中国経済新論:実事求是

2021年の中国経済展望
― 11年ぶりの二桁成長になるか ―

関志雄
経済産業研究所

中国は、諸外国に先駆けて、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え、経済が回復に向かっている。世界経済の低迷にもかかわらず、国内需要を上回る供給余力を持っている中国は、ロックダウン(都市封鎖)の影響などにより供給不足に陥っている海外への輸出を伸ばしている。それに伴う中国における貿易黒字の拡大は、ドル安の進行とともに、人民元レートを押し上げている。

2021年の中国における実質GDP(国内総生産)で見た経済成長率(以下、GDP成長率)は、前期比では、潜在成長率に見合った年率6%程度で推移すると予想されるが、前年比では、2020年の「前低後高」型成長によってもたらされた高い「ゲタ」を反映して、二桁に上る可能性がある。前年比でみた2021年の年間の成長パターンは、2020年とは逆に「前高後低」となり、特に第1四半期が20%程度に達すると予想される。

世界に先駆けて回復に向かう中国経済

2020年初に中国から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、やがて世界規模のパンデミックに発展した。中国は、感染地域におけるPCR検査と人口移動制限の徹底という対策を取り、2020年3月頃に感染拡大が収束した(図表1)。2021年に入ってから、一部の地域において、小規模の感染が見られるようになったが、政府がこれまで以上に厳しい対応をとっており、状況の一層の悪化は避けられるだろう。これに対して、海外では、新型コロナウイルスの感染拡大にはいまだ歯止めがかかっていない。

図表1 中国本土における新型コロナウイルスの新規感染者の推移
図表1 中国本土における新型コロナウイルスの新規感染者の推移
(注)2020年1月は1月20日-31日までの合計。
(出所)中国国家衛生健康委員会より筆者所作成

こうした中で、世界経済は深刻な不況に陥っているが、中国経済は一歩先に回復に向かっている(図表2)。中国におけるGDP成長率(前年比)は、2020年の第1四半期に-6.8%に落ち込んだ後、第2四半期には3.2%、第3四半期には4.9%、第4四半期には6.5%とV字型回復を見せて、年間では2.3%に達している。これに対して、米国とEU(欧州連合)では、GDP成長率(前年比)は、2020年の第2四半期に中国の第1四半期を上回る落ち込み幅を見せた後、第3四半期に上昇に転じたが、まだマイナスの水準から脱していない。

図表2 中国・米国・EUのGDP成長率の推移
-新型コロナウイルスの感染拡大を受けて-
図表2 中国・米国・EUのGDP成長率の推移
(出所)中国は中国国家統計局、米国はU.S. Bureau of Economic Analysis、 EUはEurostatより筆者所作成

人民元高の進行(後述)も加わり、中国のGDPの米国に対する相対規模は、2019年の66.6%から2020年には70.4%に上昇した。その結果、米中GDP逆転の時期は、2030年という従来の大方の予想より早く到来するだろう(注1)。

内外の需給ギャップの非対称性を反映した中国の純輸出の拡大

中国は、成長率が諸外国より遥かに高いにもかかわらず、輸出の伸びが輸入の伸びより高く、純輸出(=輸出-輸入)が増えている(図表3)。この現象は、内外の需給ギャップの非対称性を反映していると見られる。すなわち、中国において、生産が需要より一歩先に回復しており、供給が需要を上回っているのに対して、諸外国では政府が大規模な景気対策を実施しているため、需要の回復が生産に先行しており、需要が供給を上回っている。中国における純輸出の増加はちょうどこの二つのギャップを補っているのである。

図表3 中国における輸出と輸入の推移
図表3 中国における輸出と輸入の推移
(注)ドルベース。
(出所)CEICデータベース(原データは中国税関)より筆者所作成

純輸出は、GDPの需要項目の外需に当たる。中国におけるGDP成長率(前年比)への外需の寄与度(いずれも実質ベース)は、2020年第1四半期に、内需を構成する消費と投資の寄与度とともにマイナスになったが、第2四半期以降、純輸出の拡大を反映してプラスに転じており、第4四半期には1.4%に達している(図表4)。

図表4 中国におけるGDP成長率の需要項目別寄与度の推移
図表4 中国におけるGDP成長率の需要項目別寄与度の推移
(注)2019年は年間、2020年は四半期。
(出所)CEICデータベース(原データは中国国家統計局)より筆者所作成

人民元レートを押し上げた国際収支の改善

2020年6月から2021年1月にかけて、人民元の対ドルレートは10%ほど、実効レート(貿易相手国通貨に対する加重平均、BIS, Effective Exchange Rateによる)も5%ほど上昇している。貿易をはじめとする国際収支の改善は、ドル安の進行とともに、人民元レートを押し上げている。

貿易の面では、輸出の伸びが輸入の伸びを大きく上回っていることを反映して、中国の2020年4-12月の貿易収支(通関ベース)は5,249億ドルと、前年同期の水準(3,484億ドル)を50%ほど上回っている。

直接投資の面では、米国やEU諸国など、海外では、安全保障を理由に、中国企業による自国企業を対象とするM&A(合併・買収)を厳しく制限するようになった。その結果、中国の対外直接投資は低迷している。一方、中国政府が出資制限の緩和などを通じて外資誘致に力を入れており、対内直接投資は増え続けている。その結果、中国における直接投資収支の黒字は増えている。

旅行収支の面では、中国は、インバウンドと比べて、アウトバウンドの旅客数が多い上、一人当たりの支出額も高いため、大きな赤字を抱えていた。しかし、海外では新型ウイルスの感染拡大が続き、国際観光がほとんど止まっている中で、中国の旅行収支の赤字は大幅に縮小している。

国際収支の改善に加え、ドル安の進行も元高に拍車をかけている。米国の積極的な金融緩和と相手国との金利差の縮小を背景に、ドルは人民元に対してだけでなく、他の主要通貨に対しても安くなっており、実効レートが2020年4月から2021年1月にかけて10%ほど低下している。

成長パターンは2020年の「前低後高」型から2021年には「前高後低」型へ

2021年の中国の成長率(前年比)は、2020年の「前低後高」型成長によってもたらされた高い「ゲタ」を反映して、極めて高い水準に達すると予想される。これを確認するために、中国国家統計局が発表した季節調整済みの「前期比の伸び」のデータを使って、4半期の実質GDPの推移を示す指数を作成し、それをベースに、前期比ゼロ成長と前期比1.5%成長を前提とする二つのケース(それぞれ試算①、試算②)に分けて、2021年の各四半期と年間の前年比GDP成長率を試算した(図表5)。

図表5 中国における2021年の実質GDPの変動(試算)
図表5 中国における2021年の実質GDPの変動(試算)
(注)
1. 試算①は前期比0%成長、試算②は前期比1.5%成長を前提とする。
2. ゲタは、前年の最終四半期のGDPと、前年の各四半期の平均GDPとの差をパーセンテージで表したものである。
3. 年間の成長率は、各四半期の指数の平均値に基づいて計算され、(四捨五入の関係で)各四半期の指数の合計に基づく計算、または各四半期の前年比成長率の平均値とは必ずしも一致しない。
(出所)中国国家統計局「2020年第4四半期と年間国内総生産(GDP)の暫定推計結果」、2021年1月19日より筆者作成

中国のGDP成長率は前期比では、2020年第1四半期に-9.7%に落ち込んだ後、第2四半期には11.6%にリバウンドし、第3四半期と第4四半期もそれぞれ3.0%と2.6%と比較的高い水準で推移した。これらの数字をベースに各四半期の実質GDPを指数化すると、コロナショック直前の2019年第4四半期を100とする場合、2020年第1四半期が90.3、第2四半期が100.8、第3四半期が103.8、第4四半期が106.5となる。2020年第4四半期のGDP(106.5)は2020年の年平均(100.3)より6.2%高い。この6.2%は、2020年から2021年に持ち越された「ゲタ」に当たる。

2021年の各四半期のGDP成長率は、仮に前期比0%(水準では2020年第4四半期の106.5のまま)であっても、前年比でみると、第1四半期には17.9%、第2四半期には5.7%、第3四半期には2.6%、第4四半期には0%、年間の成長率はゲタの分に当たる6.2%となる(試算①)。

中国の潜在成長率は年率6%(四半期ベースでは前期比1.5%)程度であると見られ、2021年の各四半期の前期比GDP成長率がこのペースで伸びるという、より現実的前提を置いて試算すると、各四半期の実質GDP(指数)は、第1四半期には108.1(前年比19.7%)、第2四半期には109.7(同8.9%)、第3四半期には111.4(同7.3%)、第4四半期には113.0(同6.1%)、年平均には110.6(年間の成長率は10.3%)となる(試算②)。

このように、2021年の中国のGDP成長率は、四半期のデータを前年比でみて、2020年に見られた「前低後高」型とは逆に、「前高後低」型に変わるだろう。また、年間の平均成長率は、中国経済が4兆元に上る大型景気対策の実施を受けてリーマンショックから回復に向かった2010年以来11年ぶりに二桁成長に達する可能性がある。

もっとも、このような高い成長率は、あくまでも不況から回復に向かう段階に見られるいわゆる「反動増」という一時的現象であり、2022年以降にも続くものではない。中長期にわたって経済成長率を高い水準に維持するためには、供給側を中心に更なる構造改革が必要である(BOX参照)。

BOX 中央経済工作会議で示された2021年の経済政策の重点任務

国内における労働力不足が深刻化することや、海外おける保護主義が台頭するなどを受けて、中国の成長率は従来と比べて大幅に低下している。その対策として、中国は「『国内循環』を主体とし、国内・国際の二つの循環が相互に促進する」という「双循環」戦略を打ち出している。それに沿って、2020年12月16-18日に開催された中央経済工作会議では、2021年の重点任務として、次の八項目が挙げられた。

  1. 国家の戦略的科学技術力を強化する。
  2. サプライチェーンの自主制御能力を強化する。
  3. 消費を中心とする内需拡大を堅持する。
  4. 改革開放を全面的に推進し、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」への参加を積極的に考慮する。
  5. 食料安全保障の強化を目指して、種子と耕地の問題を解決する。
  6. 独占禁止を強化し、資本の無秩序な拡張を防止する。アリババなど、近年急成長してきたプラットフォーム企業を取り締まりの主な対象となる。
  7. 住宅価格の高騰など、大都市の住宅の際立った問題を解決する。
  8. CO2排出量の削減目標(2030年にピークアウト、2060年に実質ゼロ)に向けて行動する。
脚注
  1. ^ 中国のGDPが2019年に98.65兆元、2020年に101.60兆元(中国国家統計局)、米国のGDPが2019年に21.43兆ドル、2020年に20.93兆ドル(U.S. Bureau of Economic Analysis)、人民元の対ドルレート(年平均)が2019年に6.91元/ドル、2020年に6.90元/ドル(IMF, International Financial Statistics)に基づいて計算。
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2021年2月8日掲載