5 隠れたチャンピオン (Hidden Champion)(続き)
「以上、ドイツの隠れたチャンピオン2社を紹介した。一方、日本にも、近い将来、隠れたチャンピオンになりそうな素晴らしい優良企業がある。本稿では、そのうち1社を紹介する。(図表1)に売上高の推移を示しているが、海外向け販売比率の多さおよび販売額の急増に注目されたい。
会社概要
株式会社タスク
TSK Laboratory,Japan
〒328-0002 栃木県栃木市惣社町1510-1 惣社東産業団地
創業 1974年10月17日
資本金 3,000万円
代表者 代表取締役 川嶋健
従業員数 311名(2025/6/1現在)
事業内容 医療機器の製造・販売・輸出
主な製品 生検針、注射針、シリンジ、特殊針、その他各種製品、OEM製品
取引実績 国内外の代理店150社、30カ国で販売
売上高 5,416百万円(2024年度)
事業所一覧
本社
惣社第一工場
長崎支社
タイ駐在員事務所
ふくしま技術開発室
海外業務提携先
TSK Laboratory International, Canada Inc.
TSK Laboratory, Europe B.V.
TSK Laboratory, China Co.,Ltd
沿革
1974 東京都港区赤坂にて株式会社タスク創業
1982 栃木県下都賀郡に支店設置
1994 栃木県栃木市平柳町へ本社移転
1998 TSK Laboratory International, Canada Inc.と業務提携
2003 ISO9002認証取得、ISO13488:1996認証取得、栃木県栃木市惣社町に惣社第一工場落成、欧州MDD認証取得
2005 ISO13485:2003認証取得
2010 TSK Laboratory, Europe B.V.と業務提携
2014 栃木県栃木市惣社町に本社工場落成、ISO14001認証取得
2015 売上高20億円達成
2016 TSK Laboratory, China Co.,Ltdと業務提携
2017 福島県郡山市にふくしま技術開発室開設、売上高30億円達成
2018 ISO13485:2016認証取得
2019 MDSAP適合、惣社第一工場増設、売上高50億円達成
2020 栃木営業所開設
2021 栃木県栃木市惣社町へ本社移転、欧州MDR認証取得
2022 売上高70億円達成、タイ駐在員事務所開設
2024 創業50周年、長崎県長崎市に長崎支社開設
出典)同社ホームページ
株式会社タスクは、2023年度の売上高60.6億円(海外販売比率86%)、従業員287人、栃木県栃木市に本社工場を持ち、生検針などの製造販売を行う会社である。
栃木県が推進するものづくり産業躍進プロジェクトにおける戦略3産業の一つ「医療福祉機器産業」を代表する企業、栃木県を代表する優良企業の一つであり、経済産業省から「地域未来牽引企業」に指定されている。
1974年、川嶋幸雄(現会長)が東京都赤坂に栃木精工で製造した生検針などを主に海外向けに販売する商社として4人で創業した。
1994年、ユーザーのニーズに応えるため、自社での製造を決意し、栃木県栃木市に製造販売拠点を設置し、2019年、川嶋健が社長を引き継いだ。
10年前の2013年度の売上高が15.0億円なので、10年間で売上高が約4倍に急成長している。また平均営業利益率は13%、最高は20.3%の時があった。
同社の特徴は3つある。
第一に、海外向け販売を行う商社としての時代が約半分あったことから、「インターナショナル行商」と呼ばれるほど社長自身が大半を海外で営業をしている。現社長が訪問したことがない国(地域)は南極だけとのこと。営業の基本は、病院を訪問して医者に会って直接要望を聞くこと、その繰り返しであるという。
またそうして開拓した販路はひっくり返ることがない、メールで開拓した販路はひっくり返るとのこと。社長は英語ができないが、製品を見せて使ってもらえばその良さをわかってくれるという。
外国の展示会に出展しているが、同様に展示会に出展している日本企業を見ると、生き残っている企業は社長自身が出ている。
第二の特徴は、「見たんか、聞いたんか、触ったんか」という三現主義である。会社が大きくなると組織が縦割りになり、営業と開発の乖離(かいり)が顕著になるが、社長はそれが大嫌いであり、開発者を連れて展示会に出たり、医者を訪問する際に連れて行って直接要望を聞いたりするのだという。医療機器である注射針は、その評価を行うのは現場の医師であり、その声を製品に反映出来ることが他社製品との差別化につながっている。
第三の特徴は、製造に「人の手をかけること」である。同社も他社と同じようにAI を導入し、データ管理など自動化を進めているが、どうしても人間でなければならないところには「人の手をかけること」。最も顕著なところは検査部門である。カメラによるデータだけではどうしても漏れてしまうことがあり、人間の手による検査を徹底しているという。
同社の今後の目標は5年後に売上高100億円、さらにその先は400億円を目指しているとのこと。3年前から開発している新商品があり、未開拓市場である北米、南米、アフリカを開拓すれば十分可能という。
日独の企業の事例はここまでとし、ここから先は、ドイツの隠れたチャンピオンについて記述する。
ドイツにおいて、東西統一後の経済再生時、中小企業は、大企業をしのぐペースで成長した。雇用者吸収に大きく貢献したのも中小企業である。
ドイツの中小企業の特徴は、①外国指向が強い「隠れたチャンピオン」が圧倒的に多いこと、②それが大都市に集中せずに全国各地に点在していること、③そのROA(総資産利益率)が大きいこと、④Family owned company (家族経営、同族経営)が95%と多いこと(日本は88%)、である。
日本の中小企業は、約3/4が大企業の系列下にあると言われており、ROAは低い。だがドイツには系列がなく、中小企業は高付加価値商品を販売可能なため、ROAが高いとされている。
日本の産業構造をよく知るドイツ人は日本の系列のことを「麻薬」と呼び、否定的である。日本企業は系列を止めないと、日本の産業の将来はない、とまで厳しい発言をする人もいる。
系列は、親企業の言う事さえ聞いていれば、贅沢な生活は出来ないが、質素ではあるが、なんとか家族が食べては行けるため、やがて新しいことをしようという意欲さえ失ってしまう、と評する。丁度、江戸時代、武士が藩主から禄を得て藩主のために「武士道」をもって仕える姿に似ている。藩主に真面目に仕えていれば、禄をもらい、家族全員が質素な生活ではあるが食べるに困らない程度の生活を維持することができる、という姿に似ている。
ドイツには系列がないため、定期的に入札が行われ、入札に勝てばしばらく納入できる。そこでは適切な応分の利益が確保できる。また将来的に新しい技術を追求しようという意欲が出て来る。このように系列の存在の有無が、日本人の生産性がドイツ人の半分しかない要因の1つになっているとも考えられる。図表3のROAの差が、ほぼそのまま日独の生産性の差となって表れているとも見える。
筆者が、ドイツ調査を行っていた2009年、ほぼ完成まぢかとなっていたBMWライプチヒ工場を訪問した。BMWの国内の主力3工場の1つである(他の主力工場はミュンヘン本社工場、レーゲンスブルグ工場)。そこでは電気自動車EVの生産開始が予定されていた。工場の敷地内に風車を建て、その電気で生産するというグリーン工場であった。このBMWライプチヒ工場は2014年に「リーン&グリーン・マネジメント・アワード2014」を受賞した。この賞は毎年6つの部門別に授与されており、今回BMWライプチヒ工場は「自動車OEM」部門で勝利を収めた。
ライプチヒは旧東独であるため、西独と比べて土地代や人件費が安く、BMW工場は広大な土地を確保していた。隣には、これまた広大なポルシェの工場があった。この広い工場の敷地を何に使うのかと先方に聞くと、工場内に部品メーカーの生産ラインを作って欲しいとのことだった。ライプチヒにはメルケル首相が教鞭をとっていた名門校ライピチヒ大学(旧東独時代はカール・マルクス大学と呼ばれた)があり、極めて有能な若者が輩出されていた。BMWは、郊外の広大で安価な土地と、低賃金で極めて有能な若者の確保を見越して、この地に主力工場を置いた。
私はライピチヒ工場で調達を行っている人に、どのようにして部品を調達するのか、と聞いた。先方の回答は簡単だった。「調達基準に達していれば世界中どこからでも買う」とのことだった。発言内容は簡単だが、意味するところは大きい。日本の系列とはまったく異なっていることがわかる。
第一に、都度、かつ定期的に、競争入札するということだ。日本の系列では入札をしないで半永久的に納入できるが、ドイツの自動車メーカーは、都度入札で納入者を競わせる。そのため入札者は、勝てるように常に技術を磨いていなければならない。そうしないと次の入札で負けてしまう。
第二に、調達基準があるという事だ。日本の系列では、図面を与えて技術を教え、自社が購入できるレベルにまで親会社の技術者が指導して引き上げる。だがドイツでは、調達基準があり、納入者は自分の自主努力でそのレベルにまで達しないといけない。
第三に、世界中どこからでも買う、という点だ。日本の系列では、部品購入先は、よほどの事がない限り、日本国内の特定企業と決まっている。実際、私が立ち去った直後、同工場はEV用リチウムイオンバッテリーの競争入札を実施した。そして、韓国のサムスンが勝ち、日本のGSバッテリーが負けたと報じられた。
瞬間的に見れば、部品メーカーが自動車メーカーに部品を納入しているという光景は同じかもしれないが、そこに至るまでのプロセスがまるで違う。
(次稿に続く)