サプライチェーンの脆弱性:ミクロデータによる大震災ショック波及の検証

齊藤 有希子
研究員

東日本大震災から2年半経過した。避難者の問題など、いまなお多くの課題が残されているが、経済活動においては、予期せぬ大震災から多くの教訓を得たであろう。企業のレジリエンス(回復力、復元力)が叫ばれ、事業継続マネジメント(BCM)の導入が加速した。そして、企業の脆弱性を克服すべく、サプライチェーンの見直しが進んだ。

これから起こりうる大震災などの予期せぬ災害に備え、東日本大震災の事後評価を行うことにより、企業の脆弱性の本質を理解していくことが重要であろう。サプライチェーンを経由し、被災地の企業の被害が被災地以外の企業にどのように波及し、企業がどのような対処をしたのかを分析した。

被災地以外の企業のつながり

東日本大震災では、被災地以外においても、サプライチェーンを経由した企業の被害が多く報告された。企業の被害に関する研究が活発に行われており、RIETIのプロジェクトにおいても、多くの研究成果が出てきている。

サプライチェーンと企業の被害の研究として、被災地以外の多くの企業が被災地の企業と間接的な取引関係によってつながっていることが実証的に確認されている。企業の取引関係の半数が40km以内の非常に狭い範囲で行われ、被災地の企業と直接取引のある企業は全体の3%に過ぎないが、取引先の取引先である企業を含めると5~6割になり、多くの企業が間接的につながっているのである(注1)。下図は、被災地の企業、被災地の企業の取引先、取引先の取引先企業の割合を都道府県別に示しており、地理的に広がっていく様子が視覚的にも見て取れる。

図

被災地の企業からの波及の大きさ

では、サプライチェーンを経由し、被災地以外の企業にどのように波及したのだろうか。RIETIのプロジェクトの新しい研究成果を紹介する(注2)。企業間の取引関係を把握するため、東京商工リサーチ(TSR)の約100万社の企業のデータを用いた。前述の研究でもTSRのデータを用いたが、本研究では震災前後の新しいデータを用いて、業績の変化や取引関係の変化を分析した。

まず、被災地の企業を浸水地域の企業と定義した。この定義のもと、被災地の企業では、統計的に有意な震災後の退出確率の上昇と売上高伸率の低下が確認された(注3)。ただし、注意すべきこととして、被災地の企業の間でも被害の大きさは非常に異なっており、復興支援によるためか、大きく成長した企業も存在する。そのため、特に被害の大きかった企業、すなわち退出企業にも注目する。

被災地の企業が仕入先である企業をdeg1_s、販売先である企業をdeg1_cの変数で表し、被災地の退出企業が仕入先である企業をdeg1_s_exit、販売先である企業をdeg1_c_exitの変数で表した。震災後の売上高伸率(lngrowth_after)との関係を表1に示している(注4)。被災地の仕入先からは有意でないがマイナスに、販売先からは有意なマイナスの効果があることが確認された。売上高減少の効果は、販売先から波及しやすいことが分かる。

一方、被害の大きい退出企業からの波及については、仕入先、販売先の双方から、有意な波及効果があることが確認された。さらに興味深いことに、退出企業からの波及効果は、仕入先からの方が販売先からよりも大きく、直接的な取引先だけでなく、取引先の取引先(deg2_s_exit)、さらなる取引先(deg3_s_exit)にまで、有意な波及効果が確認された。

表1:被災地企業との取引関係と震災後の売上高伸率の関係
表1:被災地企業との取引関係と震災後の売上高伸率の関係

被災地の企業からの波及への対処

被災地の企業からの波及に対し、被災地以外の企業はどのような対処をしたのであろうか。取引関係の変更に注目して、新規の取引先の構築(d_link_s(c)_new)との関係を表2に示している。まず、仕入先、販売先ともに、被災地に取引先を持つ企業では、新規取引先の構築確率が有意に上昇し、柔軟に新しい取引関係を構築していることが分かる。しかしながら、退出企業を取引先に持つ場合には、新規取引先の構築確率の有意な変化は見られない。柔軟に新しい取引関係を構築できなかったことが考えられ、このことが売上高減少につながったと考えられる。

以上の分析結果から、比較的小さなショックに対しては、柔軟に新規取引先を構築するとともに、在庫調整(注5)などにより、対処することが可能であるが、大きなショックに対しては、柔軟な対応ができず、取引先の取引先にまでも波及しえることが分かる。一部の地域のショックが、マクロなレベルまで影響しうると考えられる。

このような企業のサプライチェーンの脆弱性からは、大震災などの復興支援において、均等な支援でなく、大きなショックを受けた企業に対する重点的な支援が望まれることが示唆される。実証的なエビデンスに基づき、今後首都圏でも予想されるメガクエイクや大規模な火山噴火に備え、大きなショックに対応できるような保険制度、災害復旧法制等を検討していく必要があるだろう。

表2:被災地企業との取引関係と震災後の新規取引先の構築確率の関係
表2:被災地企業との取引関係と震災後の新規取引先の構築確率の関係
2013年9月10日
脚注
  1. ^ 詳細はNakajima, Saito and Uesugi (2012), 齊藤 (2012), Saito (2013)を参照されたい。
  2. ^ 詳細はCarvalho, Nirei and Saito (2013)を参照されたい。
  3. ^ 震災前の売上高伸率と取引関係数をコントロールした推計結果である。以降の回帰分析も同様の2変数をコントロールしている。
  4. ^ 震災前後の違いを観測するため、震災前の決算は2010年12月、震災後の決算は2011年12月の企業に限定して分析している。また、直接的な被害を取り除くため、被災地以外の企業については、青森県、岩手県、宮城県、福島県の4県の企業を除いている。
  5. ^ 本研究では、在庫変動に関する分析は行っていないが、企業活動基本調査のデータを用いて、分析することが可能であり、今後の課題とする。
文献

2013年9月10日掲載