新春特別コラム:2019年の日本経済を読む

世界経済を覆う暗雲、小春日和の日本経済

後藤 康雄
リサーチアソシエイト

暮れも押し迫った12月13日、わが国の景気局面を公式に認定する「景気動向指数研究会」が内閣府で開催された。同研究会は、2012年末から続く景気拡大期間が、高度成長期の「いざなぎ景気」(1965~70年)を一昨年9月時点で超えていたことを最終確認した。その後も日本経済に大きな波乱は無く、この1月をもって戦後最長を更新する可能性が高まっている。

消費税率引き上げの影響は限定的

実際に戦後最長を達成したかという点に関していえば、景気拡大の起点はもっと後だったのではないかとか、景気はすでにピークアウトしたのではないか、などといった異論も聞かれる。しかし、少なくとも2018年の日本経済を振り返れば、全体としておおむね拡大基調を維持したと言ってよかろう。金融緩和を背景とする海外経済の拡大や円安のもと、輸出が増加傾向にあったほか、国内に目立ったマイナス要因は無く、日本経済は緩やかな回復を続けた。

それでは、2019年の日本経済はどうなっていくのか。現実の景気はさまざまな要因に左右される。それらを、消費や投資などが相互に影響し合ってトレンドを形成する「循環的(内生的、自律的と言い換えてもよい)な要因」と、景気対策や海外経済といった「外生要因」に分けて考えると理解しやすい。まず前者の循環的要因については、力強さに欠けつつも、急減速するきざしはない。雇用・賃金の改善に支えられ個人消費が緩やかに拡大を続ける一方、空前の高収益のもとで企業マインドも総じて好調なため、設備投資も堅調が見込まれる。盤石な好循環にある、とまでは言い難いが、消費と投資という民間需要の両輪のいずれもお互い足を引っ張る状況にはない。

さらにわが国で特徴的なのが外生要因である。国内に関しては、オリンピック需要と消費税率引き上げの大きな2つがある。前者については、いよいよ五輪開催を目前に関連需要の増大は日本経済を押し上げる方向に働く。後者の消費税率引き上げは、過去の事例からみても(因果関係は慎重に見極める必要はあるが)景気押し下げの方向に働くことは避け難い。しかし、今回は、税率引き上げに伴うマイナスの影響を和らげるべく、軽減税率をはじめとする様々な対策が以前に増して積極的に講じられる。このため、予定通り10月に税率が引き上げられても、引き上げ前の駆け込み需要とその後の反動減の波は従来緩やかで、またそれらを年間でならしても景気を腰折れさせる公算は低いように思われる。

世界に広がる暗雲

日本経済にとって最大の外生的なリスク要因は海外経済だろう。ややもすると輸出が思いのほか急激に落ち込んで、景気に冷や水を浴びせる可能性がある。すでに海外経済にはここそこに不安な動きがみられている。

もっとも注目されるのは“米中貿易戦争”の帰趨である。2018年中は目立った悪影響が出なかったようにみえるが、少なくとも中国側には影響が出始めている。対米輸出は鈍化し、小売、生産などの伸び率も低下傾向にある。米国経済は今のところ堅調を維持しているようにみえるが、先行きを不安視する金融市場では株価の振れ幅が拡大し、長短金利の逆転現象も生じた。欧州でも、イギリスのEU離脱、フランスの大規模デモの発生をはじめ、閉塞感が強まっている。

移民問題や軍事問題といった、経済の論理だけでは片付けられない理由もからんではいるが、これらの大きな背景に先進国経済の低成長があることは間違いなかろう。従来は、拡大する経済のパイの分配によって格差などの社会的な不満を緩和していたが、パイに乏しくなってきたことが社会的な不満の高まりにつながっている、と受け止める向きは多い。

やや長い目で見ても、先進国の成長力が抜本的に回復するとは期待し難い。現在の延長線上で考えれば、供給サイドの生産性の伸びしろは限られている。需要サイドについても、先行き不透明感から民間支出は抑制的であるほか、わが国を筆頭に財政状況の悪化から公的支出を拡大する余地も乏しくなっている。昨今の世界的な内向き志向を、為政者の強烈なキャラクターに主導された、一時のムーブメントと片付けることはできない。

各国とも乏しい政策余力

こうしたなか、本年以降を展望するにあたって特に不安なのは、各国の政策対応力が限られていることである。金融政策は米国、欧州ともようやく正常化の道を模索し始めたところで、少なくとも利下げの余地はほとんどない。日本は言うに及ばずである。財政政策も、すでに各国ともリーマンショックなどを経て公的債務が膨れ上がっており、闇雲にアクセルはふかせない。特に、2000年代末頃から世界経済を支えるに少なからず役割を果たしてきた中国の財政状況が抜き差しならなくない域に達している。

自律的な経済成長の道筋が狭まり、物価上昇率も頭重く推移する一方で、従来型のマクロ経済政策の出動余地は限られている――かつてわが国と同様の構図が世界に広がる「日本化現象」が指摘されたが、基本的な状況に変わりはない。むしろ深く静かに定着しつつあるようにもみえる。

2019年の日本経済は国内的には「小春日和」かもしれないが、取り巻く外的環境はむしろ厳しさを増すと予想される。意外に早く到来するかもしれないネガティブ・ショックに向けて、新たな景気刺激策の可能性や、地道な成長戦略といった政策論争は一段と重要性を増す。それは、経済的な豊かさのみならず、平和で安心して暮らせる社会の実現に直結する。20世紀に人類は紆余曲折を経て、マクロ経済政策によってインフレや不況に対処する術を得たと考えられてきた。しかし、長期的に成長トレンドが低下する中でのデフレ進行にどう対処するかは、未だ手探りの状況にある。小康状態に甘んじることなく、世界的、長期的なパースペクティブに日本経済を位置付けて考えることが肝要な2019年となろう。

2019年1月7日掲載

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