災害大国の中小企業支援策-東日本大震災からの教訓と課題

後藤 康雄
リサーチアソシエイト

東日本大震災はわが国のあらゆる領域に甚大な影響を与え、政策的に大きな教訓と課題を残した。それは中小企業支援策も例外ではない。東日本大震災を振り返り、自然災害をめぐる中小企業への対応の在り方について、経済全体の視点から考えてみたい(注1)。

幅広く講じられた支援策

2008 年のリーマン・ショックによる未曽有の不況からようやく立ち直りかけた矢先の大震災は、経営基盤が盤石でない多くの中小企業を直撃した。最も深刻な影響を受けたのはもちろん被災地企業である(注2)。

震災を受け、政府は、自治体と適宜連携しながら幅広く中小企業支援策を講じた。当初は緊急対応として阪神・淡路大震災(1995年)での支援策の大枠に沿い、その後新たな施策を加えていった。主な施策として、ここでは、①資金繰り支援策(注3)と、②複数の中小企業をまとめて支援する「中小企業組合等共同施設等災害復旧事業」(いわゆるグループ補助金)を挙げておく。

中小企業は大企業に比べ恒常的に資金調達が難しい傾向にあり、自然災害に限らず経済・社会に大きなショックが及んだ場合、①のような資金繰り支援策が講じられるのは一般的である。しかし、東日本大震災時の大きな特徴として、いわゆる「二重債務問題」がクローズアップされ、そのための対策が取られたことがある。二重債務問題とは、震災前に債務を負っていた被災者が、既存債務の負担によって新たな資金調達が困難となるなどの事態を指す。これに対し、政府は新旧双方の債務への支援策を講じた。

②のグループ補助金は、東日本大震災を機に創設された制度である。被災した複数の中小企業がグループとして一括申請し、認定されれば設備や施設などの復旧費用を国と都道府県から補助される仕組みになっている(中小企業への補助率は4分の3)。この制度は、個々の事業者の申請の手間を省くことができ、補助率の高さもあって、その後の災害時にも活用されてきた。以上の施策のほかにも、仮設施設の整備・貸与、専門家の派遣、雇用対策(雇用調整助成金、失業給付の申請要件緩和)、その他各種補助金など、国や自治体によって多様な対策が実施された。

短期的な視点の教訓:迅速な政策対応

もともとわが国は世界的にも地震や台風等のリスクに常にさらされる“自然災害大国”だが、近年は気候変動により頻度が一段と高まりつつあるように感じられる。われわれは、東日本大震災の経験から、今後の政策や経営への大きな教訓を得ることができる。それは、短期的な視点のものと長期的な視点のものに分けて考えられる。短期的な視点では、迅速性の向上が最も重要なポイントとなろう。迅速さは、被災した中小企業自身にとっての死活問題であると同時に、サプライチェーンを通じて日本経済全体にも大きな意味を持つ(注4)。

従来から指摘されてきたことだが、大方の中小企業は、中小企業支援策のメニューや内容を十分理解し円滑に申請する体制を整えていない。激甚災害の直後ではなおさらである。その一方で、被災企業への支援は時間との勝負でもある。こうした状況は政府も認識し、迅速性を高めるため、激甚災害法改正(2016年)などの法整備を図るとともに、特別相談窓口の設置や関係機関への対応要請等の取り組みを行ってきた。いつどこで激甚災害が起きても対応できる制度の検討・整備に向けた不断の努力が求められる。

長期的な視点の教訓:自助努力と公的支援のバランス

これらはいわば災害が起きた後(あるいはそれを想定した)政策対応だが、自然災害に対しては企業自身の事前の備えが不可欠である。それは日々災害のリスクと隣り合わせのわが国では恒常的なものである。東日本大震災では、BCP(事業継続計画:Business Continuity Plan)の重要性が改めて認識されることとなった(注5)。政府は中小企業のBCP策定を促すための議論や施策を進めているが、いまだ十分浸透していない(注6)。BCPを作るには相応の手間や労力(広義のコスト)を要するためである。BCP以外にも、災害に備えた保険加入や施設・設備への予防的投資など事前の対策はあるが、コストがかかる点に変わりはない。

緊急時の政策対応の意義を否定するわけでは決してないが、こうした自助努力と災害時の公的支援のバランスは、長期的には大きな課題である。公的支援を拡充し過ぎると、有事に政府が助けてくれるというモラル・ハザードを潜在的に生み、本来必要な自助努力の機運を殺いでしまう可能性がある。例えば、先述のグループ補助金は、確かに被災地の中小企業にとって便利だし効果も高い(注7)。しかしそれだけに、自助努力の阻害等による効率性の低下(経済厚生の低下)(注8)、補助を受けられるか否かという公正性の問題、さらに大規模な歳出が重なることによる財政の圧迫など、経済全体の観点から看過できない論点を生む。

災害大国・日本の中小企業支援策は、長期的な視点で自助努力による備えを重視しつつ、短期的な視点で、今日にも襲ってきかねない災害への迅速な政策対応力も備えておく、というのが現実的な方向と思われる。そして、平時には、両者のバランスを検討しておくことが重要である。そうした長期、短期両にらみの姿勢は、現在のわれわれを悩まし続けているウイルス禍とも重なる部分があろう。

脚注
  1. ^ あくまで日本経済全体のマクロ的な視点からの論考を試みたのが本稿であり、ここで十分触れられなかった被災地の方々や企業の復興・復旧が最も重要であることはいうまでもない。犠牲となられた方々への心よりの哀悼、被災者の方々への心からのお見舞いとともに、お断りしておく次第である。
  2. ^ 本稿では、中小企業の中に、個人事業主を含む小規模事業者も入れて考える。
  3. ^ 具体的な内容については内閣官房(2011)、鎌田他(2012)を参照。
  4. ^ サプライチェーンという「ネットワーク性」の観点は、中小企業支援策において比較的新しいものである。グローバル化の進展により国内外のサプライチェーンに対する問題意識は高まっていたが、東日本大震災は、国内にも中小企業を含む緊密なサプライチェーンが形成され、それが寸断されることによるマクロ的な影響を認識させる大きなきっかけとなった。
  5. ^ BCPの経済効果の学術的な計測は今後の課題だが、その有効性を指摘する先行的な文献として丸谷(2008)、中小企業庁(2016)がある。
  6. ^ 帝国データバンクの調査(事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020 年))によると、大企業では約31%がBCPを策定しているが、中小企業は約14%、小規模企業は約8%にとどまっている。
  7. ^ 東日本大震災後の自然災害でも活用され、例えば熊本地震では2016、2017年度に約1,370億円の補助がなされた。
  8. ^ 経済効率性については、(i) 最も自らの状況を把握しているはずの当事者本人の判断ではなく政府という部外者に災害をめぐるリソースの配分を委ねてしまうことによる非効率性と、(ii) 低生産性企業の市場からの退出を促す洗浄効果(cleansing effect)を過度な公的支援が阻むことによる非効率性、があり得る。後者はコロナ禍でも改めて認識されている(例えば森川(2020)、齊藤(2021))。
参考文献
  • 内田衡純・中西信介(2011)「東日本大震災における中小企業支援策」『立法と調査』318 号(2011年7月号)
  • 鎌田純一・伊達岡雅人・中西信介(2012)「東日本大震災後の中小企業支援と今後の課題― これからの中小企業政策に求められるもの―」『立法と調査』330号(2012年7 月号)
  • 国土技術研究センター「国土を知る / 意外と知らない日本の国土」、http://www.jice.or.jp/(2021年3月10日アクセス)
  • 齊藤有希子(2021)「コロナ禍における企業の退出パターンと洗浄効果」、https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0632.html(2021年3月10日アクセス)
  • 中小企業庁(2016)『中小企業白書 2016年版』
  • 内閣官房(2011)「東日本大震災における「二重債務問題への対応方針」について」、https://www.cas.go.jp/jp/siryou/nijusaimu.html(2021年3月10日アクセス)
  • 丸谷浩明(2008)『事業継続計画(BCP)の意義と経済効果-平常時に評価される実践マネジメント-』ぎょうせい
  • 森川正之(2020)「不確実性の高い日本経済の先行きと政策課題」、https://www.rieti.go.jp/jp/columns/s21_0009.html(2021年3月10日アクセス)

2021年3月11日掲載

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