国際的な援助潮流と我が国のODAの今後

開催日 2005年5月12日
スピーカー 中尾 武彦 (財務省国際局総務課長)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)

議事録

我が国のODAの展開と状況の変化

最近我が国のODAは大きなチャレンジに直面していると思います。まず、従来の我が国のODAについてまとめますと、世界最大のODA供与国(1990年代)であったこと、アジア地域での成長支援に力点をおいていたこと、経済インフラ整備に必要な外貨を譲許的ローン(円借款)で支援していたこと、同時に我が国の発展の経験を活かした技術協力や社会セクターへの無償資金協力もしていましたが、他の国に比べて円借款による支援のウエイトが高かったように思います。国際開発金融機関(世銀等)にも米国に次ぐ貢献をしていました。これらの背景には強い経済があり、国際収支黒字を世界に環流させるという意味もありました。それと安全保障面での世界貢献には制約があるので、それを経済協力ということで貢献したということです。

しかし、状況は変化しました。まず、長引く経済の停滞と財政状況の悪化です。そして国民にも「本当に役に立っているのか」という疑問の声があります。また安全保障面での貢献への関心の高まりがあります。これは今まで随分経済協力を行ってきたけれど、お金だけの貢献には国際的な評価の限界があると国民が感じていることが背景にあります。また、東アジア諸国、たとえばタイ、マレーシア、中国などは発展をとげ、もうODAから卒業するという状況です。一方、同じように支援していたアフリカ諸国は円借款が返せない状況で、債権放棄がおきています。これらの国々には今までのようなローンでの支援はできないということです。

また、新たな国際的援助潮流もあります。それは、今までの経済インフラを中心に考えたものではなく、社会の基盤となるような医療、教育を高める支援をし、広い意味での貧困削減をめざすというものです。そのなかで、国連によりミレニアム開発目標が示され、アフリカ諸国やポスト紛争国に焦点があたりました。それから、米国は貧困がテロの温床であるという認識から、ODAを増やしていますし、EU諸国も、社会民主的な政権の影響、移民問題などもあり、こちらもかなり増やしています。そして援助の効果を得るには協調が大事だという議論になってきています。また被援助国のガバナンス・制度への注目があります。それは民主的かということより、コンセンサスがあるかどうか、資金の管理がちゃんとできるか、財産権などの法整備が整っているかで、そういうものがないと結局支援がうまくいかないのです。そして、先に述べました債務削減と返済能力に応じた支援の問題があります。

我が国のODAの現状

我が国のODA実績の推移は、1995年を最高として、この50年あまりほぼ一貫して増え続けていますが、最近は少し減少しています。G7各国のODA実績をみますと、米国は2000年は100億ドルだったのが、2004年には190億ドルまで増えています。日本は1995年は145億ドル、2004年には89億ドルになっています。G7各国のODAの対GNP/GNIを比較しますと、2004年では日本の0.19%は米国の0.16%よりは上回っているものの、EU平均の0.36%、DAC(開発援助委員会)平均の0.25%と比べて低くなっています。

しかしこれは、我が国のODAが円借款比率が高いことに原因があります。各国のODAの態様と供与先(2003年)をみると、他の国はほとんどネット(純)のローンがマイナス(返済超過)になっているのです。供与先も我が国がアジア・太平洋諸国が最大であるのに対し、他のG7諸国はアフリカが最大の供与先となっています。次に、一般会計ODA予算の概要をみていくと、まず2国間無償ですが、道路をつくったりする一般プロジェクトは減っていまして、ノン・プロジェクトやNGO支援などが増えています。

2国間無償、2国間技術協力、両方ともほとんどが外務省の予算です。「技術協力はJICA(国際協力機構)が本来一元的に実施していくべきなのに、予算は13府省庁に分散していて技術協力の一体性を損ねている」という批判がありますが、この予算内には文部科学省所轄の留学生予算が含まれており、他の省庁の行っている技術協力は小規模なものなので、JICAの比重はやはり高いといえると思います。

ODA予算と一般歳出の推移(伸率)をみると明らかなのは、平成10年度(1998年度)以降はODA予算が一般歳出の中で厳しい査定を受けていることです。これをもう少し詳しくみますと、平成9年度がピークで1兆1687億円に達しましたが、この年「財政構造改革法」が制定されたのをうけて、平成10年度は前年度比10.4%減になりました。その後、ほぼ毎年度減少になり、平成17年度は7862億になりました。しかし、この内訳をみると、経済開発等援助費(無償資金協力)は平成9年度の1737億円(債務救済無償を除くベースと同じ)から同17年度1765億円というように、減っていません。一方、財務省の国際協力銀行(JBIC)出資金は平成9年度の3865億円から、同17年度1744億円に、その他省庁の予算もだいぶ減っています。これで、外務省の予算に入っている無償資金協力の重要性の高まりがわかると思います。

ちなみに、国際ルール(DACルール)に基づく統計では、グロス(総)のODA事業実績から、貸付回収金等の受取額を差し引いたネットのODA事業実績(暦年ベース)が日本のODAとして計上されます。事業予算(グロス)には一般会計(一般歳出)ODA予算だけでなく、財政投融資、自己資金等(貸付回収金等)、国債からの出資(世銀などには国債を渡して後年度に償還払い)などが含まれています。

円借款の現状とチャレンジ

次に、円借款の状況をみてみたいと思います。円借款の上位10カ国の状況(承諾額・累計・貸付残高)を見ると、2004年度承諾額1位はインド、累計では1位インドネシア、2位中国、貸付残高は、承諾されてもまだ貸し出しがされていないものや既に返済済みのものがあるので累計額と差がありますが、1位インドネシア、2位中国となっています。貸付残高の総額は11兆4540億円で、かなりな額といえます。

円借款は毎年数千億円の新たな承諾が行われ、それを受けて毎年貸し出されています。この原資はどうなっているかというと、一般会計からの出資金のほかに財政投融資を受けています。しかし、貸付回収金が増えているので、財投からの新たな借入は少なくてすむようになり、最近の実績ベースでは、財政投融資はネットの返済、すなわち償還額の方が借入より多くなっています。貸付回収金の増加がネットの円借款額を減らし、DACのODA実績を減らしているのです。しかも新規貸付承諾額があまり伸びていないのでなおさらです。約11兆円の残高があまり伸びない中で、毎年資本金が新たに出資されるので、資本・負債サイドでは資本金の割合がどんどん高くなっているということでもあり、よい貸付先さえあれば円借款の貸出余力は高まっているということもできます。

円借款の重要な供与先であったアジア諸国は成長し、もう卒業間近となり、アフリカ諸国などへは新規供与が困難になり、経済インフラ整備より社会セクター支援への重点が強まり、アンタイド援助信用の透明化に関する議論などもあって、大きなチャレンジを受けています。

しかし、まだまだ多くの国で譲許的なローンをインフラ整備や人材育成に用いたいというニーズはあります。譲許的ローンによる途上国支援のメリットとしては、経済開発に不可欠な経済インフラの整備に大規模な資金を動員できること、また長期間にわたって行うプロジェクトだと、民間資金だけではリスクが大きいということ、返済が必要な借款の場合、途上国政府はより強いオーナーシップを持ってプロジェクトを実施するので効率性が高まるということ、大規模プロジェクトの実施により借入国側の制度や人材が強化されること、借款による大型のインフラ整備が長期計画の中で位置づけられることで、当該国の発展を総合的に支援することができるということなどがあります。

一方、債務削減問題は日本にとっても重要な問題です。拡大HIPCイニシアティブ適用対象国というのが37カ国あります。これらの国は債務削減の対象となる国です。これによって債務放棄の対象となる国際協力銀行債権の残高は2002年度末で9086億円にのぼります。我が国は2003年度から債務削減の方式を、債務救済無償による方式から、JBICの債権放棄による方式に改めました。債務救済無償による方式だと、いったんは返済してもらって、その後同額の債務救済無償を供与するという方式で、これだと債務救済の形としては分かりにくい、返済額を一時的にでも円で調達するのが困難な国がある、などの理由で、新しい方式に改められたのです。

援助潮流の変遷

第2次世界大戦後、日本、欧州は復興期でした。労働は余っているが、資本が足りないということで、資本の投入が重要でしたし、世銀、IMFなども設立されました。60年代になると、社会主義や反植民地主義の影響で、一次産品価格の安定化政策がアフリカや中南米諸国で行われました。70年代には、先進国でも成長だけの追求への反省がおこり、環境配慮や基本的ニーズへの注目がなされました。日本はこの頃からずっとODAをしているのですが、80年代になると、お金を出してもうまくいかない国があるという問題が出てきました。政府の介入が非効率・腐敗を招いたという反省から、貿易自由化・民営化、規制緩和等の構造調整を推進しました。そして財政・金融規律を重視するようになりました。しかし、アフリカなどはこれでもうまくいきませんでしたので、90年代になると、貧困削減、人間開発の視点が取り入れられました。2000年以降はそれをさらに発展させて、ミレニアム開発目標としたわけです。

これで問題解決となるかどうかは、まだわかりません。医療費や教員の給与などの内貨だての経常費用まで無償援助で賄って、それが本当にその国が自立することを助けることになるのか、援助依存を招くのではないかという疑問もあります。かといって、今まで通り円借款でダムを造るとか、構造調整融資を行うとか、だけを続けていればいいというわけでもありません。アフリカのような国にはその現実に即した援助を考えていく必要があり、アジアで成功した援助の方式をそのまま持ち込むことには限界があります。

途上国への資金フローの現状

途上国への資金の現状をみてみると、途上国全体では、2003年の経常収支は実は758億ドルの黒字です。ネット株式等フロー、つまり直接投資ですが、これも非常に大きい。ネット債務フロー、つまり返済は、公的債権者に対してはマイナス、返済のほうが大きいということです。民間債権者に対するもの、ボンドによるものがかなり大きくなっています。アルゼンチン国債のデフォルトの問題もありましたし、こういうことにどう対処したらいいかが、これからの課題です。

そして外貨準備金の増加(途上国から先進国への流出)がみられます。これは、中国などが為替レートを安定化させるための介入を行っていることに加え、多くの途上国が1990年代の通貨危機の経験などをふまえて意図的に外貨準備を積み増していることによります。

ミレニアム開発目標への我が国の立場

ミレニアム開発目標とは、2000年9月の国連ミレニアム・サミットにおいて採択されたもので、2015年を目標に国際社会が一致協力して世界の貧困削減に向けて努力することが確認されました。具体的には、貧困削減、保健衛生、教育など8つの目標と具体的数値目標が挙げられています。

貧困人口が多いのは、南アジア(インド含む)、サブサハラ・アフリカで、特にサブサハラが深刻です。

我が国はミレニアム開発目標を重要と考えていますが、途上国の援助吸収能力にも留意が必要だと思っています。ただお金をつぎ込むのではなく、持続的に目標が達成できればいいのではと考えています。そしてそのコストは、税収を含む国内資源の動員や、貿易からの収入、海外からの直接投資など、さまざまな資金の活用が重要だと思います。それと世界全体のコストの議論ばかりでなく、個別国ごとに推進していくことが必要だと思います。もちろん、アフリカばかりでなく、アジア諸国にも留意したいと思います。

途上国支援の政策一貫性

政策一貫性とは、途上国における開発を先進国が有効に支援していくためには、ODAに注目するだけでは不十分であり、先進国側のより広範な政策、たとえば、貿易政策、農業政策、移民政策なども含めて考える必要があるという議論で、我が国の農業政策、つまりコメを輸入しないということなどに対する批判として用いられます。

しかし、これまでの我が国のODAでは5カ年計画、10カ年計画などにそって、有償、無償、技術協力を戦略的に組み合わせて実施しています。ODA以外にも、貿易保険および旧日本輸出入銀行の貿易金融・投資金融のOOF(Other Official Flows)がサポートしたり、一貫性をもっていたと思います。

全体として、少なくとも東アジア諸国支援に関しては、我が国の貢献は大きかったし、政策一貫性があったと思います。政策一貫性との関係でよく話題となるものに、米国の開発系シンクタンクがOECD加盟21カ国についてランク付けした開発コミットメント指標があり、日本は最下位に位置づけられています。これは、援助(ODAのGDP比が基本)、貿易、投資、移民、環境、技術、安全保障(PKOなど)を指数化し、単純平均したものです。でもこれは、ODAの質を評価したものではありません。

より効果的・戦略的な我が国のODA実施に向けて

それで、こういうような国際援助潮流の中に我が国のODAの役割を位置づけ、説明する努力が必要になってくるわけです。それから、国益との関係を明確に定義することも重要です。前のODA大綱では「友好関係の促進」というようなことしか挙げられていませんでしたが、新しいODA大綱(2003年8月29日閣議決定)では「国際社会の平和と発展に貢献する」ことが「我が国の安全と繁栄の確保」に資するとはっきり述べられています。

また、途上国との連携の包括的アプローチが重要だと思います。ODAのほかに貿易・投資、その他の公的・民間資金、経済連携協定や金融協調などとの連携が挙げられます。

戦略的な地域配分というのも、私は必要だと思います。どの国も大事ですし、果たすべき責任はきちんとしていくわけですが、いまや日本の国力は世界の中でそれほど突出してはいませんし、世界のすべての地域で最大、あるいはそれに近い貢献をして、国際的な影響力を高めるというような余裕はないと思います。アジアの経済発展と安全保障に貢献することがグローバルな貢献にもなると思うのです。

しかし、ODAについて、これをすればいい、というような決定的なものはないと思います。ですから、財務省、経済産業省、外務省、その他の省庁、さらに海外の機関とも、みんなそれぞれの知見をだしあって、もっと連携する必要があると思います。

質疑応答

Q:

ODAに関して、国民の支持が低いようですが、もう少し国民の支持をとりつけたほうがよいのではないでしょうか。また、ほかの国ではODAに関して、どのような意識をもっているのでしょうか。

A:

確かに経済協力のあり方に関する国民の意見(内閣府の「外交に関する世論調査」)を見ても、1991年と2003年との比較で、「積極的に進めるべきだ」が41%から19%に急減する一方、「なるべく少なくすべき」と「やめるべき」の合計は9%から29%に増えています。高度の政治判断によって、国民を説得すべきこともありますが、私は国民があまり望まないならそれは増やせないのではないかと思います。かといって、やめてしまっていいとは思いませんし、国民もそうは思っていないのではないでしょうか。
国民性の違いはあるようで、たとえばイギリスはODAに関して熱心です。NGOが盛んだということもあるかもしれませんし、移民がたくさんいるのでそういう人たちの影響や、社会民主的な政権であることも影響しているのではないでしょうか。

Q:

プログラム型援助は被援助国と直接かかわるようなところがありますから、こちらとしてもより相手を知る必要があると思うのです。しかし人材も限られているので難しい場合もありますので、どう取り組んでいったらいいのか、お考えをききたいのですが。

A:

プログラム型援助というのは「何かをする」という政策に対して支援をするというところが、今までのプロジェクト型援助との違いです。プロジェクト型の場合、橋をつくるとか病院をつくるとか、結果もはっきりしているし、ローンも使いやすかったわけです。その一方、それで浮いた財政資金を他の目的に流用できるという問題がありました。プログラム型のいいところは、被援助国政府にたとえば知的財産権の保護などの政策を直接要請することもできるところで、しかも世銀や諸外国の機関と一緒にすることで、その政府とかかわりがもてるようになるということです。たしかに人材の問題があって、よくわかっていないと結局お金を出すだけになってしまいます。日本でもアフリカでがんばっている方々もいらっしゃるので、アフリカで一定の貢献をしていることをもっと発言していただきたいなあと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。