対外投資立国となった日本
日本経済の緩やかな拡大持続、世界経済回復や円安に支えられた輸出増、徹底した金融緩和政策の継続などで日本企業の収益が拡大している。2016年度の日本企業の経常利益額を見ても75.0兆円(注1)となり、過去最高の2015年度(68.2兆円)を抜いて史上最高を更新している。同様に、2016年度の売上高経常利益率も大企業、中堅企業とも1960年度以来の最高水準で、中小企業も1973年度(3.8%)に次ぐ3.5%と過去2番目の高水準となっている。
この企業収益の拡大を大きく支えているのが海外での収益増である。2016年の日本の国際収支(注2)は、貿易収支が前年の0.8兆円の赤字から5.5兆円の黒字に転じている。なにより、対外証券投資収益と対外直接投資収益を中心とする所得収支の黒字が18.1兆円に上っており、貿易黒字の3倍余りとなっている(図表1)。
所得収支は、対内外証券投資収益と対内外直接投資収益以外では、対内外利払い、官民の無償資金協力、寄付、贈与などから構成されている。中でも、2016年の対外直接投資収益は7.3兆円、対外証券投資収益は10.3兆円である。いずれの収益も貿易黒字を上回っていて巨額だが、過去から拡大傾向にあって東日本大震災後の貿易収支のように赤字に沈んでいないことも注目点である。
しかも、日本の所得収支黒字は世界的に見ても巨額である。2016年の日本の貿易黒字は、中国、ドイツ、韓国等の後塵を拝して世界11位だが、所得収支黒字(1664億ドル)では世界一の米国(1732億ドル)に肉薄している(注3)。第3位のドイツが577億ドルなので、日本は米国とともに所得収支黒字が突出した国ということになる(図表2)。そして、こう見ると、日本は貿易立国というよりも対外投資立国であると言った方がふさわしい。
為替相場との相関が高まる日本の企業収益
対外直接投資収益の増加は、ますます多くの日本企業が、輸出ばかりか現地法人の設立や海外企業の買収などを行って海外で事業拡大していることを示している。内閣府が行っている「企業行動に関するアンケート調査」では、日本の上場大企業のうち海外で現地生産を行っている企業の割合は2016年度65%に上っており、1990年度の36%から2倍近い割合に上昇している(図表3)。もはや、上場大企業では海外展開していない企業の方が少数派である。
当然、対外直接投資収益は日本の企業にとって欠かせない収益源ともなってきている。実際、企業の経常利益に占める対外直接投資収益の割合をとると、90年代後半には5%以下であったものが、その後の20年あまりで20%近くに達しており、日本の企業収益のみならず経済をも大きく支えるものとなっている(図表4)。当然、輸出入の拡大とも合わせれば、日本経済はこの20年あまりで大きくグローバル化し、ますます海外経済の成長が日本経済の成長を規定するものとなっている。
もっとも、経済グローバル化の成果が挙がっていると喜んでばかりもいられない。企業収益に占める対外証券投資収益の割合の上昇や日本経済のグローバル化は、日本企業の収益が為替相場に一段と振られやすくなっていることに他ならない。実際、ここ数年1円のドル円相場の変動が日本企業の経常利益に与える影響は拡大しているようにもみえる(図表5)。その水準は、リーマンショック後に企業収益が大きく落ち込み、反動増があった時期と1990年代前半の円高・産業空洞化期を除けば1980年以降で最も高い。
最近のドル円相場は、米国の利上げや景気堅調に応じた日米金利差拡大といった円安要因と地政学リスクの高まりや日本の対外収支黒字拡大といった円高要因が拮抗して横這い圏が続いている。この為替相場の安定と世界経済の回復にも支えられて、日本企業の収益は今後も拡大することが見込まれる。
しかし、従来から大きな為替相場変動は景気や産業空洞化の契機となってきた。そして、企業活動のグローバル化とともに、企業収益や経済・市場に与える為替相場の影響は一段と増している。幸い、近年の為替相場は相対的に安定しているが、安心はできない。自由変動の為替相場は人為的に調整できるものではないとしても、日本経済にとって急激な円高や円安を避けて安定を図る経済金融政策が従来以上に重要になってきている。