今後の地球環境問題への対応について

開催日 2005年1月12日
スピーカー 深野 弘行 (経済産業省大臣官房審議官地球環境問題担当)
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

京都議定書を巡る流れ

本日は、京都議定書の発効や国内対策の見直しなどな動きについてお話し致します。

京都議定書が本年2月16日に発効されることが決定し、国際的には、まさに「地球環境の年」と言っても過言ではないくらい、京都議定書を巡るさまざまな動きが見られます。具体的には、7月にG8サミットが英国で行われる予定となっており、ブレア英首相は、「地球環境」と「アフリカ」という2つの大きなトピックについて議論したいとしています。さらに、11月にはCOP11(第11回気候変動枠組み条約締約国会議)/MOP1(第1回締約国会合)が開催されます。また、3月には英国で環境エネルギー大臣ラウンドテーブルが開かれることになっています。5月には、COP10で決定された「政府専門家セミナー」が行われ、地球環境問題への取り組みに関する各国の考え方や今後の取り組みについて意見交換が行われる予定です。

一方、日本国内も大きな節目の年になっております。京都議定書の目標達成のための国内措置としては、地球温暖化対策推進大綱が2002年3月に閣議決定されています。本大綱では、対策の進捗状況についての評価・見直しを行い、段階的に必要な対策を講じていくことになっております。現在はその第1ステップが終わり、政策の効果や追加政策の必要性について議論している段階です。本年3月には京都議定書目標達成計画の案が策定され、その後、パブリックコメントを経て、5月頃には同案がまとまる予定となっております。

長期的なCO2排出の見通し

地球環境問題の取り組みについての基本的あり方を考えていくためには、世界全体における温室効果ガスの排出状況を念頭に置いていくことが必要です。中国のエネルギー需要の増加を背景に、2010年の途上国のCO2排出量の見通しが非常に伸びている中、先進国などのCO2排出量の割合は世界全体の34%となる見通しであり、先進国が排出削減目標を達成できたとしても、世界全体を見れば、議定書批准国による削減量は1990年の総排出量のわずか2%を減らすに過ぎないのが実状です。

また、地球温暖化の問題が長期的な視点に立って取り組むべき問題であることを頭に置いて、CO2排出の長期的な見通しを見てみると、2100年に途上国のCO2排出量は世界全体の76%にも達する見通しです。また、中国は2030年頃までには米国を抜いて世界一のCO2排出国となります。インドも日本とほぼ同じレベルとなっており、やがては日本を抜くという状況です。従って、途上国などを含めて、どのような仕組みを構築していくのかということが問題の本質であると考えています。

世界全体から見た化石燃料使用によるCO2排出量は、炭素換算億トンで約63億トンです。そのうち半分程度は海洋や森林などに吸収されますが、残りの半分は大気中に蓄積されてしまいます。従って、現在の大気中の濃度を安定化させるためには、長期的に現在レベルの半分以下まで排出量を削減することが必要です。CO2排出削減目標が1990年比▲6%である日本では、目標達成は非常に困難であるという議論がされています。しかし地球規模での温暖化ガス濃度の安定ということを考慮するならば、長期的には、世界全体で現在の半分以下まで下げなければなりません。我々人類はこのように非常に大変な問題に直面しており、この点をしっかり頭に入れておく必要があります。

地球的視点に基づく長期的取組の必要性

気候変動問題に対する政策の基本的方向について、しばしば対立軸となってきた論点を以下のように4つに整理してみたいと思います。

1)地球的視点と国内対策の関係について
当省としては、地球的規模で物事を考えていく必要があり、そうしなければ根本的解決はできないという見解を持つ一方で、国内対策も重視する必要があるという考えで政策を進めてきました。京都メカニズムについても、途上国に技術や資金を移転しながら、これらの国の排出削減の取り組みを進めるものであり、これを活用・促進することが必要です。しかし、京都メカニズムは国内対策を疎かにするための言い訳に使われる恐れがあるという批判が従来からしばしば指摘されてきました。

2)環境と成長をどう考えるかについて
政府の現大綱には、「経済と環境の両立」との考え方が示されています。地球環境のためには経済を犠牲にしても良いという考え方が多くの支持を受けているとは思われませんが、潜在的にはこの点も対立軸としてあるのではないかと思います。

3)追加対策のアプローチについて
自主的手法と規制的手法のどちらを使って対策を進めていくのかという論点があります。省エネ法も広い意味では規制的手法となるかもしれませんが、経済的手法(税、補助金、排出権取引)をどのような考え方で進めていくべきなのかという点です。

4)将来の枠組みのありかたはどうあるべきかについて
現在の京都議定書では、2013年以降の枠組みについては白紙の状態であり、それに関する議論がそろそろ始まると思われます。温暖化ガスの排出数量の国別削減幅をまず定めるトップダウンアプローチ、それに対して、温暖化ガスの削減に向けた個々の取り組みに各国が約束し、それを積み上げていくボトムアップアプローチのどちらをより重視するのかについて議論が分かれます。EUはトップダウン、米国はボトムアップを重視しており、中国は非公式に、ボトムアップならば、考慮しても良いと示唆しています。

こうした将来の枠組みに向けた考え方について、日本政府としての統一的な方針が固まったわけではありませんが、京都議定書に参加していない米国や、議定書上温室効果ガス排出量の削減義務を負わない中国やインドなどを含めて、出来るだけ幅広い国が何らかの削減にコミットメントするような仕組みを作ることを重点に置くことが必要であると考えています。こうした点について、恐らく国内的に大きな考え方の違いはないと思いますが、その方法論については、今後さまざまな議論を行っていくことになります。また、将来の削減に向けた具体的な決め手となるのは技術であり、いろいろな新しい技術を駆使していかなければ、今後の排出量は削減できないというのが現実ではないかと思います。その中で1つ懸念すべきことは、米国と日本の政府がエネルギー分野、特に温暖化に関連する研究開発に多額の投資を行っているのに対し、欧州では政府の投資額が少なく、また、減少する傾向にあるということです。研究開発投資は今後更に強化していく必要があり、一層の取り組みが期待されます。

将来の国際的枠組みに関する検討

途上国におけるCO2排出量が増加していることを念頭に置くと、途上国で更に省エネを進めていくことが重要となってきます。仮に、途上国全体で2割の省エネが図られれば、2020年における世界全体のCO2排出量を9%程度削減することが可能となります。これだけで全部の問題が解決されるわけではありませんが、エネルギーインフラというのは一回構築すると大変長い間利用することになるため、今後インフラ投資する国に質の高いインフラを構築してもらうことが効果的です。そのようなインフラ整備には京都メカニズムを活用することが重要です。

我が国はGDP当たりのCO2排出量が少ないことからもわかるように、高いエネルギー効率を実現しており、技術を持っています。自国の高い技術を活用することは、我が国が世界に大きく貢献し、リーダーシップを取ることができる点の1つであると考えています。一方で、これまで省エネルギーを進めてきた我が国は、限界削減費用が非常に高いことから、費用効果的に約束を達成するために、国際的に貢献してその成果を活用することが大変意味のあることであると考えています。

経済産業省では、具体的な行動を中心とするボトムアップのアプローチを中心として中長期的にCO2削減の実をあげることを可能とする将来の枠組みを考えるヒントとするため、産業構造審議会の地球環境小委員会将来枠組み検討委員会において検討を行い、2004年10月に中間取りまとめを発表しました。そのなかで、数量的な削減目標は補完的役割になるべきであり、仮に達成が困難な国がある場合には、国際的にどのように支援するかをみんなで考えるアプローチが良いというのがこの中間とりまとめの主旨です。

我が国の排出量の現状と目標達成の見通し

我が国の強みを活かした地球規模での貢献を支えるのは技術であり、我が国は「環境技術立国」を目指すべきです。しかし、我が国として、京都議定書の目標を楽に達成できる状況ではないということは皆様もご承知と思います。現行対策だけによる場合、2010年におけるCO2の総排出量は、1990年水準を6%上回る見通しです。部門別に見ると、産業部門では2010年のCO2排出量は1990年比で相当程度下回る見込みである一方で、民生部門・運輸部門のCO2排出量は、ライフスタイルの変化などを理由に、大きく増加する見通しとなっています。

現行の温暖化大綱では、CO2排出の削減目標を1)国内での排出量の削減、2)森林吸収源、3)京都メカニズムという3つの方法で達成するとされています。しかし、各部門の対策の進捗状況などを勘案すると、大綱における国内排出量の目標である0.5%の削減は困難であるため、追加対策を講じる必要があります。このため、現行の大綱にもある「環境と経済の両立」という考え方で京都議定書の目標達成に向けた追加対策を進めていきたいと考えています。しかし、我が国だけが厳しい国内対策を講じることによって、国内産業を海外に移転させる結果となったり、海外からの輸入を強いるようなことになるような対策は持続可能性がなく、非現実的です。

一方、子細に見れば、現行対策に加えて相当量の削減を行うポテンシャルが残されていると評価しています。METIは、そのようなポテンシャルを生かすような対策を講じれば、2010年の時点での0.5%の削減は可能であると考えております。産業・運輸・民生各部門による追加対策でエネルギー起源二酸化炭素を5%程度削減し、さらに、代替フロンなどの他の温室効果ガスの追加削減を行い、残った部分は森林吸収と京都メカニズムで対応することにより対応が可能と考えますが、この考え方に関する議論を含めて、今後の温暖化対策大綱の取りまとめの中で議論・評価していきます。

京都メカニズムの活用

京都メカニズムの活用については、当省に具体的な相談が寄せられており、かなりの実績を上げられるのではないかと踏んでいます。省エネや再生可能エネルギーは持続的経済発展に効果があるものであり、京都メカニズムが更に積極的に活用できるようにしてほしいという要請が途上国側から寄せられております。

環境税

環境税については、昨年末に党や政府の税制調調査会で議論が大変に燃え上がりました。環境税は、そのコンセプトが明確でないことが議論の混乱の1つの要因となっていると感じます。またよく引き合いに出されるヨーロッパの温暖化対策税は、日本で議論されている環境税と性格が違うと考えています。効果、財源対策としての必要性、エネルギー課税における負担のありかたの問題などが環境税に関する問題として挙げられました。一方で、提案も二転三転しましたが、最終的には、地球温暖化対策全体を総合的に検討した上で、更に必要があれば検討するという取り扱いで決着しました。

質疑応答

Q:

日本とカナダは、COP8くらいまではコンプライアンスについてlegal binding(法的拘束あり)を主張してきましたが、カナダが方向転換し、legal-bindingのないものを主張し始めたことにより、削減義務を負っているのは日本だけとなったと思います。コンプライアンスに関する最近の交渉状況について教えてください。

A:

コンプライアンスのルールについての議論は、COP8以降行われていないことから、カナダの現在の立場については、情報がありません。11月のCOP11/MOP1にむけてさまざまな場で、カナダを含めて諸国の考え方を聞かなければならないと思います。

Q:

2050年あたりには大幅にCO2排出を削減しないと、地球温暖化がどうにもならないと聞いています。また、「2050年にCO2を4分の1減らす」という記事が新聞に掲載されていました。2012年以降の状況について教えてください。

A:

国の審議会として検討した長期の見通しは2030年までですが、2030年にはさまざまな省エネ対策や原子力の立地が進むという前提で、1990年比で2割程度排出量が減るという姿になっていたかと思います。

モデレータ:

産業構造審議会で将来の枠組みに関する議論が行われ、ボトムアップのアプローチ、数値目標のありかたなどの考え方が謳われています。このような日本なりの考え方・提案が国際的な場でどのように働きかけられ、受けとめられているのですか。

A:

将来の枠組みに関する議論については、国際的な場に将来の枠組みについての議論を持ち出すこと自体が大変な議論の一種となっており、枠組みについての議論はされていないというのが現状です。しかし、非公式な場では、さまざまな所で将来の枠組みに関する議論が始まっています。日本では、10月に外務省が将来の枠組みに関する非公式協議を行いました。また、途上国に対する技術移転などについての議論がされており、そういったことが、さまざまな場において徐々に議論が積み上げられて行くのではないかと思います。

モデレータ:

省エネ法の改正を国会に提案し、政府の温暖化推進計画や大綱が決定され、あるいは他の省庁が関連する法律上の取り組みを講じるといったことがどのようなタイムフレームワークで進んでいるのか教えてください。

A:

国内対策については、約束期間(2008年~2012年)までに、段階的に評価・見直しをしていくことになっています。本年3月頃には、温暖化対策大綱が見直され、京都議定書目標達成計画の案が作成されます。地球温暖化対策推進本部では、すでに見直し作業が始められております。現在は、各省庁から同本部の事務局である内閣官房に対策の案を伝え、そこでブラッシュアップしてもらう、あるいは関係省庁の間で何が必要なのかという議論を行っている段階にあります。

モデレータ:

審議会のプロセスはMETIなどの省庁で行われているのですか。

A:

これは各省で平行して行っています。当省では、総合資源エネルギー調査会によるエネルギー需給の見通しに関する議論をはじめとして、温暖化対策に関する議論を続けてきましたが、今後も2月頃までに審議会で何回か議論することとしています。

モデレータ:

そのプロセスでまたは今後のプロセスを通じて、国民からのパブリックコメントを充分取り入れ、省エネ法の対策などに関する国民の支持が得られたという認識を持っているのですか。

A:

目標達成計画案については、パブリックコメントを行うことになっています。

Q:

第1ステップは全くの失敗に終わり、その延長上で考えられている今の大綱も目標が達成できないだろうと思います。それについてどのように考えますか。

A:

METIとしては、産業・運輸・民生の3部門に分けて評価した結果、産業部門は順調であると見ています。経団連の環境自主行動計画と、その下にある各業種でCO2の原単位あるいは絶対量の削減を含めたさまざまな取り組みが講じられており、それが仮に目標通り達成できれば、産業構造変化と相まって、CO2排出の相当の削減はできると評価しています。しかし、民生部門では床面積の増加やライフスタイルの変化、運輸部門では自動車の保有台数の増加を背景に、民生・運輸部門のCO2排出量の削減は容易ではありません。これを勘案し、「第1ステップは失敗だった」という評価になるのかについては、我々なりにいろいろ議論する必要があると思っております。たとえば、業務床面積あたりの排出量などを見ると、目標の絶対量は確かに厳しい状況にありますが、ある程度の改善が見られることから、効果が現れていないわけではありません。当省としては、追加対策として運輸・民生部門において効果的な対策を講じたいと考えています。しかし一方で、排出量削減目標を達成できる保証があるのかというと、そこまでは言えません。それでは、税をかければCO2排出量が急激に減少するかと言えばそういうものではありません。改善への道は、さまざまな対策を地道に考え、積み上げていくことのみであるという考え方です。そういう中で、経済成長率が予想以上に高くなってしまった状況において、経済を下方に誘導することによって排出量を抑えるようなことができるのかといいますと、そうような対策は出来ないと考えています。そのようなことが起こった場合には、京都メカニズムを含めて更なるを考える必要があるかもしれません。

Q:

プレゼンテーション資料13ページのグラフによると、2030年前までの新エネルギーは、ほとんど意味のある数字にならないというように読めます。来年度だけで953億円をかけて効果がでないのであれば、政策として非常に効率が悪いからやめたほうが良いという議論になると思いますが、これについてどのように考えますか。

A:

同グラフ上では、それ程新エネルギーのウェイトが大きくでていませんが、当省の2030年のエネルギー需給の見通しでは、新エネルギーにも重点を置いたシナリオになっています。同時に、太陽光や燃料電池などの新エネルギーは、技術開発としても意味があるため注目しています。しかし、コストの問題もあり、無理をすると、エネルギーコスト全体の上昇につながる可能性があるため、どこまでやるかどうかについてはよく考える必要があると思います。

Q:

温暖化大綱に記載されたライフスタイル(シャワーを1日1分減らすなど)については、かなり批判が浴びせられました。もう少し国民が省エネに対するモチベーションを高めるような働きかけを行っていくべきであると思いますが、どのように考えますか。

A:

ライフスタイルについても、今後大綱を検討していく上で議論すべき点であり、また、国民が省エネに対して取り組みやすい環境を整備する必要もあると思います。

Q:

地球規模でのCO2の濃度安定化のための技術として、CO2発生のためのエネルギー源(燃料)とは何であると思いますか。

A:

CO2の発生源は化石燃料(石油、石炭、天然ガス)です。資源量の評価を行った結果、石油の可採年数は40年ほどであったと思います。これは確認可採埋蔵量であり、石炭についてはもっと遥かにたくさんあり、当面は化石燃料が枯渇してくるということは想定されていないため、従来と同じような化石燃料から発生するものであるという評価です。

Q:

化石燃料を100年先の技術の中に想定しているということですか。

A:

今少なくとも予見できる将来については、相当程度化石燃料を使わざるを得ないだろうと考えており、むしろそういうことを前提にして、発生する二酸化炭素を地球・海中に隔離する必要があるという考え方です。

Q:

隔離する量自体が現在の発生量をかなり上回るわけですが、こういうことが議論の前提になるのですか。

A:

これもまだ議論が尽きたわけではありませんが、地球環境産業技術研究機構(RITE)の評価では相当程度隔離する余地があるという見方をしています。

Q:

環境省の環境税の使い道についての説明が具体的でないと思います。国立環境研究所の森田氏は生きておられたときに、環境税、環境対策、CO2の減少に関するモデルを発表なさったと聞いています。いたずらにエネルギー関係の値段が上がるという危険性があると思いますがどのようにお考えですか。

A:

我々もその点を懸念し、議論してきました。具体的に税を投じてどういう対策に使うのかについては、不透明ですが、森林対策は予算が足りないとしています。このモデルについては、ラフな面があると思います。昨年の夏頃に出した中央環境審議会のレポートの中では、全体で1兆円くらいの税収が上がるように、3000円くらいの税をかけると、削減効果が5%程度上がるという想定で、たとえば、3500億円程度の補助金を家庭部門の給湯器やエアコンの導入などに配分するということになっていました。このような考え方は、補助金のありかたとして疑問があります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。