Auto-IDの概要とAuto-IDセンターの最新動向

開催日 2003年3月19日
スピーカー 湯本 由起子 (サン・マイクロシステムズ(株)ソリューション営業本部 専任部長 AutoID担当)
モデレータ 泉田 裕彦 (RIETIコンサルティングフェロー)
コメンテータ 村上 敬亮 (経済産業省情報政策ユニット情報経済課長補佐)/ 佐藤一郎 (国立情報学研究所)
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議事録

国土交通省のRFID実験

(泉田氏)
最近RFID (Radio Frequency-Identification:電波方式認識)が注目を集めています。電波を利用して個体識別を行う技術で、JR東日本で使われている“SUICA”、回転寿司の値段を自動的に読み取る、といったことに現在使われています。また、コンテナでも実用化されていますし、BSE対策での牛の流通調査やテロ対策、といった現在の切迫した課題についても利用できるツールとして期待されています。ベンダー側でも研究段階から営業段階へと入ってきています。

私は国土交通省貨物流通システム高度化推進調整官でもありまして、2年前からRFIDタグの実用化の実験をやっていますので、湯本さんにお話いただく前に、そこでわかってきた課題と、今後考えなければいけないポイントをご説明しておきたいと思います。

2001年に航空手荷物にタグをつけて効率化できないか、という実用実験を行いました。つまりは航空セキュリティが強化される中で、手ぶらで旅行をするのにこのRFIDが利用できないか、という研究です。この実験は当初2001年9月の予定だったのですが、同時多発テロが起こり、アメリカの空港では許可されないのではないかと危惧したのですが、2週間程度日付をずらしただけで実施することができました。それは、RFIDがセキュリティ強化に使えるのではないかということで許可されたわけです。実験はシンガポールのチャンギ空港、香港国際空港から成田経由でサンフランシスコ、バンクーバーに乗り継ぎする荷物にタグをつけてコンピュータで個体識別の追跡できるかどうかというものでした。

実物は普通の航空手荷物のタグと変わらないもので、タグにアンテナを付け、チップを貼ってあり、なかにはこのタグがRFIDだということを知らないまま実験に参加された方もいました。特に成田空港ではデータの読み取り、書き込みが可能かどうかの実験も行いました。A地点からB地点へ移動するのに必要以上に時間がかかっていた場合、何らかおかしなことをしたのではないか、ということを調べるために複数の場所に読み取り装置を設置もしました。

実験結果ですが、読み取り率が97.8%とか99.2%という数字でした。実はこういうシステムでは99.99%以上の精度が必要といわれていますので、現段階では必ずしも実用の段階とはいえませんでした。その原因は13.56MHzの電波を使ったために、空港のコンベアの幅1.4mでは届かないところがあったということと、RFIDが運ぶ途中で壊れてしまう、電気的にショートしてしまうということがあったためです。また、近くに金属バットがあると読みとれないということもわかりました。行き先など多くの情報を読み込ませたらいいのでは、という意見もありましたが、壊れやすいことを考えるとバックアップを取らなければならない、という問題もありました。

手ぶら旅行が実現できないかということで、とりあえずエアラインだけで実験をやったのですが、これに加えて空港公団当局、税関当局、宅配事業者、コンビニといったところとデータを共有できないかということを模索しています。ただし、不特定の事業者間の流通は想定していないので、それぞれのシステムが違うということで共通化がはかれないということがあります。

また、航空貨物についてもRFIDが使えないかという実験を、2001年にやりました。さっきとどう違うかというと、複数事業者を流通する場合に使えないかという、ことです。しかし、たとえば車両では下請けの運輸会社が入っていたり、倉庫会社は別だったりするなど、様々な事業者が入り組んで管理していて、その流れをフローチャートにして、どこで書き込み、どこで読みとったら、全体の流れをIT化し効率化できるかということをやってみたのですが、どうもうまくいきませんでした。それは、最初の段階でタグを貼るのにコストがかかるのですが、この段階の業者にはあまりメリットがないのです。コスト負担者と利益享受者が異なるため、その調整が難しく、そのためビジネスモデルを作ることができずに1年ほどで検討中止となってしまいました。

また、コスト面では、RFIDに書き込みができることがコストに見合う必要性があるのか、ということもあります。ベンダーは数が増えればコストは下がります、1個50円から300円でできますというのですが、ユーザーからは2~5円、またコンビニ業者からは0.5円程度なら、という話になり、供給側とユーザー側の価格の認識にかなりの違いがあります。

RFIDの使われ方

複数事業者間で流通するものについてRFIDの使い方を整理してみました。

商品流通にとって必要なデータは、商品名、IHSコード、価格情報などです。一方、物流にとって必要なのは、大きさ、重さ、運賃、便名などです。つまりまったく違っています。また、取引先というのと配送先というのは必ずしも一致するものではない。お金を払う人と物を持っていく先は必ずしも同一ではないし、配送時間と取引時間も同一ではないわけです。共有できるのは危険物か否かの情報ぐらいです。つまりRFIDに何を書き込めばいいのかは、難しい問題です。

一方、単一事業体内で流通するものなら、かなり使い道はあります。運送会社で貨物がどこにあり、どこを通過したかがわかるシステム、また“SUICA”のように何度も繰り返し、使うものにも有効です。また、車のナンバープレートに取り付けて、ファミリーレストランなどで、顧客を識別してサービスをする、車検情報を入れようなど、いろいろなアイディアはありますが、それぞれに実際に実用化するとなるとプライバシーの保護など別の問題も生じます。

国際的には貨物についてのデータを共通化することで、RFIDで追跡しやすくする、などの提言もありますが、すでに進行している共通化もあり、それとの整合性をとることが難しいなどの問題があります。

国内では経済産業省、農水省で、商品についてのRFIDを用いたトレーサビリティについて検討が進んでいます。

Auto-IDには標準化が不可欠

(湯本氏)
Auto-IDというのは自動個体認識という意味ではもう一般名称になっていますが、本日はMIT(マサチューセッツ工科大学)が推進しているAuto-IDセンターの活動を中心にして、その中で定義しているAuto-IDとはなんなのか、どういう活動を行っているのか、ということをお話したいと思います。

RFIDすなわち無線のタグとリーダーを使って個体識別をするシステムを作っていくのは、Auto-IDもRFIDと同じですが、Auto-IDがとりわけ注力して、システムの開発もしくは普及を進めているのは次のことです。

ある閉じられた世界、もしくは閉じられた企業の中で作るシステムとは異なって、各業者間の中でそのデータをシェアすることを目的として、システムを作っていこうということです。つまり業界横断的であるわけです。そのためには標準化しなければシステムは構築できないので、まず標準化を行っていこうとしています。

ただ、標準化といっても、たとえばある国に特化したようなシステムにするのが果たして本当の意味での標準化なのかという問題もあり、グローバルな視点から標準化を進めていこうということを念頭において進めています。

グローバルといっても、各国間には経済格差等があり、コストを低くしないと、導入できない国も出てきますし、導入はできてもシステムを実際運用する段階になって、コストがかかりすぎて継続して使えないということになると、標準化にならないので、とにかく値段を安くしていこうと考えています。また、コストだけではなくシステムを理解しやすい、あるいは管理をする面でも非常に安くやれるようにして、あらゆる物体、つまり商品や製品につけていって、管理していきましょうということです。ただ、ここでちょっと強調しておきたいのは、人にはつけていかない、あくまでもモノにつけていく、ということです。

Auto-IDセンターとは

Auto-IDセンターは、1999年にMIT内に設立されました。MIT内にセンターができたきっかけというのは、ちょうどMITでバーコードが設立されて25周年記念の席でした。ここで、プロクター&ギャンブル社とジレット社がバーコートの次のものをそろそろ開発したらどうかと提言し、候補として上がってきたのがAuto-IDだったわけです。

そのようにスタートしたのですが、使っていくうちに標準化とかグローバルとかいうことを考えなければいけないということになり、グローバルに研究拠点を広げるために、翌年にはケンブリッジ大学で製造現場におけるオートメーションということを踏まえた研究をしていく、その翌年にはオーストラリアのアデレード大学が参加し、今年、日本の慶応大学が参画を表明しました。あとは中国上海の復旦大学、またビジネスケーススタディについてスイスのザンクト・ガレン大学が活動を進めるということで、まさにグローバルに研究が行われています。

ただいくら研究が進んでも、実際に使う人が標準化ということでコミットしてビジネスケース、ビジネスプロセスを作っていかないと本当の意味での標準化にはならないわけです。そういった意味で、Auto-IDセンターではコンソーシアム体制でスポンサーシップ制度をとりまして、各企業の参加を呼びかけています。3月19日現在で97社入っていまして、大きく分けてユーザースポンサーと、テクノロジーベンダー企業ということで技術貢献を行なっていくスポンサーがあります。日本では10社入っておられて、ユーザーとして、大日本印刷、三井物産、テクノロジーベンダーのほうですと、NTT、日本ユニシスといったような企業が参画されています。

サン・マイクロシステムズのAuto-IDへの取り組み

弊社サン・マイクロシステムズはベンダー企業という形で、ネットワークを使ったインフラの整備について開発と研究を進めていくという形で参画しております。

20年前に「ネットワークisコンピュータ」を標榜して登場してきたように、弊社は当初からネットワークということを非常に意識してコンピュータ業界に入ってきたわけです。弊社のチーフサイエンティストは、1999年にセンターを設立するときに、これからはすべての物体にアドレスがついてすべてのものが個体認識できるようになる、ということを話していまして、これがまさにAuto-IDの思想と合致するということで。センター設立の翌年にはスポンサーとしては5社目という非常に早い参画をしたのです。

現在は、弊社のCTOがサンフランシスコにあるサンラボという弊社の開発センターで、MITの研究開発センターとともに、実際に研究を行ないながら社会的な普及と貢献を進めています。ネットワークにつながったコンピュータと個別のモノに付けられたチップを結ぶ、プロトコルの部分で、サン・マイクロシステムズ社が研究・開発を行っているわけです。

Auto-IDの実際

Auto-IDがどういう形で動くものなのかをご紹介したいと思います。まずIDというものは個体を認識するために振っていくわけですが、そのIDをePC(Electronic Product Code)と呼びます。このePCと呼ばれるコードを1つ1つのICチップに書き込み、それをアンテナとともに、物体につけていくということです。ここではコーラ缶を例にしますが、書き込まれたePCを貼り付けたコーラ缶は当然製造現場から物流を経て、消費者の手に渡ります。そういう流れの中で随所にRFIDリーダーが置かれていれば、そこからePCというコードが読み込まれて、その読み込まれたデータに応じたアプリケーションでインターネット上で情報のやり取りをするという、まさにデータはここでは一切書き込まずにインターネット上だけを利用してやるという構想です。

ePCはバーコードとはまったく違うもので、これから作っていくということではなくて、今日本にある、いくつかのコードに代わるものとして、標準規格ということを前提に考えています。

バーコードは商品識別だけですが、Auto-IDは個体認識をするということが違います。またバーコードのように、読み取り面をスキャナーやリーダーに合わせる必要はありませんし、そのために人手を介することもありません。電波の飛距離の問題はありますが、一定の範囲内なら確実にデータを読みとることができます。また、1秒間に数百から数千のタグを読みとることが可能なこともすでに実証されています。最初にタグにはデータを載せない、ということにしていますので、拡張性が非常に高く、インターネットでの利用が容易なため、企業や業界をまたいだ利用が可能です。

タグの価格については、やはりとにかく安くしてくれ、という声が強く、マイクチップやアンテナ、それを加工してタグとする加工料も含めて5セントが普及のためのラインとされています。その価格を実現するためには、量産化が必要ですし、そのためにはマイクロチップを小さくして、量産可能な形にすることが必要です。そのためには、一度書き込んだデータは変えない、書き込むデータをできるだけ小さくすることが必要です。

チップについては、技術革新が進んでいますが、実際の例をお話ししましょう。

アメリカのジレット社は5億個のチップを購入し、全米で販売する女性用カミソリ商品に貼り付けました。それは350ミクロンサイズのチップでしたが、これが来年には1セントで供給できるとされています。

もちろん、チップだけができてもだめで、リーダーが必要となります。リーダーについても価格を低くしようということで、Auto-IDセンターでは100ドルから200ドル以下にしようと考えています。つまり、イメージ的には携帯電話程度の価格にして普及させようということです。

もう1つの問題は、使用できる電波の周波数が、国によって違っているため、その対応です。ただ、これは世界的に周波数を統一すべき、ということではなく、それぞれの国の周波数に合わせて使えるマルチなものを作っていこうということです。リーダー、タグともにマルチ周波数に対応できるものが開発されています。

タグに書き込む情報ePCですが、これはバーコードに似ています。バーコードの国番号に当たるところがバージョンナンバーです。次の部分はメーカーID、次が商品ID、さらに個体別のシリアルナンバーがきます。このシリアルナンバーによって、個別識別が可能となるわけです。

バーコードと違うのは、製品IDと個別商品のシリアルナンバーの桁数を変更することができることです。たとえば、あるメーカーは商品数は少ないが、ロットは非常に多い、またその逆のケースもあり、その桁数を固定すると、桁数が多く必要になってしまうわけです。バーコードでは桁数の柔軟性は非常に難しかったのですが、ePCでは、それを可能にしました。

ePCがそれぞれの個体に書き込まれ、RFIDリーダーで読みとられたあと、“Savant”と呼ばれるソフトで処理され、インターネット上でやりとりできるようになります。“Savant”はAuto-IDセンターが開発したソフトウェアです。ePCをインターネット上でやりとりするためにインターネットプロトコルに変換するためのルーターの役割を果たします。通常のインターネットで使われているDNSに代わるONS(Object Name Service)を経て、プロトコリングが可能になるわけです。

Auto-IDはネットワーク上で活用できる

では、データはどこにどういう形で置いておくかということですが、業界毎に標準の規格をつくり、PML(Physical Markup Language)という標準言語によって表現され、インターネットサーバーに置かれます。

ある商品がメーカーから物流を経て、販売流通に至る過程では多くの情報がやりとりされます。その情報をある企業が抱えこんで、そこにアクセスしなければならないというのではなく、どこからいつでもインターネットにアクセスすることができるようにするということが、このシステムの目的です。

PMLとする情報としては、基本的には静的情報が考えられます。つまり、製品マスター、また原料のようなもの、履歴などです。それに対して動的情報もあります。それは一時的な情報です。温度であるとか震度を測るセンサーを組み込んで、状態を調べるようなことも、業界によっては必要と思われます。また、その商品が今どこにあるのか、誰が保有しているのか、といった情報も得られるようにできないか、といった議論がなされています。

それぞれの個体別にこれだけの情報をインターネット上に置くということになると、データ量は膨大なものになります。実は“Savant”は単にルーティングをするだけでなく、膨大な情報を分類してデータベースとして保存する機能があります。

つまり、ここにあるメーカー作った350mlの缶コーラと2lのペットボトルのウーロン茶にすべてAuto-IDのタグが貼られていたとすると、その情報について、缶かペットボトルか、あるいは価格別、また取り扱う部署別、といった分類情報を与えることで、それぞれに必要な形で“Savant”に置くことができるわけです。

まとめると、Auto-IDはRFIDのシステムでタグに書き込まれる情報はePCすなわち、ID番号とシリアルナンバーだけであり、読みとられた情報はONSを経て、プロトコルルーティングされ、PMLにフォーマットして、ネット上に置いて、アクセスする権限のある企業は自由にアクセスできるようにするということです。

データの動きとしては、チップから読みとられたePC情報は、読みとられた時間の情報を加えて“Savant”に送られ、“Savant”からONSにそのePC情報が登録された情報と一致するのかの問い合わせがなされます。ONSで登録されたePC情報と一致するとなると、“Savant”にそのePCのIPアドレスが送られます。“Savant”では、その情報を合体させて、PMLにしてためておくことになります。この“Savant”は階層構造になっており、各企業では、それぞれの階層ごとに、別のアプリケーションのインターフェースで使えるようになります。

“Savant”はJAVAで書かれたものであり、その仕様は公開されています。

ePC、ONS、PMLについては、標準化管理団体が標準化を進めるべきということになっていますが、どこがやるかは決まっていません。Auto-IDセンターとしては、自らがAuto-ID inc.と名称を変えて、これをやっていこうということになっています。

これ以外のタグやリーダー、“Savant”については、仕様を公開し、各自がどのように開発してもかまわない、周波数などについても限定はないということになっています。

ただ、読みとられたePCを“Savant”へ、あるいは他の“Savant”へとつなげる部分のインターフェースについては、標準化を推し進めていこうということになっています。

Auto-IDはネットワーク上で活用できる

Auto-IDのメリットについては、個別商品の動きがリアルタイムでわかるわけで、季節商品などの製造、仕入れに大きなメリットがあると思われ、万引き防止にも役立ちます。また個別で管理する必要のないものについては、パレットやコンテナにタグを付けることで、発注書や注文書の管理に役立つと思われます。

このすべての個体を個別管理できるという点が、消費者にとっても利益があるとすれば、情報家電で、材料を鮮度管理したり自動調理したりできる冷蔵庫やオーブンといったことも考えられるかと思います。

実際のタウンテストももう始まっています。2001年の10月にウオルマートで行いました。具体的にはePCがどの程度読みとれるのかという読み取り率やどのくらいの量のデータがどのようなスピードで集められるのか、といったことです。アメリカの例ですが、第1段階では、パレットにタグを付けての実験、第2段階では、ケースにつけて、第3段階では、個別の商品に付けて、在庫管理のインターフェース、万引き防止のインターフェースにデータを通してみるということが行われました。日本でも実際の実験は行われています。

(佐藤氏)
Auto-IDはIDを付けるものが必ずしもデバイスに限っていなくて、ソフトウェアのようなものにも付けようとしています。また、なるべくネットとリンクさせ、認識したIDの情報をサーバーに蓄積して、そこから情報を取り出すことを目指しています。現在、さらに目指しているのは、RFIDのIDとネットワークのアドレスを融合させようということです。例えばIPアドレスというのは、ネットワークのIDとコンピュータのIDが組み合わされたものです。つまりは、ユニークなアドレスであればいいわけです。イーサネットで使われているマックアドレスがありますが、これもネットワークのIDとマック上のIDを組み合わせたユニークなアドレスです。このRFID版を作ろうというものです。ネットワークのIDとRFIDのIDを組み合わせて新しいアドレスを作ります。リーダーで認識されたIDは、そのままネットワークのアドレスとして認識されることになるわけです。もし、外部ユーザーがこのデータにアクセスしたいが、そのデバイスのIDはわかっているけどアドレスがわからない、という場合でも、ネットワークのIDさえ教えてもらえば、アクセスできるわけです。

なお、RFIDについては、“SUICA”のイメージが強く、皆さん、かざさなければいけない、つまり人間が明示しなければ認識されないと思いがちですが、実際には電波法の問題さえなければ、5m程度の範囲なら通過するだけで、100~200個を瞬時に認識することができます。

(村上氏)
経済産業省では、現在、商品トレーサビリティ研究会というものをやっています。ここでやっているのは、一部で報道されたようなタグの規格を統一するということではなく、そこに書き込む内容を統一しようということです。会の構成メンバーはベンダーよりもユーザー側が多く、出版業界、家電、自動車、繊維、加工食品、日用品など、業界横断的に共通するニーズは何かを議論しています。現在でも、自動車製造で、組み立て工程管理のために使われたり、あるブランドメーカーが、偽物防止のために使っていたりします。もちろんバーコードレベルのものならば、これまでもほとんどの業界で使われています。しかし、最近になって2つの大きな変化がありました。

1つは商品のトレーサビリティに関して消費者の目が厳しくなったことです。これは、BSEによる牛肉の問題が起きたことがきっかけとなって、生産段階から流通段階までの業界横断的な商品の厳密な管理が求められるようになってきたわけです。

そういうことで電子タグの必要が出てきたわけです。電子タグというのは、政府がこれで統一しようという用語で、内容はRFIDのことです。これについては、情報量も多く、離れた場所から同時に多量に読みとることができるといった特性があります。これを利用すれば合理化ができるというのがもう1つです。

どこが、タグを貼るのか、費用を負担するのかといった問題はあるのですが、例えば現在、コンビニの店長の仕事の6~7割は検品管理といわれています。もし、電子タグの導入で、この仕事をなくすことができ時間を節約できれば、大手のチェーンでは、年間数百億円の人件費節減につながるとされています。

また、大手の家電や自動車メーカーなどでは、自社で使っている管理のための番号だけでも、製造管理のための番号、保守管理のための番号、リサイクルのための番号、流通のための番号、物流のための番号と、多種にわたっていて、この管理だけでも膨大なコストがかかっています。これらが、タグによって、ネットワークを通じて管理することができれば、商品について生産から流通までのように最初から最後まで、統一した管理ができるのではないかということです。

ID番号についてですが、これは先ほど湯本さんが話されたIDの考えとほぼ同じです。これは誰が考えてもそうなるという、基本的な考えです。現在、日本ではいくつかのコード体系があるのですが、とにかくこれを統一して、標準のものを作らないと、例えばタグを付けるのが製造メーカーだとしても、情報がバラバラでは、いくらコードが読みとれても、共通管理はできないことになります。

そのうえで、業界毎に商品のトレーサビリティについて、どういう内容の情報を盛り込んだコードとするかの標準モデル仕様を作成し、これをオープンにして利用してもらうことにしています。ID番号についてはモジュール、モデルについてはデファクトにしようということです。データ長についても可変可能で、これで、ID決定についてのルールは十分だと考えています。

ただ、この問題については、みんなでやらないと意味がない、参加する、しないがあっては意味がないので、その点をどう盛り上げていくかが、第2段階となります。

ディスカッション

泉田氏:

Auto-IDがネットワークとの接続を前提としているのに対して、ユビキタスIDはこれを必須としない、としていますが、どちらが技術的に優位にあるのでしょうか。

佐藤氏:

すべてのデバイスがアドレスを持つと、もし、ネットワークを通じて何らかの攻撃を受けた場合には、防ぎようがないという問題があります。例えば、家庭の冷蔵庫が止まったりしかねないわけです。また、すべての製品がアドレスを持つとなると、膨大な量のデータを早く処理しなければなりませんが、そのスピードに追いつけるシステムを生み出すのは、現状では難しいと思われます。

湯本氏:

確かに現状では、それに対応するシステムはありませんが、3年後、5年後といった爆発的に普及する時点では、できあがっていると思いますし、それを見据えた開発を行っています。

泉田氏:

RFIDのタグには書き込みもできるのですが、現在は主に読み取り機能ばかりが議論されていますが、書き込み機能の可能性については、どう考えられますか。

村上氏:

普及のためには、読み取り機能だけでコストを下げるほうがいいでしょう。ただ、医療現場での、患者と投薬のデータのような特殊なケースでは、書き込みが必要な場合もあるでしょうが、そのようなケースは限られているのではないでしょうか。

佐藤氏:

RFIDの役割には、商品を管理するという以外に偽物を防止するということがあります。その場合には書き込み機能はまったく必要ないので、もし商品管理の面で書き込みが行われるようになっても、すべてがそうなるとは思えません。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。