ソフトウェアの知的財産権とオープンソース

開催日 2002年10月25日
スピーカー Bradford L. Smith (マイクロソフトコーポレーションシニアバイスプレジデント兼ジェネラルカウンセル)/ Lawrence Lessig (スタンフォード大学ロー・スクール教授)
モデレータ 池田 信夫 (RIETI上席研究員)

議事録

ブラッド・スミス氏

経済見通しについていえば、短期的には楽観的になりがたい状況であり、長期的には悲観的にもなり得ないのが現状である。技術開発とデータやコンテンツのモバイル化などがデジタルエコノミーの行く末にポジティブに貢献することになるであろう。

1960年代と1970年代にデジタルエコノミー市場において、垂直的な統合が進んだ。デジタルエコノミー市場は、ハードウェア、ソフトウェアそしてサービスといったそれぞれの独自の専門分野を持った各産業部門から構成される。そして今、この市場で起こっていることあるいは今後起こるであろうことは、これらの専門性をもった産業部門間の水平的な協調である。過去20年間、マイクロソフトなどの新しいタイプのテクノロジー産業の登場によって、米国政府は知的財産権の保護政策や創造性豊かな技術革新を推進してきた。

前世紀末から今世紀初めにかけて、ソフトウェアの開発モデルの多様性が議論されるようになった。その中で、透明性、アクセシビリティ、コミュニティ意識の醸成といったオープンソースの役割や長所が明らかになってきた。一方商用ソフトウェアの役割と長所としては、マスマーケットエコノミクス的展開、イノベーションの継続的な推進や、雇用の促進、幅広いプラットフォームの開発が挙げられるであろう。

さらに最近の動きとしては、中間的ポジションへの移行、すなわちオープンソースとプロパライエタリソフトウェアの要素を組み合せる動きが見られる。この例としては、マイクロソフトのシェアードソースイニシアチブがある。これは、知的財産を保護する一方でソースコードへのアクセスを政府関係者、開発者、IT専門職、大学研究機関へ提供するものである。

イノベーションと経済成長は、エコシステムが機能しているかどうかにかかっている。エコシステムとは、すなわち異なるソフトウェアモデルが共存し、消費者により多くの選択肢を提供できる環境、健全なインテレクチャルコモンズと健全な商用産業が共存できる環境そして、分離するのではなく相互作用を促進するような基礎研究開発に対する政府の資金援助を促す健全な環境を指す。

ローレンス・レッシグ教授

広義で考えれば、ソフトウェアは、ライセンスによって使用を認めるものと公的ドメインで自由に利用することが可能なものに分けられる。デジタルエコシステム内の分類としては、ソフトウェアに条件が付与されているかいないかの2種類である。条件が付与されたソフトウェアの中にプロパライエタリソフトウェア、GPL(*GNU General Public License)、さらに限定的な利用でのオープンソースソフトウェアが含まれる。一方条件設定のないソフトウェアとは、パブリックドメインのソフトウェアであり、ほとんどのオープンソースソフトウェアが、こちらに含まれる。

もしこの社会が完全な世界であれば、オープンソースソフトウェアは、クローズドのプロプライエタリソフトウェアより上位のソフトウェアと言いきることもできよう。しかしながら、現実の社会においては、クローズドソフトウェアによってこそ、ビジネスの発展や成長はありうる。クローズドのソフトウェアは社会の必要悪なのである。

マイクロソフトとオープンソース支持者の間の意見の相違は、特にGPLについて顕著である。GPLは、自由に無料で手に入れることのできるソフトウェアではあるが、ライセンスを付与するソフトウェアである。GPLは、基本的にソースプログラムとともに領布、複製する、もしソースプログラムを付けずに配布する場合は、ソースプログラムを確実に入手できる手段を提供することが義務付けられている。

GPLに関連して、政府の役割をめぐるさまざまな議論がある。マイクロソフトの立場は、GPLコード開発に政府は資金を一切提供するべきではないと言うものである。私の個人的見解としては、政府が公的資金や援助を提供する時に、ビジネスモデルを選択するべきではなく、政府の役割は、デジタルエコシステムの整備・強化を促す取り組みを支援することを通じて側面的にその強化に務めることである。

プレゼンテーションの後、レッシグ教授のプロパライエタリソフトウェアはクローズドのソースプログラムと同じであるという意見に対して、スミス氏はオープンであるかクローズドであるかより、ソースプログラムを確認できるかどうかが問題であると応えた。

GPLについて、スミス氏はマイクロソフトの経験として製品の開発の際にGPLのコードを用いると、ソースを公開することによってのみ利用可能となるために製品を売ることが難しくなると説明した。

スミス氏は、マイクロソフトとしては他の製品が売れることを期待して配布するというビジネスモデルでのみGPLを支持すると述べ、このような無償で公開するというビジネスモデルはdot.comのブームとそれに続く崩壊の背景にあったものであると指摘した。

これに対し、レッシグ教授は、プロプライエタリ・ソフトウェアは利用者に利用料金を支払うことを求める、一方GPLは開発者に成果を還元するという条件を課している。どちらの条件がより制限的かは明らかではないと説明した。

質疑応答

Q(慶應義塾大学 苗村):

LGPLについてのご意見を伺いたい。

A(スミス氏):

LGPLは、ライブラリー機能のためのライセンスである。フリーBSDもライセンスもソースプログラムを提供するがGPLのような制約・制限がない。

A(レッシグ教授):

将来フリーのBSDライセンスは枝分かれする可能性がある。GPLはこうした問題を防いでいる。

Q(経済産業省 村上):

日本政府でもオープンソースソフトウェアについてのさまざまな意見がある。政府は、ソフトウェアの調達にあたり、市場の動向を見ながら決定している。

A(スミス氏):

政府の調達担当者は、オーナーシップのトータルコスト、すなわち製品価格、メンテナンスやサービスのコストとセキュリティなど幅広い要因を検討し、賢明な決定を下すべきである。それがマイクロソフトの立場である。

Q(弁護士 北村):

オープン性と透明性が特に興味深いと思った。特許ではなく著作権によるソフトウェアの保護についてのご意見を伺いたい。

A(レッシグ教授):

特許でソフトウェアを保護することは、特許の不確実性ゆえにソフトウェアの開発を続けることが難しくなると考える。一方、ソフトウェアをコピーすることなどを考えた時、著作権の方が特許よりわかり易い。

A(スミス氏):

マイクロソフトは、現在ソースコードのシェアリング、学界への技術援助といったソフトウェアの透明性を向上させるための努力を続けている。

Q(フロア):

GPLモデルを他のモデルと共に受け入れることが合理的と考える。またビジネス分野によってはGPLを利用するか否かがそのビジネスの成否を決定することもある。

A(レッシグ教授):

知的財産権を保護するためには特許制度は不適切な制度である。現在の米国の特許制度についていえば、ビジネス界に不必要なコストを課している。

A(スミス氏):

特許制度は、本来、費用対便益分析に基づいて20年~40年に一度見直しを行なうべきである。今後の課題は、革新を進め、透明性と公正な利用を確保するための政策・法制度の整備である。

Q(フロア):

GPLも著作権にもとづいているのではないか。

A(レッシグ教授):

著作権関連法がなければGPLは成り立たない。

Q((株)オモイカネ社 大熊):

Mr.マイクロソフトの「シェアドソース」には脆弱性がともなう。なぜならコードを提示する一方で、それを変更することを認めないのだから。

A(スミス氏):

オープンソースとクローズドソースには一長一短があり、特にセキュリティについていえば、どちらか一方が優れていて、どちらか一方が劣っているというものではない。

注) *GPL(GNU一般公開ライセンス)

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。