TAMA(技術先進首都圏地域)における産学連携-地域産学連携の実践事例-

開催日 2002年7月19日
スピーカー 児玉 俊洋 (RIETI上席研究員)

議事録

TAMA(技術先進首都圏地域)の発足の経緯、そして事業の成果としての連携状況の調査結果についてお話します。TAMAには、産学連携、企業間連携、それらによる新規事業や新規産業の創出、地域的単位で連携を進めるクラスター運動など、構造改革の前向きな側面を構成するいろいろな要素が詰まっています。そこには、人々の熱意や志の力が現れています。私は、平成8年7月から10年6月にかけて関東通商産業局(現関東経済産業局)に在籍していた頃にTAMA産業活性化協議会の発足に関わっておりました。現在は当研究所におりますので、地域経済や産学連携との関係でTAMAを対象とした調査研究をしています。

TAMAとは?

TAMAとは、埼玉県南西部、東京都多摩地域、神奈川県中央部に広がる国道16号線沿線を中心とする地域を指します。協議会が発足するとき、神奈川県、埼玉県の人も入りやすくなるように、東京の「多摩」ではなく、技術先進首都圏地域(Technology Advanced Metropolitan Area)の頭文字の「TAMA」としました。

この地域には、1)電気・電子機械をはじめとする大企業の有力工場と開発拠点、2)理工系学部を持つ大学、が多数存在しています。それに加えてこの地域の大きな特徴は、3)自社製品を持った中小企業(「製品開発型中小企業」)、の集積があります。さらに、4)製造業の加工の基盤を担う中小企業(「基盤技術型中小企業」)で高精度・短納期の外注加工に対応できる企業、も集積しています。このように、開発の母体として優れたポテンシャルを持つ経済主体の集積が形成されています。

TAMA協会の発足経緯

当時私が在籍していた関東通商産業局は、平成8年度に広域多摩地域(現在「TAMA」と呼んでいる地域に相当)の産業集積に関して製品開発型企業のアンケート調査を中心とする調査を行い、調査結果を平成9年6月に公表しました(関東通商産業局[1997]『広域多摩地域の開発型産業集積に関する調査報告』)。その結果、大企業の開発拠点や理工系大学に加え、中小企業も成長性の高い製品開発型の企業が多数存在すること、しかしこれらの間での、開発を目的とした連携はあまり多くないということがわかりました。そこで、産学間および企業間の連携・交流を進めるため、平成9年9月、製品開発型中小企業を中心とする民間企業、大学、商工団体、自治体等から55人が集まり、「広域多摩地域産業活性化協議会(仮称)準備会」が発足し、情報ネットワークを作ったり、機運を醸成するイベントを行ったりしながら協議会発足の準備活動を行いました。そして、平成10年4月に328人の会員からなる任意団体「TAMA産業活性化協議会」が設立されました。会費制で、中小企業でも1社年間7万円を支払い、構成員自らが運営を担う協議会として発足しました。その後も着々と活動を続け、平成13年4月に社団法人に改組され、「(社)TAMA産業活性化協会」(以下では、協議会時代を含めて「TAMA協会」と略称します)となりました。平成14年7月1日現在の会員数は416です。

TAMA協会の事業内容としては、情報ネットワーク事業、産学連携・研究開発促進事業、イベント事業、新規事業支援事業、人材支援事業、国際交流事業などを行っています。また、産学連携・研究開発促進事業の一環として、平成12年にはTAMA協会を母体としてTAMA-TLOが設立されました。

協会組織の特徴

TAMA協会の大きな特徴として、「産」の中では、製品開発型中小企業などの有力な中小企業をターゲットとしています。中小企業全般の底上げではなく、むしろ、製品開発型中小企業の力をつけることによって、そこから波及して地域経済を活性化することを狙いとしています。

また、企業の連携活動は広域化しており、活動を同一都県内にとどめる必然性はありません。一方、この地域には、産学および企業間連携並びに新規事業の担い手として期待される同質の構成要素から成る集積が広がっています。このためTAMA協会は、1都2県にまたがる広域の地域を対象としています。ただし地域外の企業でも、総会での議決権と役員資格はないが正会員と同様に事業に参加できる、賛助会員として入会することができます。

またTAMA協会は、関東通産局の呼びかけに応じて設立されたものの、会費制の会員組織であり、会員が自ら担い手となって運営する自律的な協会組織です。

製品開発型中小企業と基盤技術型中小企業

TAMAにとって、「製品開発型企業」の概念が重要です。「製品開発型企業」とは、設計能力があり、かつ自社製品を有している企業、として定義しています。関東通産局の調査(前記の関東通商産業局[1997])の結果、広域多摩地域には中堅・中小企業の製品開発型の企業、すなわち「製品開発型中堅中小企業」が多く、これらは、平成5~8年度に売上高が年率平均6~7%という高い伸びを示していました。製品開発型中小企業の成長性が高いことは、その翌年に関東通産局が広域関東圏全体について行った調査(関東通商産業局[1998]『広域関東圏における製品開発型企業の動向に関する調査』)でも確認されました。

この好調な業績の背景として、市場ニーズ把握力に支えられた製品開発力を持っているということがあります。この意味で、いい研究開発をしたはずなのに売れないという企業が多い、いわゆる「研究開発型中小企業」とは異なります。自社製品が売上高に立っていることが重要です。広域多摩地域の製品開発型中小企業は、石油危機後の不況期に大手または中堅企業から技術者がスピンオフして創業した企業が多いです。

「製品開発型中小企業」に対して、切削・研削・研磨、鋳造・鍛造、プレス・板金、メッキ・表面処理、金型製造など、ものづくり全般の加工の基盤を担う中小企業のことを「基盤技術型中小企業」と呼んでいます。基盤技術型でかつ製品開発型である中小企業もありますが、多くの基盤技術型中小企業は自社製品を持たず他社の下請け加工を行っています。製品開発型中小企業との関係では、その外注加工先として機能しています。TAMAには、高精度かつ短納期の外注に対応できる基盤技術型中小企業が多数あることも、製品開発にとって重要な要素です。

製品開発型中小企業を中心とするネットワーク概念

TAMAの製品開発型中小企業は、具体的には、半導体検査装置や移動体通信の機能部品など大企業向けに資本財や生産財を供給している企業が多く、平均200社以上の顧客先を持っています。また一方で製品開発型中小企業は、製品を開発および生産するために、平均約50社の基盤技術型中小企業に外注しています。大企業だと、市場規模が年間100億円を割るような開発は行わないところが多いものですが、中小企業の製品開発型企業は、数10億円規模や数億円規模の開発にも積極的に取り組みます。大企業が製造拠点を東アジアに移したために地域で外注が発生しないということが起こっていますが、TAMAでは、製品開発型中小企業の層が厚いので外注が発生します。そして、かなりの部分を周辺の基盤技術型中小企業に発注するので、製品開発型中小企業は、地域経済の新たな中核的存在として台頭しています。

製品開発型中小企業がたくさんあるということは、コンピューター産業のようにインターフェースの標準化が進んだ典型的なモジュール化ではありませんが、独立に設計可能なサブシステムを担う主体がたくさんあるという意味において、この地域はモジュール化が進んでいるということもできるでしょう。しかし、TAMA協会発足前の段階において、製品開発型中小企業を中心とする連携は、主として基盤技術型中小企業との生産工程分業であって、製品開発を目的として製品開発型中小企業同士が連携するというケースは多くはありませんでした。また、大学と製品開発型中小企業との連携もありませんでした。地域の主要な大学は、地域共同研究センターというような産学連携の窓口を設立したところで、大学側の機運が高まってきてはいましたが、地域の企業、特に中小企業との産学連携実績はまだほとんどありませんでした。大企業の中に眠っている技術シーズの発掘も、製品開発型中小企業との連携により可能性が出てくると考えました。そこで、これら縦・横・斜めの連携を進めるため、TAMA協会が発足したというわけです。発足して丸4年が経ちます。はっきりと目に見える大きな成果が出るまでにはまだ数年かかると思いますが、現段階でも連携事例が出始めており、今回その調査をしました。

ATTACはフランス語で「攻撃」という意味なんですが、内容は、為替取引税に税金をかけて市民のために使おうということで、トービン税をかけた場合にフランス国内でその20%を使って、残り80%は世界の貧困根絶のために使おうという方針です。ATTACが創立されたのは98年1月で、現在は5万人の会員を擁しフランスの中で最も強く、最も注目すべき社会運動になったわけです。ATTACの支部が各地にあり、そこが中心になってお金の手配などをしてポルトアレグレに集まったわけです。

TAMA協会の連携仲介の成果

今回の調査で収集した事例は、連携以外のTAMA協会の活動成果事例を含めて40社56事例、そのうち連携事例は製品テーマ数でかぞえて52件です。このうち開発中断および開発未着手事例を除き、活動中(事業化または開発進行中)の連携事例は45、そのうちTAMA会員の事例が40、さらにこの40事例のうちTAMA協会が支援をした事例は23ありました。

このTAMA協会支援事例の支援のパターン、すなわち連携仲介機能の機能類型別に見ると、I.TAMA協会が連携形成を主導した事例、II.連携形成は会員企業が自主的に行っているものの、その連携による製品開発プロジェクトをTAMA協会が支援した事例、III.出会い機会を提供した事例、IV.部分的に協力した事例、の4つに分かれます。このうちI~III類型は、TAMA協会の活動がなければ成立しなかった事例と見られます。このようなTAMA協会の活動を通じて形成された連携プロジェクトは20件ありました。ただしこの件数は、守秘部分が多くて調査できなかった事例は除いたものです。 また内容的に見て、特にI類型とIII類型に分類されるTAMA協会による連携形成関与度合いの強い事例では、それ以外の事例には見られなかった広域かつTAMA域内の連携事例が多くなっています。すなわちこれは、産学連携の担い手として有望な企業や大学が存在しながら、これまでは製品開発目的での連携の実例が少なかったTAMAにおいて、製品開発を目的とした新たな地域内連携が成立し始めているということです。またこれらは、新技術導入効果の高い産学連携事例が多くなっています。

既存の連携形成機会との比較

TAMA協会非関与事例や非会員事例などからTAMA協会以外の連携形成機会を見てみると、1つは企業独自のネットワークによるもの、もう1つは異業種交流会、商工会、学会、インキュベーター、M&A等の既存の仲介組織によるものがあります。企業独自のネットワークの多くは、出身元企業での取引先同士とか、上司と部下の関係など属人的な人脈によるものが多く、連携形成には長年にわたる信頼形成が重要であることがうかがわれます。これらに対して、TAMA協会の存在によって、広域におけるシステマティックな連携形成が促されているといえます。

拡大する連携の輪

連携の直接の当事者は中小企業と大学ですが、それをとりまく主体にも非常に積極的な反応が見られます。

相模原市、八王子市、狭山市等の市自治体は、オフィススペースの提供(八王子市)、事務局への人的貢献(相模原市、八王子市、狭山市)などを行っており、TAMA協会を通じた市域外の企業や大学等との連携が自らの市域内の産業振興にも大きなメリットがあると認識し、TAMA協会の活動初期からその積極的な担い手となっています。

大企業は、20数社が協会に参加していますが、その中から、準備会の段階からコンソーシアムのプロジェクトリーダーやTAMA-TLO運営等の人材面で協力している企業に加え、最近はTAMA協会と提携したインキュベート施設の開設やシリコン微細加工等のファウンドリーサービスの開始によってTAMAの中小企業のニーズに応える企業が登場しています。

また、民間金融機関としては3つの信用金庫が参加していますが、その中で事務局への人的貢献、ビジネスフェアの共催、TAMA-TLOとの業務提携など、具体的な事業活動で協力する信用金庫もあります。さらに、国内最大手の人材紹介会社がTAMA協会と連携して、大手企業人材とTAMA会員中小企業の求人ニーズとの人材マッチング事業を行っており、本年度から開始してすでに2名のマッチング実績があります。

TAMA協会方式の成立要件

このような、TAMA協会およびその下での連携が成立するための要件を考えてみると、市場ニーズ把握力と研究開発指向性を兼ね備えた製品開発型中小企業が存在していること、そして連携運動を主体的に推進する担い手がいることが必須要件です。また、行政の支援形態としても仲介機能的支援が重要だと思います。

製品開発型中小企業や主体的な担い手の存在が必須要件であると考えると、TAMA協会方式が全ての地域でただちに成立するわけではありません。しかし製品開発型中小企業は、大手・中堅を中心とする既存企業の技術人材が独立創業して今日に至っているケースが多いことを踏まえると、近年、大企業において、これまでの終身雇用慣行に見直しの動きが広がり、大企業人材に流動化の兆しがあることは、多くの地域にとって製品開発型中小企業のような企業の創業を促すうえでチャンスであるとも考えられます。

質疑応答

Q:

クラスターの定義はどのようにお考えですか。地域によっては、開発力のある企業がないところでは、まず支援機能からそろえていくという場合もあるのではないでしょうか。またモジュール化については、異なる観点から見ても面白いのではないでしょうか。たとえば、大学は研究開発を行うモジュール、基盤技術型中小企業も加工を担う1つのモジュールであるという捉え方もできるのではないでしょうか。

A:

各地域で開発の形態はいろいろあります。TAMAの運動を始めたときには、クラスターはこうでなければいけないということは意識していなくて、既存の集積の構成要素があり、あとは連携すればいいんだ、そのためにはどうしたらよいか、という思考方法で協議会ができました。もともと構成要素がないところに、それを育てるような支援機能が重要だという地域もあると思います。他地域との比較において、TAMAを相対化して見られるようになると本当は良いと思います。
モジュール化については、ここでは、モジュール化論の発端になったコンピュータ産業について議論されたような意味で、製品システムや製造プロセスのモジュール化の議論をしていますが、おっしゃるように、大学は研究開発を行うモジュール、製品開発型中小企業は開発と事業化を行うモジュール、基盤技術型中小企業は基盤の加工を担うモジュールと捉える考え方もできると思います。

Q:

TAMAで多いコーディネーションの結節点は何ですか。

A:

多くの事例では、製品開発型中小企業がコーディネート企業になっており、I類型の事例においてはTAMA協会がコーディネーションを行っています。

Q:

製品開発型中小企業がコーディネート企業になっているとは、東成エレクトロビーム(レーザー加工、電子ビーム加工を主業とし、開発連携のコーディネートを行っている)のような事例ですか。

A:

東成エレクトロビームは、40社の開発連携協力企業の中からテーマに応じてそのつど数社をコーディネートする開発目的の連携を行っています。これは企業間連携の理想的なタイプですが、このような企業はまだあまり多くありません。通常、製品開発型中小企業の、他の企業との関係は、生産工程分業として基盤技術型中小企業をコーディネートしており、開発目的の連携は産学連携が多いですが、その場合には、その製品開発型中小企業が当該産学連携を主導する立場にあります。このようなタイプの連携とは別に、TAMA協会自身がコーディネートしている連携事例があります。

Q:

TAMA協会が参加企業を選び出して調整していくというスタイルですか。

A:

I類型8事例はそうです。ほかのII、III類型は、協会が意識的に選んだものではないけれども、協会がプロジェクト形成を支援したり、協会のさまざまな活動の場で出会ったものです。その場合の結節点は、製品化を主導する企業であるといえます。TAMA協会の将来像としては、I類型をもっと増やしたいと考えています。現在は、コーディネート力があるのは協会事務局とTAMA-TLOの限られた人だけです。TAMA協会にはTAMAコーディネーター(中小企業診断士、大手企業を辞めた技術者など)が60人くらい登録されており、現在は個別企業の課題解決がその仕事の中心となっています。しかしTAMA協会では、今後は、彼らの受け持ち企業の情報収集力強化と相互の意見交換、情報交換の強化によって、彼らが企業間および産学間の連携をコーディネートできるようにし、これによってI類型の、TAMA協会が連携形成を主導する事例を増やしていく計画です。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。