新春特別コラム:2018年の日本経済を読む

表面上は平穏が続く日本経済

後藤 康雄
リサーチアソシエイト

新春コラムは執筆者個人の責任で発表するものであり、経済産業研究所としての見解を示すものでは有りません。

高度成長期を象徴する「いざなぎ景気」をも抜いたとされる景気拡張期が続いている。2018年の景気はどうなるだろうか。少なくとも国内に波乱の芽はあまり見当たらず、おおむね平穏を維持する1年になると筆者はみている。

国内に悪材料は乏しい

国内を展望すると、波乱を生むリスク要因よりも景気下支えに働く要素が目立つ。それらは政策的要素と循環的要素(景気の“勢い”も含めた経済自身のメカニズム)に大別される。政策的要素はさらに財政と金融に分けられる。

まず財政について2018年度の政府予算をみると、財政再建の色彩には乏しく、全体として歳出は拡大気味である。特に今年は、広義の財政関連の要因としてオリンピック関連の建設需要が期待できる。オリンピック開催年までに実質GDPの水準は、累積で10%程度も押し上げられるという研究もある(Brückner and Pappa 2015)。

一方の金融政策は、デフレ圧力を払拭できない状況下、緩和基調が続くだろう。「黒田バズーカ」とも称された2013年以降のようなインパクトのある政策は難しいかもしれないが、少なくとも金融引き締めを検討する局面では全くない。日銀の政策が起点になって景気が抑制されるという事態はまず想定し難い。

次に循環的な要素について考えると、GDPの中で最大のウエイトを占め景気持続の鍵を握る個人消費に、腰折れのきざしはうかがわれない。賃金や雇用は改善基調を維持するとみられるため、消費を左右する家計所得もおおむね増加基調をたどると見込まれる。史上最高水準の収益を実現しながらもベア(ベースアップ)に本腰が入らない企業部門の現状に、政権は苛立っているかもしれないが、2000年代初頭までのような賃下げやリストラの空気は消え去っている。

国内には景気に冷や水を浴びせる要素はほとんどみられないが、海外はどうだろうか。海外経済は日本経済ほど盤石とはいえず、いくつものリスク要因を抱えている。主だったものだけでも、世界の注目が集まる米国の金融政策の運営とその影響、過剰体質にある中国経済の動向、EUを離脱する英国や債務問題の重石がかかる南欧諸国を抱える欧州など、それぞれの地域で不安要素が挙げられる。わが国としては北朝鮮をめぐる地政学的リスクも大きな火種である。しかし、そのいずれもが(地政学的リスクを除けば)、経済に悪影響を及ぼしかねないことは以前から強く認識されているため、リスクの実現を避けるための政策的な努力がなされており、当初に比べれば懸念は薄らいでいる。

ぬるま湯的状態が続く

以上をまとめると、海外経済は下ぶれリスクを抱えつつも、国内は政策的にも循環的にも景気の足を引っ張る要因に乏しく、経済は拡大方向で推移し続ける公算が大きい。しかしながら、景気の勢いが加速して「過熱」状態に突入する可能性も低い。その大きな理由は、家計の所得の増え方が緩やかにとどまるからである。所得の伸びが低ければ、消費の大幅な拡大も期待し難い。

所得の伸びを抑える要因は大きく2つある。1つは賃上げに対する企業の慎重なスタンスである。上場企業は2018年3月期に過去最高益を達成する見通しだが、先行きの不透明感などを理由にベアには総じて慎重なままである。こうした流れの中で、労働組合側も穏健な範囲の要求にとどめており、連合はベア2%、定期昇給を含め4%という要求を2015年の春季交渉から変えていない。

所得の伸びを抑えるもう1つの要因は、財政面の国民負担の増大である。2018年度の与党税制改正大綱によれば、所得税などによる家計の可処分所得に対する下押し効果は1千億円弱になるとみられる(注1)。消費に水を差して景気腰折れを招くというほどではないものの、それでも潜在的な消費抑制効果は無視できない。実のところ、社会保障の企業負担も含めた財政負担は近年継続的に増大しており、賃金を抑える方向に働き続けている(大島・佐藤 2017)。

景気に冷や水を浴びせるような悪材料には乏しく、景気は上向きで推移しつつも、勢いを殺ぐ所得面への重石が、特に現役世代を中心にかかり続ける構図である。こうした綱引きの結果、景気拡大の実感が得にくいぬるま湯的な状態が今年も続くと見込まれる。

平穏のコスト

こうした経済面の平穏には、相応の政策的な犠牲を払っている点は大いに留意が必要である。4月には日本銀行の総裁の任期満了を迎え、次期総裁の就任というビッグイベントがある。現・黒田東彦総裁の後任人事は金融市場の最大の関心事だが、物価をはじめとするマクロ経済の状態を鑑みれば、誰が着任しても超緩和状態が続くだろう。金融政策は、デフレ脱却を目指して非伝統的な手法による実験的な領域に大きく踏み出しているが、経済・社会に及ぼす長期的な影響は未だ見極め難い。

税収が限られるなかでの財政規模の確保もまた潜在的に大きなリスクを抱えている。先進国で最悪の状態にあるわが国の財政に対しては、かねてより信認の揺らぎが危惧されてきた。今年は、2019年10月に予定されている消費税率再引き上げの判断がなされる大事な年となるはずである。

財政規模を保ちつつ、財政再建にも一定の配慮をしなければならない、ということで、現在は現役世代の中でも特に徴収しやすい階層の負担が嵩みがちな流れにある。社会保障をはじめとした分配面の改革は政治的・社会的な摩擦を生みやすく、本格的な議論は避けられてきたが、経済・社会の活力を高めるためには避けて通れない最重要課題である。

日本経済が、表面上、居心地の悪くない平穏を続けるとしても、潜在的には相応の大きな政策的犠牲が払われている。バブル崩壊後の日本経済が「失われた20年」どころか「失われた30年」になっている、との指摘も散見される。高まりつつある経済・社会の余力を生かして、「失われた40年」にならないよう、重要な政策的論点に取り組んでいけるかの大きな岐路にあたるのが、長期的・歴史的にみた今年の位置づけになるだろう。

脚注
  1. ^ 日本経済新聞(2017年12月14日付)「個人軸に2800億円増税 法人税は増減ゼロ」による。
参考文献
  • Brückner, M., and E. Pappa, 2015, "News Shocks in the Data: Olympic Games and Their Macroeconomic Effects," Journal of Money, Credit and Banking, Vol. 47, pp. 1339-1367.
  • 大島敬士・佐藤朋彦(2017)「家計調査等から探る賃金低迷の理由――企業負担の増大」、『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』慶應義塾大学出版会

2018年1月4日掲載

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