なぜ社会人基礎力か?:古くて新しい指標

開催日 2006年4月7日
スピーカー 諏訪 康雄 (法政大学大学院政策科学研究科教授)
コメンテータ 能村 幸輝 (経済産業省経済産業政策局産業人材参事官室課長補佐)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

社会人基礎力――問題提起の背景

「大学はどうせろくなことを教えられない。だから何も教えなくていい。むしろ企業で新卒者を訓練して使える人材にしていく」――日本の雇用システムが世界の注目を集めていた時代にしばしば耳にした意見です。しかしその後の「失われた10年」で企業は自信を大きく失いました。人を育てる余裕もなくなり、即戦力に対する需要が高まりました。大学に人材育成を求めるようになった背景にはこういった状況があります。ただ、学校教育だけではやはり社会で活躍できる人材に育て上げることはできません。そこで社会人としての基礎力に対する関心が高まったわけです。

「豊かな社会」の若者問題は先進国に共通して見られる問題です。失業率の高止まりや学力低下といった問題です。たとえば日本が手本としてきたドイツは欧州連合(EU)加盟国のなかでもひときわ学力の低迷に困惑しています。

このように学力の低下が先進国で広がりを見せている一方、学力や体力だけでは社会が求める個人の能力を測ることはできないという問題もあります。思いやりや人の心を察する能力もなければ社会はうまく機能しません。そこで、仕事場や地域で活躍するには社会人としての力、すなわち「社会人力」が必要となるのではないかという問いに突き当たりました。

「社会人力」という考え方はこれまでにも存在していましたし、今後も存在していくことでしょう。ではなぜいま、社会人力なのかというと、知識社会化とグローバル化の影響が大きいと思われます。

英語の「Knowledge」には知的能力やそれを発揮した結果手にすることのできる成果といった含みがあります。そこには、音楽や美術といった芸術活動も含まれます。こうした「知識」が動かす社会となってくると、その担い手をどのようにして養成していくかがますます重要な課題となります。

現代社会のもう1つの課題はグローバル化に対応できる人材の育成です。国際競争力の維持と国際分業のあり方がここでの焦点になります。いずれも高付加価値化が鍵です。このような観点に基づき先進各国は若者を中心に据えた人材開発に大きく力を注いでいます。経済協力開発機構(OECD)は15歳児の能力を検定するために「生徒の学習到達度調査(PISA)」という国際調査を繰り返し行なっています。最近では、社会人の職業能力、人的資源のレベルを測る指標を作る機運さえも高まりを見せています。

そのようななか「社会人基礎力に関する研究会」では、社会人力一般ではなく、社会人としての「基礎力」を考えることにしました。必要条件と十分条件は区別する必要があるからです。十分条件は、地域、職種、時代に左右されます。われわれが共通問題として取り組めるのは必要条件の方です。そこで、あらゆる場面で必要とされる「基礎力」を中心に据えました。

社会人基礎力の構成要素は何か。人びとが社会人基礎力に関する理解を共有するには何をすべきか。さらに学生や社会人がそうした能力を備えるには何をすべきか。そのような議論が「社会人基礎力に関する研究会」の中間報告に取りまとめられています。

教育にはさまざまな側面があります。まず、家庭での教育があります。それから地域での教育。そして知的能力の基本骨格を形成する学校教育があります。専門教育や、職場での人間関係といった社会進出後の教育もあります。そのような多層的な「教育」がばらばらにあるのは好ましくなく、一定の共通理解の下にあるのが好ましいと思われます。教育のあらゆる側面を貫く「共通用語」が必要です。これまでは「学力」がそうした共通用語になっていました。良い学校に入り、良い会社や役所に入るという構図がありました。しかしそういった構図には弊害があります。そこで共通用語として「学力」に代わり注目を浴びるようになったのが「ゆとり」などでしたが、現在ではさらに具体性のある共通指標を見出す必要性が認識されるようになっています。

社会人基礎力とは

「社会人基礎力に関する研究会」では社会人基礎力を構成する主要能力として「前に踏み出す力(アクション)」、「考え抜く力(シンキング)」、「チームで働く力(チームワーク)」の3つの要素を特定しました。とにかく自分で動き、情報を集めてみるといったように行動を起こせば(「前に踏み出す力」)「なぜ」、「もっとこうしたら」という問題意識が生まれます。そうすると、そのような疑問や問いかけに対し「どうしたらいいのだろう」とできるだけ深く広く考えるようになります(「考え抜く力」)。確かに、知識社会では個人の力が重要になります。とはいえ、大きな仕事をするにはやはりチームで組織的に動く必要があります(「チームで働く力」)。この部分に関して日本はこれまで多くの優れたノウハウを蓄積してきています。

研究会では、これら3つの主要能力をさらに12の能力要素に細分化しました。「前に踏み出す力」は、「主体性」、「働きかけ力」、「実行力」に細分化されます。「考え抜く力」は、「課題発見力」と「計画力」、それから新しい情報を自分なりに作っていく「創造力」に細分化されます。「チームで働く力」の構成要素としては、情報の「発信力」、他者の意見を聞く「傾聴力」、いろいろな考え方の人とすりあわせができる「柔軟性」、いろいろな脈絡をつかむ「状況把握力」があります。さらに皆に迷惑をかけないための「規律性」、そして何よりも大事になりつつある「ストレスコントロール力」などがあります。

また中間報告では、社会人基礎力を4つの輪で捉えました。「社会人基礎力」の輪が「人間性、基本的な生活習慣」、「基礎学力」、「専門知識」の3つの輪の真ん中に置かれる形となります。家庭や地域社会が作る「人間性、基本的な生活習慣」には思いやりや公共心といったものも含まれます。学校が作る「基礎学力」には基本的コミュニケーション能力が含められるかもしれません。それから大学・大学院や職場で学ぶ「専門知識」です。これら4つの輪には重複部分があります。たとえば「基礎学力」は「社会人基礎力」や「専門知識」と重なります。「コミュニケーション能力」、「実行力」、「積極性」、いずれも社会で必要とされる能力ですが必ずしも学校だけで教えられるものではないことが分かります。家庭や地域のみで教えられるものでもありません。この4つの輪からそういった点が読み取れましょう。

学力低下と人間力低下

社会人基礎力がこれまで意識的に取り上げられなかったのはなぜでしょうか。社会人としての基礎力はいわば自然に備わるものと考えられていたからではないでしょうか。そうした基礎力は社会に出てから強化すればいいというのがかつての認識でした。しかし学校教育なくして基礎学力は身に付かないのと同様に、最近では社会人基礎力は意識的に養う必要があるという認識が現れ始めています。大学で社会人基礎力を養うことにも意義があるといった意見が本研究会の調査でも聞かれました。

知識社会では、知識を身につけ創造する人間が富の源泉となり、国際競争力の基盤となります。少子化のなかで生産性を高め社会を維持していくには、より高度な能力開発が必要となります。そうしたことを考えると最近の学力低下はまさしく懸念材料です。PISAの15歳児の読解力調査でもかつてトップ10に入っていた日本は今や10番台にまで落ち込みました。日本の子供が勉強しなくなったことは各種調査でも明らかです。6年前に東京の5つの高校を対象に行った調査では、4年生大学進学希望者の3年間を通じての1日当たり平均勉強時間は74分という結果が現れました。短大・専修学校進学希望は22分、就職希望者は16分でした。いわゆる名門大学を対象に行った2003年の調査でも、週平均で5時間以上勉強する大学生は3人に2人という結果です。つまりトップクラスの大学でも3人に1人は、1日の平均勉強時間が1時間以下という計算になります。

それでは学生は一体何に価値を置いているのか。2004年に調査を行ないました。最も高く価値が置かれたのは「片思いの人とデートする」時間。逆に最も軽視されていたのが「一般教養の授業を受ける」時間でした。「テスト前勉強」以外のすべての勉強に関する項目は、「(同性の)友人と遊ぶ」時間よりも低い位置づけとなっていました。

ただし学生を批判するだけでは問題解決にはつながりません。文化庁による「国語に関する世論調査」(2002年)によると、「月に1冊も本を読まない人の割合」は全国平均では38%です。親の世代や社会人も勉強しなくなったということです。

若者の「人間力低下」もしばしば指摘されます。小中学生を対象にした「子どもたちの自然体験・生活 体験に関する調査研究」(1995年)が一時期話題になったことがあります。「食料品などの買い物をしない」子供が3人に2人、「家の掃除の手伝いをしない」、「寝具の片付けをしない」子供が5人に3人いることが明らかになりました。「日の出・日の入りを見た経験がない」子供が40%となっています。今日の就職前線に出ている若者層の11年前の姿です。

企業と学生のすれ違い、今後の課題

就職をめぐっては企業と学生の間で認識ギャップがあります。リクルート『就職ジャーナル』の2001年調査によると、多くの企業は「人柄」、「将来の可能性」、「入社熱意」の3つを採用時に主として評価するとしています。ところが学生側は、「アルバイト経験」をアピールする。アルバイト経験で「人柄」や「可能性」を訴えたい、アルバイトでも「業務処理能力」、「勤務態度」、「協調性」が求められていたことを強調したい考えです。「クラブ・サークル」や「趣味・特技」をアピールする学生もいます。しかし企業はそういった点はどうも評価しない。企業と学生の間に「共通言語」がないのです。そのようなすれ違いを解消すれば、昨今の「7・5・3問題」(中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が就職から3年以内で離職する)もかなり改善できるのではないでしょうか。企業の多くは「採用のミスマッチ」があることを認めています。不明確な採用基準が問題のようです。経済産業省が2006年に行った調査では、学生の6割が就職までにどのような備えが必要か分からないと答えています。

企業は若者に何を求めているのでしょうか。経済産業省が2005年に行った調査では、企業は若者の「実行力」や「積極性」を最重視し、「発信力」や「傾聴力」といったコミュニケーション能力、「規律性」などがそれに次いで高く重視されていることが分かりました。日本経団連による2005年度新卒者採用アンケートでは、採用選考で重視するポイントとして多くの会員企業が「コミュニケーション能力」、「チャレンジ精神」、「主体性」、「協調性」の4要素を挙げています。事務職の新卒と中途採用に関する厚生労働省の雇用管理調査(2001年)を見てみると、事務系中途採用では、職務経験(60%)、行動力・実行力(45%)、専門的知識(44%)の3要素が主に求められているようです。一方事務系新卒に対しては、熱意・意欲(74%)、常識・教養(40%)、協調性・バランス感覚(39%)などが求められます。いずれの調査でも、企業は採用時に社会人基礎力を重視していることが明らかとなっています。

入社後は学力よりも社会人基礎力が有益な指標となります。三菱電機の人事部が十数年前に行なった調査があります。入社数年ほどの中堅社員の評価と、当人の入社時の評価を照らし合わせた結果、学科成績などとの相関は少なく、採用面接時の評価が高い人材ほど数年後に活躍しているケースが多いことが明らかになりました。となると、企業は採用面接で「何を」、「どのように」見ているのでしょうか。東京ガス都市研究所・紹介業面接者調査(2001年)が興味深いデータを示しています。入室時、挨拶時、面接中、退出時の各4段階において面接者が何を見ているのか調べたものです。入室時は「礼儀」、「態度」、「雰囲気」、「服装」、面接中は「理解力」、「話し方」、「意欲」、「聞き方」、「積極性」に注目しているという回答が5割を超えています。これらはみな社会人基礎力というべきものです。企業は面接を通して社会人基礎力を評価しているようです。

以上のことから社会人基礎力という視点は十分検討に値すると思われます。社会で活躍する条件としての社会人基礎力に関する知識が増えると、「クラブ活動より勉強しなさい」といった姿勢は非常に危険だということが分かります。友達との交遊も社会人基礎力の形成には十分役立つからです。学校でも、クラブ・サークル活動などをきちんと教育体系に位置づけ、調査や討論を組み込んだ参加型授業が必要となります。社会全体としても、国際競争力を維持するために社会人基礎力についてさらに考えを深める必要があるでしょう。

コメント

参考としてベネッセコーポレーションが1997~2005年に行った調査を紹介します。この調査では大学1年生を対象に「社会的強み」がどう変化したかを調べました。「社会的強み」には社会人基礎力に含まれる要素と非常に近いものがあります。全体的に下ブレ傾向が観察されました。特に「適応力」、「説得力」といった、価値観の異なる人との協働作業で必要となるスキルは大きく下降したようです。

フリーターやニート、入社後の早期離職の増加などミスマッチによる社会的コストが増大している背景には企業が求める人材像や採用基準が、若者に的確に伝わっていないことにも1つの要因があるようです。こうした問題は社会人基礎力を1つの指標ないし共通言語とすることが解決の鍵になると思います。

社会人基礎能力の構成要素を企業が最も強く求める順に並べると「前に踏み出す力」、「チームで働く力」、「考え抜く力」の順になります。一方で楽天の就職コミュニティサイトが行った調査によると、若者が一番の強みと認識しているのは「チームで働く力」でした。逆に一番自信がないのが「前に踏み出す力」でした。こうしたギャップを政策の対象として埋めていく必要があると考えています。

今後は、社会人基礎力を育成・評価するために必要な産学連携をさらに推進する必要があります。知識教育と実践教育をうまく組み合わせ、社会人基礎力を育成できる場を意識的に創出することが重要です。この点で、「PBL(project based learning)」いわゆるプロジェクト型の授業や、インターンシップ制度をさらに有効活用できないか検討中です。

質疑応答

Q:

社会人基礎力は組織で働くための基礎力に限定されるものですか。芸術活動をする人やプロのスポーツ選手についてはどうですか。

A:

日本の就業人口約6400万人のうち約5400万人は組織に属する雇用者(経営者や被用者)です。自営業など残りの人たちも、大部分は何らかの形で組織との関わりがあると考えます。今回はそういった大多数の「組織で働く層」にターゲットを絞り議論をすることに意味があると考えました。スポーツ選手や小説家には当然当てはまらない部分もあるでしょう。ただし野球選手に関しても組織を見据えた社会人基礎力は求められると思います。業界、職種、時代に応じて社会人基礎力の力点は大きく変わります。

Q:

社会人基礎力はどのように養成すべきでしょうか。プロジェクト型の授業やインターンシップを活用するには教員の協力が必要です。いわゆる「成果」を出すために実際の授業に社会人基礎力の要素を取り入れることは可能ですが、そうした特殊な仕掛け以外で効果的な方法はないでしょうか。

A:

たとえばプロジェクトを請け負って、学生が中心となって調査を進め、学生に報告書作成まで担当させるという方法があります。しかしこの場合教員の負担はかなり大きくなります。それだけに、日常的な教育に自然に取り入れられるものでないと長続きしません。個人的には予習の徹底や、リポート作成能力の強化、ディベートや議論の活発化が必要と考えています。「人間の思考行動特性(コンピテンシー)」に関係するソフトスキルの育成は学校教育でも行う必要がありますし、可能だと考えます。学生は「教えられたこと(teach)」はすぐ忘れます。「示されたこと(show)」は一定期間覚えます。しかし「参加したこと(involve)」により理解します。社会人基礎力に関してはいわば体で覚える、つまり理解することが重要になります。理解に至る過程でチームを組ませることも適切でしょう。米国の大学ではよくクラスをいくつかの「学習グループ(Study Group)」に分け勉強や調査研究をさせています。このグループは学期や課題ごとに入れ替わり、学生は違ったタイプの人と学習する機会を得ます。こうした取り組みも参考になるでしょう。

Q:

社会人基礎力はどのように測定するのですか。教育効果の測定方法についてはどのようにお考えですか。

A:

社会人基礎力の数値化は難しい問題です。小中高校の教育関係者からも指標がなければ現場で社会人基礎力を養うのは難しいと指摘を受けました。
企業には社会人基礎力を独立させて重視する傾向が見られます。「ポテンシャル採用」、「人物本位採用」がその例です。社会人基礎力を指標化して測定できれば採用コストも大幅に削減できます。しかし実際は、個人の社会人基礎力を別の個人のそれと比較するのは非常に難しいです。「社会人基礎力に関する研究会」では社会人基礎力の12要素の成長を実証する試みを文部科学省と連携・調整しながら平成18年度に実施する予定です。プロジェクト型授業などの教育プログラムの効果測定です。その結果を踏まえながら効果測定手法を改善できればと考えています。
社会人基礎力の指標作りはきちんとすべきだという意見は本研究会でも聞かれました。企業の人事評価のように項目を設けるべきだということです。他方、それが行き過ぎるとマニュアル化してしまうという問題もあると指摘されていました。

Q:

ニートやフリーターから就職が非常に難しいという意見が聞かれます。確かに、コンピテンシーの数値化にはマニュアル化の危険性が伴いますが、このままでは不採用の理由が明らかにならず、結果として、自分の能力が低いと誤って思いこんでしまうケースも出てくると思いますので、バランスが必要だと思います。
「コミュニケーション能力」や「チームワーク能力」が求められているとありました。いわゆる「体育会系」に共通する能力だと思いますが、ここに「考え抜く力」がプラスアルファとして求められるようになったということですか。

A:

1つ目の点はご指摘の通りです。ある程度の具体性がなければ教育指標として成り立ちません。 2つ目の点についても同感です。企業が求める「実行力」、「熱意」、「規律性」、「元気」は「体育会系」に見られる資質という印象を非常に強く受けます。米国には運動神経が良い人は生涯所得が高くなる傾向があるという調査結果もあるようです。スポーツで求められるチームワークや柔軟性は社会でも必要となります。ただ、グローバル化に伴い職種や業種の多様化が進むなかで、特定の社会人基礎力を金科玉条にする必要はないと思います。
とはいえ現実に戻ると、就職に苦労する学生には「前に踏み出す力」が弱い傾向があります。最初の数社で落とされたら殻に閉じこもってしまう。周囲の支援もあってようやく内定を取っても計画的に単位を取得してこなかったため卒業できない。そういった学生は結構います。そういう意味でも「前に踏み出す力」はポイントになります。もちろん今後、職種や就労形態が多様化するなかでは「チームで働く力」や「前に踏み出す力」が必ずしも必須とはされない職業も現れることでしょう。ただしサービス経済化が進む知識社会では、ヒトとヒトとのつながりが重要となります。ここにコミュニケーション能力が重視される理由があります。
企業は創造性や創造力を重視しているといいます。はたして採用時にそういった特性・特質は本当に重視されているのでしょうか。必ずしもそうではないようです。マスコミなどで報じられる企業のイメージと現場での採用基準の間には食い違いが生じています。

Q:

企業と学生の間に共通言語がないとありましたが、企業は学生や大学に求める人材像をわかりやすく発信する必要があると思います。そのような動きはあるのでしょうか。

A:

少なくとも本研究会に参加した企業の間ではそういった動きがあるようです。企業の側が求める人材像をわかりやすく発信すべきとの考えは日本経団連にもあり、そのような機運も高まりつつあると思います。ただ具体的な取り組みに関してはまだ十分に把握できていません。
企業によっては「風のような人」など非常に抽象的でわかりにくい人材像を発信しています。企業・学生双方が十分納得できる就職プロセスを実現するにはオープンでフェアな情報共有プロセスが重要となります。
しかし、明確なメッセージを発信することには良い面と悪い面の両方があると企業は感じているようです。有名な例ですが、日本電産はかつて、「声の大きさ」、「食事の早さ」、「面接会場への到着時間」のみを基準に採用した時期があります。基準を満たした人材はすぐれた幹部になったということです。なかでも「食事が早い」人材は優秀だったそうです。仕事の処理速度が早く、健康的だからです。このように企業が何を求めているかは一般論、あるいは平均値で示すことは難しいと思います。それぞれの企業にそれぞれの採用ポリシーがあるからです。企業の側としても、現在の優れた社員が採用時にどうであったかを遡って考え、採用ポリシーを定めているのではないでしょうか。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。