地域を元気にする人々の出会いの場-中国地域各都市における『5:01クラブ』の試み-

開催日 2004年2月13日
スピーカー 西出 徹雄 (METI中国経済産業局長)
モデレータ 入江 一友 (RIETI総務ディレクター)
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議事録

地方勤務は全く経験していなかった私は1年半前、初めて広島に来ました。前任者との交代の挨拶に回った後、最後に産業界、大学、報道関係など地元でお付き合いの深い方々120~130名のパーティに参加しました。そこで驚いたのは、参加者の方々がお互いに名刺交換を始めたのです。人口120万弱の広島では当然殆どの方が顔見知りだと思っていました。この「広島5:01(ファイブ・オー・ワン)クラブ」を始めたきっかけの1つがここにあります。経済局では産業クラスター計画や産学官連携を看板に活動していましたから、連携強化をどうやって更に進めていこうかと考え、アフター・ファイブの自由な交流の場作りを企画しました。第1回目の5:01クラブは中国経済産業局で2003年1月29日に開催しました。特別宣伝したわけではなく、その日の広島は大雪で、交通渋滞で足止めを食らう人や新幹線が遅れて欠席者もありましたが、予想を遙かに超える250名の参加がありました。

5:01クラブとは

アフター・ファイブであることから5:01という名をつけてあります。仕事の肩書きを外して個人の顔で出席するという意味です。広島では事務局を(社)中国地域ニュービジネス協議会にお願いしています。そこから参加者へ開催の案内などします。継続することに意義があると考えますので、運営は最も簡素化しました。頻度は毎月1回で、会場は持ち回りです。更に、特別なセレモニーは準備しません。時間と場所だけを決めて、参加者の皆さんが勝手に話をするという形式をとっています。参加料は持ち出しをしない程度の1000円と決めています。これくらいなら学生さんも気軽に参加できる料金です。この参加料で簡単なドリンクとつまみを用意します。この場の特色は肩書き抜きの出会いの場とし、どんなに偉い人でも「~さん」づけというルールがあります。

1年半前、私が着任の挨拶に回っていた時によく耳にしたのは「広島は元気がないでしょう?」という言葉でした。同規模の都市の仙台、福岡に比べて広島はアジア大会の後、動きがないというのです。

今日の日本は大きな変革の時代を迎えています。従来の日本型システムでは大企業が中小企業に部品を発注し、中小企業は技術を磨くだけでよかったのですが、今そのピラミッドは崩れようとしています。それをどのように乗り越えるかは自分の目で見て、頭で考えることが必要になってきたのです。そんな中、「連携」が重要なポイントになってきます。異なる分野との接触により触発されたり、得意技同士を組み合わせたりと、総合力で勝負することが「連携」により可能になってきます。

ところが、広島では面白い事をやっている人はたくさんいても、どこにどういう人がいるのかよく見えない、分野ごとの縦割り状態でありました。所謂「異業種交流会」は方々で開かれていたのですが、伝統的で階層的な秩序意識が残っていて、大企業、中小企業、大学などがお互いにあまり行き来し状態でした。補完性、透明性、流動性、多様性、結合力など現状で不足している点が多く、状況を変えようとして5:01クラブが生まれてきました。

継続のための企画

結合の密度を高めるため、ゲスト・スピーカーと聴講者でというような形ではなく、全ての参加者が主体的に参画するということに重点をおきました。更に、会の魅力を出すために、参加者が色々な方面から来るような工夫を致しました。

この企画の原型はロサンゼルスでの5:01クラブでした。80年代の終わりから南加日米協会が始めたものです。日米協会、商工会議所が案内状を出すのですが、10ドルの入会費で連絡や名簿などの運営費を賄います。場所、飲み物、食べ物は会場を提供する側がスポンサーとなり、負担します。この仕組みにより始めてわずか1年でメンバーは1400~1500人になりました。地元企業だけでなくJETROや総領事の公邸などでも開催し、普段交わることにできないような人たちと交流がもてました。

広島ではまず、毎週私の局で発行しているメールマガジンで、ロサンゼルスでの5:01クラブを紹介し、広島でも同じようなことができないかと書いてみましたところ、すぐに何人かの方から是非作ってくださいとの反応がありました。私はそれから広島の主要トップ企業に相談に行きました。すると会議室も提供してくれるといったオファーが複数の方々からあり、半年分くらいの開催見通しが立った頃に始めようと思いました。相談した企業トップの方々の社会貢献への意識は非常に高く、今では年に1回くらいのスポンサーは当然といった形で引き受けてくださっています。

継続が重要なので、準備や仕掛けを単純化・省力化することが大切です。そういった簡素化されたやり方だからこそ、短期間に大きな飛躍があり、大勢の方々が参加するようになりました。ただし、参加は基本的に自由ですが、特定の人だけが集まる場にしない配慮が必要です。更に、大学の学長や主要企業の社長、国の出先機関のトップといった、他では直接話す機会の少ない地域のリーダーの方々に参加してくれるように働きかけました。ここに来ればリーダーの方々に会え、生の声を聞くことができると好評です。

現在ではニュービジネス協議会のホームページに毎月の案内、今後のスケジュールなどを掲載しています。毎回、決まった挨拶などありませんが、知らない同士での会話は不得意という日本人であっても、この場ではお互いあっという間に話の輪が広がっています。

更に、広島以外の中国地域でも、東広島、福山、宇部、下関、米子、松江などで、5:01クラブと同様の集まりが開催されるようになっています。コミュニティーをどのように作っていくのか、どう活性化しようか、そんな熱い志を持った人たちの集まりなのです。

成果

短期的、直接的成果は期待していません。成果は無理に探さなくても見えないところで新たなネットワーキングが進み、成果が出ているはずなのです。たとえば、こんな事例があります。ある大学の医学部の先生が、病院を退院した後の食事療法について、給食のような形でうまく配給できないかという提案を別の機会にしました。そこではうまく話がまとまらなかったのですが、この5:01でたまたま食品会社や流通を担当できる会社の人が出会い、ビジネス化の方向が見えてきたのです。この場を母胎に地域活性化のために幅の広いところでの組織作りが進むようです。

質疑応答

Q:

こういった発想はむしろ地域の町作りが崩壊しているから出てきているのではないでしょうか? すると、自治体の代表者はこれをどのように見ているのでしょうか? 本当はその方たちが主体的にやるべき事なのではないでしょうか? 自治体との接点についてお聞かせください。

A:

5:01クラブのメンバーの中には市、県庁の人達が含まれていて、広島を良くしようという思いが根底にあるので、将来的には県や市の仕事として提案していますが、なかなか腰をあげていません。市や県は色がついてしまっているのです。こっちが入るとこっちが入らないというような感覚が強いようです。むしろ、余り色のついていない経済局が呼び掛けたので誰でも入れるという声も結構あります。そのような背景の中では、強制して人を呼び込むのではなく、自然にまかせて広がっていく形をとっていきたいと考えています。しかし、そろそろ市長や知事もやらないとねぇ、といった地元の声も聞かれます。個人としては市や県の方々も参加していますので、そんな流れになってくるのではないでしょうか。

Q:

成果は問わないということでしたが、参加者にヒアリングやアンケートはしているのでしょうか?

A:

一巡したので、そろそろみなさんのご意見を聞いて、これからの進め方を見直す時期だとは考えています。参加者名簿は作成しているのですが、300人も集まると会いたい人に会えないからコーナーを設けたり、産学官で名札の色分けをしてほしいなど意見としてよく聞きます。しかし、皆勤賞をとるような常連の人たちもいて、会場を連れて回ってお目当ての人に引き合わせるような実態も生まれてきています。

Q:

ニュービジネス評議会のホームページを知らない人たちへの広報はどのようにされているのでしょうか?

A:

ホームページ以外の広報は積極的には行っていません。ただし、教育の問題などを仕掛けたい時には教育委員会やその他関心を持っている先生のところへ話をしたり、関心を持ってもらえそうな方にお会いした時に紹介をしています。また、一度来られた方には全て、事務局から次回の案内をメールやファックスで送る仕組みになっています。

Q:

自由参加でフリートークという事でしたが、商売や、政治、宗教などのタブーは設けているのでしょうか?

A:

確かに最初の頃は売り込みのチャンスだと、名刺を配りまくったりしている人たちがいました。そこで、ここはビジネスをする場ではないとホームページの中に明記し、会場内に張り紙をしました。少し様子をみたら、会の雰囲気が違うと感じたらしく、それ以降はそのような行為は見られていません。

Q:

枠を越えての連携は大切だと思いますが、回を重ねていく度マンネリズムに陥るのではないでしょうか? 目的意識のようなニーズを分科会にもっていってはいかがでしょうか?

A:

今後の運営方針については事務局とも目的思考を入れた方がいいのではと議論しました。しかし、当面それはしないという方針でいくことにしました。目的意識に基づいた活動は産業クラスターなど、この場の外でやればいいのです。この場はあくまでも次の委員会や研究会へ繋がるきっかけを作る場なのです。先日、中国新聞のコラムにもこの話題について「色をつけずにおとなしくやるのがいい」と掲載されていました。

Q:

バーチャルではなくリアルな場を設けたという事にこだわられた理由はどこにありますか?

A:

リアルな出会いがないと、本当にどのような人であるのかわからないし、実際にお会いすると気持ちも伝わり、信頼できるかどうか確かめることができます。まず1度は会っておけば、その後はネットワークでのコミュニケーションもスムーズに進むと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。