IoT, AI等デジタル化の経済学

第204回「なぜ日本人の生産性はドイツ人の半分なのか(6)- 失われた30年を生み出した大きな要因 - 」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

4 ドイツのミクロ経済指標(続き)

ドイツにおいて、フルタイムよりも週労働時間が短いパートタイム労働、労働契約の期間に定めがある有期契約労働、および間接雇用である派遣労働が、まずは非正規雇用として捉えられており、それぞれの定義は、日本におけるものと基本的に同様である。

全雇用者に占める非正規労働者の割合
出典)北川亘太・植村 新・ 髙坂博史・徳丸夏歌,ドイツ金属労組IG Metallの派遣労働問題への対応――規制緩和後の妥協点とアイデンティティーの模索,大原社会問題研究所雑誌 №671・672/2014.9・10

日本の非正規が4割近くに上っているが、ドイツは25%程度にとどまっている。またドイツは日本とは、働き方に大きな違いがある。

以下は、下記のレポートからの引用である。

萩原 牧子,Works 186号 特集 あなたの会社の人的資本経営大丈夫ですか?
リクルートワークス研究所多国間調査「人を大事にする日本型雇用は過去のものだった」,2024年11月11日

リクルートワークス研究所が30代・40代で企業などに雇用されている人に向けて行った多国間調査「Global Career Survey2024」を行った。

【調査概要】
調査目的:個人の就業状態から各国の雇用システムを把握する
調査対象国:日本(一都三県)、ドイツ(全国)、フランス(パリ)、イギリス(ロンドン)、アメリカ(ニューヨーク・カリフォルニア)、中国(北京・上海)、スウェーデン(全国)*本記事では4カ国を抽出
割付方法:男女別 30代 40代 の4グループに150(日本だけ700)ずつの均等割付
有効回答数:日本3683、ドイツ583、アメリカ580、スウェーデン558
調査期間:2024年2月26日~3月11日(スウェーデンは3月12日まで)
調査手法:インターネットモニター調査

新卒入社:卒業後すぐ、正社員としてスタートラインに立つ

新卒一括採用を行っている日本では、大学を卒業後すぐに就職する人が78.9%と、ドイツ・アメリカ・スウェーデンの3~4割と比較して日本は圧倒的に多い。ドイツはジョブ型で、何度かインターンを繰り返しながら、30歳くらいまでに就職するという社会習慣であることは既に紹介したとおりである。日本以外では、大学卒業前からさまざまなことを試して、自分の適性を見極め、能力を獲得しながらゆっくりと社会に出ることができるようになっている。

初めて就職した時期

卒業後すぐに就職した人の初職が正社員である割合も日本が93.2%と突出している。アメリカで88.3%、ドイツで83.1%、スウェーデンで79.2%と9割を上回る国はない。仕事未経験の人材をはじめから正社員として迎える慣行は日本の雇用の特徴と言える。

真っ白な人材をOJTで育て上げることが、日本企業の特徴である。しかし、「2023年にOJTを受けた割合」を全体で見ると、日本は39.8%でしかなく、7割を超える他国とは明らかに見劣りがする。

さらに、OJTの正確な定義、「一定の教育プログラムをもとに、上司や先輩から指導を受ける」に則って受けた割合は、日本では12.0%しかない。他国と比べるとほぼ3分の1の割合だ。日本のOJTの多くは、体系化されておらず現場任せ。上司や先輩の力量に依存する非常に不安定なものになっている可能性がある。

また、日本のOJTは「若手偏重」だ。30代前半でOJTを受けた割合は46.4%、30代後半で42.9%、40代前半で40.1%、40代後半では30.7%。この差異は他国では見られない。

2023年1年間にOJTを受けた割合

今回の調査では、日本型雇用の特徴だといわれてきた年功型賃金も、他国と比べて顕著な傾向が見られなかった。年齢上昇と賃金上昇の相関は、日本だけの特徴ではない。

「仕事を遂行する能力が今の会社での給与額に影響しているか」という問いに対する回答だ。「影響する・計」の割合は73.7%と日本が最も低く、他国は8割を超える。また、「わからない・答えられない」が12.1%と、日本が突出して高い。日本企業では、個人が持っている能力でなく、それ以外の要因、例えば人間関係が給与に反映していることを暗示している。

人事異動による能力獲得機会の豊富さについて、調査では、職種間異動の可能性と実際の経験について聞いている。

職種間異動を実際に経験した人は日本が最も少ない。ジョブローテーションによるジェネラリスト育成は日本型雇用の特徴の1つとされてきたが、実態は異なる。

日本企業は世界的に見ても、人材育成投資(OFF-JT)を急速に減らしてきた。だがその一方で、企業自身は、「OJT」はしっかりとやっている、と答える企業が大部分だった。だがこうしてドイツなどと比較すると、それさえも大きく劣っている。これでは外国企業とグローバルに競争しなければならない今の時代、それにふさわしい人材が育たない筈だ。

職種変更の可能性/職種変更の経験率

最も注目すべきは、役員への昇進である。日本は「内部から登用される方が多い」が38.5%と最も高い。特筆すべき日本の特徴は、「どのように起用されているのかわからない・経歴はわからない」と回答している人の多さだ(38.2%)。

先の職種間異動と同様に、昇進もブラックボックス化されている傾向が見て取れる。どのように経験を重ね、能力を高めれば上に上がっていけるのかが不透明というこの状況が、キャリアや能力獲得にオーナーシップを持ちにくくさせている。

すなわち昇進という働く人が最も関心が高いことが、本人の能力でなく、ほとんど人間関係で決まっていることを暗示している。これでは、日本人は仕事を頑張るのでなく、上司に媚びへつらうようになるのは当然であろう。

どのような能力を獲得したら賃金が上がるのか、役員になれるのかわからない。会社主導の異動の可能性を提示されている。継続的な雇用も危うい。これが、今の日本企業で働く人々が置かれた状況だ。

これでは日本人は、頑張って企業のために働く意欲を失ってしまう。日本人の生産性を大きく落としている1つの大きな要因でもある。

(次稿に続く)

参照文献
  • 岩本晃一(2025),『高く売れるものだけ作るドイツ人、いいものを安く売ってしまう日本人』 朝日新聞出版社 2025

2026年8月10日掲載