあります。

(4)人事問題
営業キロ当たりの正規職員数を基準化すると、民間より高いことが分かります。

(5)補助金の制約
交通事業の助成制度はかなり複雑です。国土交通省が補助する部分、総務省が自治体を通じて補助する部分、自治体の中でも普通交付税、自治体出資などがあります。地下鉄の場合、経営安定化のための地方債の管理という問題もあります。経営形態を変えれば制度がどう変わるのかという議論がありません。補助金に頼るなら組織変更は致命傷になります。

(6)契約システム、ノウハウ、ガバナンスの不備
現在の地下鉄事業では運行(運転)の民間委託は想定外です。契約システムのノウハウも蓄積できていません。英国のトラム事業では官が料金やサービス水準を常に監視し、水準に達するためのインセンティブを盛り込んだ契約が締結されています。日本にはそうしたノウハウがありませんし、ガバナンスのノウハウもありません。

組織改革のあり方

官と民の役割を時代に適正化させるにはガバナンスのチェックが重要となります。現行制度では初期評価ガバナンスも継続的ガバナンスも欠如しています。ソフトな予算制約と不明確な責任によりカネがどんどんつぎ込まれる問題もあります。適正化には法律にとらわれない市場化テストを行い、住民への説明責任を果たす必要があります。職員の意識改革も必要です。民間のノウハウ・資金調達による規律付けも必要です。つまりPFIや指定管理を第一段階にして、最終的には民営化を目指すということです。インセンティブ規制や高度な契約技術とコンサルの活用なども念頭に議論を進めるべきです。

三位一体の改革は失敗に終わりました。国と地方の役割分担はあいまいですし、現在の国の関与は過剰です。たとえば地下鉄にはかなりの補助金が投入されておりますし、競争もありません。はたして地下鉄は国として補助すべきものでしょうか。地方の自己責任によるファイナンスを促す方が効率化は進むと思います。

成功のためには、民でできないものを官で行うという精神が必要です。リスクとインセンティブのトレードオフを理解することも重要で、とりわけインセンティブに関する知識が必要です。リスクを軽減する契約技術の獲得も成功の必要条件です。あいまいな契約を排除し、利益の追求が公益の追求につながるような仕組みが必要です。官業の必要性について説明責任を果たし住民がガバナンスを果たすことも大切です。

コメント

コメンテータ:
確かに三位一体の改革には残された課題があります。また、三位一体の改革の議論が始まった頃と比べて現在は契機が回復しており、地方税収も増加するとともに地方財政対策の必要額も大幅に縮小するなど環境が大きく変化しています。そうした中でこれからの地方財政の仕組みをどう考えるかが現在の大きな課題です。経済財政諮問会議でも歳出・歳入一体改革の社会保障と並んで大きな論点と なっています。

まずは、国と地方の財政の線引きを明確にする制度改革が望ましいです。線引きが明確になれば自治体の財政運営が首長と議会の大きな課題となりますし、地方公社や第三セクターや公営企業の連結経営をどうするかという課題にもつながります。

リスクとインセンティブのトレードオフの理解を深めるべきであるという点や、リスクを軽減する契約技術を獲得する必要があるという点はご指摘の通りです。公共料金でのインセンティブ規制ではプライスキャップ規制がよく議論されます。物価上昇率や生産性向上率を見ながら一定期間のコスト変動を予測し、コストを割り出す計算式で合意する。民間が頑張った分は民間の取り分として、次の期間にさらにローリングする。これが最も原始的な方法です。公営企業との間でリスクとインセンティブをどう明確にして契約するかがポイントだと思いますが、一筋縄ではいきません。地方で導入する際にコストが明確化されているかがまず議論の焦点となるでしょう。

質疑応答

コメンテータ:

サービスの品質基準を契約で定めないと後々問題になります。インセンティブの程度はどのように考えるべきでしょうか。民間を優遇しすぎていないか、議会にどう説明するのか、インセンティブの契約期間に選挙などで政治的な考え方が変わるリスクにどう対応するか――インセンティブ規制については難しい議論がたくさんあります。それぞれの取り組みのモデルケースや成功事例を示すのが重要です。

A:

理論を実践すると多くの問題が生まれます。英国が水道や交通の大半を民営化したのも試行錯誤の結果です。諸外国の官民役割分担もさまざまで、最終的には国民がどういう形態を望むのかに集約されます。水道の場合、日本では規模が小さく、明らかに非効率です。しかし、規模を大きくしてから形態を考えることは可能です。コストの測り方、サービスの契約の仕方で参照できる海外の事例は多いと思います。

Q:

契約の問題は非常に重要な視点だと思います。官が民にアウトソースする際に完全契約が結ばれれば役割分担は議論の対象になりません。イノベーションがサービスの質改善において重要な役割を果たすなら民間でやった方が良いという議論がアメリカではありましたが、日本では市場化テスト議論でも官民の役割分担議論でもこういう視点が欠けていると思います。
また、歳出・歳入一体改革では地方財政が最大のポイントになると思います。地方財政や地方分権化の議論では将来の理想像は描かれていますが、現在の姿から将来の理想像に到達するまでの移行過程を考えなければ問題は収束しないと思います。

A:

確かに日本では契約の議論はあまり活発に行われていません。質が決まれば契約でそれを確保する方法は見えてくると思います。
交付税改革の議論が将来像の議論に終始しているのもご指摘の通りです。景気が回復しつつある中で財政再建との絡みで歳出・歳入一体改革の議論とどうつなげるかは難しい問題です。移行過程については調整部分と財源保証部分を明確にする方向で議論をするのも1つの方法でしょう。経済学を単純にあてはめるなら、権限と責任と財源のすべてを一致させる必要があります。財源の移譲が中途半端であれば違法が発生しますし、カネは出さないが口は出すというのでもうまくいきません。

Q:

日本ではPFIの契約は完全契約とはほど遠いです。本来契約とはリスクとインセンティブ、あるいはリスクとリターンに見合うべきです。現在は、10~20年後の自治体にリスクが偏り、市民や県民の税負担が大きくなる契約が相当数見られます。指針やモデルを示すなどしてリードしなければPFIの契約はひどくなるという危機感を持っています。現状あるいは解決策についてどうお考えですか。

A:

技術的にPFIを扱っている人の話を聞くのは1つの方法だと思います。海外のコンサルティング業務を積極的に活用することもできるでしょう。国を挙げてPFI議論を活発化していくことも重要だと思います。

Q:

地方公社や第三セクターの問題はどう解決できるのでしょうか。特定調停のような中途半端な責任の取り方ではなく、きちんとした制度設計が必要だと思います。

A:

地方公社にしても第三セクターにしても特定調停で引き延ばすなどあいまいな部分が残っています。破綻させるにしても今後が見えないので先送りされているケースがあります。こういった問題に対しては契約の明確化に加え、情報公開やガバナンスの強化で将来性を描くことも重要だと思います。借金額を住民に開示した上で公社を放置するのか財源投入をすべきであるのかといった議論を徹底的に行う。残されたのはそうした方法だと思います。情報公開を行い、議論を重ね、リスクやインセンティブを考慮した契約を作成することが重要です。

Q:

第三セクターの63.2%が黒字法人とありましたが、株式会社として設立された第三セクターの多くは巨額の赤字を抱えています。民間だと事業が失敗すれば誰かが損をします。しかし第三セクターでは損をする人がいないため無責任になり膨大な赤字が生まれます。赤字を処理する世代も先輩世代が残した赤字という意識があり無責任になります。

A:

第三セクターの株式会社の中には商法法人としては適切でない作り方であったため失敗した会社もあります。しかし最近ではリスクを考慮した契約に基づき設立された第三セクターもあります。現状に問題があるというのはご指摘の通りです。

Q:

63.2%の黒字法人の中には県からの補助金を受けている法人も含まれていると思います。こういった法人を実質黒字の法人から区別できますか。

A:

明確に分かる法人と分からない法人があります。黒字になっている法人の大半はカネを入れて黒字を確保しています。赤字を残している法人は自治体との関係も良くありません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。