4 ドイツのミクロ経済指標(続き)
(図表1)(図表2)は、ドイツにおいて地域経済を専門とするプログノス研究所が作成したマップである。赤いところは経済成長が高く、青いところは経済成長が低い。もう1つのマップは失業率である。これを見ると、ミュンヘンやデュッセルドルフといった大都市が経済成長するのは当たり前であるが、ドイツの地域経済の特徴は、地方にまで強い経済力を持つエリアが面的に広がっており、かつ経済状況が厳しい旧東独の中にも強い経済力を持つ地域が点在していることである。これが日独間の地域経済構造の決定的な違いである。
日本には同じようなマップは存在しないが、恐らく同じマップを日本で作成すれば、三大都市圏は高い経済成長がみられるが、地方圏では、マイナスの経済成長となっているだろう。日本は、大都市圏だけ切り取ってみれば素晴らしい経済パフォーマンスをしているが、国全体で見れば、マイナス成長の地域も多いため、国全体を計測すれば、都市圏はプラス成長、地方圏はマイナス成長となり、結果、日本全体の経済成長が相殺しあい、ゼロに近い数字になっているのだろう(図表3)。
一方、ドイツは都市圏のみならず地方圏でも成長しているため、国全体の経済を合体すれば、都市圏がプラス、地方圏もプラスであり、その結果、「独り勝ち」と言われるような強力な経済が実現されるのだろう(図表3)。
日本とドイツの経済構造は、地方圏の経済がプラスかマイナスかという点が最も大きく違っている(図表3)。日本の地方圏は、もっと稼ぐべきである。若者や女性が都会に出ていくと嘆いているだけで何も努力しないのでは何も変わらない。
日本とドイツの比較
(図表4)は、ドイツにおける規模別の被雇用者数の推移を示したものである。ドイツにおける規模別の被雇用者は、従業員50-249人規模の中小企業の伸びが最も大きい。(図表5)に欧州主要国における従業員50-249人の企業の被雇用者数の推移を示しているが、ドイツの伸びが圧倒的に大きい。
ドイツは「中小企業の国」と呼ばれるというが、確かに、この図を見ると、ドイツ経済は中小企業が支えていることがわかる。中小企業は国の経済の屋台骨を支えるという意味を込めて、「ミッテルシュタント(Mittelstand=経済の中心(ミッテル)に立って(シュタント)支える)」と呼ばれている理由も理解できる。
日本では、1990年頃まで大企業は系列の中で、中小企業と部品共同開発を行うことで技術移転を行ってきた。すなわち図面を供与し、その作り方を教えることで技術を無償で与えてきたのであう。この長い慣習の結果、中小企業にとっては、技術の提供は無償である、との価値観が形成されたと言える。自分は中小企業なのだから、技術は無償で与えてもらって当たり前という価値観が、グローバル競争が進む中で、日本の中小企業の独り立ち、競争力向上の大きな妨げになっている。
日本では、1990年頃を境に、①大企業がグローバル競争に参加しグローバル調達を始めた、②大企業が海外に進出し、中小企業が国内に取り残された。そのため、大企業と中小企業との共同開発体制が崩れ、誰も技術を教えてくれなくなったにもかかわらず、中小企業は依然として、「自分は中小企業なのだから、技術は無償で与えてもらって当たり前」という価値観を持ち続けているため、技術革新から取り残されている。日本の製造業は、製造業全体を支える足元から崩れてきたのである。技術の劣化がさらに進み、技術立国日本は土台から崩れている。
かつてミュンヘンにあるフラウンホーファー研究機構の本部を訪問した際、先方から相談されたことがある。日本は世界の中でも中小企業からの受注がほとんどない特殊な市場である、われわれが日本の中小企業から受注するためにはどうすればいいか、という相談であった。
中小企業者がフラウンホーファー研究所の日本事務所を訪問することはよくあるという。すると、フラウンホーファー側は、受託の仕組みを説明し、費用の概算見積もりを提示する。すると中小企業側は、「高い」と言って値切ろうとする。それに対してフラウンホーファー側が「われわれは受託案件ごとに独立採算制をとっている。もし1つの案件で赤字を出すと、他の受託案件に振り替えることができない」と説明すると、中小企業は、依頼を断って帰っていくと言う。
私は、フラウンホーファー本部の人に、日本の中小企業は系列の中で親企業から無償で技術を教えてもらっている。自分たちは中小企業なので、技術は“タダ”で教えてくれるものだという甘えといおうか、思い込みがある。そこにいきなりフラウンホーファーから技術は有償だ、と言われ、しかも必要なコスト応分の値段を提示されたら、当然、拒否反応を示すだろう、と答えた。中小企業側も技術は有償ということは、多少は覚悟して、フラウンホーファーを訪れたのだと思うが、自分は中小企業なので、安くまけてくれるだろうという甘えを持ってフラウンホーファーを訪問したのではないだろうか、彼らが親企業を訪問するときと同じ心境だろう、と答えた。
(次稿に続く)