国際貿易と貿易政策研究メモ

第14回「重力方程式の理論と新しい推定方法」

田中 鮎夢
研究員

1. はじめに

前回、貿易額の大きさを分析する重力方程式(gravity equation)の概要を説明した。重力方程式は、自由貿易協定や経済連携協定(EPA)、共通通貨といった政策の貿易額への効果を分析することにも、用いることができる。とりわけ政策の効果の数量的規模を測るときには、重力方程式の推定は、できる限り精確であるべきだ。

そうした精確さの面で、前回紹介した重力方程式の伝統的な推定手法には、問題があることが、2000年代以降の研究で明らかになってきた。その中でも、大きく3つの批判がある。1つは価格効果の制御に関する理論的な批判、もう1つは計量経済学的な批判、最後に貿易額がゼロである場合の処理についての批判、の3つである。これらは相互に排反するものではなく、むしろ相互に関連しあう面がある。

重力方程式の近年の発展は目覚ましく、現在大学院の標準的な教科書であるFeenstra (2004) も第1の批判についてしか説明できていない。そこで、本稿は、今回、最初の2つの批判について、政策実務者が理解できる程度に簡潔に紹介することにしたい。

2. 重力方程式はなぜ貿易額を説明できるのか:重力方程式の理論的基礎

オランダの経済学者ヤン・ティンバーゲンが、Tinbergen (1962)の中で重力方程式を貿易に初めて適用して以来、国際貿易の分野で重力方程式は最も成功した実証手法であるとされている(Anderson, 1979)。ただし、当初は貿易の重力方程式の理論的基礎は明示的に考えられていなかった。しかし、Anderson (1979) をはじめとするその後の研究で、貿易の重力方程式は、経済理論から導き出されることが分かった。しかも、貿易の重力方程式は、様々な貿易理論から導くことができることが分かった。リカード・モデル(Eaton and Kortum, 2002)、ヘクシャー=オーリン・モデル (Deardorff, 1998) などの伝統的貿易理論からも、新貿易理論(Anderson and van Wincoop, 2003; Helpman, 1987)からも、新々貿易理論(Chaney, 2008; Helpman, 2008)からも、貿易の重力方程式は理論的に導くことが可能である。

表1:貿易の重力方程式の理論的基礎
貿易理論主な研究
伝統的貿易理論リカード・モデルEaton and Kortum (2002)
ヘクシャー・オーリン・モデルDeardorff (1998)
新貿易理論Anderson and van Wincoop (2003), Helpman (1987)
新々貿易理論Chaney (2008), Helpman (2008)

では、なぜ、貿易の重力方程式は、多くの貿易理論から導くことが可能なのか。その大きな理由は、貿易の重力方程式が極めて単純な論理に基づいているからである。

たとえば、車だけを生産・輸出・消費している世界を考える。日本は、車100台だけを生産・輸出している国だと仮定する。そこで、日本のGDP(所得)は100とする。そのとき、アメリカが日本の3倍のGDPで、300であるとする。また、ドイツは、日本と同じGDPで100であるとする。さらに、世界は、日本、アメリカ、ドイツの3カ国のみで構成されると仮定する。それゆえ、世界全体のGDPは、日本100、アメリカ300、ドイツ100で500である。

表2:重力方程式の数値例
経済規模(生産量)消費シェア日本車の消費=輸入量
日本1001/5100×1/5=20台(国内消費)
アメリカ3003/5100×3/5=60台(輸入)
ドイツ1001/5100×1/5=20台(輸入)

また、輸送費(貿易障壁)が全くないとする。そのとき、日本で生産された車100台は、各国の所得(GDP)に応じて、20台(=100×100/500)は日本で、60台(=100×300/500)はアメリカで、20台(=100×100/500)はドイツで消費されるはずである。そして、消費量に応じて、日本からアメリカに60台、ドイツに20台、車が輸出されることになる。

要するに、経済規模(GDP)が大きい輸入国の方が、財の消費量=輸入量が多いはずである。経済規模が3倍であれば、車の消費台数=輸入台数も3倍になる。

ただし、輸送費(貿易障壁)が現実にはある。輸送費が大きいほど、貿易額は減るだろう。その点も考慮すれば、貿易額は、経済規模と輸送費によって、決まるはずである。輸送費の代理指標として、2国間の距離を用いることにする。そうすると、経済規模と距離によって貿易額が決まる貿易の重力方程式が導かれる。

3. 伝統的な推定方法:最小自乗法(OLS)

前回説明したように、対数線形化した以下の式(対数線形モデル, log linear model)を最小自乗法(OLS)で推定するのが、伝統的な推定方法である。

式

ここで、貿易額ijは国iから、国jへの輸出額や輸入額である。GDPiは国iの経済規模、GDPjは国jの経済規模である。Aは定数。距離ijは、国iから国jへの距離である。

しかし、この推定方法には、冒頭で述べたように大きく3つの批判がある。今回は、(1)価格効果の制御に関する理論的な批判と(2)計量経済学的な批判のそれぞれを踏まえて提案された新しい推定方法を説明する。

4. 新しい推定方法(1):固定効果法

第1に、上記の伝統的な重力方程式は、価格効果(price effect)を制御できていない。現代の重力方程式の基礎を築いた著名な研究であるAnderson and van Wincoop (2003) は、新貿易理論から、理論的に重力方程式を導き出し、伝統的な重力方程式が、経済規模(GDP)は考慮しているが、広い意味での消費者物価は考慮してこなかった点を批判した。彼らは、この広い意味での物価を「多角的貿易抵抗指数」("multilateral resistance" variable)と呼んだ。

たとえば、日本の物価は、日本国内で生産された財のみならず、諸外国からどれだけ安い財を輸入できるかによって、決まる。中国のような低賃金国が遠くにではなく近くにあることで、日本の物価は低くなっていると考えることができる。

フランスが日本に財を輸出するとき、日本とフランスの経済規模のみならず、日本とフランスの物価もフランスから日本への輸出に影響を及ぼす。日本の近くに中国のような国があり、日本の物価が低いとすれば、フランスから日本への輸出はより困難になるので、輸出額は小さくならざるを得ない。このように、貿易当事国以外の要因によって影響される日本の物価が、日本とフランスの2国間貿易に影響を与える。そのため、物価は、「多角的」貿易抵抗要因と呼ばれている。

重力方程式の伝統的な推定方法は、この物価要因を考慮していなかった。物価は、日本と全世界との貿易によって決まるため、制御するのも難しい。しかし、物価を考慮しなければ、自由貿易協定の効果などその他の変数の精確な推定値が得られない。

Anderson and van Wincoop (2003) の批判を踏まえて、Redding and Venables (2004) は驚くほど単純な推定方法を用いた。彼らは、GDPの代わりに、輸出国iと輸入国jの固定効果(ダミー変数)を用いた次のような式を推定した。

式

この推定方法は、輸出国と輸入国の経済規模と物価の両方の要因をダミー変数によって制御している。ダミー変数(固定効果)を用いるため、固定効果法(the fixed-effect approach)と呼ばれている。

この固定効果法は、極めて単純だが、残念ながらエクセルのアドインである分析ツールの回帰分析機能では実行できない。というのも、エクセルの回帰分析機能が、説明変数を16個までしか扱えないからである。Stataなどの統計分析ソフトでは固定効果法を容易に実行できる。たとえば、Stataでは以下のようなコマンドで推定が行える。

xi:regress lnexport i.exporter i.importer lndist

ここで、lnexportは輸出額の対数値、exporterは輸出国ダミー、importerは輸入国ダミー、lndistは距離の対数値である。

なお、1時点の横断面データではなく、複数時点のパネルデータを用いるときには、Disdier et al. (2010) のように、年毎の輸出国ダミー、年毎の輸入国ダミーを加えれば、価格効果を制御できる。そのとき、時間の添え字をtとすると、推定式は下記のようになる。

式

5. 新しい推定方法(2):ポワソン疑似最尤推定法

重力方程式の伝統的な推定方法には、計量経済学の観点からも批判が加えられている。それは、対数線形化への批判でもある。理論から導かれる重力方程式は、線形ではない。そこで、伝統的な推定方法は、対数線形化して、最小二乗法(OLS)で推定するという手順を踏んでいた。しかし、いわゆる「ジェンセンの不等式」(Jensen's inequality)が示すように、対数を取った後で期待値を取るのと、期待値をとってから対数を取るのとでは、出てくる値が異なる。その点を考慮して、Santos Silva and Tenreyro (2006) は、貿易額の対数を取る前の値(level)を用いて、「ポワソン疑似最尤推定法」(Poisson pseudo-maximum-likelihood method, PPML method)によって推定することを提唱した。

従来、ポワソン疑似最尤推定法は技術的に困難であったが、統計分析ソフトStataを用いれば容易に実行できるようになった。たとえば、以下のコマンドで推定できる(Santos Silva and Tenreyro, 2006)。

poisson export lnGDPi lnGDPj lndist, robust

ここで、exportは対数を取らない輸出額、lnGDPiは輸出国のGDPの対数値、lnGDPjは輸入国のGDPの対数値、lndistは距離の対数値である。不均一分散に対処するためにrobustというオプションを付している。もちろん、価格効果を制御するためには、GDPではなく、輸出国と輸入国のダミー変数を用いればよい。

さらに、Head et al. (2009) は、「疑似最尤推定法」(quasi-maximum likelihood estimation, QMLE)の中でも、ポワソン疑似最尤推定法だけではなく、「二段階負の二項分布(two-step negative binomial, 2-step NB)疑似最尤推定法」の両方を用いて、結果の頑健性を確認している。Head et al. (2009) は、二段階負の二項分布疑似最尤推定法のための、Stataのコードを公開している(URL: http://strategy.sauder.ubc.ca/head/sup/)。

また、Neiman and Swagel (2009) のように、離散確率分布である負の二項分布やポワソン分布ではなく、連続確率分布であるガンマ分布を用いた、「ガンマ疑似最尤推定法」(Gamma quasi maximum likelihood estimation, GQML method)によって、結果の頑健性を確認する研究もある。

6. まとめ

重力方程式のさまざまな推定方法を紹介した。それらをまとめると表のようになる。最小自乗法にするのか、疑似最尤推定法するのかを選択し、説明変数に経済規模(GDP)を用いるのか、輸出国ダミー・輸入国ダミー(固定効果)を用いるのかで、少なくともAからHの計8種類の方法がある。

表3:重力方程式の推定方法(推定手法×説明変数)
経済規模の使用固定効果の使用
最小自乗法(OLS)A経済規模の使用
(「伝統的推定法」)
B固定効果法
(「固定効果法」)
疑似最尤推定法
(QMLE)
ポワソン(PPML)C経済規模の使用D固定効果法
二段階負の二項分布(2-step NB)E経済規模の使用F固定効果法
ガンマ(GQML)G経済規模の使用H固定効果法

重力方程式の伝統的な推定方法への2つの批判を踏まえれば、ポワソン疑似最尤推定法と固定効果法を併用する方法(Dの方法)が、まずは望ましいといえる。その上で、その他の推定方法で結果の頑健性を確認するということがよい。ただし、いずれの方法を採用するかは、分析の目的にもよることは言うまでもない。

7. 終わりに

今回は、重力方程式の伝統的な推定方法の限界と新しい推定方法を概説した。自由貿易協定や経済連携協定の効果を測るうえでも、重力方程式は用いられる。そのため、政策の量的な評価を行う際には、できる限り精確な推定値が得られるよう、新しい推定方法を活用することが、政策当局にも求められる。

2012年12月14日

注:本稿は、財務省財務総合政策研究所「財政経済理論研修」(2012年5月)、及び経済産業省経済産業研修所「経済・産業分析短期集中研修」(2012年11月)での講義内容・配布資料に基づき、作成した。

文献
  • Anderson, James E. (1979) "A Theoretical Foundation for the Gravity Equation." American Economic Review, 69(1): 106-116.
  • Anderson, James E. and Eric van Wincoop. (2003) "Gravity with Gravitas: A Solution to the Border Puzzle." American Economic Review, 93(1):170-192.
  • Chaney, Thomas (2008) "Distorted Gravity: The Intensive and Extensive Margins of International Trade." American Economic Review, 98(4): 1707-1721.
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2012年12月14日掲載

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