日本人のための中国経済再入門

開催日 2002年10月22日
スピーカー 関志雄 (RIETI上席研究員)
コメンテータ 沈才彬 (三井物産戦略研究所中国経済センター長)
モデレータ 角南 篤 (RIETI研究員)

議事録

今回、RIETIウェブサイトで連載していたコラムなどをまとめて、「日本人のための中国経済再入門」(東洋経済新報社)を出版しました。日本の皆様が関心をもたれる内容について、一通り触れており、ご期待に添うものになったのではないかと思います。本日は、メイド・イン・チャイナの本当の実力、補完しあう日中関係、21世紀の中国経済という3つのテーマについてお話し致します。

メイド・イン・チャイナの本当の実力

中国の経済は世界の工場として注目されていますが、日本のマスコミの論調は中国の工業化を過大評価しているのではないかという気がします。中国では外資系企業のウェイトが高いことと、輸出に含まれる輸入コンテンツが高いことを考えると、いわゆる「メイド・イン・チャイナ」と中国のGNPに計上されるべき「メイド・バイ・チャイニーズ」の間には差があるのではないかと思います。「工業大国」と「工業強国」の間にも開きがあると思います。

中国の工業力をどう見るのか。各国の工業部門の付加価値をもとめると、中国は99年の数字が3300億ドルでアメリカの4分の1、日本の3分の1の規模で、中国の人口が日本の10倍に当たることを考えると、中国はまだ弱いと見るべきではないでしょうか。

世界の製品輸出比率に占める中国の割合が急速に上がってきているところは注目すべき点です。80年には0.8%だったのが直近は4.7%まで上昇しています。ただ、世界ランキングでみると第6位、アメリカの3分の1、日本の半分にとどまっています。これをもって中国が本当に世界の工場と見るのか、違和感を持っています。しかも、外資の依存も高く、加工貿易が中心なので、輸入には海外からの中間財が含まれています。外資には配当や技術使用料も支払う必要があり、その分に関しては中国のGNPには計上されません。急速に伸びているITや電子部門でも、売り上げの70%は外資系のシェアになっています。貿易も加工貿易が中心で、輸出入全体では半分が加工貿易で輸出は55%に達しています。外資系の場合、輸出の8割が加工貿易になっています。このように中国でつけた付加価値=GDP計上部分は非常に小さいのです。これはスマイルカーブ(図1参照)で説明される典型的なものですが、製造過程の流れの川上はR&Dや技術部品など付加価値が高く、真ん中の製造の部分は従来の組み立てが中心で付加価値は低く、さらに川下の販売やアフターサービスは付加価値が上がっていくというものです。世の中はモジュール化が進んでいるので、PCや自動車など複雑なものの場合、100カ国にまたがって生産していることもあります。中国の比較優位はスマイルカーブのあごの部分、すなわち付加価値がもっとも低い部分で、先進国は顔の耳の部分に当たります。しかも、中国の参入によって中心の競争が激しくなって、スマイルカーブの形がどんどん鋭くV字型になっています。中国にとって自国の労働力をもって先進国の技術と交換する比率=交易条件はますます悪化している、という現象が見られます。生産量が増えても所得がなかなか増えないという意味で、中国は豊作貧乏のわなに落ちてしまっていると見ていいのではないかと思います。

図1 スマイルカーブ

中国は賃金が安いので競争力がある、といわれますが本当にそうなのでしょうか。アメリカの賃金が100とすると中国は2.1と格差は約50倍です。これを根拠に中国の競争力は強いといわれますが、賃金だけ見ると南アジアや中国内陸部などもっと安いところはいくらでもあります。それなのになぜ上海に投資するのでしょうか。労働生産性と賃金は見合っているのでしょうか。米国の労働生産性が100とすると、中国は2.7。この2つの数字を割って単位労働コストを計算すると、中国は大体アメリカの8割程度になっています。即ち、中国の優位は50倍ではなく、わずか20%程度でしかない、ということになります。中国の賃金が低いのは労働生産性が低いことを反映しているに過ぎません。もし今後、中国の労働生産性が上がっていけば賃金も上がっていきます。固定為替制度であれば名目賃金があがるし、変動為替レートの場合は人民元の切り上げでドルベースの賃金が上がっていくということになるかと思います。

補完しあう日中関係

日中関係を考えるときに中国脅威論に象徴されるように、競合的になっているという見方が急速に浮上していますが、私は現在はもちろん、当分の間、日中は補完関係にあると言っていいのではないかと思います。競合関係がゼロサムゲームだとすると、補完関係は一種のウィンウィンゲームになるはずです。従って、問題はむしろこの補完関係がなぜ、活かされていないのか、というところにあると思います。

図2 日中間の競合・補完関係

(図2参照)横軸には右にいくほど半導体などのハイテク製品、左を靴下などのローテク製品、真ん中にテレビなどの製品というように輸出品目の付加価値指標を、縦軸には金額をおくと、日本の輸出全体がひとつの山で、中国とは別の山として描くことができます。金額が大きいのは輸出規模が大きく、右に偏っているほどハイテク産業が中心ということで産業構造が進んでいる、としていいと思います。現状では、中国の輸出規模は日本の6割程度で日本の山の方が大きく、いくら日本の成長が止まっているとはいえ、まだ産業レベルも中国より進んでいます。

今後、中国の山が大きくなって右へシフトするのではないか、そして2つの山の重なる部分がどんどん大きくなってくるのではないか、というのが皆さんの懸念でしょう。この重なる部分を日本の山で割ると日本から見て中国とどの程度競合しているのかがわかります。中国から同じように見る場合は重なる部分を中国の山で割ればいいわけです。それを数字で表すために、定義してみましょう。基本ハイテク製品は賃金の高い先進国の輸出品目であると考え、輸出国1人当たり3万ドルのGDPの国からの輸出である、という点数をつけます。同様に、靴下の場合は1人当たりGDPが1千ドルのレベルの国からの輸出であるとします。この3万ドルが1千ドルに比べて高いということは、半導体が靴下よりもハイテクであるとみなします。これを1万品目にわたって計算してみると、グラフが概念図ではなく具体的な姿として描けます。

実際に90年の輸入統計に基づいてグラフを描くと、90年は重なっている部分が非常に小さく、日本から見ると3%。これが95年には8%に上がり、2000年には16%まで上がってきています。変化率としては中国が急速に追い上げていますが、16%の数字自体は高いものではありません。やや乱暴な言い方をすると、16%から残った84%は補完していると見ていいのではないでしょうか。なぜ16%が低いといえるかというと、ほかのアジア諸国と中国のグラフを重ねてみると、おおむね中国と発展段階が変わらないASEANの国々の比率は高いのです。特にインドネシアは80%以上が中国の裏に隠れているという状況になってしまいます。

点数は、同じ産業に分類されると中国のテレビでも日本のテレビでも5千ドルがつけらていますが、実際の単価は数倍も違うので本来は調整しなければなりません。裏にmade in Chinaと書いてあれば部品の輸入比率を勘案せずにたとえば1千ドルで考えてしまっているという問題もあります。それらを考慮に入れると重なっている部分は16%よりも更に少なくなり、10%程度なのではないかと見ています。

これに関連して、アジアにおける発展段階の雁行形態は崩れている、というのが昨年の通商白書の重要なメッセージだったわけですが、私はむしろ雁行的経済発展という形態はまだ崩れていないという立場です。雁行形態の定義が人によって違いますが、国内版は日本の産業の空洞化ではなく高度化の経験から、60年代の産業の中心が繊維、その後、化学、鉄鋼、自動車、電子、というようにローテクからハイテクに上がっていくプロセス。それに平行して国際版は、たとえば60年代日本から姿を消した繊維が韓国、台湾、香港あたりに移転、80年代後半になってNIEsでも繊維がやっていけなくなると、ASEAN、中国に移すという形態をとっています。

この2つをあわせて考えれば、生物学的には一種の国の産業構造の新陳代謝が起こっています。古い産業を切り捨てながら新しい産業を育てていく、ということは日本産業の再生にとっては重要なポイントだと思います。60年代当時、もし日本が、繊維以外は何もできません、これこそ我が国の優位産業だとして輸入関税で繊維を守っていたら化学や鉄鋼といった新しい産業の出てくる余地はなかっただろう、という意味で機会費用は非常に大きいということになります。

産業の雁行形態は、アジアの各国形態の中ではそれぞれ比較優位に立った形で分業体制になっています。低所得国は労働集約財で、高所得国になると産業構造も技術集約型に変わります。日本と中国以外にNIEsの各国も含めてみました。縦軸に産業構造が進んでいるか否かに焦点を当ててみました。ここはシェアになっていてそれぞれの山を合わせて100%になるようにすると、シンガポールも日本も同じ大きさの山になっています。日本経済が10年止まったままであるといえ、日本はアジアの産業のリーダーで、中国はこの10年間、非常に頑張ったとはいえ下から1-2位を争っているという立場は変わっていません。真ん中にNIEsの国々、アジアの国々があるのは、従来の雁行形態の構図そのままなのではないかと思います。ただ、真ん中が非常にきつい状態にあります。アジア通貨危機のひとつの説明として、真ん中の国々の対応が難しくなって危機を招いたのではないか、ということもいえるかもしれません。

にも関わらず雁行形態は崩れたというのが世の中の主流になっています。その代わりに提示されているのが蛙飛びのパラダイムです。中国はIT技術を活かす形で苦労せずにいきなり先進国になれる、といわれていますが、中国の研究者などにその話をすると、まともな経済学者からはそんなことはない、といわれます。歴史的に50年代の大躍進と、70年代後半に躍進したものの失敗した経験があって蛙跳びには慎重になっています。そもそもハイテクであるほどいいという経済法則はどこにも存在しません。先進国である日本にとっては有効かもしれませんが、まだ発展途上国の中国にとっては有害無益であって、むしろ中国の比較優位、適正技術は何なのかということが重要です。中国は今、大きな雇用問題に悩まされています。あまりハイテクに走りすぎると雇用創出しないので、社会問題になりかねないという一種のジレンマに直面しているのです。中国は、国としては儲からないともたない、というのが現状です。儲かる企業は実は中国が比較優位の労働集約型産業がその中心になるのではないかと思います。中国は大きな国なので、一点豪華主義で頑張れば何とかなる、という分野もあります。しかし、それはあくまでもエンジニアの発想であって、同じ金額でもっと中国にとってメリットになることがあるのではないか、という考え方もあります。国全体の産業の高度化を図るには人的資本の向上と、技術開発能力の向上しかなく、残念ながら乗り越えるべきハードルがたくさん待ちかまえています。

日中間が補完関係にあると申し上げましたが、なぜ補完関係ならばウィンウィンゲームなのか。完全雇用で価格調整が全て済んだ段階という前提で、中国の台頭による日本への影響はどうなるのでしょうか。その前提となるのは、改革開放以降の中国をどのように理解するかです。改革開放によって中国が比較優位に沿って世界経済に組み込まれてWTO加盟以降、その傾向は加速します。単に貿易や直接投資が増える、というだけではなく、比較優位に沿っているというところを強調したいと思います。重厚長大でも効率が悪くても自分で作ってしまったという時代がありまして、振り返ってみると法律で規制されるに到っているのでそれは見事に失敗しました。その反省にたって、78年以降そのような追い上げ政策を放棄し、マーケットに任せることになり、裸で戦える産業だけが残る、ということになりました。そのようにして中国において13億人という労働力を活かした労働集約型産業が伸びてきたのは、ようやくこの20年の間のことではないかと思います。

中国のように大きな国が労働集約型製品を輸出して、代わりに従来無理して作ってきたハイテク製品などは先進国から輸入するようになるということは、世界全体から見て相対価格が変わることになります。中国の交易条件は、労働集約型製品が中心の輸出財を技術集約型製品中心の輸入財で割ると、定義されます。この20年間の需要と供給の変化を見ると、中国によって労働集約型製品の価格がどんどん下がっていき、交易条件もどんどん悪化しています。これは実は、先ほどのスマイルカーブと同じ結論になります。つまり、工程で分けて考えても製品別で分けて考えても、中国は輸出を伸ばせば伸ばすほど、収入は増えないという一種の豊作貧乏の状態に陥っています。実は、ASEANにとってのimplicationと日本にとってのimplicationが逆になっていて、ASEANの交易条件は実は中国と同様に定義されています。なぜなら中国と競合関係にあるからです。従って中国の交易条件が悪化する、ということは直ちにといってもいいほどASEANの交易条件もつられて悪化します。ところが、日本の場合は中国の輸出財は日本の輸入材にあたるし、逆もしかりです。中国の交易条件が悪化するとその裏返しで、補完関係にある日本の交易条件はむしろ、改善します。実質的に所得の低い中国から日本への所得移転が行われている。それにも関わらず、日本において中国脅威論が起こるのは不思議に思えます。

短期的な失業や景気循環を考慮するとどう変わるのか。価格の安い中国製品の流入は日本のデフレ要因というのは1つの事実ですが、2つの側面に分けて考える必要があります。世の中でいわれる「悪いデフレ」、即ち中国製品が安くなると日本製品が売れなくなり、チャイナシフトしてしまうと日本の物価が下がるだけでなく、生産も代替されるのではないか、結果として失業も増えるのではないか、ということは非常に注目されていますが、先ほどのグラフを思い出して頂くと日中で重なっている山の部分は非常に小さいので、さほど心配することはありません。むしろ、中国と補完する部分、即ち原材料を輸入している企業にとって、中国発のデフレは望ましいことです。極端にいうと、ユニクロの場合、中国からの輸入が安くなればハッピーなんです。ユニクロが輸入しているのは製品であることをとらえて国内産業の空洞化である、と主張する方がいますが、先ほど申し上げたように1000円の価格のうち900円は日本でつけている付加価値であることを考えれば、ユニクロにとって中国から輸入しているのは完成品ではなく、あくまでも一部の部品である、と理解した方が正しいのではないでしょうか。プラス、マイナス、両方の側面があってどちらが正しいのか、日中は補完関係とみるのか競合関係とみるのかによって、結論は逆さまになっています。私の計算が正しいとすれば、よいデフレの側面のほうが大きいのではないでしょうか。消費者にとっては、全部良いデフレであって悪いデフレはありえません。

日中の補完関係を考えると、中国の台頭はビジネスチャンスととらえるべきであるにも関わらず、日本の企業の方から中国の生産は伸びていて我々にとって脅威なのだが、残念ながら期待したような魅力が市場にない、という議論をしばしば耳にします。その可能性は3つあります。まず、外資企業だけがもうかって中国の所得は増えない。GDPは増えてもGNPはそれほど増えないので中国人の購買力はなかなか上がってこない、ということです。ただその場合、なぜ欧米企業だけ儲かって日本の企業が儲からないのかという問題に直面します。

もう1つは、中国は貯蓄率が高く、輸入よりも外貨準備が急速に増えて米国債のような金融資産に流れているのではないか、という面もあるかと思います。他方、日本の国債発行高は世界一になっているにもかかわらず、中国の外貨準備はなぜJGBで運用しないのか、というあらたな反省材料が浮上します。3つ目は、再三申し上げたように中国は豊作貧乏に陥っていて、20年間平均10%成長したにも関わらず、未だ労働者の賃金はひと月100ドル前後にとどまっているという状況にあるということです。

日中関係が補完関係にあるということと、中国の多様性を考えるときにこれから中国とどのように付き合うべきか、簡単に触れておきたいと思います。最近の日本企業の対中ビジネスを見ると、マーケットとしての中国イコール直接投資という形態にこだわりすぎているのではないか、という印象を受けます。もっと業種によって多様なものが求められるのではないかと思います。中国マーケットを目指すために、なんでも工場を建てる、ということを考えなくてもいいのではないでしょうか。自動車の場合、日本の大手自動車会社は例外なく、熱心に中国に進出しようとしています。しかし、私はとてもおかしいと思っています。WTO加盟の前は、中国で車を売るには関税が80%ないし、100%かかったので現地生産しか選択肢は無かったわけですが、今後は25%まで下がることを考えれば、日本で生産して輸出した方が有利にはたらくのではないかと思います。日本が本気で中国マーケットを目指すならば、むしろ販売網やアフターサービスの強化にお金を使ったほうがいいのではないでしょうか。このままだと2003年に中国で車余り現象が出てくるのでは、と懸念しています。

たとえばユニクロは中国で大きな商売をやっているにもかかわらず、上海に出店するまでは直接投資をしていませんでした。出資して工場を建てていない、という意味で公式の統計でもユニクロは中国に投資していないことになります。なぜそれが可能だったのか。貿易と直接投資の真ん中にあるOEMや開発輸入という形態をとっていたからです。自前で工場を持たないので非常に身軽で、リスクが小さい。下請けのネットワークをもっていて使えるところは継続して使って競争させて、だめなところとはもう契約更新しない、といった新しいモデルを提示しているのではないか、と思います。

21世紀の中国経済

21世紀の中国を巡る三大ニュースを大胆に予想すると、「一党独裁政権の終焉」「中台統一」「中国のGDPが米国を抜く」であると考えています。

現状では、経済基礎と上部構造の矛盾があり、中国当局もこの矛盾を感じています。もはや社会主義経済とはいえず、計画経済から市場経済へ、人民公社から家族経営へ、公営企業から民営企業へと変化しています。また、江沢民が3つの代表論を展開して、無産階級の代表から全民代表へ、という政治体制のソフト・ランディングを目指す動きがあります。また、ある程度、経済が発達すると民主化の流れが生まれてくるという、台湾と韓国の経験も参考になります。その中で共産党による一党独裁政権は終わりを迎えるのではないでしょうか。

中台統一については、経済格差がこれまでの大きな阻害要因でした。今や、上海に30万人の台湾人が住んでいるといわれます。中国経済が発展して自信を持つことで、武力を見せる必要がなくなっているのはよい兆候で、台湾側から大陸と一緒になりたいという声が出てくるのではないでしょうか。

最後にGDPについてですが、改革開放に取り組んで以来、平均10%近い成長率を遂げているにも関わらず、同じレベルにとどまっています。本日の話では、中国のレベルは低いということを強調しましたが、決してこれからの中国の成長性を低く見るつもりはありません。むしろ、今後20年では7-8%の成長率は続くのではないかと見ています。2020年以降、人口が減少し始めて高度成長期は終わると思いますが、先進国への追い上げが終わるわけではなく、成長率の格差の代わりに人民元が強くなる形で、追い上げが続くだろうと見ています。これをもとに予測すると、21世紀の半ば頃に中国のGDPがアメリカを抜いて世界一の規模になる可能性があります。

沈才彬(三井物産戦略研究所中国経済センター長)

関さんのお話は、正確なデータを駆使し、論点を展開するというところに説得力があります。特に、相互補完関係や中国の台頭は日本の脅威にならない、という部分はそうです。残念ながら、関さんには反論できないので(笑)、中国を見るときの視点、消費生産の日本経済に与える影響、日本の人口構造の変化、日中のGDP・輸出入の伸びを見ると停滞する日本と躍進する中国という姿に見えますが、日本にとって中国は参考になるのか、21世紀の中国とどう向き合うか、という事柄について問題提起をさせていただきます。

1.中国を見るときの視点で、竹中平蔵経済財政政策担当大臣にご説明したのは、バランスの視点、すなわち光と影を複眼的に見る必要がある、ということです。2つ目はビジネスの視点で、巨大市場と世界工場としての中国の両方を見ること。3つ目は、中国だけでなくグローバルな視点、特に日中関係は多国間関係において見た方がよい、ということです。

2.中国の消費市場はますます巨大化しています。日本の輸出全体に占めるシェアは急速に高まっていて、香港向けの中国シェアはわずか10%だったのが、2001年には13%になりました。今年はさらに15%、他方、アメリカのシェアは低迷しています。対中輸出と対米輸出シェアを比較すると、36%から45%に、さらに今年50%を越えました。米中逆転が視野に入っています。中国のGDP規模の3.1倍の拡大、輸入規模は3.8倍。多くの消費財について、中国の市場規模は日本のそれを上回っています。

3.日本の人口構造の変化、特に若年層の急減および経営者の高齢化は大きな問題でしょう。少子高齢化社会にどう対応するか、中国との関係においても課題となっています。

4.躍進する中国は日本にとって参考になるところが結構あるのではないかと思います。東京大学の伊藤元重教授は、中国は日本にとってすぐれた鑑である、と発言しています。たとえば中国の産学連携で、中国は大学から生まれた企業が昨年末時点で5000社ありました。他方の日本はわずか263社です。中国では新しい産学連携型ビジネスモデルが生まれているといえます。また、2002年8月時点で外資系が80万社あって、大きな影響力をもっています。日本も空洞化を乗り越えるためには外資をとりいれるべきではないでしょうか。中国の高度成長は、これらの改革の連続であったといえます。

5.21世紀の中国にどう向き合うか。1)疎通して防がずという、洪水対策としての言い方があります。中国の工場化はもはや防ぎようが無く、また防ごうとすると洪水氾濫になる危険性があるので、中国をWTOルールの遵守に導いていく方が現実的でしょう。2)長所を活かして短所を回避することも大切です。日本企業の長所は優れた技術力であり、短所はコストが高いことです。やはり、付加価値の高い新しい産業、分野、技術など新しい素材の創出につとめ、中国企業との分業体制の創出が課題となるでしょう。

関志雄(RIETI上席研究員)

日本は、旧体制の改革よりも新体制の育成を中国から学ぶべきなのではないでしょうか。本来、これから育つ部分に資源を投入すべきです。また、空洞化を恐れず、競争力を考えて積極的に海外に移転するべきでしょう。既得権益をどう守るのか、ということに腐心しすぎて機会費用という発想が足りないように思います。

質疑応答

Q:

欧米企業との競争力を考えたときには、中国に進出してコストを下げていくというビジネス上の判断もあるのではないでしょうか。

関:

欧米は日本より早く進出してしまいました。また、日本はWTO交渉のときになぜゼロ関税を要求しなかったのでしょうか。もっと自由貿易を主張してもよかったのではないでしょうか。市場の地理的位置を考えれば欧米に比べて日本ほど近いところはなく、日本に工場を持っている欧米の自動車メーカーはありません。ビールは現地製造のほうが新鮮で合理的だと思いますが、生産地を訪問して自動車を買うとは聞きません。あくまでも経済の理屈ですが、それも重要なのではないでしょうか。

沈:

日本のメーカーは本当は進出したくないがせざるを得なかったのです。1つは市場としてこれから拡大の余地があるのは中国ということ。もう1つは、中国はWTOに加盟しましたが、中国の今の乗用車の輸入関税率はとても高いことです。WTOに対する公約では2006年までに25%に引き下げることにはなっていますが、これは自動車メーカーにとって大きな数字です。現地に進出しなければ欧米メーカーに太刀打ちできません。

Q:

為替政策について、いずれ資本収支の自由化ということでドルペッグの維持が難しくなると思います。お考えを聞きたい。

関:

金融に限っていうと、改革を進め、開放はできるだけ遅らせるべきではないでしょうか。その上で、最初はワイダーバンドにして柔軟に変動させ、人民元が切り上げ圧力にさらされるという条件でドルペッグを手放す。外貨準備が増加する中、中国は逆イールドになるので、真剣にドルペッグ離脱を考えるべきではないか。このような議論が中国で許されるということは、政府も覚悟しているということなのではないでしょうか。

沈:

将来的には元高です。中国の公式為替レートによるGDP評価と購買力平価によると評価には2~3倍のギャップがあります。このギャップを縮めるために元高方向に持っていくべきですが、すぐには難しい。逆説的には、切り下げの可能性の方があります。WTO加盟で市場開放措置から輸入が増えて経常収支が赤字に転落すれば、人民元の切り下げにいたる可能性があります。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。