2030年のエネルギー需給展望と日本のシナリオ

開催日 2004年9月2日
スピーカー 赤石 浩一 (経済産業省資源エネルギー庁長官官房企画官(総合政策担当))
モデレータ 田辺 靖雄 (RIETI副所長)
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議事録

本日は、総合資源エネルギー調査会が取りまとめた「2030年のエネルギー需給展望」を基に2030年のエネルギー需給展望と日本のシナリオについてお話をさせていただきます。

1980~90年代、石油価格は安定化し、石油のコモディティ化論が支配的になっていたところ、21世紀に入り、冷戦が終結したことなどを受け、将来に目を向け始めた各国はエネルギー政策の大きな見直しを行なうようになりました。

各国のエネルギー政策

米国のブッシュ政権はエネルギー自給率の下落に歯止めをかけるべく、国家エネルギー戦略を打ち出しました。米国は、京都議定書から離脱し、原子力の開発に乗り出すなどエネルギー供給サイドに軸足を置くエネルギー政策へと大転換をしたわけです。

環境政策を重視することで米国とは逆の方向に転換したのが欧州です。欧州は米国とは異なり需要サイドを重視し、エネルギー消費量の減少に注力することとしました。さらに、グリーンペーパーは欧州各国に対し、石炭から天然ガスへの移行等エネルギーの質を高めるよう強く求めています。2050年までに二酸化炭素排出量を50%程度削減するという大きな目標を掲げているドイツ、フランス、英国は、エネルギーの需給構造の変革に重点的に取り組んでいます。

ロシアは冷戦終結後、経済が低迷する状況にありました。そんな中、「強いロシア」を目指すプーチン政権は、核ではなく天然ガスや石油といったエネルギーの開発・輸出で世界に対する影響力を維持するとして、2020年に向けたエネルギー戦略を発表しました。

国家10カ年計画を掲げる中国は、国内の不平等を解消するという観点からも、西域開発を重視、それ以外にもシベリア、中央アジア、春暁からのエネルギー獲得に躍起になっています。環境に配慮している余裕はなく、原子力や石炭の開発にも力を入れているのが中国です。
このように21世紀に入ってから各国がエネルギー政策を大きく転換させる中で、日本を始めとする世界のエネルギー需給構造はどのようになるのでしょうか。その点を見通したのが「2030年のエネルギー需給展望」です。

エネルギーの需給構造を規定する要因

エネルギーの需要構造を規定する最大の要因は経済成長です。そして、経済成長は、モータリゼーション、都市化、電化率の進展から大きな影響を受けます。供給においては、一次資源の供給制約(石油や天然ガスはどの程度もつのか)と価格見通しがその構造を規定する大きな要因となります。これらに加えて、環境制約(例:京都議定書の次期枠組み)や技術開発(例:ハイブリッドカー、太陽電池、風力発電、LED、シリコンカーバイド等)の見通しが極めて重要な要因となっています。

世界のエネルギー需要

それでは世界のエネルギー需要は今後どうなるのでしょうか。
エネルギーの需要構造を規定する最大の要因は経済成長ですが、その経済成長は人口から大きな影響を受けます。国連の見通しでは現在60億人とされる世界人口は、2030年ごろには90億人程度に達するであろうとされています。一方で、今後30年の経済成長については、中国やインドといったアジア諸国の経済が成熟化することで減速するものの、成長は維持される(3%で推移)とみられています。

過去数十年、エネルギー需要と経済成長の間には非常に強い相関関係(弾性値0.64)があったことを考えると、2030年ごろの世界のエネルギー需要は現在と比べ60%増加するであろうと予想されています。東アジア地域でのエネルギー需要は特に大きくなり、この数字を上回る割合で増大していくであろうと見込まれています。モータリゼーションが今後進展する発展途上国では石油の需要が引き続き拡大するでしょう。急速な勢いで進展する都市化はIT化による電化率の向上へとつながり、発電需要はますます拡大することとなります。

エネルギー供給は需要に追いつくか:石油の見通し

このように、2030年には現在の1.6倍になると見込まれるエネルギーの需要に供給は追いつくのでしょうか。石油については、米国地質調査所の2000年のレポートでは、それまで1~2兆バレルといわれていた究極可採埋蔵量が3兆バレルを越えるのではないかという発表がなされ、専門家もこの見通しにおおむね同意しています。さらに、石油の可採埋蔵量は40年、天然ガスは60年といわれる点についても、この年数は今後も伸びていくであろうというのが一般的な認識となっています。

価格の面では、非在来型石油に対する期待が高まっています。カナダがサンドオイルから比較的高品質の原油をろ過するビチューメン回収法を開発したことで、20ドルを切る非在来型石油を入手できる可能性が高まってきています。現在の石油価格が維持されるならば今後投資が活発になり、サンドオイルが市場に出回ることになるでしょう。また、資源のピークについては、在来型石油のピークは2030年以降、非在来型石油も含めると2060年以降という見通しが有力になってきています。

そうすると価格に関心が集まります。価格には国際政治と国内政治が非常に密接に絡み合っているため、単純に資源量の予測に基づいて見込みを立てることはできません。1980~90年代に価格が安定していた背景には、「いざとなったらサウジアラビアがスイングプロデューサとして石油を供給してくれる」という暗黙の期待がありました。しかし、サウジアラビアの国内政治がテロ、若年失業率や社会福祉費用の増大によって不安定化する状況で原油価格が30ドルを割ってしまうと、国内の治安維持は困難となります。米国などでは、このようにサウジアラビアが転覆した場合の石油価格について議論がなされてきました。国際政治としては、中東問題や中国の問題があります。

非在来型石油が20ドルを切る可能性と天然ガスの供給が急増する可能性はともに価格の重しなるという見方で国際見通しはほぼ一致しています。国際原子力機関(IAEA)も欧州連合(EU)も米国も、原油価格について、2030年ごろまでに上昇するものの、その上昇は緩やかで、2000年実質ドル価格で30ドル程度という見通しでほぼ一致しています。

エネルギー供給は需要に追いつくか:天然ガスの見通し

天然ガスはどうでしょうか。欧州が脱原発を主張するなど、天然ガスの導入が世界的な動きになっています。一方で、米国では約3ドル/mmbtuであった天然ガスの価格が6ドル近くにまで引き上げられ、欧州でも天然ガスの価格は上昇しています。このような状況で、LNG(液化天然ガス)でガス需要をまかなおうとする動きがますます強まっています。

天然ガスの確認可採埋蔵量についても、以前は100兆立法メートルといわれていましたが、実は440兆立方メートルほどあるのではないかという議論がなされています。ですので、天然ガスの需要増が必ずしも価格引き上げの要因とはならない、という見方が次第に強まっています。現に、中国や米国といった巨大なプレーヤーがLNGの需要サイドに参入することで、LNG価格は下がっています。

天然ガス価格を見通す際に重要となるのがLNGのコストベースの価格です。これまでLNGは凍結・運搬・解凍と消費までに莫大なコストがかかるとされてきましたが、天然ガスの開発が活発になることで、原油価格より安い3ドル/mmbtuまで価格を引き下げられることが次第に判明しています。

今後のLNG価格については、原油相対価格が今後低下を続け、2030年くらいには0.8になるのではないかと考えています。そうなると、石油と同様に天然ガスも、長期的な資源制約については当面それほどの問題は生じないのではないか、と考えられます。

エネルギー供給は需要に追いつくか:原子力の見通し

原子力はどうでしょうか。国際エネルギー機関(IEA)は、欧州が脱原発の政策を掲げていることを踏まえ、2030年には現在世界にある原発の約40%が廃炉になる、つまり原子力による発電は減少する方向になるであろうとの見通しを立てています。一方で、IAEAの見通しはこれとは逆のものです。現在の原子力発電は364GWですが、これが2020年の段階で、低い成長でも418GW程度、高い成長の場合は483GWになるだろうとの見通しを立てたわけです。緻密性という観点では、IAEAの見通しの方がIEAよりも信頼できるのではないかとわれわれはみています。

原子力発電に関する各国の政治的取り組みはどうでしょうか。英国もフランスもドイツも2050年に向けて二酸化炭素排出量の50%程度削減を目指していますが、いわゆる「How(どのようにして目標を達成するのか)」の部分が欠落しているため、コストのかかる風力発電に頼らざるを得なくなり、これにより電力価格が押し上げられています。そういった状況で、フィンランドは5基目の原発建設を決定しましたし、スウェーデンでも、多くの国民は原発賛成に回りつつあります。欧州諸国の脱原発の政策が今後どの程度続くのかについては疑問視をしているところであります。米国はブッシュ政権樹立後に明確に政策転換を行い、第四世代原子炉と新規着工に向けて始動しています。

アジア諸国は原子力発電に非常に熱心です。中国は3600万KWの原子力を目指していますし、韓国も10基新設するといっています。日本も例外ではありません。このように中国やインドが原子力の扱いについて最先端の技術を身につけていくのを欧米先進諸国が果たして黙ってみていられるのかについては大きな疑問が残りますし、欧州各国の国防関係者がこのようなアジアの動きを注視していることも明らかでしょう。

エネルギー供給は需要に追いつくか:その他の資源

石炭は可採年200年以上とされていますが、環境制約が非常に厳しいため、あまり人気がありません。しかし、人気がないから使用しないというわけでもなく、米国などは国内政治、あるいはエネルギー安全保障の観点から、炭素隔離をして石炭を使用することとしています。欧州や日本についても、石炭を完全に放棄するという可能性はありません。

再生可能エネルギーについては、「期待はあるが限界もある」という認識が共有されています。再生可能エネルギーの入手可能性については、米国は2025年で約6.3%を、英国は2020年で約8.7%を、ドイツは約10%を、日本は2030年で約10%を見込んでいます。これらはいずれも意欲的な目標といえますが、それでも10%程度ですので限界があるのは明らかです。

環境制約の動向

エネルギーの需給構造を考える際に非常に重要となるのが環境制約です。これに関連して、京都議定書の発効についての議論が行なわれています。ロシアがどのタイミングで京都議定書を批准するかは分かりませんが、京都議定書は恐らく発効するとわれわれは考えています。

そうすると、各国は目標を達成できるのか、というのが次のポイントとなります。EU加盟国の大半は、国内措置のみでは2010年の京都議定書目標を達成することはできない、という見方が専門家の間では広まっています。事実、英国の二酸化炭素排出量は1.5%増加していますし、ドイツも増加傾向にあります(フランスとイタリアとスペインも、それぞれ9%以上、6%、38%の増加)。欧州はクリーン開発メカニズム(CDM)や京都メカニズムを活用して目標を達成したというかたちをとるかもしれませんが、果たしてそれが地球温暖化対策にどの程度貢献するかには疑問が残ります。

日本はどうでしょうか。資料のP16(配布資料:「2030年のエネルギー需給展望(中間とりまとめ原案)要約版」を参照)に日本の2010年の目標達成可能性が記されています。「エネルギー起源CO2排出量」の合計をご覧ください。1990年度は286Mt-C(炭素換算トン)であったエネルギー起源CO2排出量は、2000年度は11%増の317Mt-Cでした。これが2010年度にはレファレンスで対1990年度11%増、現行対策を推進して5%増、追加対策を講じるなら0%増と見通されていますが、11%増が最も現実的な数値だと思います。つまり、目標達成は極めて困難というわけです。この見通しは経済成長率約2%を前提にしていますから、経済成長率が引き続き上昇すれば、排出量がさらに上がる可能性もあります。

欧州も日本も目標を達成できない状況で、エネルギー需給動向に影響を及ぼす次期枠組みへの注目が高まっています。次期枠組みについては極めて不透明です。経済成長を優先する国が現在の枠組みに入ることは多分ないでしょう。次期枠組みでは、現在の京都議定書のように単純に基準年を設定し10年程度の目標を各国に割り当てるという方法はそのまま採用されるとは考えにくいように思われます。

環境枠組みの地球温暖化・エネルギー需給構造への影響は期待するほど大きくないといえるでしょう。発展途上国や米国の批准がない状況では地球温暖化ガスの排出量は今後急速に増大するとの見通しが各機関により出されています。京都議定書のような環境枠組みだけでは地球温暖化対策にあまり貢献しない可能性があることが明らかになりつつあります。だからこそ、ここでもう一度立ち止まって、どのような枠組みが地球温暖化対策に本当に寄与するのかを考えるべきなのではないでしょうか。

日本のエネルギー需給構造:需要

日本のエネルギー需給構造はどうなるのでしょうか。資料のP6の数字を参照しながらご説明いたします。これまで、日本のエネルギーの需要は増加するとの予測がたてられていました。日本の人口は2006年にピークを迎えるとされています。このことは、経済成長にもエネルギー需給構造にも大きな影響を及ぼします。特に今後の経済成長が重要な点になりますが、人口が減少しても経済は成長する可能性はあるというのが私の考えです。たとえば、日本の人口は18世紀、天明大飢饉の際、年率0.1%の割合で減少しました。にもかかわらず、当時の実質経済成長率は0.2%程度でした。人手の不足により労働の効率性を上げる必要に迫られた結果、農業生産高が向上した、1人当たり資本装備率も上昇したのです。日本が今後経験するであろう規模の人口減少においては、全要素生産性(TFP)が1%程度あれば、経済成長は十分に可能であり、2030年くらいに向けて2%、控えめにみても1%強の経済成長が可能であろうとみています。

弾性値が0.64であることを考えると、経済の成長に伴いエネルギー需要も増加するというのが一般的な考えですが、日本の場合はその逆で、今後エネルギー需要は減少する可能性が高いといえます。その要因としては、まず、第一には、マクロコンポーネントの変化があります。小泉政権が推進する三位一体改革は、これまで中央が負担していた地方の公共事業費を地方にも負担させるものです。地方自治体はこれに備えるかたちで公共事業の削減に本腰を入れだしました。そして、鉄とセメントがこの公共事業の削減から最も大きな影響を受け、国内での需要が落ちたというわけです。公共事業が減り、マクロコンポーネントに占める政府支出の割合が減少するということはエネルギーの減少に大きく寄与します。

産業構造の変化もまた、日本のエネルギー需要が減少する別の要因として考えることができます。産業構造の変化とは、1つにはサービス化の急速な進展があります。さらに製造業のなかでも、エネルギーをあまり使用しない家電等の分野へ、エネルギー多消費産業のなかでも化学産業はファインケミカルへとシフトしていくであろうと思われます。このような変化によりエネルギー需要は大きく減少します。さらに2010年代から始まる世帯数の減少がエネルギー需要の減少につながることは明らかです。

さらに、これまで、IT化は紙(プリントアウトや電化製品等の説明書)の需要の増大につながっていました。ところが、ここにきて紙の浪費が反省されるようになりつつあり、最近ではパソコンを購入しても紙の説明書の代わりにCD-ROMが添付されるようになってきました。IT化の進展は今後のエネルギー需要減少の一要因となる可能性があります。

「2030年のエネルギー需給展望」では、日本のエネルギー需要は2020年くらいに頭打ちになった後減少に転じるという見通しが立てられています。

日本のエネルギー需給構造:供給

ではエネルギー供給構造はどうでしょうか。現在のエネルギー供給構造は、石油50%、石炭18%、天然ガス14%、原子力13%、水力3.5%等となっており、非常にバランスが取れていると考えています。特に電力をみてみても、原子力3割、石油1割程度、石炭2割強、天然ガス2割程度という構造で、たとえ関東圏で原子力がすべて停止したとても電気をまかなうことは可能な状況ですので、当面の間はエネルギー供給構造の変革が喫緊の課題となることはないでしょう。

現在のこのエネルギー供給構造は今後2030年までの間に、石油40%、石炭17%、天然ガス18%、原子力15%、水力4%、新エネルギーは全体で5%(水力を入れると10%程度)へと緩やかに変化していくとの見通しが立てられていますが、この供給構造自体は諸外国と比較しても遜色のないものである、というのがわれわれの考えです。

今後の政策について

「2030年のエネルギー需給展望」では、このような日本内外におけるエネルギー需給構造の変化を踏まえた上での今後のエネルギー政策策定について以下の4つの戦略が打ち出されました。

1)アジアのエネルギー需要増加をにらんだ国際エネルギー戦略の確立。
2)国民や産業界の省エネルギー・環境対応努力の好循環実現(欧州型の省エネルギーを重視)。
3)エネルギー供給の分散と多様化による変化への対応力強化。
4)これまでのエネルギー産業の実態の垣根を越えた柔軟で強靭なエネルギー供給システムの実現。

エネルギー・環境政策のテーマとして近年高い注目を浴びているのが「地球の持続性」です。地球の持続性を考えるとき、100年後、200年後の世界におけるエネルギー需給構造を考える視点が非常に重要になってきます。そういった意味で、2100年ごろの地球の資源や人口、エネルギー需給構造の見通しを立て、そこから逆算して現在の課題を導き出すというプロセスが必要となります。

エネルギー政策を考える際には、日本の需給構造もさることながら、世界への貢献も考えるべきです。さらに、柔軟性も必要となります。これまでは、石炭・石油・天然ガスのバランスを重視していましたが、今後は、さまざまな資源から、水素などの共通のエネルギー媒体を抽出して活用するエネルギー供給構造を確立することが重要となります。また、これまでの議論は国内でのエネルギー資源に終始していましたが、今後はむしろ、目を外に向け、たとえば、中国の太陽光エネルギーやカナダの水力エネルギーを使用することも考えられるのではないでしょうか。

質疑応答

Q:

今後30年間の中国の経済成長率4.8%程度(年率)はいささか低い数値ではないでしょうか。今後米国、中国やインドといったエネルギー需要が高くなる国々が世界の経済成長を牽引すると考えるとき、エネルギー需要の弾性値0.64というのも低い数値なのではないでしょうか。

A:

中国の成長率については、見通しを立てる際に、人口がポイントとなりました。中国では一人っ子政策の効果が現れはじめ、人口増加は鈍化する傾向にあるといわれています。これにより中国の経済成長率は、それまでの予測ほどの伸びは示さないというのがわれわれの見方です。
弾性値については、これまで世界は非常に乱暴にエネルギーを消費してきましたが、これからは各国ともに環境に配慮した政策を展開するようになりますし、欧州や日本も省エネルギーを目指していますので、0.64の弾性値が今後下がることを期待しています。ご指摘のように、エネルギー安全保障の観点からみるならばこの数値は甘いものかもしれません。

Q:

今後30年を考えるとき、環境制約は非常に大きな制約要因になると思われます。この点についてどのようにお考えですか。2030年には現在の1.6倍のエネルギーを世界が消費するとして、大気はこれに耐えられるのでしょうか。

A:

将来の環境予測を立てるのは非常に難しいところです。大切なことは、環境制約が顕在化するようなシナリオを想定して、技術開発等に力を入れることだと思います。ご指摘の点も重要なシナリオとして認識しております。

Q:

地球の温暖化は確実に進んでいますし、現在の状況が続けば5万年後には酸素がなくなるとさえいわれています。炭酸ガスをどのように地下にまたは海底に戻すのか、メタンと炭酸ガスを置き換えていくということについてもご検討をいただきたいと思います。炭酸ガスを空中に排出する行為はやめるべきだというのが私の意見であります。

A:

まったく同感です。エネルギー需給見通しでもエネルギー基本計画でも、化石エネルギーを含めた省エネルギーの徹底を打ち出しています。炭素隔離についても同様で、技術開発を進めているところであります。ただ、炭素隔離については技術的な目処がまだたっていません。米国を中心に炭素隔離リーダーシップフォーラムが開かれていて、日本もこれに参加していますが、炭素隔離についてどのような措置を講じるのかは今後の検討課題となっています。

Q:

本日のお話では、燃料電池に関して多少トーンダウンをされている印象を受けました。2030年の時点で自動車の燃料源は何になるとお考えですか。燃料電池自動車や水素自動車は想定なさっていないのでしょうか。

A:

燃料電池については非常に重要との認識を持っています。燃料電池自動車数について幾つかの試算を行ないましたが、レファレンスで考えると、ハイブリッドカーのようなクリーンエネルギー自動車は増加するであろうが、燃料電池自動車が2030年に入るのはなかなか難しいと考えられます。2030年を見越して燃料電池自動車を入れるとなると、インフラ整備に大きなコストがかかります。燃料電池自動車にするのか、ハイブリッドにするのか、ディーゼルでも使えるGTLにするのかに関しては、柔軟に考える必要があると思います。

Q:

仮に1500万台として、燃料源は何になると想定されていますか。

A:

当面は化石改質、次に副生水素、それから電気分解、というかたちになるのではないでしょうか。

Q:

今後の石油と天然ガスを考えた場合、本当にコモディティとしていくのか、アウタルキー、自給自足の発想でいくのかというところが重要になると思います。仮に石油が2030年にも市場経済で機能しているのであれば、ポートフォリオという発想でいいと思いますが、資源分捕り的発想になってきた場合、世界への貢献などと悠長なことはいっていられなくなるのではないでしょうか。

A:

石油について一般コモディティとは、やはり違うのではないかと考えています。石油の重要性や、その戦略的な性質を十分に認識しつつ、石油に代替する燃料を確保する仕組みや、アジアでの備蓄や国際協力関係を構築することなどが重要であると考えています。
「2030年のエネルギー需給展望」では、「スイングプロデューサとしてのサウジアラビアの機能喪失」や「新たな方法によるテロ」など20世紀型の危機ではあまり規定されなかったシナリオが想定されています。今後はこういったセキュリティ論についても議論を重ねる必要があるでしょう。

Q:

天然ガスについて中国や韓国は非常に荒い買い方をしています。日本にそのしわ寄せがこないためにも、国家としての金の使い方を考えたほうがいいのではないでしょうか。日本は結果的に世界で一番高い金を払ってエネルギーを買っていることもよくあります。

A:

自由化の影響により日本が天然ガスや石炭の買い手としてのバーゲニングパワーを失いつつあるという現象はあるようです。国は具体的な価格交渉には関与すべきではありませんが、このあたりについて、今後どうするかは課題でしょう。

Q:

エネルギー政策において中国とどのように付き合うべきとお考えですか。

A:

対立ではなく相互連携といった視点が大切なのではないでしょうか。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。