総選挙を前に、『一票』の価値を考える-『三位一体改革』、『公職選挙法改革』、『政治資金制度改革』とのつながりから-

開催日 2003年8月27日
スピーカー 加藤 秀樹 (構想日本代表/慶応義塾大学総合政策学部教授)
モデレータ 西山 圭太 (RIETIコンサルティングフェロー/METI通商政策局情報調査課長)
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議事録

はじめに

最初に、私が代表になっています「構想日本」の活動について、少しお話ししたいと思います。構想日本は一言でいえばシンクタンクなのですが、日本でシンクタンクというと何々総研という、大企業の関係のものがほとんどで、それらとはだいぶイメージが違うと思います。形態はNPOで法人格もありません。経費は全て会費で賄っているので、経済的に自立していますし、委託調査などは一切やりません。一方的に会費をいただき、それで自分の考えに基づいた政策をつくり、それを世の中に出していく。そういう意味でほぼ100%フリーハンドだと思います。

また、日本では何か政策提言をまとめると、それでだいたいおしまいということが多いのですが、それではほとんど実現しないわけですから、私たちはその実現に向けてキャンペーンを行います。そういうところは、どちらかというと米国のブルッキングス研究所のように学術的な研究中心ではなく、ヘリテージ財団(思想的には私たちとは違いますが)の手法に近いかと思います。

構想日本を始めて6年になりますが、最初にほぼ100%実現した提言は省庁「設置法」改正(省庁に幅広い権限を与えていた権限規定を削除)です。ほかにも法案や閣議決定の中に入れることができたものがあります。最近では大学の法人化です。スタッフは私を入れて10名ほどですが、外部のネットワーク、公務員の方、学者の方、いろんな方とともに考えて、スタッフでまとめています。

本日は「『一票』の価値を考える」ということなのに、直接「一票」に関する話はせず、「三位一体改革」「公職選挙法改革」「政治資金制度改革」の話をするという、変わった構成にしました。縦割り構造の弊害はよくいわれていることですが、私は役所から外に出た時、役所だけではなく日本中に縦割り構造が見られ、それは大学も例外ではないことに気づきました。しかし世の中は変化していくものです。仕組みが遅れていて対応できないという問題や、変化の先を見越して手を打たなくてはいけないという問題があります。本日は「一票」という言葉をきっかけにいろんな面から考えてみませんか、という問いかけだと理解して下さい。

まず、3つの政策テーマがどう「一票」の価値につながるかということを図にしました。

配付資料 P2

普通「一票」の価値についてというと、格差をどう解消するかという話になると思いますが、“平等な重み”とともに“中身”という要素があるのではないか。まず“平等な重み”について考えると、現在衆議院小選挙区で2倍以上の格差をもつ選挙区は21あり、その背景には人口変動に応じた議席配分の変更がなおざりという問題がありますが、さらにその背景に地方から都市への人の移動がどんどん進んでいるという問題があるわけです。ここが「三位一体改革」につながるところで、昭和に2回大きな市町村合併がありましたが、その結果過疎、過密はさらに進み、東京一極集中は進むばかりです。だから安易な合併は止めた方がいいと思います。

それから“中身”についてですが、仮に“平等な重み”であったとしても、よく考えて投票する人と政策がどうこういうよりも単に知名度や印象で投票する人が多く、“中身”が違うわけです。“中身”の問題というと、まず公職選挙法があります。日本の公職選挙法はおそらく世界一厳しい内容です。最近マニフェストをつくろうという機運が盛り上がっていますが、政策の中身をアピールすることが難しいのです。また候補者自らが普段から、自分の活動や特に政治資金について十分に情報を出していないという問題があります。

そういうことで「三位一体改革」「公職選挙法改革」「政治資金制度改革」の3つを同時に考えようということです。

「三位一体改革」について

「三位一体改革」について、マスメディアは国と地方の金の取り合いという言い方をしていますが、私は金太郎飴的な行政の結果、地域の産業構造、企業の経営のしかたに至るまで画一的になってしまったので、地域が不活性、疲弊しているのだと思います。国からの補助金をカットして、地域に課税権をつけていく、しかしそれだけでは課税権があっても課税対象になるような産業がないわけですから、それをどうするか、そしてまわらなくなるかもしれないお金をどうするかを、セットで考えないといけません。「三位一体改革」は日本の構造改革の全てが凝縮している、大事なものだと思います。

国と地方の「現行の姿」と「あるべき姿」の比較を図にしてみました。

配付資料 P12

国から40兆円のカネが地方にいく時、それは40兆円分の国からのコントロールがセットになっていると考えていいでしょう。それをカネもコントロールも一切やめるから、その40兆円のカネは地方が自分で集めて自由に使って下さい、ということです。

そういう形で国から地方に仕事(規制などのコントロール)とカネがセットで流れています。総務省あるいは自治体の方は、「地方交付税はそんなことはありません」と仰いますが、実際は補助金とたいして変わりません。そうなると地方は国に依存し、国は地方を支配します。コントロールに従えば、カネ(借金を含む)の面倒を見てもらえるが、逆にユニークなことをしようとすると、カネが来ないということになるわけです。

すると地方はコスト意識のない行政運営になり、赤字はどんどん膨らみ、財政は悪化します。一方地域の特色を無視した、画一的な地域経営になり、安易な企業誘致やリゾート開発、空港づくりなどになるわけです。その結果地域産業は衰退し、行政依存型の産業、企業が増えてきます。たとえば人口5万人くらいの町に地場産業の企業が10社あったとすると、現在生き残っているのは2社で、あとの8社は行政依存型でしかもそのうちの5社は建設業になっている、おおまかにいえばそういう構造になっているわけです。10社のうち8社は国からのカネで食っている人達なんです。その8社の人達は改革をしてほしくないでしょうし、改革をしたらつぶれてしまうかもしれません。残った2社に課税しても今までのような税収は得られないわけです。だから行政依存型ではない企業を1つ1つ増やしていかないといけません。そこが大変なのです。

「三位一体改革」の最大の問題はそこにあると思いますし、産業のないところは人もどんどん出て行き、大都会に集中する、それが一票の格差を拡げる原因になると思います。人口が減ったところを合併しても、基本的な状況が改善されるわけではないですから、また合併を繰り返すということで悪循環になってしまいます。私が不思議に思うのは、経済学者の人達は、地方分権だ、地域の自律だ、特色を活かしていろいろやらないといけないと言っている反面、1つの偏差値でしかものを考えていません。東京は勝ち組、大阪はもう負け組である、人口10万、3万、2万の町については否定はしませんが、頭の中では負け組に入れられています。人口の多さ、売り上げの大きさ、所得の大きさ、中身を考えずに一律に数字だけで判断しています。つまり中身、個性、多様性を考えてないわけです。ほとんどのマクロ経済学者は合併推進派ですが、それは規模の大きさによる効率性しか考えていない。そういう発想では悪循環は断てないと思います。

次に都市周辺の市長、あるいは山村の町村長の声などを挙げてみました。

配付資料 P7、8

それぞれ「現場」の声としておもしろいのですが、「国のコントロール」の例として、特別養護老人ホームの廊下の幅は、1.8メートル以上にしなければいけない。なぜか1.7メートルでは補助金が出ないということです。長野県栄村の高橋村長の話では、道路を直すのに、補助事業でやるとすると事業費は10億5200万円、半分は村で負担しないといけないのですが、いろいろ工夫して自前でやったら2億5380万円で済んだということです。結局7億5000万円が節約できたのですから、結構な話です。

国会議員にアンケートをしても、「あなたの地元は、経済的、社会的に『自律』していると思いますか?」という質問に対し、「いいえ」が75%で、その原因は国の地方に対するコントロールだと思うという人が88%という結果です。コントロールといっても、地方もそれに依存しているわけで、その仲介をしているのがまさにほとんどの国会議員というのも事実だと思います。

参考として、「国庫支出金/地方交付税(都道府県、市区町村合計)」と「建設業者数」の推移をグラフにしましたら、建設業者数と地方交付税等の増加はよく相関しているように見えます。

配付資料 P10

もう1つ、少しわかりにくい図かもしれませんが、地方自治体の歳入に占める「国庫支出金」と「地方交付税」の割合(47都道府県、2001年度)です。

配付資料 P11

「国庫支出金」と「地方交付税」の割合が両方多いところは、いわゆる過疎が進んでいるところで、少ないところは大都会近郊で、そこに「石川県」が入っているのはなぜか、興味深いところです。伝統産業が元気だからでしょうか?

結局「三位一体改革」は地域の活性化というところに帰着すると思うのですが、ヨーロッパ、特にイタリアやフランスは日本でいうところの地方自治体が数万の規模であり、非常に多いわけです。人口も数百人から数百万人と非常にばらつきがあります。イタリアの有名なワインのブランドでバローロというのがありますが、これはバローロ村という人口300人ほどの村で造られています。だから自分の売り物を何かもっているということが大事だと思うのです。

それから日本でベンチャーというと「ハイテク」、ITかバイオしか思い浮かばないですね。でも私は「ローテク」のベンチャーがもっとあっていいと思います。広島県熊野町は昔からの毛筆の産地ですが、そこの毛筆を作っていた一社が、筆をやめて化粧用の刷毛を作ったら、いまや世界のトップメーカーになりました。

今までの生活では毛筆が使われていた。しかし生活が変わってしまって、それでも伝統を守って毛筆を作り続けなければというと、ある場合は補助金がつぎ込まれる。桐箪笥もかつての生活様式があってこそのもので、今や贅沢品ですが、日本の伝統工芸品として価値があるから、補助金を使ってでも残すわけです。しかし、たとえばエルメスはもともと馬具のメーカーだったようですが、もしエルメスが今でも馬具しか作っていなければ、日本の桐箪笥屋と同じことになっていたはずです。生活の変化とともに製品にも工夫が必要になると思うので、日本全国に残るいい素材とそれを加工する技術を見つけて、それを現代の生活にマッチした製品にしていく努力をすること。そのためには「三位一体改革」を中身のあるものにして、全国一律の行政をまずやめないといけない。

次に構想日本で行った、自治体の「事業仕分け」についてお話しします。今まで10ほどの自治体で行いましたが、県の予算書を見て、その項目は本当に県ですべきことなのか、市、または国ですべきこと、もしくは民間ですべきことではないのか、そもそもする必要があるのか、ということを仕分けしていきます。仕分けをしながら、なぜ余計な仕事をしているのか理由を考えると、国のコントロール(基準や規制など)があることが多いです。そうやって不必要なカネとコントロールを洗い出してみました。

配付資料 P13~15

ちなみにA県を見ますと、だいたい8000億円の予算で、まる1日かけてざっと仕分けしただけでも「不要」が10%出ました。それだけでも800億円節約できます。今後とも県でやるべきことは50%くらいという結果になりました。

また、G県での作業結果から、市町村などへ事業をシフトできない大きい理由である、「国のコントロール」をリストアップしました。同じように「国のコントロール」のため、自治体が自主的に事業内容を決められないものについても書き出し、この2つをまとめて表にしました。

配付資料 P16~18

今までの話をまとめますと、「国のコントロール」がカネとセットになって国から地方へ流れている。その結果国中が画一化し依存体質になっている。それで地域の活力が落ちているので「三位一体改革」で地域を再生することが、長期的に「一票」の格差を縮めるうえで基本になるということです。

「公職選挙法」について

次に公職選挙法の話です。2000年7月(衆議院選挙後)実施アンケートによると、候補者は選挙運動で自分の政策に関する情報を十分に出せたか、というと、十分に出せなかった、ほとんど出せなかったをあわせて8割を越えます。一方有権者のほうも、候補者の政策についての情報について、8割近くがよくわからなかったと答えています。

選挙運動に対する有権者と国会議員の認識にもずれがあって、2000年5月(衆議院選挙前)実施アンケートによると、街宣車は効果が高いと回答した議員は50%強、有権者のほうはたった6%です。国会議員も、あれだけみんな街宣車を使っていながら50%弱の人は効果が低いと思っているわけです。有権者のほうで効果が高いという回答だったのは、個人演説会、政見放送、選挙公報でした。そして今はしていないが、すれば効果が高いのではという選挙運動としては、有権者では公開討論会、インターネット活用でした。

公職選挙法の細かな規制が、候補者の情報を得にくくしています。一例として、今晩ちょうど埼玉県知事候補者による公開討論会があるのですが、直前に、参加しない予定だったある候補がやっぱり参加したいと申し出られました。討論会は公共施設を使うことになっていて、公職選挙法の規定により参加者を2日前までに届け出なければなりませんでした。この規定にひっかかってしまい、苦肉の策として会場の外で、討論会が始まる前の10分間だけ話していただこうかということすら話しています。もし会場がホテルだったら大丈夫だったわけで、これが不思議なのです。ホテルだって「パブリックスペース」だと思うのですが、行政が関与してつくっている施設が公共施設で、そうでなければ関係ない、そういう仕切なのです。

公開討論会にしても“告示前”と“告示後”ではやり方が違ってきます。告示後は、「個人演説会」や「政党(等)演説会」は認められていますが、それら以外の演説会は禁止されています(公職選挙法164条の3)。ですから、たまたま各候補者が、同一場所で同一時刻に「個人演説会」をいっしょすることになってしまった、という想定でするわけです。そういう制約された状況ですので議論も不十分なものになりますし、テレビ局は何か法律に違反してしまうことを放映してしまってはいけないということで、逃げ腰になります。こういうところも変えていかないといけないと思います。

また、電話はいいのに、ホームページはだめなのはなぜか。それは総務省がホームページは法定外の「文書図画」に該当すると解釈しているためです(公職選挙法142条、143条)。

有権者のニーズを踏まえて、「公開討論会」の実施、放映の自由化、「インターネット」の活用の自由化は、ぜひ進めていきたいものです。それだけでなく、公職選挙法は抜本的な改革が必要なのでは、と思っています。

「政治資金」について

最後に政治資金の話ですが、国会議員の政治資金の収支の流れとして、その出し手(収入源)は政党(本人が所属していない政治団体も含む)、個人(議員本人含む)、企業・団体の3つがあり、受け皿(財布)は政党支部(複数可)、政治団体(後援会など、複数可)、資金管理団体(1つだけ)とたくさんあります。支出は経常経費(人件費等)、政治活動費の2つに分けられます。そして受け皿部分ではお互いに資金の融通ができるのがくせものです。

配付資料 P27

収支の報告先は選挙区にある選挙管理委員会と総務省で、有権者が各団体の収支を見たい時は、直接行かなければなりません。しかもコピー不可で保管期間は3年です。これではほとんど「見るな」というようなものです。そして収支全体を見るのは、受け皿となっている各団体の収支状況が統合されていないので事実上無理です。

配付資料 P28

ではどうすればいいかというと、「連結ベースの報告」と「実質的な公開」の2つを実現することです。さらに監査制度もつくるべきです。

企業は年に一度株主総会があるように、政治家もマニフェストをつくるのなら、選挙後にその報告を含めて年に一度有権者総会といったことをやるような仕組みをつくったらどうかと思います。どういう委員会に属し、どんな法案に賛成、反対し、院外でこんな活動をし、そういうことにかかった費用はこうで、それをどこから集め、どういうことに使ったか、ということを年一回自分の有権者に報告すると同時に、全国民にペーパーとインターネットで公開する。こういう仕組みが必要ではないかと思います。

質疑応答

Q:

地方の自律の確立という観点で、今までの政策で良かったもの、悪かったものがありましたら教えていただきたいのですが。

A:

明治維新と今がよく比較されますが、あれもペリー来航から10年以上かかっていて、それ以前からもいろいろな動きがあったわけですから、特に今の日本は制度がものすごく固まっていますから、時間がかかるのはしょうがないと思います。その中で細川政権ができ、小泉政権ができ、いろいろな人が関わって20年経ってどうなったか、それぐらいの視点でいいのではないかと思います。そういう意味で、各政権がかかげた政策とその実行を見る限りあまりいい効果をもたらしていない政策が大部分であるにしても、全体的には動くべき方向に動いているような気がします。
本日の話の中では「三位一体改革」にはさまざまな要素が集約されていますし、また、カネがなくなるという現実が日本を変えていくうえで一番効果が大きいというか、変化につながると思います。これからの10年は今まで以上に動くと思うので、1つ1つの政策を考えると同時に、総合的にどうするかというビジョンが必要になると思います。

Q:

地方のカネの問題というと地債の自由度のなさが問題だと思いますが、「三位一体改革」で自由度が高まるかわりに、交付税で面倒を見てもらえないというリスクも出て来るので、どうやって返すかについてもう少し議論する必要があるように思いますが、いかがでしょうか。

A:

その通りだと思います。起債の制限をゆるめて、地方に借金をさせ、それをあとから実質的に面倒見ていた仕組みが交付税なのですから。ただ返済のための財源の問題では、やはり所得税か消費税しかないと思います。それ以外では金額的に全然間に合いませんので。課税自主権について自治体の長の方々は喜んでおられるようですが、あれは税収移譲ではなくて課税権の移譲なので、住民税の増税をするかどうかを自治体で決めないといけないという、しんどい話なのです。その辺の認識が少し足りないのではないでしょうか。

Q:

「三位一体改革」は今のところあまり進展がないように思うのですが、それは自治体の長の方々が規模を縮小したくない、予算総額は減らしたくないと思っているからではないでしょうか。総額を減らすことに価値観を見出さないと難しいと思います。構想日本で「事業仕分け」をしているというのは具体的でいいと思いました。それで、その自治体がどの位の財政規模で運営できるものなのか、試算できるといいのではと思うのですが、難しいでしょうか。

A:

自治体の「事業仕分け」の作業から、仕分け後の歳出と“自主”財源(地方税など)との差額を埋める税財源移譲額を算出してみました。6月の閣議決定では4兆円を移譲するとなっていましたが、私たちの計算では15兆円になりました。「事業仕分け」の作業から出した国と都道府県と市町村の歳出の比率は今と違ってきます。それにあわせて歳入総額を割っていきます。そうすると現在の歳入総額との差額が出てきます。その差額分を国から地方に移譲します。大前提として補助金、交付税はいっさい止めます。するとその分を国が過剰に持っているわけですから、それを国と地方に割りふるという作業をしました。国から地方への移譲は15兆円になり、国のプライマリーバランスは黒字になります。それを消費税と所得税7.5兆円ずつで賄っていくといいのでは、という試算もしました。構想日本のホームページに載せていますので、詳しくはそれをご覧下さい。

Q:

地域の再生との関連で、最近いわれている経済構造改革特区や直接投資などは地方のリトマス試験紙となるのでしょうか。また、地域の自律を目指しているような自治体の長の方々には何か共通点があるのでしょうか。

A:

特区に関しては、それ自体は効果が出るかはよくわかりませんが、「自分たちは何をしようか」と考えるきっかけになったのがよかったと思います。特区でできなくても、せっかく考えたから何かできないかと引き続き検討しているところが結構あります。また今構想日本でやっている試みですが、自治体の条例と国の定めたことが違う場合、条例が優先するという法律をつくると自治体でいわば「勝手特区」ができるようになります。直接投資の低さに関しては、日本は東京や大阪のような大都市以外にしかカネを引きつける魅力がないからなのではないか、と思います。
もう1つの質問についてですが、かなり問題意識の高い方が多いと思います。最近都道府県の知事が革新派というので注目されていますが、本当におもしろいのはむしろ現場でがんばっている市町村長さんで、その人達を動かしている最大の動機はカネがないことです。たとえば合併にしても、期限内に進めればカネが出ますけど、意識のある人は「箱ものをつくるとかえってカネがかかる」ということがわかっていますから余計なことはしたがらないです。

Q:

地方では産業がなくて、公共事業に頼らざるを得ないところもあると思うのですが、地域産業の推進のために何をしたらいいと思われますか。

A:

もともと人がいるところにはビジネスがあると思うのですが、伝統的なものは切り捨ててしまい、企業団地をつくり東京の大企業を誘致するなど、日本全国画一的に進めて、それが地域に合わなくても補助金などで無理矢理その流れに合わせられてきた。そしてもともと地方企業でないから、企業の多くが徴収し地域ががらんどうになっているのが現状です。そこからすぐに抜け出すのは難しいでしょう。妙案はないので、ともかく地域の得意技を見つけて産業を再生していくしかない。そうやって全国で成功事例を1つでも多くつくっていくのが重要だと思います、世界のベンチャー・キャピタリストといわれる人は自分の足で歩いて、見ていますが、日本の特に金融系のベンチャー・キャピタリストは財務状況しか見ていません。起業家を判断する目が必要なわけで、そういう目を持った人が全国をまわって資金を出してくれれば、わりと短期間に成功事例を10くらいつくれるのでは、と思います。その成功事例を拡げていく、そういうやり方しか私は思い浮かびません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。