1. はじめに
近年、日本企業は、中国など低賃金国で生産した製品を日本で販売することが多い。しかし、全ての日本企業が海外生産(オフショアリング、offshoring)を行っている訳ではない。なぜ、海外生産を行う企業と行わない企業がいるのか。
さらに、海外生産の中でも、(i)外国直接投資(FDI)を行い、外国子会社で直接生産を行う場合と、(ii)外国の企業に生産を委託する場合(外国生産委託、foreign outsourcing)と二通りある。同じ産業であっても、外国直接投資を行う企業もいれば、外国生産委託を行う企業もいる。なぜ、海外生産の形態が企業によって異なるのか。
2. 企業の戦略
ここで、まず、企業の戦略を整理する。企業には、4つの選択肢がある。まず、国内で生産するか、外国で生産するか決めないといけない。さらに、自社生産するか(企業内)、生産委託するか(企業外)、決めないといけない。表1に示すように、それら2つの決定に応じて、国内自社生産、国内生産委託、外国自社生産、外国生産委託の4つの選択肢のいずれかに定まる。
国内 | 外国 | |
---|---|---|
企業内 | 国内自社生産 | 外国自社生産 (外国直接投資、FDI) |
企業外 | 国内生産委託 | 外国生産委託 (foreign outsourcing) |
3. 企業の生産性と戦略
では、どのような企業が、どの戦略を採用するのか。Antràs and Helpman (2004) は、前回紹介したAntràs (2003) の「企業組織と貿易」の理論にMelitz (2003) の新々貿易理論を統合して、この問題を分析した。
第1に、企業は、賃金の安い外国で生産した方が利潤を増やせるが、異なる商慣習や言語・文化に対応するため、外国で生産するには固定費用がかかる。その固定費用をまかなえるのは、生産量の大きい、生産性の高い企業だけである。そこでまず、生産性の高い企業だけが海外生産を行える。
第2に、生産委託するのは容易だが、自社生産するのは大変である。自社生産のための工場を設立し、維持するための費用がかかる。生産委託であれば、そうした費用はかからない。そのため、生産性の高い企業だけが自社生産できる。
これら2つの議論を踏まえれば、生産性の最も高い企業が、FDIによって外国子会社を設立して海外生産を行える。その次に生産性の高い企業が外国生産委託を行うことになる。海外生産を行えない企業は、国内自社生産または国内生産委託を行う。国内生産委託を行う企業よりも、国内自社生産を行う企業の方が、生産性が高い。図1はそれを示したものである。

このAntràs and Helpman (2004) の理論予測は、冨浦英一・横浜国立大学教授/経済産業研究所ファカルティフェローの世界的に有名な研究 (Tomiura, 2007) によって、実証的に支持されている。
4. 終わりに
今回は、企業の海外生産形態と生産性との関係を論じた。産業特性や製品特性などを考慮すれば、今回示した理論通りにはならない場合もある。実際にアップルのように海外生産委託を活用した優れた企業が存在する。この分野の研究はまだ端緒についたばかりであり、さらなる研究が必要である。経済産業研究所では、冨浦FF、若杉隆平・京都大学教授/経済産業研究所プログラムディレクターらによって、精力的に研究が行われている。