日本のコーポレートガバナンス:社外取締役の役割

開催日 2005年11月7日
スピーカー 茂木 友三郎 (キッコーマン株式会社代表取締役会長)
モデレータ 鶴 光太郎 (RIETI上席研究員)

議事録

はじめに

私は、東京証券取引所の上場会社コーポレートガバナンス委員会の委員長を仰せ付かって、昨年3月に「上場会社コーポレートガバナンス原則」の取りまとめをさせていただきました。また、日本取締役協会の社外取締役委員会の委員長をやっており、そこが中心になって「独立取締役コード」をつくり、3週間ぐらい前に新聞発表いたしました。

日本のコーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスという考え方は、日本にいつごろ入ってきたのか考えてみますと、確か15年ぐらい前に、ハワイで日米のコーポレートガバナンスについての会議がありまして、私も出た覚えがあるのですが、そのころはまだ話題に上っていなかったような気がいたします。10年ぐらい前からかなり話題になるようになり、さらにこの数年、相当に脚光を浴びてきたと思います。

どうして今、コーポレートガバナンスが話題になってきたのか考えてみます。日本はかつて間接金融が主で、銀行からお金を拝借する、つまりメーンバンクがその中心にあったのです。それで、1年に数回、企業の社長はメーンバンクの頭取に役員の人事などを報告していました。つまり、間接金融が主であった時代には、メーンバンクが経営者をチェックしていたということです。経営に対する監督機能をメーンバンクが持っていたという感じです。しかし、そのうちに間接金融から直接金融への移行が行われて、直接金融のウエイトがだんだん高まってくるにつれ、このメーンバンクの存在感というのがだんだん薄れてきたのだと思います。そうすると、誰がマネジメントを監督するのかという問題が当然起こってくるわけです。

一方、市場経済への動きは、官主導の経済から民主導の経済へという転換が進んできて、市場経済化がどんどん進んできます。そうなりますと、市場経済の中での主役の1つである株式会社、その株式会社を運営する経営者の役割が非常に重要になってきます。民主導の経済になってくると、経営者の責任は非常に重くなってくるわけです。やはり誰かこの経営者をチェックする機能が必要になってきます。そんな背景があって、コーポレートガバナンスがだんだん話題になってきたのであろうと思います。そこへエンロンの事件などが起こってくると、ますますコーポレートガバナンスについての関心が高まってくるという状況だと思います。

そんな状況でコーポレートガバナンスがだんだん話題になってくるわけですが、それでは、企業が競争力を強め企業価値を高めるためには、一体何が必要なのかということを考えてみますと、会長や社長などCEOを中心とした執行部が、タイムリーでスピーディな意思決定を下して、それを基に行動をするということが必須要件になると思います。それが一番基本です。

しかし、執行部に問題があるときに、それをチェックする機関が必要になり、そこにコーポレートガバナンスの必要性というのは出てくるわけです。執行部の問題というのは、一番に業績が悪いということ、これは経営者の責任が当然追及されるべきことだと思います。それから法律違反や、あるいは法律には違反していないけれども、どう見ても企業イメージのために良くないというようなこともあると思います。そういう問題があったときに、それをチェックする機関が必要になるということです。

ただ、よくコーポレートガバナンスというとチェックだけを重視する考え方もありますが、それがあまり行き過ぎると執行部のリーダーシップを阻害することになり、企業がやっていけなくなり元も子もなくなりますので、バランスが必要だろうということを申し上げます。

わが国では、商法によって、コーポレートガバナンスについて2つの形のいずれかが選択できることになっています。1つは委員会等設置会社というのができるようになり、これは監査役を廃止して、監査委員会・指名委員会・報酬委員会をつくり、社外取締役は最低3人必要という形です。もう1つは従来型の監査役設置会社です。このどちらかを選択できるわけですが、委員会等設置会社に移行することが可能になった時点では、そのうち日本のかなりの企業が委員会等設置会社に移行するのではないかというような予測もありました。しかし実際は、委員会等設置会社へ移行する会社の数は思ったよりは少ないというのが、現在までの状況です。

しかし、恐らく多くの企業はどうしようか迷っていると思います。私どもの会社でも、一生懸命検討している最中です。委員会等設置会社に移行する方が、アメリカのやり方に割合似ていますから、海外での評価は分かり良いと思います。ですから、そういう点では、外国人株主の多い会社や外国人株主を多くしたい会社は委員会等設置会社にする方がいいのかもしれませんが、そのほかの会社でいえば、今のところどちらが決定的にいいかということは難しいと思います。いろいろな企業が考えて、自分の会社に合ったような方式を採っていき、そして市場が判断していくということであろうと思います。

社外取締役の役割

しかし、いずれの形を採用するにしても、私は社外取締役を招聘することがコーポレートガバナンスの第一歩ではないかと考えております。よく社外取締役は会社のことは分からないのだから役に立たない、余計なことを言われても困るというようなご意見の方もいらっしゃいます。しかし、その意見は、社外取締役の役割について十分認識していないのではないかと思います。

社外取締役の役割というのは、何も会社の細かいことを知っている必要はないのです。監督機能が一番の基本です。要するに、経営者が十分にいろいろなことを検討した上で意思決定しているかどうか、重要な案件については取締役会でよく議論をした上で物事が決められているかどうかということを監督するわけです。それから日本の企業というのは終身雇用型の色彩が強いですから、みんな同じ会社でずっと長年やっているわけで、みんな似たような考え方を持つわけです。ですから、社外の違った目で見るということです。これは意思決定の上でも非常に参考になるのではないかと思っています。

また、社外取締役がいることについてのもう1つの問題点として指摘されるのは、候補者がいないということですが、これも少し違うのではないかと思っています。社外取締役の候補者としては、やはり現職のCEOないしはそれに準ずる人が一番いいと思います。その次にいいのはCEOであった人、それに準ずる仕事をしてきた人、この人たちが適していると思います。要するに、経営というものに対する考え方が一致しますから、すなわち意思決定に結び付くし、また監督もしやすいということになると思います。さらに役人OBの人、それから大学の先生、あるいは大学の先生のOB、ジャーナリスト、弁護士、公認会計士、そういう人たちはもちろん社外取締役の候補者で、結構たくさんいるわけです。探せばいるはずであろうと思います。ですから、候補者がいないということで社外取締役を否定するのは、考えとして間違いだと思っています。

それから、社外取締役を頼まれてもやっている時間がないよという考え方もあります。それは、やはり社外取締役について誤解していると思います。ほかの会社の社外取締役をやるということは勉強なのです。これはギブ・アンド・テイクであると思います。ほかの会社がどんなことをやっているか、どんなプロセスで意思決定をしているか、どこら辺に重点を置いてやっているかということを、これは経営者として見ると非常に勉強になるわけです。そういう意味でも、現職のCEOがほかの会社の社外取締役をやるということは、自分の経営においても非常にプラスだと思います。ですから、忙しくて駄目というのも、あまり社外取締役を否定することにはならないと思います。大体月に1回、平均すると年に10回、会社によって違いますが、2~3時間の会議です。あとはそれに対する準備や説明などありますが、決定的に時間を取られるということではないと思っています。

そういうことで、社外取締役について否定的な意見を言う人はおられますけれども、私はおかしいのではないかと思います。私どもでも4年ぐらい前から、社外取締役を2名招聘しております。社外取締役に来ていただくようになってから、取締役会の緊張感が出てきました。やはり取締役会でも適度な緊張感を持って議論をするということは、非常にプラスだと思っております。

それから、社外取締役が「違った目で見る」ということを申し上げました。それは私どもの経験からしましても、いろいろな議論の中で、われわれと違った目で見てくれて、それに対していろいろな意見を言ってくださるということは、これは監督機能のみならず、意思決定のプロセスの中においても非常にプラスになると感じております。ですから、私どもの経験からしても、社外取締役は非常に役に立つということです。私も社外取締役を幾つかやっていますが、その社外取締役で出ることによって私自身も非常に勉強になります。個人のプラスということは、やはり私が意思決定をするときにプラスになるということですので、企業としてもプラスになるということだと思います。

ですから、監査役設置会社であっても社外取締役を入れるということがコーポレートガバナンスの第一歩だろうと思っているわけですが、できれば指名委員会と報酬委員会をつくった方がいいのではないかと思っています。委員会等設置会社に移行すれば、当然、報酬委員会、指名委員会をつくるわけですが、監査役設置会社の場合も、できれば複数の社外取締役を入れて、報酬委員会と指名委員会をつくるべきではないかと思っています。

それは私の経験からしてもいえることで、当社の場合も、社外取締役を招聘すると同時に指名委員会と報酬委員会をつくりました。社外の人が2人と私がメンバーで、社外の人に委員長をお願いしています。ですから、私がいろいろな資料を提供して、そこで議論をするということになります。報酬委員会においては、当然のことながら役員の報酬、役員の賞与を決めます。それまでは私が1人で決めていたような格好です。どこの会社もそうだと思いますが、CEOが大体決めるわけです。しかし、いろいろな社外の人にご意見を伺いながら決めていくと、客観性が出てくるということで、安心だろうという感じがしています。

それから指名委員会の方は、私どもでは、もちろん取締役の候補者を推薦するということをやっているわけですが、委員会等設置会社では指名委員会というのは決定機関なのです。指名委員会で決めたものは取締役会で否定できません。どういう理屈なのかといいますと、日本の場合にはやはり社外取締役は過半数ではないわけです。過半数の会社もありますが、いずれにしても社外取締役の数の方が多い会社というのは少ないので、指名委員会の中に過半数の社外取締役を入れて、そこで取締役の候補者を決めるという、そういう理屈があるのです。ですから、委員会等設置会社の場合には指名委員会に決定権があるということです。監査役設置会社の場合にはもちろん決定権はなく、指名委員会で議論をして取締役会に出すということになります。

そういうことで、私はやはり社外取締役を入れるばかりではなくて、指名委員会・報酬委員会をつくった方がいいのではないかと考えております。ただし、賢人がCEOでしたら、私は別に社外取締役を入れなくてもいいと思います。ですから、すべての会社に入れるべきだと言っていませんが、私のような凡人がCEOの場合には、大体社外取締役を入れる方がよろしいのではないかと思います。

それから、社外取締役は独立取締役でなければいけないという考え方がありますが、その通りです。執行部をチェックできなかったり、あるいは特定のステークホルダーの代弁者であるというような人は、もちろん社外の人であっても、独立取締役としてはふさわしくありません。やはり社外取締役の本来の役割を果たせないということです。

では、どんな人がそういう人なのかといいますと、たとえばその会社の役員・従業員であった人、これは駄目です。ただアメリカの場合は、終身雇用ではなくて常に会社を変わりますから、その会社の取締役や役員であった人は全然駄目だということになると困るらしいです。ですからアメリカでは、過去何年間、取締役や役員、従業員であった人は駄目だということになっているようです。日本の場合には終身雇用的な色彩はまだありますから、その会社の役員・従業員であった人は駄目ということでもよろしいのではないかと思います。それから重要な取引先、得意先、大株主、あるいはその会社からコンサルタントや弁護士ということで多額のお金を受け取っていた人、こういう人は独立性がないのではないかということです。

独立性がないとどういうときに問題になるかというと、たとえば敵対的な買収を仕掛けられた場合です。その場合に、社外取締役の意思というものがかなり大きく影響することもあるわけです。買収を仕掛けた方が企業価値は高めなのか、あるいは現執行部の方が企業価値は高めなのかという判断を求められるという場合もあります。そういうときには社外取締役の役割は非常に大きく、やはり社外取締役が独立していなければ良い判断ができません。また独立性のない社外取締役の判断というのは、あまり信用ができません。それから、裁判所などがどう判断するかという点で問題が出てくるということになろうと思います。そういう意味で、社外取締役は独立性を持っていなければいけないということになるわけです。それで、独立取締役コードというのをつくりました。

しかし一方、考えてみますと、日本の場合にあまりコードをきつくし過ぎますと、社外取締役を入れるという動きに対してブレーキになるということがあるわけです。ですから、その辺が難しいのです。ある一定の基準を設けるわけですけれども、それがあまりきつ過ぎると、また少し問題があるかもしれません。それから、弁護士などもそうですが、普通、顧問弁護士というのは独立性がないという判断ですけれども、どの程度まで弁護士として雇っている人を認めるかとか、そういう問題が出てくるわけです。日本ではそれでなくても社外取締役がまだ十分に浸透しておりませんから、あまりきつくするのは問題なのではないかと思います。

しかし、独立性というのもある程度保たなければいけないということもまた事実です。ことに敵対的企業買収を考えたときに、その判断を社外取締役に仰ぐというような場合には、独立性がかなり必要だということもあり、そこら辺が非常に難しいのです。ですから、独立取締役コードは最低限のコードでまとめたということです。しかも、得意先なら得意先という場合に、どの程度の得意先は駄目という判断は、各企業でやってくださいということでまとめてあります。将来、社外取締役がどんどん普及してきた後には、また独立取締役のコードをもう一遍見直してもいいのではないかとは思っております。恐らく敵対的な買収などに関しましては、今後、裁判所の判断が出てくると思います。ですから、それなども考慮に入れる必要があるだろうと思いますし、また、市場はどう考えるかということも今後は考えながら、この独立取締役コードをさらに充実していく必要があるのではないかと考えております。

質疑応答

モデレータ:

アメリカの例などを見ていると、経営者の首を切って新しい経営者にするプロセスで、割と有効に社外取締役が影響を果たしているという例があることと、もう1つは、特に一般株主の利益を代表するエージェントとして社外取締役が重要なんだという考え方も、割と浸透しているような感じがいたします。その2つと独立性は関係しているのではないかと思いますが、あまり厳しくやり過ぎると導入する会社がなくなるという、その間をどう取っていくのかが一番難しい問題ということですが、特にアメリカでの見方で、コメントがあればお願いいたします。

A:

確かに指名委員会や報酬委員会を導入するということは、経営者が悪い場合には指名委員会で首にすることもできるわけですから、そういう意味で緊張感もあるわけです。ですから、あまり悪い結果にはならないだろうという見方もできると思います。
社外取締役は一般株主の利益を代表するということですけれども、基本的にはその通りで、日本でもそうだと思います。ただ、同時にほかのステークホルダーにとっても企業の存在価値があるということでないと、やはり長期的には一般株主の利益にはなりませんから、そういう目配りをしながらやっていくというのが社外取締役の一番の基本だと思います。
それから、バランスの問題です。独立性を追求するということと、社外取締役をもっと普及させるという、そのバランスをやはり考えていかなければいけないと思います。

Q:

日本の企業の経営者や経団連に聞きますと、社外取締役制度について非常に慎重な、あるいは否定的な経営者が多いように思います。こうした日本の風土において普及させるためには、どういうことが重要になるのでしょうか。

A:

コーポレートガバナンスはどんな仕組みを採るかということは、やはりそれぞれの会社が判断すべきことで、そして、それを評価するのは市場だと思うのです。この会社は駄目だということであれば、それなりの評価が出るわけです。そうすれば、やはり経営者が考えて直していくということだと思いますが、やはりあくまでも、その会社の経営者が自分の会社に合っていると考えるシステムを採っていくべきだと思います。
それから、経営者の中で社外取締役について否定的な意見が多いというお話ですが、私は必ずしもそうでないと思います。私どもも経団連のメンバーですし、経団連のメンバー企業というのはものすごく多いわけです。ですから、一部では疑問を持っている方もおられるということは、当然のことであるけれども、しかし、たまたま疑問を持っている人の声が大きく出たりすると、何か経団連全体が反対しているみたいに見えますけれども、そうではないと思います。

Q:

キッコーマンで社外取締役を導入されたというお話がございましたが、その結果として、企業活動において何か特にいい側面が実際出てきているのかどうかを教えていただきたいと思います。

A:

数字的にプラスになったかどうかというのは検証のしようがないわけです。しかし実感としましては、取締役会の緊張感が出てきたということがあります。それから、特に大きな投資案件やM&A絡みのことなどについては、社外の人の意見をいろいろいただくことは参考になると思っています。ですから、入れる前と入れた後では取締役会の雰囲気がだいぶ変わったと思いますし、数字的にも恐らくだんだんプラスになってくるのだろうと思います。

Q:

社外取締役もしくはその独立性というのを考えた場合に、日本の企業風土の中でどんなふうになっていくのでしょうか。アメリカ並みに企業価値を判断してやるというところまで今の段階でもできるのか、何年かたてばそうなるのかということについて、もしお考えがありましたらお聞かせいただきたいと思います。

A:

社外取締役が判断できるという意味で、今の段階でもできる会社も当然あると思います。ですから、社外取締役の独立性が相当問われるところだと思います。独立性がある社外取締役が何人かで議論したことというのは、相当説得力があるだろうと思いますし、また、裁判所であっても、そういう独立性のある社外取締役の判断というものは尊重されるのではないかと思うのです。ですから、裁判所などの判断が積み重なっていって、だんだん独立性についても客観的な評価基準というのが生まれるのではないでしょうか。そして、独立性がだんだん客観性を帯びてきて、そういう客観性を持った独立取締役が判断をするということになると、それはかなりの程度で重きを置かれるのではないかと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。