長さ計測へのこだわりが導いた企業繁栄

開催日 2002年9月13日
スピーカー 浅沼 進 ((株)浅沼技研代表取締役)

議事録

私は、中小企業の社長にすぎませんので、話は下手です。しかし、物づくりに関しては、特に、三次元測定に関しては、誰にも負けないつもりです。物づくりの世界を、この三次元測定で変えていきたい、良くしていきたいという気持ちは誰にも負けないと思っています。

日本の現状について

商売は、今までは国内のみの観点で成り立っていました。しかし、未来へ向けてますます国境を越えたグローバルな取り引き(インターネット取引等)が主流となってきています。各企業においても、従来は、「日本で生まれた企業だから日本にある」という感覚がありましたが、研究開発が進み、どこでも迅速かつ正確に品物を生産できるようになってきたことから、賃金や税金の安い国へと各企業が移行し、製品生産を行う場所も、やはりコストの低い国へと移行しています。現在は、世界的に、そのふるいをかけている時期ではないかと思います。

現在の日本はどうでしょうか。

先進7~8カ国の中で、基本的に農業で国民の食をまかなえない国は、日本だけではないでしょうか。日本は農業国ではない故に、外貨を獲得し、食糧事情の安定を図らなければなりません。そのような工業国です。日本人は昔から、手先が器用であるといわれています。歴史を振り返ってみても、その手先の器用さで日本は過去を乗り切ってきました。私は、今後も基本的なパターンは変えずに手先の器用さを活かし、物づくりで外貨を稼いでいくしか方法は無いと思います。しかし、この物づくりを支えてきた中小企業が、今、メーカーの中国への進出により、コスト面において厳しい状態に追い込まれています。人の雇用、納税への要求に応えられる程の元気はなく、そして、自信もないのです。

低迷脱却の手段となる、三次元測定機の問題

私は、中小企業の低迷脱却の手段として、この三次元測定機の精密度を上げること、つまり、長さ測定の管理、規定づくりを挙げています。物づくりにおいて、計測作業は、最も大事な過程の1つです。計測に三次元測定機が使われるようになり、今までは、手動で数時間掛かっていた測定が、簡単に5分で終わってしまうようになりました。しかし、その測定機の精密度は、どこまで信頼ができるのでしょうか? メーカーが測定機の精密度を測る時の環境と、実際に測定機が使用される工場には、温度差等の環境差があります。にもかかわらず、三次元測定機の精度検証は、年に一度程度しか行われていないことがほとんどです。メーカーからは、24時間空調を行う環境上での精度が表示されています。しかし、実際の工場で、稼働をしていない夜中に空調を行っているところはあるでしょうか? これらの環境差の中で、しかも検証回数の少ない中で、三次元測定機は、どこまで信頼性を保てるのでしょうか?

私の会社は、精密金属機器をメインに製造しております。16、7年前、関東のある自動車メーカーに製品を持っていった時、「5ミクロン精度が違うよ」といわれました。弊社も御社も三次元測定機を使用しているのに、どこが違うのかということで、精度を比較しました。結果としては、弊社が正しかったのですが、メーカーからは、下請けである弊社が彼らに従うことを要求されました。三次元測定は、このように大変いいかげんなものなのです。しかし、このような曖昧さに日本はどこまで危機を感じているのでしょうか。この問題を何とかできないかという思いで、この三次元の計測・長さ測定について、世界で精密度を誇るドイツに幾度となく、何年も通い勉強をしてきました。そして、三次元計測の不確定さを証明するためのものが必要だと気付きました。その後、アメリカで認証の実施試験等を行い、三次元測定機の認証用ツールを開発しました。この認証用ツールを使うことで、今まで認識されてこなかった、三次元測定機の問題が浮き彫りにされ、長さの基準管理への道が開けると考えたからです。

ドイツやアメリカは、この三次元測定機の問題にいち早く気付き、測定の標準作成をはじめました。そして、計測の世界標準を作るべく準備をほぼ終わらせています。計測の管理を世界標準にしようという動きが現在進行中なのです。個々の計測規定は、ドイツ、アメリカでは、500-600個、韓国、中国では200-300個あります。しかし、日本ではまだ、たったの60個しかありません。規定の数からも窺えるように、この長さ計測に対する物づくりの甘さ、認識の甘さが、各国(ドイツ、アメリカ等)との差を付けてしまうのです。これだけ、グローバルにビジネスが行われる中、この長さの基準を合わせていかないと、日本は世界から取り残されてしまいます。

また、三次元測定機の精度を上げることにより、資源、材料、燃料の費用等、3割のコストダウンを行うことができます。弊社で材料不良等による人件費、電熱費のロスを計算したところ、約2億円のコストダウンにつながることが明らかになりました。つまり、測定機の精度を改善することで、材料不良が低下し、歩留まりが安定するのです。そうなれば、余計なリストラを行う必要もありません。

三次元測定機認証用ツールについて

実際、測定機の認証用ツールを使っていただいたお客様には、こんな間違った測定機で物を作っていて、怖い、恐ろしいことだという認識をしていただいています。

実践検証として当社のクオリティーマスター(三次元測定機認証用ツール)を公的機関である東京電機大学、浜松工業技術センターおよび各工業技術センター(長野・鳥取・山口・福岡・熊本)へ無償で貸し出しています。そこで、三次元測定機の精度確認を日々行い、8月9日に浜松工業技術センターでの成果をしずおか産業創造機構スポンサーの下、発表しました。発表会は大好評でした。現在、浜松工業技術センターでは、6シグマ1.3ミクロンをどのようにすれば確保できるかについての研究が終わり、今年度からは不確かさの表記ができるようにという研究を、引き続き行っていただいています。

現在、浜松工業技術センターにおいては、三次元測定機の精度確認ができています。不確かさ表現でデータが±3ミクロン以内であれば、確実に保証できる状態です。そして、浜松工業技術センターには、中小企業からの測定依頼を積極的にうけていただいています。依頼された企業の製品および部品については、どこにだしても「このデータは絶対に間違いがない」と言い切ることができ、中小企業が、測定された製品および部品に絶対の自信を持って、大手メーカーと対等に渡り合えることが可能となりました。以前は、メーカーの測定した結果が全てであり、何もいえない状態でした。現在は寸法の確保が保証されたことで、修正などにたいしても的確に対応できるようになり、中小企業の強化策になりつつあります。このように、中小企業が自信を持って物づくりに邁進できることが絶対必要です。さきほどもお話しましたように、中小企業は物づくりに自信をなくしています。そのことを回避し、自信回復をするためにも、この状態を、他の地域にも広めていきたいと考えています。

今、私は、スポンサーを捜しています。お金のためではなく、物づくり存続のために何かしたいという考えからです。最初にもお話しましたが、日本は農業国ではありません。工業国です。日本は、物を買ってこなくてはならない国です。それを支えるのは中小企業の活性化であり、物づくりなのです。

質疑応答

Q:

半導体装置が、オランダに負けているという話がありますが、その理由の1つには、計測機が自動計測を夜中に行い、加工をするときには、自動補正されている、つまり朝になれば、補正されているということがあるそうです。この辺りの日本での見解、見通しはどうなのでしょうか?

A:

それは、コンピュータとつないで自動補正を行っているのだと思います。これに関して、ある大学とどの方法がよいかを検討しています。ドイツの会社と弊社で提携し、行おうというところまできています。しかし、まず日本国内の計測基準統一が必要です。この統一によって日本の競争力が上がれば、オランダにも勝てるようになります。話はずれますが、中国、韓国からも弊社に引き合いのお話がきましたが、お断りしました。これらの技術を彼らに教えてしまえば、中国、韓国に先に(計測統一を)行われてしまうと考えているからです。

Q:

三次元測定機認証用ツールは、カタログを見ると、立方体のものと円柱のものがありますが、穴の数においても、特許のポイント等があると思うのですが。

A:

特許上で類似品はありません。立方体のものは、私が10年以上前に特許をとったものです。特許において、あまり問題はありませんでした。

Q:

もともとは金属精密加工機を製造されており、その過程で、自社製品を製造されるようになったとのことですが、中小企業が自社製品を持つことは、なかなか大変なことだと思います。自社製品を製造されるようになった経緯、方向性、技術の確保等についてお話いただければと思います。

A:

まず、弊社が自社製品を持つことは、昔から私自身が考えていたことでした。中小企業として徹底的に考えなくてはならないことは、スタッフ、資金、何もかも足らないということを認識し、それらをどのように解決していくかということです。根本的な結論は時間です。やろうと思ったことに関して、何年で勝負するのかを決定し、最小限の費用で行っていくための長期ビジョン計画が重要です。また、中小企業はトップの社長がワンマンで行っていることが多く、思いこみの激しさから(事業に)のめり込みすぎてしまうことは良くありません。冷静さが必要です。私は、創業前はサラリーマンでした。10代のころから目標を立てていましたので、まず大企業に入り、その後中小企業で技術を学び独立しました。今実際に行っていることは、私が昔立てた計画通りなのです。今後は、65歳で次の会社をおこし、70歳まで働くという計画があります。

Q:

外部の研究機関との技術協力はどのように行っているのでしょうか?

A:

大学については、公立ではなく、ほとんど私立の研究所と行っていました。これは、私立であれば、先生に直接お金を支払えるからです。今は変わったようですが、かつて公立大学で支払いがうまくいかず、先生に直接払われなかったため、先生が資金欲しさに完成していないものを学会に出してしまい、特許がとれなかったということもありました。後は、紹介によるものも多いです。

Q:

アイディアからビジネスへの転換において、プランのスキルをどのようにして身につけたのですか?

A:

社長というのは、私も同様ですが、自社製品が売れると思い、一生懸命やっています。しかし、私はワンマンでやっているのはいけないと自分を抑えることをしています。製品に対する思い入れによって、冷静さを失わないようにすることが計画性をもてることのコツだと思います。

Q:

測定の基準はあるのですか? それとも、その基準を早く決めることが入り口ということですか?

A:

そうです。その基準を決めようとしている最中です。まず、基準を決める必要があるという認識を持っていただくことが大事です。

Q:

日本にある60個の規定は、たとえばどのような規定があるのですか?

A:

重さと波長の規定です。穴の規定、直角度の規定は、日本がバブルのころ、海外でつくられていきましたが、日本は、現在その規定を一生懸命つくっているところです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。