新春特別コラム:2021年の日本経済を読む〜コロナ危機を日本経済再生のチャンスに

不確実性の高い日本経済の先行きと政策課題

森川 正之
所長・CRO

不確実性の高い2021年の日本経済

来年度政府経済見通しが12月下旬に発表された。2021年度実質GDP成長率+4.0%という見通しである。同時に示された2020年度実績見込みは▲5.2%、つまり戦後最大の成長率低下を記録することになりそうである。当初の政府経済見通しは+0.9%だったから、世界経済危機の影響で大きく下振れした2008年度を超える▲6.1%という大幅な負の予測誤差である。もちろん新型コロナ感染症の世界的な拡大という想定外のショックによるもので、民間エコノミストや国際機関の予測も同様である。

企業の売上高見通しも大きく下振れしている。「日銀短観」の年度計画(全規模全産業)によると、2020年度の売上高は3月調査時点では前年比+0.1%と微増だったが、12月調査では▲8.6%である。経常利益は▲2.5%から▲35.3%へと大きく下方修正されている。

一方、2021年度政府経済見通しの+4.0%という数字は、当初見通しとして過去30年間で最も高く、民間エコノミストの平均的な予測と比べてもいくぶん強めの数字である(注1)。 ただし、成長率が大きく低下した後はその反動で高い成長率となることがあるので、あり得ない数字とは言えない。しかし、2021年度経済は新型コロナの動向次第であり、見通しの不確実性は極めて高い。

本稿執筆時点において新型コロナ感染者数は全国的に増加が続いており、GoToキャンペーンの停止、飲食店の営業時間の制限要請といった対応が行われている。海外でも欧州では外出制限などの措置が再び拡がっており、こういった状況が今後どの程度の期間にわたって続くのかは予想しがたい。一方、ワクチン開発が急速に進んでいるので、その普及速度も経済活動を左右するだろう。世界的に接種が順調に進むならば、経済活動が上振れする可能性もある。

不確実性の影響と対応

こうした不確実性の高い状況下では、点予測値ではなく幅をもって考えておくのが現実的である。1990年代以降2019年度までの政府経済見通しの予測誤差のデータを基に、2021年度経済見通しの95%信頼区間を機械的に計算すると▲0.2%~+6.4%という範囲になる。つまり3年連続してマイナス成長となるおそれも排除できない(注2)。 これは平時を含む過去の情報に基づくものなので、2021年度見通しの信頼区間はもっと広いと考えた方が良いかもしれない。

なお、1年延期された東京オリンピック・パラリンピックが開催されるかどうかにも依然として不確実性があるが、これはマクロ経済全体の成長率にはさほど影響しないと考えられる。以前のコラム(森川, 2017)で書いた通り、そもそも開催期間中の消費支出増加は、他の消費からの代替やマイナス要因を考慮するとごく限られているからである。

先行きの不確実性が高まったとき、それが落ち着くまで長期的な意思決定を先延ばしするという「様子見」(wait-and-see)行動の結果、設備投資、研究開発投資をはじめ前向きの企業行動が抑制されることはよく知られている。従業員の新規採用も長期的な投資なので同様の影響を受ける。新型コロナによるGDP低下のうち大きな部分が不確実性の増大で説明されることを示す研究もある(Baker et al., 2020a, b)。新型コロナの終息時期など除去することが困難な不確実性は仕方ないが、少なくとも経済政策はできるだけ予測可能性の高い形で実施し、追加的な不確実性の源泉にならないようにすることが望ましい。

コロナ危機後への課題

中長期的な観点からは、新型コロナが「長期停滞」の要因となるかどうかが問題となる。この点は、不可逆的な負の「履歴効果」がどの程度生じるかによる。上述した生産性上昇につながる投資の減少のほか、コロナ危機で職を失った人の労働市場からの引退やスキル劣化、学校閉鎖やオンライン教育による若年層のスキル形成への影響、グローバル化の後退などが挙げられる。一方、新しいデジタル技術の普及、決裁の簡素化・押印廃止など企業の業務効率化や規制改革、もともと生産性の低かった企業の退出による「洗浄効果(cleansing effect)」など、コロナ危機後の生産性を高める要素もある(森川, 2020)。

コロナ危機下で世界的に異例の財政・金融政策が採られてきた。先進国の政府債務残高のGDP比率は2021年末に125%を超え、日本は250%を上回ると予測されている(IMF, 2020)。現状においてこれが直ちにインフレや財政破綻につながることは考えにくいが、高水準の政府債務は今後の重大なリスク要因であり、景気回復局面では金利上昇等を通じて成長力に影響する可能性がある。新型コロナ終息後の経済成長のためには、非常時の財政・金融政策を正常化するための取り組みも課題になる。

バブル崩壊以降の日本経済を回顧すると、1997~98年の金融危機、2008~09年の世界経済危機、2010年以降は東日本大震災、そして現在のコロナ危機と頻繁に大きな負のショックを経験してきた。今後も予期せざる大規模自然災害、海外発の政治的・経済的ショックといった想定外の事象が起こり得ること、その際の対応余力を持っておくべきことも念頭に置く必要がある。

脚注
  1. ^ 「ESPフォーキャスト調査」(日本経済研究センター)によれば、エコノミストの2021年度実質GDP成長率予測の平均値は+3.4%である。
  2. ^ 最近公表された2015年基準の実質GDP成長率によると、2019年度は▲0.3%とマイナス成長となっている。
参照文献

2020年12月25日掲載

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