Economics Review

No.13 政府の透明性(パート1) ―国の「かたち」を変革する突破口―

鶴 光太郎
上席研究員

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1. イントロダクション

透明性(transparency, openness)と情報開示(disclosure)は、近年、公的部門や政策のあり方を考える際に、最重要課題として議論されることが多い。たとえば、伝統的な財政金融政策においても、制度的な視点から、予算制度や中央銀行の透明性に着目されるようになってきている。また、日本でも、2001年4月から情報公開法のもとで情報公開制度が実施され、国民の知る権利が強化されるとともに、地方自治体の中には、積極的に情報公開を行い、自らに説明責任を課すことで、住民の政策決定や政策評価への参画を可能にし、公共サービスを受け手側の住民の論理や視点を生かした行政システムに変革させていこうという動きもいくつか出ている。

本稿では、経済学においてこれまで異なる分野でアドホックに扱われることの多かった透明性の問題を包括的に扱い、3回に分けて論じることにしたい。まず、初回としては、政府に対する有効な規律付け(=ガバナンス)を行うために透明性がとりわけ重要であるのはなぜか、政府の透明性向上を阻害している本質的な要因は何かを経済学の立場から論じてみたい。

透明性が組織にとって重要なのは自明の理と感じる読者も多いであろう。民間部門の場合、株式公開企業のようにマーケットから資金を調達している企業に対しては効率的な資源配分の達成を図るために投資家への財務情報等の開示が義務付けられているし、政府の情報公開は民主主義の基本中の基本と考えらえている。しかし、透明性の重要性が理解されていたとしても、透明性の条件が当該組織のガバナンスのあり方にどれだけ本質的にかかわっているか、また、透明性の向上を妨げているメカニズムは何かを丹念に解明していかなければ、「透明性の向上」はスローガンだけで終わりかねない。

政府に対して国民全体の立場から実効ある規律付けを行うことは民間部門に対するガバナンスよりも根本的に難しい点がいくつか存在する。本稿では、それらを指摘した上で、政府への限られたガバナンス・メカニズムを有効に働かせるための唯一かつ決定的に重要な条件が「透明性の向上」であることを強調したい。透明性が高まれば、政府・政治家が国民全体の利益をないがしろにして仕事を行うことが困難になるとともに、国民の政治参加、政党間競争が高まることになる。政府への規律付けの強化が更なる透明性向上に繋がるという好循環が生まれていけば、国の「かたち」そのものを大きく変革していく原動力となりうると期待できる。

第一回で政府の透明性に関する理論的・概念的整理を行った上で、第二回は、政府の政策透明性の具体例として財政の透明性(fiscal transparency)と中央銀行の透明性(central bank transparency)を取り上げ、透明性向上のための具体策に言及するとともに、国際比較を通じて日本の政策透明性レベルの評価を行うこととしたい。最後に、第三回では、政府の透明性を高めるための1つの方策としてメディアの役割を考えることとする。

2. 透明性の定義とガバナンスとの関係

透明性(transparency)を考える場合、経済学的な視点としては、情報の非対称性に着目するのが分かりやすい。「情報の非対称性」(information asymmetry)が存在する状態を「透明性が欠けている」(lack of transparency)、「不透明」(opaqueness)と定義するのである(Geraats(2002))。つまり、透明性の向上は、さまざまな経済主体の取引関係において存在する「情報の非対称性」、「情報の偏在」の改善を意味することになる。

依頼人・代理人モデルによるアプローチ

情報の非対称性は、よく知られるように、プリンシパル・エージェント(「依頼人」・「代理人」)関係において、エージェンシー問題(逆選択、モラル・ハザード)の原因となる。したがって、透明性向上による情報の非対称性の改善は、こうしたエージェンシー問題の解決、ひいては、「代理人」へのガバナンスの強化に役立つと期待できる。民間部門においては、「代理人」である企業(経営者)と「依頼人」である投資家(株主)や顧客との関係を考え、企業が投資家や顧客のために情報開示を行うのが透明性の向上になる。一方、公的部門の場合、「代理人」である政府(政治家)と「依頼人」である国民(投票者)との関係を考え、政府・政治家が国民に対して情報を公開することで、政府活動の透明性を向上させることができる。

「退出」と「声」によるガバナンス・メカニズムと透明性の関係

このように、組織が民間企業でも政府でも、透明性の向上は、その他の条件を一定と考えれば、「代理人」たる組織へのガバナンスを強化する方向に働くことが予想される。しかし、透明性向上の重要性の度合い、つまり、ガバナンス・メカニズムがどの程度強化されるかについては、「依頼人」がどのようなガバナンス・メカニズムを採用しているかによって異なると考えられる。

組織にガバナンス(規律)を与えるやり方として、ここでは、Hirshman(1970)の「退出」(exit)と「声」(voice)によるメカニズムを考え、その違いをみてみよう。「代理人」が「依頼人」の利益に反する行動を行っておれば、「依頼人」は「代理人」との関係を打ち切ることで規律を与える。これが「退出」によるガバナンス・メカニズムである。これに対し、関係は保ちながらも代理人に注文をつけ、干渉することにより規律を与えるやり方がある。これを「声」によるガバナンス・メカニズムという。前者では、「退出」を行うかどうかは、「代理人」のパフォーマンス次第で判断される(「結果主義」)。そのような成果が、どんなプロセスを経て生み出されたのかという情報は、「依頼人」にとってそれほど重要ではない。一方、「声」を挙げて意見表明することで組織に規律を与えていく場合はどうか。「依頼人」は「代理人」のパフォーマンスが悪かった場合、「代理人」を代えることではなく注文をつけることでそのパフォーマンスを向上させなければならないため、その原因や途中の過程にまで遡って検証することが必要となる。したがって、「声」によるガバナンス・メカニズムにおいては、そうした検証を可能にする情報開示や透明性向上が「退出」によるガバナンスと比べて格段に重要なのである。

3. 民間部門の透明性

株主との関係

政府の透明性を考える際には、民間と政府へのガバナンス形態の違いを明確化させた上で、透明性の重要度の違いを議論するのが有益である。したがってここでは、まず民間部門の透明性について分析してみよう。

企業(経営者)にとっては、その情報を隠匿し、不透明にすることにより、株主の利益ではなく、私的利益を追求できるというメリットがある。しかし、情報を開示しないことが常に企業の方に有利に働くとは限らない。逆選択(「レモン」)の問題がその一例である。情報の非対称性があると、企業の質を十分評価することが難しいため、その価値が株式市場で過小評価されやすい。この場合、「良い企業」は自分の質の高さをアピールするため、積極的に情報開示しようとするインセンティブが働く(シグナリング)。逆に「悪い企業」は、情報開示へのインセンティブが小さい。したがって、企業の自主性だけに任せるのではなく、金融アナリストや格付け機関が「情報の仲介機関」としての役割を果たしたり、情報開示を強制する規制を実施したりすることが必要となる(Healy and Palepu (2001))。

一方、株主側からも情報の非対称性を改善することは可能である。たとえば、大株主は、モニタリング(監視)を行い、固定費の高い情報収集コストを負担したとしても、経営に注文をつけ、それを改善することができれば、株価・配当上昇から得られる利益もその持分の大きさを反映して大きいため、「声」を使ったガバナンスを行うインセンティブがある。しかし、集められた情報は、当該企業と大株主との間で共有されたとしても、両者の私的情報に止まるため、公(おおやけ)(不特定多数を対象)という意味で透明性が改善したことにはならない。一方、少数株主(個人)は、そもそも高い情報収集コストを負担するのが難しく、更に、モニタリングを行ったとしてもその利益を全部自分のものにできない(他の株主も恩恵を被る)ため、モニタリングは他の株主に依存するという「フリーライダー問題」が発生しやすい。したがって、少数株主からのガバナンスは、モニタリングによる「声」のメカニズムではなく、企業のパフォーマンスが悪ければ株を売るという、「退出」に基づいたメカニズムが中心になる。

顧客との関係

次に、顧客と企業との関係を考えてみよう。これは、厳密な意味で依頼人・代理人関係ではないが、製品市場から経営に規律を与えることができるという意味で重要な関係である。消費者保護のために製品情報(成分等)を開示することが規制で義務付けられているが、顧客にとっては企業との間に情報の非対称性があったとしてもそれほど大きな問題にはならない。なぜなら、顧客にとって重要なのは製品そのもの(品質)やその価格であり、その製品を供給している企業がどのように組織化され、その製品の生産工程がどうなっているのかという情報はあまり重要でないためである。価格が高く質が悪い財・サービスが需要されずに淘汰されていくのは、まさに、顧客による「退出」メカニズムといえる。つまり、製品市場での競争が十分であれば、安価で品質の高い財・サービスが選択されるというガバナンスが働くため、顧客に対する透明性向上よりも価格・品質の面でいかに評判・信頼(reputation)を勝ち得ていくかが企業にとって重要となる(Stiglitz(1999))。

このようにみると、民間企業も当然、私的利益追求のため情報開示を拒むインセンティブはある。しかし、逆選択の問題のように、透明性が確保されていないと企業がマーケットから過小評価される可能性があるなど、逆に情報開示へのインセンティブが生まれる場合もある。また、透明性確保が十分でなく、企業の情報の入手という点では不利な立場にある顧客や少数(小口)株主も、当該企業のパフォーマンスや生産物を気に入らなければ、その関係を打ち切り、他の企業と新たな関係を結ぶという強力なガバナンス・メカニズム(「退出」)を持っている。

4. 政府部門の透明性

民間企業とのアナロジー

政府から国民に対しての情報開示、透明性向上を考える場合、民間部門と同様に、「株主」と「顧客」という視点で考えるとわかりやすい。

第一は、「株主」としての国民の役割である。国民は、公開企業の株主のように政府を「保有」しているわけではないが、株主が株主総会で議決権を持つのと同じように、有権者として投票を行うことで現政権に対して規律を与えることができる。つまり、投票者を「依頼人」、政府・政治家を「代理人」と考える「依頼人」・「代理人」モデルと考えるのである。

ただし、「株主」のアナロジーで政府へのガバナンスを考えた場合、民間企業と異なる点が2点ある(Tirole (1994))。1つは、政府が国民・投票者に広く薄く「所有」されていることである。これは、投票者は「一単位の株式」(one share)、つまり、「一票の投票権」(one vote)しか持たない「小口株主」であることを意味する。もう1つは、株主には株価・配当の増減という共通の利害があるが、投票者の利害は必ずしも一致していないという点である。

第二は、「顧客」としての国民の視点である。これは政府に対し税金を支払う代わり、政府が提供する公共財・サービスを受けるという立場である。しかし、公共財・サービスの場合、民間からの購入とは異なり、負担と受益の関係が必ずしも明らかではない。つまり、個別の公共財・サービスについて、自分がいくら負担し、その程度に応じて便益を受けているのか明確ではないのである。これは、民間から財・サービスを購入するにあたり、それぞれの品質や価格を知らずに、必要なものを一括購入しているのと同じということになる。

「退出」オプションのない政府のガバナンス

政府から国民に対しての情報開示、透明性向上を考える場合、民間部門と同様に、「株主」と「顧客」という視点で考えるとわかりやすい。

第一は、「株主」としての国民の役割である。国民は、公開企業の株主のように政府を「保有」しているわけではないが、株主が株主総会で議決権を持つのと同じように、有権者として投票を行うことで現政権に対して規律を与えることができる。つまり、投票者を「依頼人」、政府・政治家を「代理人」と考える「依頼人」・「代理人」モデルと考えるのである。

ただし、「株主」のアナロジーで政府へのガバナンスを考えた場合、民間企業と異なる点が2点ある(Tirole (1994))。1つは、政府が国民・投票者に広く薄く「所有」されていることである。これは、投票者は「一単位の株式」(one share)、つまり、「一票の投票権」(one vote)しか持たない「小口株主」であることを意味する。もう1つは、株主には株価・配当の増減という共通の利害があるが、投票者の利害は必ずしも一致していないという点である。

第二は、「顧客」としての国民の視点である。これは政府に対し税金を支払う代わり、政府が提供する公共財・サービスを受けるという立場である。しかし、公共財・サービスの場合、民間からの購入とは異なり、負担と受益の関係が必ずしも明らかではない。つまり、個別の公共財・サービスについて、自分がいくら負担し、その程度に応じて便益を受けているのか明確ではないのである。これは、民間から財・サービスを購入するにあたり、それぞれの品質や価格を知らずに、必要なものを一括購入しているのと同じということになる。

特定利益団体は透明性改善には役立たない

「株主」とのアナロジーで言えば、政府の「大株主」に当たるのは特定利益団体であろう。こうした団体は、政府や政治家へ影響力を及ぼすべく、選挙の時に組織票を行使し、また政府や政治家との緊密な接触を通じて、日常的に情報収集を行う。こうして、政府と当該団体との情報の非対称性は縮小するが、得られた情報は公の情報にはならず、関係者限りの私的情報に止まる。このため、特定利益団体が政府に対しモニタリングを行い、ガバナンス機能を強化できたとしても、その団体特定の利益に沿うように政府・政治に規律を与えようとするため、一般の国民・投票者の利益は損なわれがちになる。したがって、「大株主」に期待する役割のように、特定利益団体が政府をモニターすることで情報の非対称性を解消する方法よりも、政府がすべての(不特定多数の)国民・投票者に向けて情報開示することで透明性を高めていくことがより大切となるのである。政府と特定の利益団体が癒着すれば政府が情報を公開するインセンティブは更に低下するが、透明性を高めていくことはこうした癒着、腐敗を防ぐためにも重要である。

透明性向上と政治競争

政府の透明性が低い場合、情報収集コストが高まり、投票者の政治参加に悪影響を及ぼすだけでなく、政党間の政治的競争(political competition)も阻害される。つまり、現政権の政府からの情報開示が不十分な場合、別の政党が政権を担当しても(乗っ取っても)、どの程度、政府の「経営」を改善できるかについての不確実性が大きくなるためである(Stiglitz (1999, 2001))。たとえば、財政の分野においては、将来世代への負担になる財政赤字が巧妙に隠されておれば、政権を乗っ取った方にとっては、財政政策の選択肢が狭められてしまうという意味で大きなコストを負わされることになる。つまり、政府の透明性の低さは、政権の「乗っ取りコスト」を大きくしており、既存の政党・政府は戦略的に情報開示を制限し、不透明にすることで、政治的に有利なポジションを保持することができるのである。

5. 政府が情報を隠匿するインセンティブ

政府の「無誤謬神話」

政府は、民間部門よりも情報公開、透明性向上の必要性が高いにもかかわらず、情報を隠すインセンティブは民間部門に比べて逆に強くなる場合がある。政府の政策的失敗を隠すケースがそれである。民間部門と政府部門の差異をガバナンスの観点からいくつかみてきたが、更に重要な違いとして、パフォーマンスに対する評価の難しさが挙げられる。つまり、民間企業と比較して、政府のパフォーマンスを評価するのは容易ではないということだ。成果をみてもそれがどこまで政府の政策の影響によるものかを認識することが難しいのみならず、政府は「独占企業」なので相対評価が困難だからである。一方、民間企業においては、企業努力が品質、価格に反映され、それが売上(数量)、ひいては収益の形で比較的客観的にパフォーマンスを評価することができる。同業種の企業を相対比較することで、企業努力以外の要因、たとえば、マクロ・業界要因を峻別することも可能である。

このように政府活動の成果に対する評価があいまいにならざるを得ないということは、政府側からすれば政策の失敗を隠す余地を作り出す。透明性が不十分であれば、失敗を隠し、「政府の無誤謬神話」を維持することが可能となる。しかし、これは悪循環に陥る危険性を持つ。情報の公開を制限していると、政府の失敗はなかなか明らかにされないので、それが明らかになったときの国民のショックや反響が大きい。それを恐れるため、政府は情報公開を制限する方向に動きがちである。一方、情報をどんどん公開していけば、政府の失敗もそれほど珍しいものではなくなり、更なる情報公開に対する圧力も弱くなるという好循環が生まれる(Stiglitz(1999), (2001))。政府の「無誤謬神話」を打倒し、誤った政策を早く是正するためにも、情報公開・透明性向上は重要なのである。

政府の情報公開が望ましくないケースとは?

政府の透明性への要求には、もちろん、例外分野もある。たとえば、個人情報や軍事機密である。しかし、このような情報以外にも、政府側が情報公開を拒む場合がある。公開する情報が国民に正しく理解されず、極端な場合には国民がパニックに陥り、国民を誤った方向に導く可能性があるという理由が挙げられる場合が多い。しかしこれは極端にいえば、「国民は無知であるので、政策は優秀な一握りのエリートで決められるべきである」という、「ハーベイロードの前提」であるし、「よらしむべし、知らしむべからず」の論理といえる。特に、政策に関わる数字の公表を考える際に、「数字が一人歩きする危険がある」といって情報公開に待ったをかけるケースが少なくない。もちろん、内容によっては国民が動揺することもあるであろうが、それは当該情報を未来永劫公開しないことの理由とはなりえない。あくまで、情報公開のタイミングの問題と捉えるべきであり、国民の動揺については、むしろ、政府への高い信頼を築き上げることで解決していくべきである。逆説的ではあるが、それは以下で論じるように「透明性の向上」によってこそ成し遂げられると考えられる。

6. 政府・政治家が主導する透明性向上

政府に対し有効なガバナンスを行うには、透明性の向上が民間部門よりも重要な前提条件になるにもかかわらず、政府は民間部門よりも、情報を隠匿するインセンティブを更に強く持つ。このような困難な状況を打開するためには、情報公開でメリットを受ける国民が積極的に政府・政治家へ情報公開を働きかけて、プレッシャーを与えていくことが必要であるが、一人一人の国民が自発的にそのような行動をとることは、これまでみてきたように「フリー・ライダー問題」が深刻であるだけに必ずしも容易ではない。

むしろ、長い目でみれば透明性向上が有効なガバナンスに役立つことを現政権の政府・政治家が理解できれば、自らの政治力を強めるために透明性向上に努めるだろう。パフォーマンスが投票者から評価されにくいという状況に対し、むしろ透明性向上を図ることで、現政権の努力を有権者によりアピールし、有権者の現政権への信頼を高め、その政治基盤を強固にしていくことも可能であるからだ。Ferejohn (1999)は、政府の透明性が向上すると投票者の政府に対する評価の正確さが増し、投票者は政府のパフォーマンスが良ければその政党を再選する、というモデルを考えた。透明性が高まれば、政府の努力がよりパフォーマンスに反映されやすくなるため、政府が努力するインセンティブも強まり、投票者も政府に対しより信頼を寄せることになる。しかし、こうした理論的結果が現実に成り立つためには、投票者による積極的な政治参加や政権交代の可能性が確保されている必要がある。

7. 政府の透明性向上と国の「かたち」

以上のように、ガバナンスの手法として「退出」というオプションを使えないことが、不特定多数の国民にとっての政府の情報公開や透明性向上が大変重要である大きな理由である。透明性の向上は、投票者の政治参加、政党間の競争を通じて、国民の「声」による政府へのガバナンスを更に強化していくという好循環を生み出す。特定利益団体が「大株主」としてモニタリングなどを通じて、政府との情報の非対称性の問題を解決できたとしても、国民全体の利益になるとは限らない。その意味でも、不特定多数の国民が直接、政府へのガバナンスへ参画できるように透明性を向上させることが重要であるし、それは政府と特定利益団体の癒着・腐敗を防ぐためにも役立つ。

政府の透明性を向上させていくことは、政府、政治のあり方、ひいては、国の「かたち」を大きく変化させていくだけの「突破口」になりうると考えられる。政府が情報公開を行い、国民の負担と受益の関係が明確になれば、説明責任を負う政府は公共財・サービスの受け手側たる国民に向いて仕事をせざるを得なくなる。つまり、「公僕」("civil servant")という言葉通り、政府は国民から依頼された「代理人」であるという本来の関係に戻ることを意味するのである。また、情報公開が進めば、「先送り」に典型的にみられるようなその場しのぎの政策を続けることも困難となる、つまり、政権交代の可能性、政党間競争が高まることになる。有権者も現政権の政策を評価できるだけの情報が入手できるようになれば、確実に政治参加へのインセンティブは高まり、より民主主義的な政治システムが構築されることになる。こうしたプロセスは、最終的には国民の信頼を高めていくことに繋がるので、現政権にとってもメリットになりうる。政官に対する国民の閉塞感を打破し、信頼感を取り戻すための、唯一、かつ、強力な「武器」が、政府の透明性向上なのである。

2003年7月7日

2003年7月7日掲載

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