Eデモクラシーへの挑戦

開催日 2002年9月3日
スピーカー 横江 公美 (VOTEジャパン(株)社長)
モデレータ 相楽 希美 (RIETI研究員)
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議事録

私は、いろいろなところで、こういうお話をさせていただいていますが、こちらの研究所でお話をすることから、英国大使館のパーティーにお招きしていただきました。このような影響力のある会でお話をすることに非常に緊張しています。

私は、今の会社を設立する前には、フリーのジャーナリストをしていましたが、インターネットを政治に活用しようとすることに興味を覚え、2000年の選挙を中心に取材をしてまいりました。その流れを受け、今の会社をやることになったわけです。今日はアメリカの話を中心にさせていただきます。

Eデモクラシー

Eデモクラシー、Eポリティックス、オンライン・デモクラシー等さまざまな言葉がありますが、現在はまだ定義づけがされていない状態です。選挙を指しているのか、全体なのか、分からない事もあります。本日私がお話するEデモクラシーの定義は、下記の図にある、ベクトルを太くしたり縮めたりすることであり、これが、インターネットの役割だと思っています。

Eデモクラシー

Eデモクラシーのお話をすると、私が、全てのコミュニケーション手段がインターネットに変わってしまうと考えているのでは、とよく思われてしまいます。しかし、現代の社会には、e-mail、電話、FAX、直接対話等の様々なコミュニケーション手段があり、インターネットというのは、その中で、今までの手段の補助的なものであって、その他の手段にとって代わるものではない、と私は思っています。

Eデモクラシーの発展

アメリカで、インターネットが政治に有効だといわれるようになったのは、2000年の大統領予備選挙からでした。インターネットを利用した選挙運動は、1998年にミネソタ州知事に当選したジェシ・ベンチュラが先駆者でした。その後、2000年には、ジョン・マケイン候補のインターネットを使った選挙ぶりが知られるようになりました。また、2000年は、アリゾナ州民主党予備選挙や、ペンタゴンのパイロットプロジェクトとしてネット投票が行われた年でもあります。当時のクリントン大統領もその流れをくみ、first.gov.govのサイト作成に踏み切りました。インターネットによって幅広い政治参加が可能になると、市民の政治的体力も必要です。そこで、教育が必要だろうということで、子供(キッズページ)のサイトも作られてきました。

E選挙運動

E選挙運動の立役者ベンチュラ知事は、元・悪役プロレスラーだった人で、1998年の選挙の時は、泡沫候補だと考えられていたのですが、インターネットを使った選挙運動の成果によって、共和党、民主党を打ち破り、州知事に当選しました。これがインターネット選挙運動の最初のモデルといわれるものです。2000年インターネット選挙で脚光を浴びたマケイン選対は実際に事務所を訪れ、そのインターネット選挙運動を参考にしました。ベンチュラ選対は、データベースもインターネット上に作成したため、選挙事務所はありましたが、一般にいう事務所ではなく、彼の名前入りTシャツや彼の人形等を売ったり、在庫を置いたりする倉庫として使用された程度でした。

一方、2000年のマケインは、ニューハンプシャーの大統領予備選挙に立候補し、ブッシュを破りました。周囲では、なぜマケインが勝ったのかという分析を行い、結果として、支持委員、ボランティア数、選挙資金は、全てブッシュが勝っていて、マケインが、唯一、勝っていたのは、インターネットでの選挙資金集めだったことが判明しました。私は、日本の電子選挙役員や政治家の方々から、このマケインの選挙実績を背景に、インターネットを利用して資金集めとボランティア集めをしたいという相談を受けることがあります。しかし、実際の選挙運動を見てみると、日本とアメリカとでは政治システムが違うため、選挙資金やボランティア集めのためにアメリカのまねはできません。アメリカでは、選挙とはマネジメントの一種であり、選挙事務所というNPOがあり、候補者という製品をつくり、政治というコンテンツを入れる。だから、みんな選挙資金という投資を行うのです。選挙資金と候補者の質が比例すると考えられるため、資金が集まれば集まるほど、候補者の質が良いということになります。しかし、日本は、選挙活動期間が2週間と短いため、候補者の政策に対して資金投資をするというのは不可能な状態です。またアメリカではマネジメントの一環として、企業会計のように、資金の出入りがイコールにならなくてはなりません。日本の資金集めとは事情が全く違います。

ベンチュラ、マケイン等の選挙活動を経て、2000年の大統領予備選挙以降、アメリカではインターネットでの選挙運動は、当然のものとなりました。現在は、それぞれの政治家がいかに政策を伝えるのかという目的のもとでインターネットを使用しています。また、メディア、子供、シンクタンク等の誰もが、政治関係のサイトにいけば、政策比較ができるようになっています。日本では政治家のサイトでも、政策については書かれていません。インターネットという箱は作られましたが、コンテンツがないため、政策を調べる方法もないのです。ある時、地方テレビ局が政策について調査をしたいということで、インターネットを検索しましたが、見つからず、それぞれの候補者に郵送やFAXを使用して質問をしました。しかし、答えは、1行2行程度だったということがありました。ましてや、学生などが知りたいと思ったところで、答えが返ってくる筈はありません。

選挙活動というのは、アメリカにおいては、教育の要素があると認められています。アメリカでは政策をひろめることを、Educateといいます。

アメリカの政治家は政策を作り、政策を伝えることがあくまでメインであり、社会と経済と国際の3つの政策のいずれかを持っているのが国会議員だという認識が根底にあります。日本では、政策についての言葉の定義ができていないため、WEBサイトの政策のところに、日記が書いてあったり、スローガンが書いてあったりします。インターネットによって、日本の政治が大きく変化するとは思いませんが、インターネットに政策等を書いていくことによって、意識が変わっていけば日本の政治も変化していくのではないでしょうか。

先ほどのお話にでた、ベンチュラ知事のサイト(http://www.jesseventura.org/)は、資金とボランティア集めを主とした、とてもシンプルなホームページです。また、ゴアのサイトは、タウンホールというページで、ゴア宛の質問に対して回答を書いたり、政策もコンテンツに含んだりしています。

電子投票とE代議

電子投票は、迅速、簡単、投票率向上という利点から、アメリカでは、成熟した民主主義に繋がるものとして取り組んでいます。アリゾナ州では、2000年に、民主党大統領予備選挙で電子投票が行われました。大変評判は良かったのですが、膨大なお金がかかることで、電子投票に足止めがかかっています。同年、ペンタゴンでは、海外省人を対象に、それぞれのPCからの電子投票を実施しました。84人が投票を行い、1人あたりのコストは、7万4000ドルでした。このように、コスト面では、まだまだ、大変な状態です。しかし、2004年の総選挙では、経費に余裕があれば、パイロットプロジェクトを行うという話もあがっています。

投票所でのネットでつながっていない電卓投票は、フロリダでの投票騒乱以降、拡大の傾向がありますが、在宅からネットで投票することについては、その国がどんな政治を志向するかの哲学的な議論が重要だ、という専門家が多いのが現状です。

次の「代議」とは、英語のadvocate、lobbingといわれるものですが、2000年選挙以降のインターネット選挙において、インターネットで一番成功したことの1つだといわれています。アメリカでは、投票行動の大きな要因は、過去の投票記録等だということもあり、過去投票記録や地方を含むマスメディアの連絡先等のデータベースが、ページに載せられています。この活動の一番の成功例として挙げられるのは、「100万人のお母さんの行進サイト」でしょう。学校でおきた銃乱射による悲劇を背景に、3人のお母さんが、母の日にパレードしようということで、始めたものです。最終的にそのパレードは、大きなものになり、ヒラリー・クリントンもこのパレードで行進しました。現在はNPOとしてお母さんたちの意見を公開しています。

米国電子政府の発展と電子政府のコンセプト

電子政府への発展には4段階があります。インターネットという箱を作るインフラの時代、そして、広報の時代を通り、Onlineサービスの時代の後は、政治参加の時代です。日本では、ネットワークを重視しているので、インフラの部分が長くなっています。アメリカでは、マイクロソフトがでたところで、広報の時代にはいりました。そして、広報の時代は、first.gov.govができたことで終わり、Onlineの時代に入りました。その後、政治参加の時代に徐々に移行してきてはいますが、しかし、9/11事件後、テロなど緊急時対策のため、この流れが遅くなってきているのが現状です。

日米間の電子政府のコンセプトには、次のような違いがあります。アメリカでは、政府のサイトには、行政プラス市民の視点が盛り込まれていますが、日本のサイトでは行政だけです。たとえば、アメリカの電子政府FIRSTGOV(http://www.firstgov.gov/)では、駐車禁止の罰金の支払い、補助金の申請と一般市民の必要とするもの、得になるものを一番上に載せています。その他の州政府のサイトでも同様の傾向が見られます。これは、連邦政府の指示によるものではなく、連邦政府からの通達は、良い情報と子供のページの作成といったものだけでした。一方、日本の電子政府e-Gov(http://www.e-gov.go.jp)は、良いとは思いますが、私としては、どこに探しにいけば必要な情報が手に入るのか分かりません。どこの省庁に何があるのか分からないのです。そして、子供のページもありません。

E教育

子供教育のページということに関しては、クリントンが、1997年に各連邦政府の機関に通達をだし、力を入れました。先頭を走るのはGPO(Government Printing Office)でしょう。子供のページというのは、イシューについては問題になるため、政府の役割等、政府の機能までしか載せられません。ですから、イシューについては、NGOのJustice Talking(http://www.justicetalking.org/)やSchoolasticNewsというサイト等で行っています。日本とアメリカでは、子供用のサイトの使い方が異なってきます。日本では子供用サイトというと、アニメとひらがながあれば良いと思っています。しかし、アメリカでは、子供ページが流行している理由として、忙しい大人や少しだけ知りたいという大人とって必要な、サマリー部分が子供ページになっているということが挙げられます。決して子供だましではないわけです。アイコンは小学校低学年用アニメでも、中にはいるとサマリーがあり、もっと知りたい子供のために、大人のページにいけるリンクなどの流れがあります。日本でもこのようになっていくと子供ページがもっと面白くなるのではないかと思います。2000年選挙では、ゴアやブッシュも子供ページをつくるようになりました。

大人に対しての教育としては、それぞれの州の地方選挙比較等は地方の大学の役割として行っています。それがどの州でも大学で行われています。たとえば、大統領選挙について知りたければ、大学のサイトに行けば分かりますし、ディベートについても、大学で行っています。大学としても、外部への広報の手段として、有効に活用しています。

質疑応答

Q:

政府を電子的にやろうとすると、限られた所謂オタクの人だけがアクセスしてくるというイメージがありますが、アメリカではそんなことはないのでしょうか?

A:

意見を述べるサイトでは、オタクが多いといったこともあります。しかし、電子政府自体、政策を広めるための手段として行っていますので、そのようなイメージはありません。アメリカでは、デジタルデバイドということ自体消滅しています。1996年、クリントンは、2000年までに全ての学校で、PCを使用できるようにするという演説をしました。その後、ほとんどの学校、図書館には、PCが設置されていますし、個人レベルでは、PCの普及率は58%です。目の見えない人のために、法律ができたり、貧富による差がでないように、なるべく最新技術を使わない等のルールがあります。

Q:

本日は、Eデモクラシーについてお話をしていただきましたが、VOTEジャパンについて少しお話していただけますでしょうか?

A:

アメリカで、ディックモリスの奥さんがアイディアを出し、インターネットメディアとして、VOTE.COMが作られました。私は、ディックモリスのところへ、彼の本のインタービューをしに行った時、実はリクルートをされ、日本に持っていったら、電子政府として使えるのではないかということで、日本にきました。日立が投資をして下さったので、日立の子会社のような感じで運営をしています。参加型メディアとして、日々のニュースに関してインターネット上で投票を行っています。住基ネット、オランダの安楽死問題等に、投票を募り、結果を議員さんや関係者の方々に送っています。国会議員さんから、たまにお返事をいただくこともあります。後は、一問調査やアンケートシステムの販売やコンサルティング等を行っています。この分野はあまりやっている方がいないので、Eデモクラシーに関する委託研究も行っています。ビジネスとしては、現在、発展している段階です。ホームページへは、1カ月に40万から100万件のアクセスがあります。掲示板に汚い言葉等を載せないようにしているので、汚い言葉を使う人はこなくなりました。サラリーマンが多いようです。よく電話調査は当たらないという方が多いのですが、抜けている部分にあたるのではないでしょうか。

Q:

民主党代表選挙では、若手の予備選をした時に、ストリーミングで討論を行い、世論調査をしました。昨日、その勝敗を決めたわけですが、なぜ、インターネットで投票しなかったかというと、インターネットへの1日のアクセス1万5000人くらいしか見込めませんし、バイアスがあるかないかは割きりかもしれませんが、本人確認をして厳密にしない限り、インターネットでは信頼性があるのか分からないためです。アメリカではどれくらいのアクセスがあれば、そのサイトの信頼性がでてくるのでしょうか?

A:

アメリカでは、インターネット投票は、世論調査ではなく、広報という形として使っています。世論調査をするならば、別の形をとります。世論調査ということであれば、ログイン等の確認をしてから、別途に行います。つまり、インターネット投票は世論調査とイコールではありません。ある種の決まったグループ内の調査に使ったり、その人達を集め、動画を見ながら家で投票したりといったことはあります。属性をとらないインターネット上の投票は、結果として、電話などを利用した世論調査と同じようになっていくかもしれませんが、いわゆる世論調査とは別です。

Q:

家での電子投票は、政治的議論が必要だとのことですが、民主主義としては、家からの投票というのは理に叶うと思います。なぜ議論が必要なのでしょうか?

A:

投票数が少ないから、投票数を上げるためというネガティブな発想でいいのかというのが、学者内での議論です。

Q:

日本とアメリカでは政治システムが違うため、アメリカの電子政治運動はなじまないとのことでしたが、日本では、インターネットのどのような使い方があるのでしょうか? また、日本の電子政府についての不満を聞かせてください。

A:

インターネットで、物事がドラマチックに変わることはないかもしれませんが、折角、場所ができたので、必要な情報を政府が提供し、どんな内容をいれていくのかを考えることが重要だと思います。また、アメリカでの選挙のマネジメントを理解するような文化的背景、選挙の背景ができればよいと思います。電子政府につきましては、内容が重要で、研究者、市民に使える情報を分けることが大事です。それぞれのコンテンツのサマリーを作って分ける、アイコンを作るということが一番大変なことだと思います。見せるところを上手に見せるということです。今は、技術者がサイトの作成をしていますが、新聞社、雑誌社などの見せることが上手な人と契約すればいいと思います。そのようなweb編集者がいてもいいのではないでしょうか。ソフト的に見せ方を考えるべきだと思います。

Q:

E教育についてですが、これらのサイトのNPO、NGOのスポンサーは、誰なのでしょうか?

A:

Kidsvotingは、州ごとにやっています。ある州では、大きな電気会社に社会奉仕の一環として、資金提供をして貰っています。その他、大学のプロジェクトとして、資金集めをしたものもあります。Kidsvotingは、前にあった州のものが突然なくなったりしたりと、今でも、資金集めは、大変とのことでした。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。