中国のIT開発の進展と国際分業

開催日 2003年5月16日
スピーカー 三本松 進 (島根県立大学教授)
モデレータ 角南 篤 (RIETI研究員)
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議事録

質疑応答

Q:

アジアの企業、大学から見て日本の大企業は自分たちを相手にしてくれないという意識を持っていると思います。つまり、大企業から見たらパートナーとして必ずしも、アジアの企業、大学はなかなか技術力が釣り合うとは言えないということで、例えば北京の清華大学、北京大学などは大企業ではなくて地方にある大学とか、中小企業が日本のパートナーとして非常にいいのではないかと思っています。そういう意味では、国全体ではなく地域レベル、クラスターレベルでもっともっとできる可能性はあると思います。ただ、地方は今日のお話にもあったように、人材交流、ネットワーク作り、人材育成などが欠けているところがあるとは思いますが。
その辺のご意見をお聞かせください。

A:

広島大学では、工学部の先生はいるのだけれど、経営、つまり科学的知識を産業化する、企業化するというところのカリキュラムは作ってもそれを担う先生が不在な為、広島大学の先生でカリキュラムが埋まらないんです。だから、企業の人を連れてこようという会話が出ちゃうんですね。それでは人材(先生)の育成として考えると、地域では育成できないという感じがあります。以上が私の印象です。

Q:

イノベーションのところで、産地論とシリコンバレーは違うはずだという前提で考えておられますが、私は本質的にはむしろ同じものであって、そこに競争の技術に依頼する技術のタイプの違いが出てくると見た方がいいんじゃないかなとそう思っています。

A:

私は地場産地というのを授業で教えているものですから、何がポイントかというと需要が増えるセクターはなんですかっていう議論と、圧倒的競争力があるものが作れるのですか、この2つだと思います。1つは需要が圧倒的に増えるというのは、オースチンが急に成長したのは、やっぱりITという需要が強烈に伸びるのにうまくキャッチアップしたという世界が1つあります。つまり、何でもいいから需要が急速に伸びるというのにうまくキャッチアップするというか、そこに入り込めるかという議論です。2つめはミラノだとかコモだというのはイタリアの持つ強烈なデザイン力ですね、そのデザイン能力っていうのはシステムの中でもありますけれど、ある種の競争優位能力ですね。日本の地場産地というのは、どちらかというと伝統工芸品ぽいところがあって、需要が伸びなくてもそれはグローバルな競争優位かというと、ほとんど競争優位の要素がない。その2つにうまく組み込んだものが90年代わっと大きくなったんじゃないかというのが、現象的に見えます。そのときにITっていうのはどちらかというとユーザーのウォンツをうまく組み込んでどんどん大きくなったと、それからバイオっていうのはまさに大学発のものですし、企業はとっつきにくいなと、バイオはこれから出てくるのではないかと。

A(角南):

私は中国地域の産業戦略といったプロジェクトをやっているのですが、まず、何もないところから出発して何があるのかを探す、例えば岡山と上海のインキュベーションの連携は最初は地域の行政、産業界も含めて、どんな連携ができるのかと、姉妹都市提携で終わるのではないかといわれていました。やはり、どこかで行政の役割が重要になって来ます。まだ行政がきっかけを作ってデザインを試行錯誤やっていこうという段階ですので、何をやれば日本の地域経済の活性化の1つのモデルになるのかという結論までは至ってないのですが、テキサスなどにしても、何らかの呼び水的なきっかけがあっただろうと。
で、私がもう1つ中国地域で考えているのは研究者の間でスマートホールといっているんですが、知識を吸引するような穴を作って、そこに一種のダイナミズムを起こそうというスマートホール構想を作ろうと考えています。例えば産業立地の話でいくと出発点は水とか電力だったわけですが、まず、住居環境とか文化施設とかそういったところのコアになる研究施設を作る。そこには自信を持たなくてはならないので、世界的なレベルを持った知識を集約させるものを作ろうという動きがあります。
おそらく、行政がある程度主導でやっていくことが必要かなと感じています。

Q:

スマートホールのアイデアはとても正しいと思うのですが、たとえばバイオでやるとしても、かなりセグメントを決めて、そこについては世界のナンバー1とかナンバー2にはいるくらいのものでないと意味がなく、ものすごい目利きがいると思うのですが、そのあたりの意見や経験をお聞かせください。

A(角南):

ヨーロッパの調査ですとスマートホールは周辺80kmというデータがあります。そうすると、日本の中国地域で考えますと、神戸には再生医療、京阪奈ではバイオ・ITの集約的な地域があり、それ以外のものをやらないと奪い合いになってしまいます。80km圏内であれば、うまくコラボレーションやネットワークの効果が出てきますが、100km周辺に別の拠点を作るというのは、やってはいけないことであろうと思います。ですからセグメント選びという点では、スマートホールのコアになるものは当面の商業化の成果は無視して、世界に1つだけのセグメントを作ろうとしています。

Q:

スマートホールは周辺80kmという話で、例えば東京の多摩川周辺に80kmのコンパスで円を描いたら、日本のIT産業の研究所がかなり入ってきます。しかし、たまたま地理的に同じような場所にいるだけというのはあまり意味のないものだと思います。それぞれの企業の人に交流がない。だから、会社とは切り離して、知識とかアイデアがまわるようにしないと物理的に集めてもクラスターは機能しないと思うのですがどうでしょう?

A(児玉俊洋(経済産業研究所 上席研究員)):

私は多摩周辺を調査対象にしているのですが、そこでやっている多摩の運動というのは単なる集積をクラスターにしようという試みです。戦後の高度成長期の経済的な要因から必然的に大企業の主要な工場や開発拠点が出来てきて、大学も移ってきた、そして中小企業もそこに位置するのがいろいろと有利だった。たまたまこの地域に集積として立派なものが出来たが、イノベーションを目的とした連携はありませんでした。そういう地域が日本にはありがちだった。そこで、連携とかインタラクションを持たせるような運動を繰り広げていくというのが、クラスターフォーメーションの試みになります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。