日本発バイオ・ベンチャーの価値創造最前線

開催日 2002年9月11日
スピーカー 大滝 義博 ((株)バイオフロンティアパートナーズ代表取締役社長)
モデレータ 安藤 晴彦 (RIETI客員研究員/内閣府企画官(経済財政運営総括))

議事録

司会:
今日は「日本発バイオ・ベンチャー最前線」ということで、バイオフロンティアパートナーズの大滝義博社長をお招きしています。大滝社長はバイオ・ベンチャーキャピタリストの第一人者としてご活躍中です。東北大学で農学博士を取得された後、野村生物科学研究所に入所され、その後ベンチャーキャピタル最大手日本合同ファイナンス(現ジャフコ)に転じられ、大学、研究所の要職も兼任されています。99年に、バイオフロンティアパートナーズを設立され、9月には公開予定も1社おありです。大学発のシーズをどのようにビジネスモデルとして切り取っていくのか、中小企業にもチャンスはあるのかなどを含め、バイオ・ベンチャーの最前線をご紹介いただきます。最近ではアメリカ、ヨーロッパからも案件を持ち込まれるほどのご活躍です。

大滝氏:
バイオ・ベンチャーの事例は、日本ではまだまだ少ないのですが、日本で受け入れるためにはどうしたらよいのか? についてお話しします。

バイオ・ベンチャーの明暗

2000年はバイオ・ベンチャーにとって新たな出発の年となりました。米国のバイオ・ベンチャー、セレーラ・ジェノミックス社がヒト・ゲノムの塩基配列を公開したのです。世界中がゲノムブームになり、ヒトゲノムを解明するベンチャーの驚異が注目されました。それからまだ2年しか経ちませんが、世界は既に新たな技術の開発へと変革しています。
1953年にDNA二重らせん構造が提唱されてから、遺伝子組み替え技術、細胞融合法によりバイオビジネスが立ち上がりました。その後、インシュリンが製品になり、FDAに認可されました。クローンなどを含めて、バイオテクノロジーは非常な速さで動いています。現在、バイオテクノロジーは、エレクトロニクスや他の新しい領域との融合、創薬に必要な要素技術の開発も進んでいます。ここ20~30年に数多くの技術開発によってバイオが注目され産業化されています。

実は、このバイオビジネスは2000年を境に大きく変化しています。DNA配列が解析されてしまい、むしろそれに対応するタンパク質解読へと世界の流れは変わってきました。つまり、2000年以降は、バイオ分野の既存のビジネスモデルが通用しなくなり、大幅に方向転換する企業が続出したのです。そこで、ゲノム・ベンチャーの明暗が大きく分かれました。

以前、ゲノムベンチャー優良5社といわれた、セレーラ・ジェノミックス社(セレーラ社)、インサイト・ジェノミックス社(インサイト社)、ヒューマン・ジェノムサイエンス社(ヒューマン社)、ミレニアム・ファーマスーティカルズ社(ミレニアム社)、ミリアッド・ジェノミックス社(ミリアッド社)の間に大きな差ができました。株価推移で見ると明確です。ヒトゲノムの塩基配列を公開したセレーラ社の株価は、2000年に$250まで上がりました。その後大きく下げています。インサイト社の株価動向もセレーラ社と非常によく似ていますが、2000年に$140だったものが翌年には半分以下、そして現在は$6です。この2社はビジネスモデルが似ています。セレーラ社はヒトゲノム配列解析データを基にビジネスモデルを構築しました。データベースからアクセス料を取る仕組みです。しかし、それには限界があり、全世界にデータが広まった後はアクセスがなくなり、データベース構築料が赤字として残るだけでした。インサイト社も全く同じでした。ヒトの遺伝子情報が載ったデータベースを構築しましたが、ヒトゲノムの塩基配列が分かってしまったのでその必要がなくなってしまったのです。

他方、残りの3社の株価は2000年に上がっているのは同じですが、その後下落した後に再度盛り返しています。3社の株価を重ねてみると、ほとんど同じパターンを示しています。

何故このように明暗が分かれてしまったのでしょうか?

この3社のビジネスモデルは前2社とは全く違います。ヒューマン社は医薬品として使う遺伝子だけに特化して、独自の創薬企業を目指しました。自社でヒトの臨床試験を実施しています。ミレニアム社は積極的に製薬企業との提携を進めています。ミリアッド社は、タンパク質研究の重要性を早くから認識し、タンパク質間の相互作用研究に着手しました。また、製薬企業になった第1世代のベンチャー、アムジェン社、IDEC社の株価は、2000年に上昇し、その後も安定しています。既に医薬品開発に成功し、売上を立てている会社だからです。

このように、ビジネスモデルの如何によって、バイオ・ベンチャーの行く手は明暗がはっきりと分かれました。

ビジネスモデルの重要性

今や世界中で創薬のパラダイムシフトが起こっています。従来のMedicinal Chemistryで誘導体を多数作ってみる創薬研究から、ゲノム情報に基づいて、コンピュータも駆使して予測した上で、イノベーションの確度を高めて創薬する手法に変化しています。ゲノム情報が解読されたことで、薬の標的となる遺伝子の絞込みが可能となり、薬理効果と副作用とのバランス向上を狙えるようになりました。今後は、こうした点を踏まえずには創薬はできなくなっています。医薬品の開発過程がゲノム解読後に、明確に異なってきたのです。

このような状況下で、日本のメーカーにとっても、競争相手は国内だけではなく世界がライバルであって、1社でできることには限界があることが認識されるようになってきました。

自社の研究所で全て抱えようとすると、費用対効果でも効率性が悪く、他方で、長期の研究充実も大切です。そこで、戦略的パートナーとしてバイオ・ベンチャー企業の活用が着目されてきました。

遺伝子配列が確定して、バイオの世界では、ゲノム情報からどのようなビジネスを組み立てるかが勝負になってきました。また、解明されたのは未だ配列だけで、特許にするには、特定の配列に対応する機能がセットで分からないととれません。現在、世界中で、特定のゲノム配列と機能をワンセットに揃えて特許をいち早くとる特許争奪「戦争」が起こっています。目標は、「オーダーメイド治療」、「テーラーメイド治療」で、個々の患者に合わせて薬を調合し、その患者に最大の効果(と最小の副作用)を及ぼす治療をすることです。日本ではミレニアム・プロジェクトとして実施されていますが、こうした応用分野での開発は、世界中で熾烈な争いになっています。

しかし、必要な要素技術は非常に多数あり、それをどのようなビジネスモデルにするかはまったく別問題です。

例えば、特定の疾患に関するある遺伝子を発見したとします。その際にビジネスモデルとして考えられる具体例を挙げますと、9つの類型が考えられます。1)一番簡単なのは試薬を販売する。2)DNAチップにして診断薬として販売する。3)遺伝子をそのまま使って遺伝子治療を行う。4)DNA情報と対になる相互螺旋を作る「アンチセンス医薬」として販売する。5)「リボザイム医薬」の販売。6)DNAをタンパク質にしてペプチド・蛋白医薬を販売する。7)タンパク質を解析して蛋白質高次構造のデータベースを販売する。8)従来の低分子医薬を販売する。9)薬ではなくテーラーメイド薬品の解析、すなわちSNPsを商売する。同じネタでも、色々なビジネスモデルが出てきます。

次に、バイオベンチャーの3つのビジネスモデルとマーケットサイズの例を挙げます。

1. DNAやそこからできるタンパク質をそのまま試薬、抗体として販売する。これは、試薬販売会社という形ですが、ユーザーは大学等の研究者しかいないので、年商にすると数百万~1千万円くらいです。

2. 各種の診断薬販売や計測機器を製造する。これは、日本では未だ大きくない市場(2001年で約100億円)ですが、数億~数十億円の年商が見込めます。良い遺伝子を見つければそれなりの商売ができます。

3. DNA情報や、タンパク質情報、化合物情報を利用して医薬品開発を行い、販売する。提携する大手製薬企業からのマイルストーン(段階的)支払型も多いですが、数十億~数百億円の売上が見込めます。ミレニアム社のようにバイエル社から500億円もらっているのもこのモデルです。

このように同じDNAから始まっても、年商にすると数百万円~数百億円も違ってきます。ベンチャーを立ち上げるときには、単に、技術の善し悪しだけでなく、どのようなマーケットを目指し、ビジネスモデルをどう選択し、構築するかが非常に重要です。

一例ですが、エリスロポリチンというたった1つの遺伝子で、国内市場は2001年に1200億円の売上があります。このように一つの技術でも大きな市場があるわけですから、何を目指し、どのような企業に育てるかは、ベンチャー企業とキャピタリストにとって非常に重要なポイントになります。

それでは、我が国では、どのようなビジネスモデルを構築できるでしょうか?

研究・開発ツール提供企業は生き延びることができるでしょう。ゲノム科学は、バイオ技術だけでは発展しなくなり、バイオ・エレクトロニクス、メカトロニクス、バイオ・インフォマティクスなど所謂周辺産業がゲノム分野に参入しています。研究・開発ツールの提供企業とは、そうした中で、ロボットやDNAチップを作って収入を上げています。たとえば、装置でもDNAの配列解析装置では高いもので6000万円くらいします。装置は世界中で1万台くらい出荷されています。元々のコアの基本技術は日本が持っていたのですが、ほとんどの装置は欧米で生産されています。日本のバイオ研究開発費のかなりの額は装置購入費として欧米企業に流れます。DNAのハイブリッダイゼーション装置でも同様です。

DNAチップも進化し続けています。DNAチップとは、半導体加工技術を応用して、数ミリから数センチ角に数千個から数万個のDNAが着いています。ある病気に罹患しているかなど色々な情報を判別できます。まだ初期段階ですが、DNAチップという産業がでてきています。世界中でチップ・テクノロジー、所謂ナノテクノロジーを使ったチップが続々と作られ始めています。一つのチップ上で、試験管数千本分の実験を同時かつ短時間に行うことができます。コストも時間でも、非常に効率が良いのです。しかし、日本はこの分野ではかなり遅れています。DNAチップ製作装置がやっと出てきたところです。このような技術は全て日本にもありますが、残念ながら、日本企業はやっと始めたところで、ほとんど欧米からの輸入です。国が大学や企業に出すバイオの研究開発費をチェックすると、5~6割は、海外の機械を買うために使われています。どれをみても要素技術は日本にあるのに、数百億~数千億円が海外に流れています。ミレニアムプロジェクトのように政府が力を入れて海外にお金が出てしまい、国内の装置産業が育たないのでは非常にもったいないのです。

ケーススタディ1 プレシジョン・システム・サイエンシズ社(田島秀二社長)
私がジャフコにいたときに投資した会社です。ベンチャーとしての事業展開は1995年でしたが、ジャフコの投資は翌年の1996年です。2000年にはナスダック・ジャパンに上場しました。その過程では、ビジネスモデルの変更が多々ありました。最終的にはロッシュ社とのライセンス契約で大きく伸びたのですが、ここに至るまでの間、毎月社長と提携先について大議論しました。ある日本企業にも話を持ち込みましたが、大企業側の研究者のプライドが非常に高く、ベンチャー企業の技術は使えないと判断され、提携できませんでした。そんなとき、米国の展示会で田島社長がロッシュの社長と会い、OEM契約に至りました。また、スウェーデンにDr. Uhrenという先生がいますが、この先生との提携も持ち上がりました。最終的には、世界で売れる機械にするのが鍵なので、とにかく契約するよう勧め、Uhren先生の所属するMagnetic Bio Solution社ともOEM契約しました。日本では東洋紡と提携してビジネス展開してきました。

基本技術になぜ私たちが投資したかというと、DNA抽出実験に関する技術があったからです。それまでの実験では、試験管を使い、遠心分離機で回して沈殿と上澄みを取ると大変煩雑な作業が当然のように行われてきました。しかし、田島社長は、磁気のあるビーズを使えば全て自動化できると発想しました。これは重要技術だと思い投資しました。結果的に非常に上手くいき、遺伝子構造解読装置など次々と新製品ができてきました。Magnetic Bio Solution、ロッシュ、東洋紡、Geno Visionが販売提携先になってくれ、世界中に製品が出るようになりました。そして、上場できたのです。DNA関連機器は日本ではスタートしたばかりですが、このような分野でも公開まで行ける証明ができました。

冒頭にも述べましたが、世界の流れは、DNAそのものからタンパク質に変わっています。タンパク質の関連機械にビジネスチャンスが巡ってきています。たとえば、質量分析装置によって千分の1秒でがんの判定などができますし、色々な使い方もできます。しかし、残念ながら、日本ではバイオ向けのタンパク質分析装置がなく、欧米のベンチャーから1台数千万円で購入しています。これからは、この状況を変えていかなければと思っています。同時に、機械だけでなく製薬分野でも日本でベンチャーを育てないといけません。

ケーススタディ2 アンジェスMG社(山田英社長)
大阪大学の森下先生の遺伝子治療技術を使い1999年12月に創立したベンチャーです。遺伝子自体を大阪大学で発見し、シーズもそこからでてきました。ビジネスモデルは、大手製薬メーカーと研究開発提携をして契約一時金をもらい、契約後は開発協力金つまりマイルストーンを入れ、製品ができた後にはロイヤリティが入る仕組みになっています。特許も全て押さえて研究・開発を始めました。しかし、ベンチャーでワン・プロダクトカンパニーでは危険なので、事業の3本柱を作りました。ヒトの血管新生治療薬(HGF遺伝子治療)、デコイオリゴ(核酸を使った医薬品)、そして遺伝子研究用のベクター技術です。

ベンチャー企業として生き抜くために3本柱を立て、短期、中期、長期の収入機会を含むビジネスモデルを構築しました。

以上が日本国内のケーススタディですが、国際的に見ると、創薬会社化を目指すベンチャー企業は続々と大企業と提携しています。

たとえば、アムジェン社はマウスの肥満遺伝子を20億円でライセンス取得しています。バイエル社はミレニアム社に$456M投資し、その条件は20~2 5個の遺伝子を発見するというものです。

次々と新しい遺伝子を発見し、特許をとり、大企業に売るという流れになっています。また、タンパク質でも同じような流れがあり、OGSというベンチャーがアルツハイマーの標的蛋白質をファイザーに$45Mで売った例もあります。

このように大企業がベンチャーにお金を払う動きは欧米では一般的であり、ベンチャー企業にとっては、如何にビジネスモデルに取り込むかが重要です。

発現プロテオミックスのインパクト

タンパク質を研究する、いわゆるプロテオミックスは、とても重要です。身体の中では、分子が単独で存在するのではなく、一種の系となっていて、薬が入ってくると一部に作用し、それが系全体に伝わります。どこから入るともっとも効率的に治療できるかということが問題となりますが、こうしたプロテオミックスの解析はDNA解析とは違って、非常に解析が難しく、研究方法も多岐にわたります。

それだけに、ベンチャー企業のビジネスチャンスになります。世界中のベンチャーが、タンパク質中心に衣替えしているのは、こうした理由からです。これまで長年かかった創薬の探索に対して、医薬品開発の最適化、臨床試験でわからない部分の確定に加え、タンパク質が色々な部分で非常に重要な役割を果たすことが分かってきました。そこで、今までよりもはるかに短時間で効率的に解析できる世界が広がるのです。バイオ業界ではDNAからタンパク質の情報を使う創薬に変わり、これが大型新薬を生むだろうと言われています。タンパク質解析機械も開発が進んでいます。世界中で開発戦争になっていますが、残念ながら日本はそれに追いついていません。日本の中で要素技術を持つところは、大学も含め、ベンチャー間で連携して世界と競争していくべきだと我々は考えています。

ベンチャー企業創立にあたって

世界に互して競争するには、日本からもっとベンチャー企業が出なければならないと思っています。しかし、日本では、大学発ベンチャー1000社が目標といわれますが、正しい起業の流れを知った上で創業しているベンチャーは非常に少ないのが現状です。ベンチャーというものが何か分からないまま創業しているものが多く、実際には、混沌とした状況です。ベンチャーに真に必要なのは、自分のオリジナリティー、世界でのポジション、そして、何をビジネスモデルにするかを明確にすることです。誰が経営し、誰が研究し、誰が投資するかなど、人材の問題を含めてトータルなシステムの構築が非常に重要です。それを忘れると成功はおぼつきません。

それには、ベンチャー企業成長のために、どんな資金供給源があるか十分踏まえた上でビジネスモデルを創らなければなりません。最初の投資は創業者で、その後(日本ではあまりありませんが)エンジェルがあり、そしてベンチャーキャピタルが何回かに分けて投資します。上場後は市場からも資金調達できますが、公開前にVCが支えきれる額は限られています。創業者のインセンティブを考えると、VCはあまり大きなシェアはとれません。逆算するとVCが支えられるのは数億~10億円だと思います。製品を売って売上を立て、大企業と提携してマイルストーンを組み込むなど工夫しないと生き延びていけません。実際の収入源をどう設定するかを念頭に置きつつビジネスモデルを組み、かつ大企業が提携したくなるテーマに仕立てることが、ベンチャー成功の鍵でしょう。

モデレータのコメント

3つほどコメントします。1つは創薬のパラダイム・シフトです。イノベーション・マネージメントのあり方が、医薬の世界では完全に変わってきています。いちいちたくさんの試験管を振らなくても、チップ上で数万件の実験が同時にできてしまう。つまり時間とコストを大幅に節約することが可能になってきてます。

更に大事なのは、同じ遺伝子をネタに使ってもビジネスモデルの切り取り方によって、事業としての結果が随分違ってくることです。創薬にいくのか、試薬でとまるのか、ここが問題になる訳です。優秀な研究者は色々なアイディアを持っています。最先端技術のロードマップ上では、その先を見通すと様々な有望分野の枝分かれがあります。ともするとCSOである研究者の興味は時々刻々と動きます。そこをキャピタリストとしてどうマネージするかがポイントになります。

それから、装置を含め、日本にも多くの要素技術がありますが、ビジネスに仕立てるところが決定的に欠けています。しかし、そういった問題意識を持つ方々が大滝さんも含めて日本でも増えています。心強いことであり、日本にもまだまだチャンスが出てくるのではないかと考えます。

質疑応答

Q:

ベンチャーの設立を促進すべきとおまとめになりましたが、どのような人たちをターゲットに支援したら良いとお考えですか? バイオ・ベンチャーの場合では大学の教授、学生、国公立の研究者もしくは一般企業なのでしょうか?

A:

日本の人材は、非常に層が薄いと感じています。欧米のベンチャーを見ていて、経営者と研究者はまったく別にすべきと考えます。不幸なことが日本では起きていて、CSO(科学担当責任者)はいますが、ベンチャー企業の「経営」をするCEO、CFO(財務担当責任者)をできる人がほとんどいません。ベンチャーキャピタルにどのようにアピールしてお金を集るのかを含めて分かっている人が必要です。経営者は、技術もある程度理解し、財務を把握し、大企業とも交渉できる能力がないと、実際に会社を率いていくことができません。大学発ベンチャーでは、先生方が社長になることが多いのですが、先生方が二足のわらじを履くことは普通できません。アメリカではサイエンティフィック・アドバイザリー・ボードが、必ずベンチャー企業にはあって、大学の先生は、経営側ではなく科学アドバイザーとしてベンチャーを側面サポートしています。経営はプロが行います。研究者は、経営責任を負うことはないのです。そして、シリコンバレーなどで、ベンチャーが多数生まれてきています。日本での成功例はまだこれからなので今は辛い時期だと感じています。

Q:

日本発の技術はたくさんあるのに、成功しているのはアメリカの装置という現象は半導体業界でも起こっています。何故、日本の既存企業は、そういったベンチャーと技術提携をしないのでしょうか?

A:

研究所(開発部)と本社のコミュニケーションがうまくいっているところが少ないのが原因だと思います。権力争いもありで、最後のDecision Makerを1年おきに交代するなどの現象が起こるほどです。さらに、研究所側はプライドがあるので、外部技術の受入れにはあまり良い顔をしません。
しかし、最近、製薬会社も変わってきて、ベンチャーの技術を使う動きがゲノムの特許にからんで出てきました。

Q:

意思決定をするときに誰に話しをもっていくのでしょうか。たとえば、ケーススタディ-1の田島社長がロッシュの社長に話しを持っていったなど、誰にいうかで影響がかなりあるのではないかと思うのですが、如何でしょうか?

A:

日本の場合には非常に神経を使います。会社によって随分違います。会社によって調査しないと分からないという状態です。日本の会社では、窓口がはっきりしていないので、上に報告するのに1~2年もかかってしまいます。それで、ベンチャーは、日本の大手から離れて、世界に行くのです。日本の大手は、その結果「主流」から外れています。辛いところです。

Q:

9月に1件IPOをお考えになっている投資先があるとのことですが、この厳しい時勢に出るのは、どのようなお考えからですか。

A:

状況は確かに厳しいですが、最初から世界戦略を考えています。大手からの資金提供も決まっています。日本国内のマーケットは限られていますので、欧米に子会社を作り、世界同時に臨床試験ができるようになりました。2年間かけて準備してきましたので、日本の公開市場の様子を見て、資金調達に更に1~2年待つと、特に、この1~2年動きの速いバイオの分野で、世界的な大きなビジネスチャンスを失うことになります。そのために、資金調達の道を早くから確保しておきたかったのが、厳しい中で今回IPOする理由です。

Q:

バイオ・ベンチャーを経営する人間が日本にはいないことが改めてよく分かりました。その問題はバイオだけではなくて、ITについても同じことがあると思います。そこで質問ですが、バイオ技術を知らない人間でもバイオベンチャーの経営ができるのでしょうか?

A:

欧米でも技術を分かっている人たちだけが経営している訳ではありません。むしろ、MBAを取っている人たちの方が多いです。技術の知識の問題ではなく、上場までの流れが分かり社内整備ができる人の方が良いのです。ただし、周りを全て技術者で固めることは必要です。日本でも今まで異分野の経営や株式に携わっていた人であれば、立役者の1人になれると思います。そのようなセンスがある人は日本にもいるはずです。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。