2003年中小企業白書~再生と"企業家社会"への道

開催日 2003年5月21日
スピーカー 安田 武彦 (RIETIコンサルティングフェロー/中小企業庁調査室長)
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議事録

本日は、先ほど4月25日に閣議決定しました中小企業白書についてお話ししたいと思います。

中小企業白書とは、中小企業法に基づき、中小企業の動向について毎年政府が国会に対して提出するものです。今年でちょうど40回目になります。毎年大まかな構成はあまり変化がなく、〈第1部〉では最近の中小企業を巡る動向で、景気の話を取り上げ、〈第2部〉ではその年ごとのテーマを取り上げます。平成14年度は日本経済の再生と中小企業の役割というテーマです。内容は、(1)長期的に見て日本経済を支えてきた中小企業の「強み」の分析。(2)創業、退出、再生・再起が容易な経済社会の構築のための課題の分析。昨年創業については取り上げましたので、今年は退出、再生・再起について重点的に分析しています。(3)経営革新の一形態としての新しい中小企業ネットワーク構築のための課題の分析。企業と企業、また産学の連携について取り上げています。(4)財務データだけでは測れない企業の質を見る金融の実現方途の分析、となっています。

最近の中小企業を巡る動向

(第1-1図)の一番太い線が中小企業全産業の景気動向で、春先に少し上がりましたが、あとは横ばいです。輸出に牽引された製造業と、内需に力強さを欠く非製造業との格差が拡大しています。そして(第1-2図)中小製造業の生産の推移を見ますと、2002年初めに底を打った後、電気機械、輸送機械に牽引され拡大したものの、9月以降低迷。また、製造業全規模の水準は前回の景気の谷であった1998年12月よりもいったん回復しているのに対し、中小製造業ではその水準を下回っていて、大企業と中小企業との格差が拡大しています。

次に中小企業を取り巻く金融環境ですが、大企業が長期的には横ばいであるのに対して、中小企業は長期的に悪化しています(第1-3図)。この傾向は(第1-4図)金融機関の貸出態度DIを見ると顕著でして、90年位までがバブル期、97年位までがポストバブル期、その後が金融不況期と三段階で悪くなっています。以上が長期で見た状況です。

では、ここ2年位の状況はといいますと、(第1-5図)中小企業向け貸出残高の推移(業態別)で分かりますように、大手行を中心に減少していて、一方政府系金融機関の貸出残高は堅調に推移しています。とはいえ、設備資金貸付のような前向きのものは減少し、セーフティネット貸付(2000年12月創設)が増大しています。

では、その原因は何かというと、事業機会の減少もありますが、金融機関の借入申込み拒絶がさらに企業の借入申込みの減少を招いているようです(第1-7、1-8図)。

将来の見通し難等を背景に、足下では、設備投資が手元資金としてのキャッシュフローの水準に左右される状況が強まっており、設備投資の低迷を招いています(第1-9図)。

以上を踏まえて、中小企業の倒産動向を見ると、02年の倒産件数は、1万8000件台と高水準です(歴代6位)。その中でも、販売不振、累積赤字、売掛金回収難、この3つを括った不況型倒産の割合が上昇し、今や全体の4分の3、歴代1位です(第1-10図)。

日本経済の再生と中小企業の役割

このように厳しい状況が続いているわけですが、長期的に見ていきますと中小企業はがんばっています。(第2-1図)は中小製造業の地位の変遷を付加価値額シェア、従業者シェアから見たものです。我が国の工業出荷額は1960年から2000年で20倍に拡大しています。その間、高度成長とその後の2度の石油危機、円高等の激変にもかかわらず、中小製造業の地位は極めて安定的に推移しています。ちなみにこれは卸売業をとってもあまり変わりません。小売業については、大店法(大規模小売店舗法)などで保護されていたのがだんだん撤廃されるにつれ、徐々に減少しています。

その背景として、多品種少量分野における活躍があります。(第2-2表)にまとめましたが、たとえば電気音響機械器具製造業で、低価格量販店向けの製品は大企業がつくっていますが、マニア向け高付加価値製品、ディスコで使うレコードプレーヤーやコンサートで使うスピーカーなどは、一品ものという形で中小企業がつくっています。また、廃棄物処理機器でも、リサイクルのように処理方法が多様なものに関しては独自の発想をもって製造しています。このように量産ものは大企業、多品種少量ものは中小企業という分業を形成しているのです。

そのあたりをアンケートを使って見ていったのが、(第2-3、4、5図)です。従業員規模が小さいほど多品種少量生産中心な取り組みの割合が大きく、製品・サービスのライフサイクルは短いです。そして競合先としても中小企業を挙げるところが6割以上でした。

このように大企業と中小企業の住み分けが行われているわけですが、これは産業組織論の中でも、マイケル・ポーターなどによって紹介されているところです。見方によっては中小企業はすみっこに押しやられて、そこで停滞しているという印象も受けるのですが、成長率ということを考えますと、国際的に見ても、大企業に比べると中小企業の方が概して高く、しかも規模の小さい企業ほど成長しています。また新商品開発に熱心な所ほど、成長性が高くなります。(第2-6図)は横軸に各規模ごとの平均成長率をとっているのですが、新製品開発に取り組んでいるところは平均より高くなっています。

規模ごとの住み分けを越えて成長するためには、どうしても新規参入が必要になってきますし、そのためにはイノベーションが必要になるというように、相互に関連してくるわけです。

では、成長する中小企業にはどんな特色があるのでしょう。経営面では(1)同族企業から非同族企業への脱皮等による外部人材の活用(第2-7図)、(2)自らの対面する市場にあった水準の技術の洗練化等が重要(第2-8図)、ということがいえます。(2)に関して、東大阪には日本の、または世界のトップシェアを誇る中小企業がいくつもあるのですが、そういう所に自社の技術水準についてきいてみますと、世界的にすごいとか、日本でトップというほどではない、ただ他にまねられないようにうまくそれを使って、製品を作っているということでした。

中小企業は、成長過程での新商品開発等を通じて多くのイノベーションを世の中に提供しています。現在普及しているものの中では、シュレッダー、これは明光商会高木社長(当時)が1960年うどん玉の製麺器をヒントに考案したものです。また、シャープペンは、家電メーカーのシャープ創立者が、シャープ創立以前に作ったものです。世界的に見ても、エアコンはブルックリンの印刷業者がインクを早く乾かすために発明したものだったりして、アメリカではイノベーションの半分位は中小企業で満たされているといわれています。

創業、退出、再生・再起が容易な経済社会の構築

では参入に関して、我が国の開業の最新時点(2001年)での動向とその背景にある問題について、見ていきたいと思います。(第3-1図)を見てわかるように、開業率は依然低迷しています。開業率は廃業率より低く、96~99年に比べて、開業率・廃業率ともに下がっています。

開業率が高い上位5業種を挙げますと(第3-2図)、(1)電気通信附帯サービス業(携帯電話取扱店等)、(2)ソフトウェア業(受託開発ソフトウェア業、パッケージソフトウェア業等)、(3)老人福祉事業(養護老人ホーム、老人デイサービスセンター等)、(4)中古品小売業(中古衣服小売業、中古家具小売業等)、(5)他に分類されない生活関連サービス業(食品賃加工業、結婚相談所、観光案内業、運転代行業等)、となります。(1)(2)を除くと、生活密着型・地域密着型分野でも開業率が高くなっているのがわかります。「開業」というと、誰でもできるようなものではない、と思われがちですが、こういう生活密着型のものならやってみようかという方も多いのでは、と思います。高齢化、環境問題など、ニーズが高まっている分野で、日本の産業構造の変化にも結びついていくのではないでしょうか。

では、なぜ開業率が低いのか、そもそも開業したい人が少ないのか、それとも実現するのに壁があるのでしょうか。(第3-3図)を見ますと、創業希望者率は年齢別に見ると20代、30代で高いが、それ以上では低下しています。他方、創業者率は年齢と共に上昇しているので、その結果、創業実現率は若年層ほど低いものとなり、希望と現実の間に大きなギャップが見られます。ちなみに創業希望者数は全体で約120万人、就業者数は約6000万人いますから、50人に1人、2%となります。私はあちこちで「創業希望者はたくさんいる」と言っていますが、世界的に見ると少ない方です。

創業希望者の創業に対する障害としては資金面、マーケティング面、技術・専門知識の問題がありますが、若年層で特に問題となるのは資金の問題です(第3-4図)。

次に廃業に関して、(第3-5図)は02年12月に、大田区と東大阪市の約1万企業(製造業)を対象として行なったアンケートです。経営者の約3割は自らの代で廃業を考えていて、理由は業績不振の他、承継する人材がいないことも挙げられています。その中のまた約3割はこれから3年以内にやめたいということで、これからこのような産業集積地も変わっていく可能性があります。

廃業に伴い、技術等が失われるのを防ぐために事業売却・事業譲渡についても考えていかなくてはなりません。中小企業の経営者は、企業を「自分と一心同体」と考える傾向にあるといわれ、「売る位なら潰す方がいい」という方もいるようですが、実際には事業売却・事業譲渡やそれの受け入れを考える経営者が相当数存在します(第3-6、7図)。事業譲渡等の円滑化策は、中小企業庁でも考えていまして、大阪の商工会議所はそういう事業を既に始めています。

続いて、倒産の実態について、倒産企業経営者2万4000人にアンケートをしまして、1500人回答がありました。別途に生存企業にも調査をした結果を合わせたのが(第3-8図)です。倒産に至る企業は一時的な資金難解決のための対策に走る傾向が強く、本来とられるべき事業収益体質の改善を意図した取り組みが疎かになりがちだったのがわかります。これは財務、収益状況がだいたい同じ所を比較しています。

また、倒産企業の約32%は事業を継続しています。事業を継続しやすいのは倒産前に事業拡大傾向にあり売上高が伸びている企業です。ただ、倒産後の事業が採算にのりやすい(黒字)のは、倒産前に黒字の企業です(第3-9~11図)。

倒産後の事業は、資金繰りについては親・兄弟や友人、知人以外に頼れない状況で、金融機関等の弾力的対応が今後の政策的な課題です(第3-12図)。

次に、倒産企業経営者個人について見てみますと、約43%が破産していますが、そのうち約14%は再起業を実現しています(第3-13、14図)。破産手続をしていない人の方は、再起業をした人は約10%程度で、破産している人の方が再起業しているということです。

倒産企業経営者の再起業の資金調達は、通常の創業時に比べても、親族・友人・知人に依存しています。この分野での制度的金融の充実が今後の課題です(第3-15図)。

財務だけでは測れない企業の質を見る金融

中小企業の資金調達は大企業に比べ、借入金に依存する度合いが高いです(第4-1図)。ところが、規模の小さい企業ほど、銀行借入れにおいて申込額どおり借りにくく、金利条件が厳しいです(第4-2、3図)。

中小企業から見た場合、借入資金を円滑に確保するために重要なのは、(1)積極的な企業情報の公開(第4-4図)。この自主提出資料とは、財務資料はもちろんですが、月次の資産表、資金繰りの計画などの資料です。(2)長期継続的取引などによる財務に現れない企業の情報が銀行に伝わる関係の醸成(第4-5図)、です。

また、メインバンクから上手く借入れができなかったときに備えて、取引銀行の多角化も重要です。この場合、特に地方銀行、政府系金融機関が独自の役割をしています(第4-6図)。

金利についてもやはり、借入資金の確保と同じように、メインバンクへ自主的に資料を提出し、長期的取引関係を結ぶ企業が低金利を享受しています(第4-7、8図)。これは財務資料だけでは分からない、社長や社員の様子を知ることによって、信頼関係ができてくるからだと思います。また、金融知識を有することも重要です(第4-9図)。

次に、最近の話題として金利引上げ要請について取り上げました。02年1年間で金利引上げの要請を受けた中小企業は少なくありません。(1)大手行メインバンクの企業で、(2)メインバンクへの資料の自主提出が無い企業が金利引上げの要請を受けています(第4-10、11図)。金利引上げ要請を受けても、1~2割の企業はその要請を断っています(第4-12図)。

もう1つは金融機関の合併があります。合併を経験したメインバンクの貸出態度は厳しくなり、そうでないメインバンクよりも貸してもらえないことが多いです(第4-13図)。これは支店の統廃合などで担当者が変わり、社長はどういう人でどういう会社で、というインフォーマルな情報は伝わりにくいということや、規模が大きくなると細かいところまで配慮が届かなくなること、審査基準が厳しくなること、などがあるからのようです。金融機関の合併等に対する中小企業対策面での対応が必要です。

メインバンクの破綻は小規模企業に特にマイナス影響を与えます(第4-14図)。

25万社の財務データを分析してみると、経常赤字や債務超過であっても、厳しい状況の中、経営努力によって、数年後には黒字化を達成したり、政務超過を解消する企業は多いです(第4-15図)。金融機関としては財務に現れない企業の能力を見抜く審査能力の向上が必要です。

各行は中小企業向け融資において財務や保全などの外形的基準を重視し、事業上の強み弱み、成長性等を見ることに消極的です(第4-16図)。それぞれの視点で中小企業の財務に現れない部分を見逃さない「目利き」としての能力の強化が、多様な中小企業に対応した資金供給の円滑化に必要です。

さらに、金融機関の硬直的な貸出態度は、中小企業という将来有望な顧客を失うことにつながり、金融機関にとっても損失です(第4-17図)。

(第4-18~20図ついて割愛)。

事業連携による経営革新

グローバル経済の進展下、「下請」取引といった企業間の垂直連携のメリットは仕事量の安定から取引のリスクがないこと等へと変化しています(第5-1図)。このような環境変化の中、受注側の中小企業は高付加価値製品開発、製品のコストダウンなどの取組を重視していまして、こうした対策から高い効果が得られています(第5-2、3図)。

また、企業間の横の連携ともいえる事業連携活動には多様な目的がありますが、共同仕入や共同研究開発は企業のパフォーマンスを向上させます(第5-4、5図)。

異業種交流に参加した企業は事業連携活動に取り組むことが多く、その意味で異業種交流は事業連携活動の苗床機能を有します(第5-6図)。

産学連携は、知識の吸収や新しい技術の確立などの点で効果が大きいです(第5-7図)。効果を上げている企業の属性は、企業年齢が若い、規模が小さい、経営者が開発担当していない(事務系の社長さん)ということが分かります(第5-8図)。ところが効果を上げる企業の方が取組は遅れています。こうした現象を解消するため、TLO(技術移転機関)等のスタッフの強化等が必要と思われます(第5-9、10図)。

(第5-11、12図について割愛)

中小企業は多様な存在であるのみならず、ダイナミックに変化する存在で、厳しい状況におかれていても、わずかの期間で急速に業況を回復させることが可能です。しかしながら、すべての中小企業がこうした「再生」を成し遂げているのではなく、イノベーションを着実に実施し、地道に収益体質を強化するもののみが生き残り、再生を達成しています。このような中小企業が数多く輩出する「企業家社会」が形成されることが日本経済再生につながるものと思います。

質疑応答

Q:

中小企業を軽く見るような、教育的カルチャーがあるように思うのですが、それについていかがお考えですか。

A:

中小企業で活躍できるような技術を教えている、高等専門学校でも工場見学などは大企業に行ってしまい、生徒自身が中小企業のことを知りません。大学で高専出身の学生に中小企業の工場を見せたら、大学を辞めて起業するといわれて、あわてて引き留めたことがあります。こういう世界ももっと見せてあげるといいと思います。

Q:

アメリカには非常に高い知識と学位を持った人達が、中小企業で一旗揚げようという気概をもっています。日本にはそういう風土がないということがネックかな、と思います。

A:

アメリカ世論調査では中小企業、つまり、「スモールビジネス」という言葉が好きだという結果が出ています。日本とは違う点です。

Q:

(第5-8図)の産学連携後の売上高はどうやってはかったのですか。また、新しい企業ほど効果を上げているというのですが、新しくても30年未満なので、もう少し新しくならなかったのでしょうか。

A:

アンケートの中で売上高について質問しています。また、年の刻みが大きいことについては、「企業活動基本調査」は企業年齢の高い企業が多くて、半分位が50年以上です。若い企業の調査が取れていないことから、大刻みになりました。ただ、10年から30年まではあまり変わらなかったと思います。

Q:

中小製造業の地位は長期的に極めて安定、ということですが、不況業種といわれる建設、商業、金融、不動産で、中小企業の割合は3、4割になると思います。そういう所はどう展開していくのでしょうか。また、特別信用制度は本来なくなるべき企業を延命させてしまうと思うのですが、いかがでしょうか。

A:

他の業種に関して、建設については独自の資料がないのですが、小売業では中小企業保護から競争へと移るうちに長期的に地位は下がっています。製造業のように国際競争にもまれている所とはやはり違うと思います。特別信用制度については、なくなるべき企業がなくならないという議論もあるかと思いますが、それに伴い存在してもよいところも消え去るならどうか。本当にだめなものだけ排除できればいいのでしょうが、実際はそれだけではない。いいものも排除されてしまう。当時の状況から見て、後者の悪影響を排除することに重点を置いたああいう制度もしかたがなかったのでは、と思います。また、計量的に見てもこの制度によって、倒産件数が不自然なほどに減ったということまではいえないようです。

Q:

(第2-1図)は、結局は産業構造の転換のことを書いているのでしょうか。また、規模が小さければ効果も高いのはある意味当たり前で、それだけ危険でも失敗を恐れてやらないよりはやった方がいいと思うので、敗者復活的な支援を考えられないでしょうか。

A:

(第2-1図)の裏に何が起こっているかというと、大企業の規模が縮小する、大企業が海外に進出して国内のシェアは相対的に上がる、中小企業は生きていればだんだん大きくなって大企業になる、またはつぶれてなくなっていく、という循環が絶えず起こっています。しかし大きな流れとしては、中小企業が大企業になる、大企業は海外へ出て行くという流れがあります。
それから、失敗に寛容になるのは重要だと思います。実際破産した人はほとんどが免責になるので、今の制度を上手に使ったらいいと思うのですが、金融の問題は残ります。金融側の人からは、隠れ借金があるのではないか、人間的に問題があるのではないか、という心配があり、この辺の折り合いをどうつけるかが問題です。1回破産した人が次に起業した時どうなるか、調べて公表してみると、失敗に関する世の中の評価も変わってくるかもしれません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。