我が国税制の現状と課題

開催日 2002年7月30日
スピーカー 森信 茂樹 (財務省財務総合政策研究所次長)
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議事録

本日は役所の立場を離れて自由にお話をさせていただきますので、その点あらかじめご了承ください。よろしくお願いいたします。
税制の課題として「広く薄く」とか「税の空洞化」などといわれていることについて、私なりにお話をしたいと考えています。

課税に対する2つの考え方

税収を一定とするとまず課税ベース(底面積)があり、それに税率(高さ)がかかって、立方体の体積として税額がイメージされます。Aは底面積が100で高さが60(%)なので体積は6000。それに対してBは底辺が200で高さが30%、かけると6000なので同じです。つまり、AとBは同じ税収を稼げるシステムなのですが、問題はどちらが優れたシステムかということです。これは誰が考えても明らかで、Bのほうが優れている。なぜかというと、限界税率がBの場合だと30ですから、たとえば100の追加的な所得を得た場合には70の手取りが税引き後所得になるのに対し、Aは40しか得られないわけです。Bのほうが底面積が広いので、落ちこぼれて税のかからない人が少ない、という水平的公正があります。レーガン、サッチャーなど20世紀の税制は、AからBにシフトしてきたといえます。ところが日本の例では、高さが低くBなみになっているのですが、課税ベースはまだ狭い、ということをこれからお話したいと思います。

課税ベースにおける日米比較

日本とアメリカの底面積を比べてどちらがどの程度広いのかを、国民所得統計と税務統計をつき合わせて比較した結果などからコンピュータ集計しました。個人所得を100とすると、日本の場合は社会保障関係の控除、各種所得控除等を除くと課税所得が27.4%であるのに対して、アメリカは53.2%。すなわち、日本の課税所得は国民所得に占める割合でいうとアメリカの半分程度ということです。計算方法は日米の国民所得統計から家計部分の受け取りをもってきます。日本は471兆円(1997年度)で、この受け取りの中から非課税部分を引いて、最後に課税所得が出てくるように計算しています(129兆円、比率が27.4%)。
何を除いているかというと、大きいものは課税ベースに含まれない社会保障です。これは社会保障の雇主負担、会社が我々の年金や医療などをマッチングさせて同額を負担してくれている部分が、国民所得統計上は個人の所得になっています。個人の所得は企業のほうで損金参入されるので課税ベースに入っていないわけです(27兆円)。社会保険料控除もまるまる落ちます(29兆円)。これらをトータルすると118兆円程度になるわけです。実は、米国には社会保険料控除がないんですね。アメリカの場合ペイ・ロール・タックスといって、税金で社会保険料を負担しますから控除のしようがないわけです。そのようなところに日米の課税ベースを狭くし、あるいは広くしている理由があるわけです。社会保障の給付の方は、ご承知のように年金の給付が34兆円あるわけですが、公的年金控除で実質的に非課税になっています。これらを積み上げていくと61兆円が課税ベースから落ちているわけです。
米国でも、年金は掛け金の段階ではペイ・ロール・タックスで取られるので税金として控除することはしていませんが、給付の段階では日本と同じような公的年金控除というのがあって非課税になっています。従って、年金の出口では日米の課税ベースはあまり違いませんが、入り口は違う。もう1つ大きな要因は所得控除です。日本の場合、人的控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除等)で国民所得比で12.7%落ちるのですが、アメリカの場合、人的控除-Personal Exemption-1本しかなく、とてもシンプルで8.1%落ちます。さらに、日米で異なるのは給与所得者の必要経費です。サラリーマンの経費は、日本では給与所得控除で一括して落ちますが、アメリカの場合は実額控除です。standard deductionとitemized deductionの選択制でどちらかを選ぶことができます。standard deductionというのは日本と同じ一括での控除で、itemized deductionは実額控除です。7割の人がstandard deductionを選ぶのですが、これを超えて経費があると思った人はitemized deductionを選択できるようになっています。給与所得関係の控除で日本は19ポイント落ちているのに、アメリカは13ポイントしか落ちていない。さらに、アメリカの実額控除というのはサラリーマンの経費控除ではなく、interest paid deduction、住宅控除あるいは住宅担保ローンの金利が控除されるということが非常に大きいわけです。これらが日米の課税所得額の違いになっているわけです。
公的年金および企業年金の日米比較については、公的年金は日本の場合、拠出段階(=入口)と給付段階(=出口)が非課税ですが、アメリカの場合、入口は課税されます。つまり自分の公的年金の負担分が非課税所得になることはない、という点が日米の課税ベースの違いにも大きく影響しています。

高齢化が課税ベースに与える影響とその試算

今後、我が国の高齢化が課税ベースの推移にどう影響を与えるかを試算してみました。先ほどの人口・出口で非課税にしている所得税現行制度により、課税所得に含まれない社会保障が急増すると、個人所得に占める課税所得の割合が(先ほどの例では底面積だと考えてください)その分だけ落ちるんですね。そこで2025年には我が国所得の14%、現在の半分しか課税ベースがなくなってしまう、ということになるわけです。従って、今は増税せずに将来の課税ベースの浸食を防ぐ、これがいちばん大きな意味を持っている。しかし、この部分を計算した人はいなくて、この計算ではじめて浸食がわかったのではないかと思います。
社会保障費が増加すると社会保障負担も増える。この負担は全額非課税ですから、給付(年金)は実質ほとんど非課税で40兆円非課税になっていて、2005年までこのままにしておくと99兆円が課税ベースから落ちるわけです。いってみれば、わが国の所得税はこのままでは溶解してしまいます。そうすると、所得再分配などの問題を引き起こすことになります。消費税が導入されているからいいではないかという人もいますが、ここまで課税所得が低くなると我が国の累進機能が失われているに等しいので、その事態は避けなければなりません。

給与収入に対する負担比率試算によって浮かび上がる問題点

日本の標準的な世帯をモデルに、実際の給与収入を統計からもってきてそれに対する税負担と社会保障負担をはじき直し、給与収入に対する負担比率を求めた試算があります。モデルのライフサイクルを見ると、独身時代は控除が少なく所得税負担は上がりますが、結婚して控除されて負担は下がる。給料が上がって累進で負担も上がるのですが、子供が生まれる等で控除があり、上下します。子供が独立したときにピークをつけて、その後60歳で第一の職場を定年退職するので累進税率が減り、65歳で年金生活に入ります。年金生活に入ると公的年金等控除があって実質非課税ですね。消費税は負担するのですが、これは若干の逆進性があり、所得が少なくなったところで少し負担が上がりますが、わずかです。これをみると、ライフサイクルの負担は同時に世代間の負担をも表していることがわかります。最大の問題は65歳を境に負担が大きく変わっていくことです。高齢化シフトするようになると、現モデルの税負担ではまかないきれない事態になります。税率を上げるとか、相当な見直しをしなければいけない、という構造問題を抱えているといえます。

「確定申告」「実額申告」の導入と、それを阻む問題点

それでは、どのように課税ベースを評価するか。控除だけを見直すといかにも増税しているようになりますが、やはり世代間の公平という観点から、公的年金等控除を見直す、あるいはサラリーマンの自主申告について考えなければならないと思います。
日本では納税者の意識の低さが公共事業の無駄遣いにつながっているのではないかという反省から、自分がいくら納税しているかということを実際に税務署に足を運んで確定しようではないかという、いわゆるアメリカ的な「確定申告」「実額申告」の要請が強くあります。私も数年前からいい続けているのですが、これができない最大の問題は、日本では給与収入に応じた給与所得控除があまりにも高くて、1000万円の収入の人に220万円の概算控除があるわけです。ところが、いくらサラリーマンの経費を積み上げても220万円にはならないんですね。アメリカの概算控除の水準は100万円くらいです。100万円くらいだと、それを超える控除を受けたい場合に実額申告を選択できるのですが、日本が高い水準の控除額を持っている限りは、実額控除を利用する人がいないわけです。従って、日本に選択的でも実額控除を導入するには、まず概算控除額を下げる。そして、増税にならないよう、税収ニュートラルにするために基礎控除に付け替えればいいわけです。米国で税務上経費と認められている支出を家計調査から抽出して、日本で年収が1000万円弱の人にアメリカの税制を適用した場合の経費を試算すると、だいたい62万円くらいです。米国で感心したのは、申告日というのは納税者にとっては心がウキウキする日なんですね。私の秘書なども嬉しそうに「申告に行ってきます」と出かけていました。アメリカの場合、多めに源泉徴収されていて、申告に行くと7割が還付になるんですね。自主申告についての個人のインセンティブが高いわけです。日本も給与取得控除を下げて、実額控除の選択制を導入する代わりに源泉徴収を多めにして、ほとんど還付申告にする。その還付は電子申告で簡単にできるようにすると、税務署もさほどいやがらずに制度をとり入れるのではないでしょうか。

日本の税制に控除の多い理由

日本にはどうしてこれほど控除に種類があるのか。50年代以降、予算が厳しくなりゼロシーリング、マイナスシーリングなどをやり始めた頃から、各省が本来、歳出でやるべきことを全て税でやるようになったようです。税のほうだとシーリングにも引っかからず、一度控除を作ってしまうと予算書に出ませんから目立たないんですね。アメリカではtax expenditureと捉えて、毎年の減収額を予算書にはっきり書いて議会の審議を受けています。日本でも似たようなことをやってはいるのですが、いったん歳入のほうで特別措置が認められると半永久的に続いてしまう。他の控除も、本来歳出でやるべきところが歳入で手当てされていて、ほとんど歳出でできないものを税のほうへ割り込ませてきたものです。今後はとにかく歳出に戻して、国民の目につくところで、予算で審議をしてほしいと思います。

勤労インセンティブを高める「税額控除」

さて、税額控除については数年来いい続けてきたことで、最近ようやく「税額控除」が党の税調にも入りました。これは、米国のEITC(Earned Income Tax Credit)という制度で、負の所得税のようなものです。本来、課税最低限から徐々に上がったところで所得税が始まりますが、EITCは働いて得た所得に対して給付が得られるわけです。これは社会保障と税額控除を一体化して運営しているもので、制度のメリットは勤労のインセンティブを高めることです。所得に応じて逆転現象が生じないようにしてあるわけです。
日本では配偶者特別控除の階段の上の部分を下げるという議論が政府税調で行われていますが、配偶者特別控除をなくせば、本来の税負担カーブは課税最低限が下がって、増税になる人が増えます。税額控除のいいところは課税ベースに負担をかけないことです。あくまでも働いて得られた所得が対象なので、勤労意欲とタイアップすることができます。ワークシェアリングは家庭の主婦に勤労を促すわけですが、急に税負担が大きくなるとインセンティブが働きませんので、インセンティブを緩和する形の制度が必要です。ヨーロッパでは高額の失業手当がモラルハザードを生んでいるといわれますが、タックス・クレジットを与えることで働けば働いた所得分だけ給付されることになると、失業者も労働市場にかえってきます。これはオランダで大きな成果をあげました。

効率的な課税を実現する二元的所得税

最近私が申し上げていることに「所得課税から消費課税へ」というのがありますが、実は二元的所得税を提唱しているのです。資本に対していかに効率的に課税するかということで、本来は決して減税のための制度ではなく、消費課税と関係しています。二元的所得税は資本所得と勤労所得とに分けて、くさびを打ち込む。資本所得は全て合算して、分離して課税しようということですね。税率は勤労所得、所得再分配の観点から累進税率が必要ですから従来どおりに累進税率にするけれども、資本所得の税率は勤労所得の第一段階の税率と等しくしよう、と。さらには資本所得なので法人税率とも一緒にすると、法人税率と利子配当キャピタルゲイン税率と勤労所得の第一段階とが全て一緒になっているわけですね。この中では全て、ロスもゲインも通算しようということになるわけです。資本所得の税率は法人税率、利子配当と、全部同じになっています。これは、現実に北欧諸国で実現されていて、評価については分かれますが、基本的にはプラスの評価だと思います。

二元的所得税を提唱する最大の理由

この制度を取り入れる最大の理由は、包括的所得税という考え方があって(いってみれば総合課税)、たとえば家を買って帰属家賃収入を得ると、当時のスウェーデンでは課税していました。その代わり、帰属家賃収入を得るための経費ですから、その家を買うために借りたローンの金利を控除させていたわけです。それが拡大して、家を担保にした住宅担保ローンの利子も控除できる、という税制ができたわけです。これは包括的所得税の1つの姿だと思います。税の論としてはおかしくないのですが、お金持ちが家を担保にギリギリまで借金をして、その金利が全て所得控除できるので、どんどんタックス・アービトラージをやるということが起こってしまいました。すると、資本所得税収がマイナスになって、控除のほうが多くなったわけです。個人にとっては運用金利のほうが調達金利よりも高いわけですから。今はこの制度は廃止され、「こちらの損は、あちらからは引かせない」となっています。
日本でも実は所得のブラックボックスといわれることがあって、たとえばゴルフの会員権で損をしたら給与から引けるわけですね。株式譲渡損は株式譲渡益からしか引けない、株で会社がつぶれた場合はどこからも引けない。ペイオフで元本が返ってこなかった場合には、競馬ですったのと同じなので一切この世界とは関係ない、ということです。実は、タックス・シェルターがもっとも大きい分野なんですね。たとえば、航空機リースを使って不動産の損は金利所得から引ける、といったタックス・アービトラージがあったりする。この拡大をなんとか食い止めなければなりません。

リスクテイクを促進し、中立にする譲渡益課税

また、日本は資本所得のでこぼこが非常に多い。金融商品ひとつとってみても、非常に複雑な税制なんですね。投資信託などはさらに複雑です。課税制度も複雑、税率もばらばら、それらをシンプルにする必要があるのではないか。そこで、資本所得をまとめることに意義があるのではないか。この中でゲインもロスも引けるようになると、シャウプ勧告の前文にもあるのですが、譲渡益に対して最も理想的な税制は譲渡益は全額課税する、その代わり譲渡損失は全額控除する、このような税制がリスクテイクとして最も中立的である、と。たとえば、自分が100万円をあるものに投資するときに、半分の確率でゼロか倍の200万円になる、ということにします。ここでシャウプのいった全額課税・全額控除方式を入れると、税率が50%の時、儲けた場合は譲渡益は100万円、半分課税されるので最終的に150万円になるわけですね。逆に損をした場合は100万円からゼロになるのですが、控除されますので100万円のうち50万円が戻ってくる。そうすると、全額課税全額控除の50%課税をいれると、税導入後は50万円か150万円かということになって、平均値は変わらないわけですね。ゼロか200かというのが、50か150かで分散が小さくなってくるというわけです。そういう意味で譲渡益課税というのは、うまく導入するとリスクテイクを促進させる、中立にさせるという効果を持っているので、この中でリスクを相殺させるようにすれば、今日的な間接金融から直接金融へという流れにも資するのではないかという気がします。

消費課税の根本を問い直し、問題提起としても意義のある二元的所得税制

さらに、二元的所得税というのは、実は消費課税の根本を問い直すというところに大きな意義があると思うのです。これは消費課税の定式を変えます。ここに恒等式があります。
(1)消費=(2)所得-貯蓄=(3)賃金+利子+利潤+減価償却-設備投資
(1)に課税するのがVAT、(2)に課税するのが支出税(expenditure tax)、(3)に課税するのが加算型付加価値税で、法人事業税の原型かもしれません。あるいはフラットタックスともいいますが、これは個人と法人に分けて、こちらは個人、残りは法人課税にするキャッシュフローです。分けることで個人に控除を持たせるわけです。こういう形で消費課税するほうが、貯蓄に課税されませんから資本の効率にとって良い。21世紀の税制はこれしかないと思うのですが、これに持っていくために二元的所得税は大きなステップになり得るわけです。といいますのは、利子、配当、キャピタルゲイン、これらをたとえば20%で課税して、将来的にこの利子の損金算入を認めない、つまり利子は企業課税してしまう、あとは全て非課税にすればいいわけです。そうすると消費課税が可能になるわけですね。二元的所得税を持ち込むことによって、貯蓄に課税しない、ということに入りやすくなります。利子を企業段階で課税して損金算入させない、それで利子と配当がパラレルになるわけです。どちらも課税をしない。これは直接金融と間接金融の中立性で、消費課税の大きなメリットですから、そのような課税方式がとりやすくなります。二元的所得税制は過渡期ですが、問題提起は非常に意義があると考えます。

質疑応答

Q:

二元的所得税の問題点について、
(1)公平性の観点からの理論づけ、つまり勤労所得に対して金融所得-不労所得の税率を低くして課税することに社会的合意が得られるかどうか。
(2)利子などの金融所得を的確に総合的に判断するための前提として、納税者背番号制度などの資料情報制度の拡充が必要なのではないでしょうか。

A:

まず、金融所得は不労所得なので勤労所得より高く課税すべきなのではないかということについてですが、これは全くナンセンスな日本だけの問題意識だと思います。「不労所得」は昭和30年代までの発想で、世界ではもう途絶えてしまっている死語といえます。今は、いかに効率的に税をとるか、効率的にすることが結局公平につながるのだということですね。垂直的公平性の観点から、効率的な税制にすることが求められていると思います。
2点目の納税者背番号制は確かにとても難しい問題で、住民基本台帳ネットワークがこれだけ問題になっているときに、よく考えなければなりません。私が提案しているのは選択的納税者背番号制で、選択した人が特定口座で取引をするときに損も得も相殺しますよ、ということです。選択しない人は自分で申告してください、という制度ですね。特定口座制度を少し緩用した制度ですが、これからは全員に対して番号制度で管理していくというのではなくて、もしもメリットを受けたいのであれば番号で管理させてください、納税者自身が便利な税制の適用を受けるための制度です、ということです。

Q:

(1)なぜ北欧が二元的所得税に熱心なのかと考えると、彼らは社会保障制度が非常に充実しているので、民間貯蓄率がゼロに近いのです。貯蓄率を上げるために金融や貯蓄の融合をしようというインセンティブが強い。日本のように貯蓄をやりすぎている国でこのような政策をやる意義は?
(2)さまざまな控除の見直しは私も賛成です。課税最低限を下げることは必要ですが、税率はどうするかということをお伺いしたい。課税最低限あたりにいる人の所得税率は各国とも10%にあるようです。税率を10%から5%に下げるというのは徴税技術上、コストがかかりすぎるのではないでしょうか。

A:

お答えする前に、財務省では二元的所得税は完全に否定されているので、今日は個人の立場から、1人でも賛同者を増やそうと思ってお話しているのだということをご理解ください(笑)。
日本の累進カーブをみた場合、日本だけがドーバー海峡のように岩を崩した急な崖のようになっています。なぜ日本の累進構造が鋭くなっているかというと、1つは課税最低限が高いことです。なぜ高いかというと、国会の最後で○○控除をつけましょう、というように浸食されていっているからです。また諸外国は最低税率が高いです。イギリスは15%で始まって、すぐ22%に上ります。アメリカで最近10%を入れましたが、すぐ15%になるんですね。日本だけが10%が長いのです。日本の場合は10%と20%で、サラリーマンの9割が限界税率が終わるわけです。また日本の場合、累進カーブがなだらかではなく、直線的になっている。所得税のあり方として累進カーブはなるべく加速しないほうがいい。最初にグッと上がって、あとはフラットになったほうが追加的な所得に対して付加を及ぼさないからいい、という考え方だったんですね。従って日本も最低限界税率10%をさらに下げるということはかえってマイナスで、ものすごく大きな税収が失われるということになると思います。もし激変緩和をするのであれば、税率ではなく税額控除で緩和すればいいと考えています。
スウェーデンの場合、小国の開放経済なので資本が逃げて税収が入ってこなかった。要するに(資本が)逃げると同時に裁定が起きるというか。限界税率の高い人は借入れをすることによって借入利子の控除ができますから、実際の税負担がほとんどないのです。これは公平の問題でマズイのではないかということで、90年代の初めにスウェーデンの財務省が真剣に考え始めました。その時のスウェーデンの税制改革では、地方税と国税の大きな改革も行っているわけですね。二元的所得税導入の直接的なモチベーションは、今の税制だと税収が入ってこない、しかも金持ちほど節税をしているというところからきていると聞いています。
私は、ケインズ的な発想で所得が増える、増えないというlump sumでの税収にはあまり興味がありません。むしろ構造的に資本効率を上げるとか、キャピタルの非効率をなくしていくということ。税と経済成長というのは本来そういうところにあるのであって、消費に課税すると消費が減るという話ではないと思うんですね。むしろ、サプライサイドの構造的な部分に税制は目を向けるべきであって、資本税制は金融税制ひとつとってみても、間接金融・直接金融の均衡も保たれていないし、お金が効率的に流れていない。ということで貯蓄を優遇するといったような話ではないんですね。

Q:

個人所得課税の占める割合が、日本の場合非常に小さいということが特徴的だと思います。社会保障負担で課税ベースが浸食されることは大変だということは、年金給付のあり方を議論するべきなのではないかなと思います。つまり財務省サイドからのメッセージとしては、このまま年金負担が大きくなっていくと所得税の課税ベースも小さくなり、税収上も大変なことが起きるので年金負担を増やさない。そのために年金給付自体も下げていくようにしないと、税の制度もまわらないのではないか。すでに人的控除がありすぎるのは他国に比べてヘンだ、というのは正論だと思います。
二元的所得税論にも少し関連しますが、配当に対する課税の仕方について、企業の段階で課税をせずに個人の資本所得に一律に課税する、といった方法が考えられるような気がします。企業の段階で配当に課税しないような形にしてしまえば、キャピタルゲインを個人の段階で課税してもいいような気がします。そのほうがフェアになるような気がするのですが、いかがでしょうか。

A:

年金のご質問はおっしゃるとおりだと思います。2階建てにして、1階には年金目的消費税のようなものをもってきて、給付はもっと下げるミニマムな形でやるべきだ、という1つの年金の制度設計プランはあります。しかしそれとはまた別に、やはり年金は年金、給付は給付としておいて別の経験値からもう少し削る、ということはあると思うのですが、課税面で、入口も出口も非課税というのは課税論理に合わないわけです。入口を課税するのが包括的所得税、出口を課税するのは支出税案だとすると、日本は両方をとっているわけです。ですから、どちらかに改める、という案はあるわけです。それから、確かにスウェーデンは、最初は配当を個人の段階で非課税にしていました。二元的課税論ですから、企業段階で課税されているので個人はいいということでやっていたのですが、政権が変わってそれはおかしいということになり、二重課税とは何か、ということになって、結局、個人の段階で課税するようにしたわけです。

Q:

消費税の見通しについてご意見をお伺いしたいのですが。

A:

法律に「2004年に恒久的財源を確保しつつ、基礎年金の国庫負担率を3分の1から2分の1に引き上げる」と書いてあって、その議論が1つの起爆剤になると思っていたのですが、確固たる財源とは何か。それは所得税と消費税しかないわけですね。将来的には、消費税は全て年金目的に使うべきだと思います。消費税ほど国民に嫌われているものはないし、どうやったって上がらない。消費税導入のために日本の税制を全てダメにしたわけですから。抜本的税制改革という時にあらゆる公的年金控除も導入したわけですよ。所得税の世界を痛めつけて消費税を導入しているわけです。3%から5%に引き上げる時もそうで、いろいろな給付金を配った。コストの大きい税金ですよ。
政権が消費税の導入をつねに渋る、タブーにするんですね。いえないわけですよ。役人はそこをオープンにいえなければ、忘れるしかないわけですよ。税制を広く薄くするといったら、誰が考えても広く薄いのは消費税ですよ。でも、広く薄いのを所得税でやろうとしている。ですから、議論を非常に縛ってしまっているんです。政権が続く限りは消費税は引き上げない、といってしまっているわけですから。本当はもっとオープンに議論しなければならないと思うのですが。
年金は崩壊していますから、これをしっかりすることが最大の景気対策なんですね。結局、減税などといってもほとんど効果はわからないのですが、年金制度をしっかりと確立して、国民に恒久的な制度を示すことがいちばんの景気対策だと思います。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。