我が国のESCO事業の動向

開催日 2005年11月14日
スピーカー 中上 英俊 ((株)住環境計画研究所代表取締役所長)/ 村越 千春 ((株)住環境計画研究所取締役研究室長)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)

議事録

我が国でのESCO事業の歩み

皆さん、「ESCO(Energy Service Company、エスコ)事業」というものをきいたことがありますでしょうか? ESCO事業は日本での歴史はまだ浅く、1996年資源エネルギー庁の委託を受けて委員会を設け、「ESCOとは何か?」というのをまとめたのが始まりです。そして、これは新しいビジネスモデルとしても、エネルギー政策としてもおもしろそうだということで、97~98年省エネルギーセンターから大々的な調査の委託をいただいたのが、私どもとESCO事業との関わりのはじめです。97年は京都議定書が採択された年で、タイミング的にもいい時にESCO事業が導入されたのではないかと思います。

99年には環境経営に志のある企業が集まってESCO推進協議会(JAESCO)が設立されました。最初16社からのスタートで、電力、ガス、電機メーカーなどの大手企業が中心でした。その後省エネの機運も高まって、各方面から注目され、現在141社が参加しています。

ESCO事業の概要

ESCO事業は、省エネルギー工事を行って、その光熱費の削減分で全ての経費を賄うということが特徴です。つまり新たな財政負担を伴わない事業なのです。契約期間で経費を賄ったあとはその分が全て利益になりますし、環境への二酸化炭素の削減効果はすぐ表れます。京都議定書の目標達成にも即効性があるということです。そして、省エネ効果はESCOが保証し、効果がなければESCOが弁済します。保証するという関係上、設計・施工段階、さらには工事後の管理・運営も含めての包括的なサービスを提供するのが基本です。ただ、日本のビジネスの慣行上、一部を旧来の管理会社と共同で行うということもあります。従って、省エネ効果の検証を徹底して行います。そしてもう1つの大きな特徴は、資産ベースによらない融資環境です。ESCOが保証する性能を担保にしてファイナンスをします。ですからファイナンスの環境が、これからのESCO事業の拡大のために重要な意味をもつわけです。

次に、ESCO事業を導入した場合の省エネ率と15年間の利益総額について説明します。15年間の利益総額とは要するに省エネでどれくらいのお金がうくかということですが、まず断熱フィルム張り付けをすると省エネ率は3%ぐらいで6年で経費が回収できます。それにポンプ・ファンのインバーター化を加えると省エネ率は5%にあがり、7年で経費が回収できます。それに熱源設備の最適制御、配電用変圧器の更新を加えるのがもっとも利益はあがるところです。それに高効率蛍光灯器具への更新などを加えますと、省エネ率は最終的に15%ぐらいまであがりますが、経費がかかるので利益としては減ってしまいます。顧客側からすれば1番利益のあがるところでやめたくなるのです。しかし、ここでやめてしまうと、これ以上の省エネ技術はその施設には絶対に入りません。後から導入するとなると、かえって経費がかかってしまうからです。ですから、環境への取り組みの重要性をいかに理解してもらうかがESCOの腕のみせどころですし、顧客側にも理解いただいて、省エネ技術がさらに発展することを望んでいます。

ESCO事業において、計測・検証をきちんとすることは重要です。当初の省エネ達成率が維持されますし、場合によっては改善点が見つかってさらに率があがることもあります。ところが改修後そういうことに注意を払わないと、どうしても省エネ率が落ちてしまうことがあるようです。

ESCO事業の流れは、まず簡易診断(無料)をして一次提案書をだします。それを検討して、やりましょうということになったら詳細診断(有料)をします。簡易診断では対象物件の過去3年間ぐらいのエネルギー消費実績をだしていただき、場合によってはウオークスルーといって、基本的な設備やエネルギー系統のチェックをします。複雑なプロセスをもっている工場や大きな設備を加えているような施設では、詳細診断が必要になります。これで実施がきまれば包括的実施計画をたて、ESCOサービス契約を結びます。改修工事を行って引き渡し後、計測・検証を行うということです。

ESCO契約の特徴は、ESCOと顧客とのパフォーマンス契約を担保とするところで、現在アメリカではギャランティード・セイビングス契約で行われることが一般的です。これは、パフォーマンス契約をもとにして金融機関が顧客の信用リスクで融資するもので、お金の流れとしては通常の融資と似ています。初期の頃はシェアード・セイビングス契約が盛んだったのですが、この場合ESCOが金融機関からお金を借りるので顧客はいっさいキャッシュフローには携わりません。そうすると顧客は返済リスクがなくていいのですが、自治体などの場合その施設は民間のものということで、それをどう評価するか問題になってきます。まあ、そのあたりはなんとかなっているようで、昨今の財政厳しき折、新しい融資をうけなくても省エネが進むのでいいのですが、ESCO側は仕事が増えれば増えるほど借入が増えて財務状態が悪くなってしまいます。大手企業なら本体で吸収できますが、小さいところではそうはいきません。それでギャランティード・セイビングス契約のほうが一般化しているようです。

シェアード・セイビングス契約の一形態に、ESCOが特別目的会社(SPC)をつくり、そこが融資をうけるというのがありますが、日本で最初にESCO事業を導入した自治体はこの形態で、実績があがっているようです。

契約形態を比較しますと、資金調達コストはギャランティードに比べてシェアードは金利が高くなってしまうこと、事業規模はギャランティードのほうがシェアードより大きい傾向にあります。もちろん、すべての施設がこうだということはありませんが、市場の成長性もシェアードでは限界があると思われます。

ESCO事業の研究会を始めた頃、私は「これは決して儲かる仕事ではない」と強調しました。たとえば、窓を二重にする、ひさしをつける、壁に断熱材を入れるなど、そういうちょっとしたことでも工事費がかなりかかるのです。

事務所ビルの光熱費は1平方メートルあたり年間約3000円です。これで省エネ率10%というと、1平方メートルあたり300円です。契約年数が10年だとすると、1平方メートルあたり3000円しかコストがかけられません。最近の建築コストはだいたい1平方メートルあたり15、6万円ですから、要するにちょっとした工事しかできないのです。そのようにつましいビジネスなのですが、技術はこじんまりとしていても確かですから、コストのかからない技術をいかに使って制御・運用を効率化するかというのがESCOの省エネ手法になるわけです。

ESCO事業の課題としては、まず認知度の向上が挙げられます。ビルの管理部門の方に認めてもらえても、会社のトップが了解してくださらないと動きませんので、トップにこの事業の意義を認めていただかないといけません。それと、省エネファイナンスの整備です。簡易型プロファイやリミテッドリコースなど、金融機関の理解もだいぶ深まってきましたが、まだまだだと思います。また、公的部門での導入が民間導入の促進につながります。地方自治体での事例はぼつぼつ増えてきていますが、手続きの簡素化や中央政府での導入スキームの開発が課題です。あと、国際市場の開発、アジアへの貢献が挙げられます。アジアでESCOに対する注目度は高まっているのですが、日本からの情報発信はまだ弱いように思います。

ESCOの市場について

ESCO事業実績(ESCO推進協議会調べ)をみてみますと、産業、業務とも年々成長しています。2003年をピークにして04年は産業部門がかなり落ちていますが、これは原油価格の高騰でコージェネレーションシステムのうまみがでなくなり、だいぶ縮小されたのだと思いますので、影響は一時的なものだと思います。しかし、産業、業務トータルでみても04年の実績は200億円弱ですから、まだまだだと思います。どのぐらい潜在的な市場があるかはアメリカの例を参考に1万平方メートル以上のビルということで試算しますと、だいたい2、3兆円にはなると思います。これだとたいしたことないように思えますが、最近の例では数百平方メートルのスーパーでも同じフォーマットで展開されてますから、ある技術を入れるなら何軒も掛け合わせれば相当な規模になるはずです。規模が小さくても市場がもっと広がる可能性があるわけです。

省エネ改修工事の資金源としては、現在補助金が非常にインパクトをもっています。補助金がある意味このビジネスをリードしてくれる大きな役割を占めています。

ESCO事業は、私の考えでは中小企業でも高い技術力があれば十分できるものだと思います。ところが大手企業でないとなかなか信用してもらえません。その点、JAESCOに大手企業が入ってくださっているので、徐々に信用が高まっています。本来地方自治体で導入するなら、地元の企業で地元の金融機関から融資をもらってすればいいと思うのですが、なかなかそうはいかないようです。アメリカなどではベンチャー企業がかなりあります。

我が国のESCO事業の特徴をまとめますと、市場の中心は、長期契約になりますから、優良企業または公的機関になります。シェアード・セイビングス契約が中心で、2003年は90%以上、04年は70%です。省エネ率の平均は業務、産業とも12%となかなか優秀です。単純回収年数は業務部門では8年、産業部門では9年で、これに金利が乗るので10~13年となります。京都議定書目標達成のための温暖化対策の主要なプレイヤーとして、政府が大きな期待を寄せていまして、数年で500億~1000億円の市場開発を目指しています。

海外におけるESCO事業の活動

ESCO事業はもともとアメリカから入ってきたものですから、欧米での活動は活発です。今は東欧でも活発で、共産圏では省エネがあまり考えられていませんでしたから、省エネの余地がかなりあるのです。

世界銀行は中米、アジアに投資しています。また韓国、中国でのESCO事業はかなり注目されていて、すでに100社以上のESCOが存在しています。日本でも約140社あるのですが、実際にESCO事業の契約をしているのは40社弱です。インド、タイでのESCO事業も活発化しており、台湾、マレーシアでは始動したばかりです。ESCO事業は世界42カ国で活動が始まった国際マーケットに成長しました。

では、アメリカではどうかといいますと、ESCO事業の内訳は州政府、連邦政府の施設、または学校、病院など公共の施設がほとんどを占めています。アメリカの市場はだいたい20億ドルです。契約形態は、ギャランティード・セイビングスが主体ですが、連邦政府はシェアード・セイビングスです。アメリカでは、連邦政府の施設をESCOでつくるようにという指令がでてから、急速に市場が広がりました。

アメリカでの事例から私たちが得られたことは、明確なエネルギー削減目標の設定、事業者選定方法の簡素化、庁内手続きの簡素化、支援体制の整備、削減経費の自己還元と再投資、民間資金の活用と財源化です。施設によっては省エネでういた分を厚生文化資金に還元することが認められているので、そこで働く人たちもともに省エネを心がけるということです。我が国でのESCO事業の発展には、金融を含めた周辺環境整備がまだまだ必要とされると思います。

質疑応答

Q:

日本のESCO事業はまだ歴史が浅いわけですが、中国・インドなどでの競争力はどうなのでしょうか。

中上氏:

私の印象ではアメリカのESCO事業と比べると、まだ太刀打ちできない感じです。ただ先日のアジアESCOコンファレンスでは日本のESCOも多少なりともインパクトを与えたのではないかと思いますし、そこに参加されていた大手メーカーの方たちは国内よりもタイあたりで集中的にビジネスを展開したほうがよいという感触を得たようです。日本には欧米に勝る技術、ノウハウはあるのですから、もっと世界に進出してほしいものです。

村越氏:

日本のESCOの海外進出はまだほとんどありませんので、これからいかに競争力をつけていくかというところだと思います。1番のネックは長期にわたる資金回収にともなうリスクです。競争力をつけるには、まず現地のコスト体質、体系のなかで勝負できるようにすること、そして今すぐは対応できないという企業には政府などでどうサポートするか考えるべきだと思います。ただ、エネルギーサービスで海外進出することを考えるなら、ESCO事業はほかのものよりやりやすいと思います。今までの例だと発電所をつくるなど大規模投資になり、リスクも大きかったのが、ESCO事業は長期にはわたりますがリスクの総額は小さいのです。ですから多少資本力があればカバーできますので、出ていって経験を積めば次のビジネスにもつながるのではないかと思います。

Q:

資金の長期回収に関連して、先ほどのお話しのなかで、経済性を考えて顧客がESCO事業導入を「いいとこどり」でやめようとするということがでてきましたが、それは日本特有のことなのでしょうか。

中上氏:

アメリカではいかに技術をたくさん詰め込んで省エネ効果をだすかというのが「腕のみせどころ」なので、「いいとこどり」は軽蔑されます。省マネーのことしか考えていないと、ほどほどでいいということになりがちですから、ESCO事業の位置づけが大事になると思います。

村越氏:

日本は欧米に比べて単純回収年数が長いのです。アメリカは5~10年(公共マーケットは長い)で、日本のように民間で、しかもシェアード・セイビングスで7~8年というのは世界でも例をみません。中国、開発途上国、東欧などでは数年といわれています。なぜかというと、経済が不安定なので数年で回収しないとリスクが非常に大きくなるからです。しかし二酸化炭素削減量を考えれば、2、3年でもかなりの量にはなると思います。

Q:

つまり日本は長期回収型で、アメリカは短期回収型だから、中国などではアメリカのESCOが有利ということですね?

村越氏:

その通りです。日本で長期回収であるもう1つの理由は、顧客が超優良企業だからです。しかしマーケットを広げることを考えるなら、もう少し与信が落ちるところも対象にしないといけないでしょう。そうすると回収年数ももう少し短くなるのではないかと思います。ただ、1~2年というのではマーケットの広がりはないと思いますから、5~6年というところでいかにビジネスとして確保していくか、そのために金融機関をどのように巻き込んでいくか、金融機関のリスクをどうヘッジするか、そういう仕組みをつくっていくことが大事だと思います。

Q:

ESCO事業は古くて省エネなど考えてないころの建築物に対しては効果的だと思いますが、新築の物件だとある程度省エネは考えられているのではないでしょうか。新築物件に対するアプローチも行っているのですか。

中上氏:

省エネ設計にすればそれだけコストも高くなります。ユーザーはなかなかランニングコストにまで気が回りません。それを新築物件に定着させるためには、たとえば公営住宅などでは光熱費以外の返済システムを考えるなど、工夫が必要になるでしょう。また開発途上国などでは最初から省エネ効果の高いものを導入できるよう、そういう仕掛けをつくって日本がビジネスモデルを提案して協力するというのも1つの方法ではないかと思います。アメリカでは省エネビルにラベリングをしていて、ユーザーにも分かりやすくなっています。日本でもそういうのはどうかと働きかけてみましたが、まだ動いていません。一般的に設計の時に一番評価されるのはデザインの部署で、設備設計は弱い立場です。ただ最近大手の設計事務所では最初から省エネも考えた設計がだいぶされるようになってきました。これは社会の要求だからです。ユーザーからの積極的な評価が業界を変えていくのだと思います。

Q:

ビルのメンテナンス企業との連携、または住み分けは?

中上氏:

メンテナンス企業はオーナーから管理を任されてはいますが、立場上意見を言ってもなかなかトップまで届きません。メンテナンス企業もある程度の規模のところはかなりのノウハウをもっています。それで彼らの地位が上がれば意見も通りやすくなるのではと思い、10年ほど前にビルのエネルギー管理士制度をつくろうと関係省庁に働きかけたのですが、うまくいきませんでした。

Q:

日本での市場拡大への展望は?

村越氏:

2002年から03年にかけて産業部門のESCO事業が2.5倍になりましたが、これはコージェネレーションシステムの導入が原因で、また大きく変動するだろうと思っていたら、案の定04年にはどっと落ちました。しかし今までの伸びからして産業、業務それぞれ100億円程度、合わせて200億円程度というのは妥当なところだと思います。アメリカの事業規模は20億ドルですが、パフォーマンス契約はそのうちの半分で、しかも民間はそのうちの25%ですから、日本円でいうと200~300億円です。そう考えるとアメリカはESCO事業始まって二十何年かでそこまでいったのに、日本はせいぜい数年でいったのですから、実はものすごい勢いで伸びているのです。
今後は業務部門での伸びを期待しています。というのは規制枠が拡大され、現場への調査はすでに始まっていて、特に昨年から、大規模業務施設には初めて規制がかかったような状態になり、これからの数年間はこれを中心に展開が進むでしょう。産業部門ではある程度与信の低いところには、金融のインセンティブが必要になると思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。