中国経済新論:実事求是

本格化する国有企業の混合所有制改革
― チャイナユニコムの事例を中心に ―

関志雄
経済産業研究所

中国政府は、競争的市場環境の確立と国有企業のガバナンスの強化を目指して、「混合所有制改革」に取り組んでいる。混合所有制にはマクロとミクロの二つの側面がある。一つは、国有企業と非国有企業(民間企業、外資企業など)が共存する「混合所有制経済」(mixed economy)というマクロの側面である。もう一つは、国有資本だけでなく非国有資本(民間や外資、従業員による出資など)も受け入れる「混合所有制企業」(mixed-ownership enterprise)というミクロの側面である。この場合、出資者の権利を明確化するために、株式制を採るのが一般的である。

習近平政権下の混合所有制改革は、混合所有制経済よりも混合所有制企業の推進が中心となっている。選ばれた一部の国有企業に民間資本を導入するという形で、すでにパイロットテストが行われている。中でも、本業が改革の対象となっている上、新たに資本参加する戦略的投資家には多くの著名な民営企業が含まれているというチャイナユニコムの取り組みは、大型国有企業の混合所有制改革のモデル・ケースとして、内外から注目されている。

混合所有制改革とは

中国において、混合所有制改革は、1990年代末以降、一貫して国有企業改革の重要課題として位置づけられている(表1)。特に、2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議で採択され、習近平政権の経済政策の綱領ともいうべき「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」において、混合所有制が「基本的経済制度の重要な実現形式」として、また「混合所有制改革」は、「現代企業制度の整備」、「国有資産の監督管理体制の改善」とともに国有企業改革の重点として、位置づけられた。

表1 中国共産党の主要文書における混合所有制改革に関する記述
時期 文書名 内容
1999年9月
中国共産党第15期中央委員会第四回全体会議
「国有企業の改革と発展の若干の重大な問題に関する中共中央の決定」 国有資本は株式制を通じ、より多くの社会資本を惹きつけ、組織することができ、また国有資本の機能を拡大させ、国有経済のコントロール力、影響力および牽引力を高めることができる。国有大中型企業、特に優位に立っている企業は株式制の実施に適しており、ルールに則った上場、外資企業との合弁、相互出資などの形を通じ、株式制企業に切り替え、混合所有制経済を発展させる。重要な企業の場合、国が支配株主となる。
2003年10月
中国共産党第16期中央委員会第三回全体会議
「社会主義市場経済体制の整備の若干の問題に関する中共中央の決定」 国有資本、集団資本と非公有資本などが共同出資する混合所有制経済を大いに発展させ、投資主体多様化の実現を目指し、株式制を公有制の主要実現形式にする。
2013年11月
中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議
「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」 国有資本、集団資本、非公有資本が株を持ち合い、相互に融合し合う混合所有制経済は、基本的経済制度の重要な実現形式であり、国有資本の機能拡大、価値の維持・増加、競争力の向上に有利であり、各種所有制の資本が長短相補い、互いに促進し、共に発展するのに有利である。より多くの国有経済とその他の所有制経済が混合所有制経済へと発展することを認める。国有資本の投資プロジェクトへの非国有資本の参加を認める。
(注)ここで使われている「混合所有制経済」という表現は、mixed economyというマクロ的意味よりも、mixed-ownership enterpriseというミクロ的意味で捉えるべきである。
(出所)新華社より筆者作成

これを受けて、2015年9月13日に発表された「国有企業改革を深化するための指導意見」では、混合所有制を発展させるために、非国有資本による国有企業改革への参加、国有資本の非国有企業への出資を奨励し、混合所有制企業における従業員の持株制度の導入を模索するという方針が提示された。また、国有企業が「商業類」と「公益類」に分類され、そのうち、「商業類」をさらに「競争性企業」(商業一類)と「特定目的企業」(商業二類)に分類した上で、それぞれ異なる改革方針が示されている。

具体的には、消費財などの市場競争が十分に進んでいる分野を本業とする「商業一類」の場合、(本業を含む)グループ全体の上場などを通じて、その他の国有資本や非国有資本を導入し、株式所有構造の多様化を実現する。国有資本による支配にはこだわらない。

また、通信、交通運輸、水力発電、石油・天然ガス、電力網、原子力発電、軍需産業など、本業が国家の安全や国民経済にとって重要である「商業二類」の場合、国有資本による支配を維持した上で、非国有資本による出資を支援する。

さらに、「公益類」(水・電力・ガス、公共交通、公共施設など)の国有企業の場合、サービス購入、コンセッション方式、委託代理方式などを通じて、非国有企業による経営参加を奨励する。国有資本による単独出資を原則としながらも、条件を満たせば、投資主体の多様化を進めること(非国有資本による出資)も認める、というものである。

混合所有制改革の進め方は、大きく分けて、次の三つのタイプがある。
① 国有資本の希薄化:非国有の戦略的投資家の導入を通じて、当該企業の株主構成に占める国有持株会社の割合を減らす。
② 関連業務の本体からの分離:本体から一部の関連業務を営む部門を別会社として切り離して、それに非国有資本を導入する。
③ 新しい分野への共同進出:非国有資本と共同出資して会社を設立し、新しい分野に進出する。
一般的に、「国有資本の希薄化」は国有企業の本業が対象となるため、他の二つのタイプと比べて、改革の規模と期待される効果が大きい。

モデル・ケースとなるチャイナユニコムの事例

中国では、経済改革に取り組むに当たり、全面実施する前に、その効果を確かめるために、一部の企業(または地域)を対象に先行して実施する場合が多く、今回の混合所有制改革も例外ではない。2016年以来、すでに2回にわたって、電力、石油、天然ガス、鉄道、航空、通信、軍需産業という七つの産業を中心に、計19社の国有企業がパイロットテストの対象として選定されている。

その中には、中国移動と中国電信に次ぐ第三位の国有通信会社であるチャイナユニコムが含まれている(注1)。同社は、国務院国有資産監督管理委員会が管轄している「中央企業」(2017年10月現在98社)の一つで、上海A株市場で上場している。チャイナユニコムは、近年、第4世代移動通信システム(4G)で後れをとってしまったがゆえに、営業収入が2013年をピークに減り続けており、上位2社との差が開いている。同社は、混合所有制改革を通じて、再起を狙っている。

今回のチャイナユニコムの混合所有制改革は、他の「中央企業」に先駆けて重点を「国有資本の希薄化」に置いており、本業そのものが改革の対象となっている。2017年8月20日に公表されたチャイナユニコムの混合所有制改革案では、基本方針として、「全面的計画を通じて、積極的に国内投資家を導入して、国有株の割合を下げ、一部の株式をほかの国有株主や非国有株主に譲渡し、本格的に混合所有制改革を推進する。市場指向で企業制度やコーポレート・ガバナンス体制を構築し、企業の主要業務と新しいビジネスモデルに注力して、基礎業務と革新業務を発展させ、效率と競争力を全体的に引き上げる。企業の戦略目標を実現させ、国民経済や社会の情報化、供給側構造改革、新旧の成長エンジンの切り替えに積極的に貢献する」ことを掲げている。

具体的に、今回の混合所有制改革において、チャイナユニコムは、次の三つのルートを通じて、合わせて約780億元(約1兆3000億円)に上る資金を調達する。
① 第三者割当増資: 1株当たり6.83元で約90.37億株を上限に新株を発行し、特定の戦略的投資家に割り当て、最大約617.25億元を調達する。
② 株式の譲渡:協議に基づき、チャイナユニコムの持株会社であるチャイナユニコム・グループが中国国有企業構造調整基金に1株当たり6.83元で、所有する約129.75億元相当の約19億株を譲渡する(注2)。
③ 従業員持株制度の導入:一部の幹部社員が1株3.79元で約8.48億株(混合所有制改革後の総株数の2.7%)を上限に新規発行の株を取得できる。これを通じて、最大約32.13億元を調達する。
調達した資金は4Gの最適化と5Gの構築及び革新的業務の規模拡大に利用する予定である。

今回の改革を経て、戦略的投資家として新規出資する、中国人寿(発行の上限に基づいて試算される出資比率が10.22%)、テンセント(同5.18%)、バイドゥ(同3.30%)、京東(同2.36%)、アリババ(同2.04%)、蘇寧雲商(同1.88%)、光啓互聯(同1.88%)、淮海方舟(同1.88%)、興全基金(同0.33%)と中国国有企業構造調整基金(同6.11%)は、合わせてチャイナユニコムの35.19%の株式を取得し、その一方で、チャイナユニコム・グループの持株比率は従来の62.7%から36.67%に下がることになる(表2)。

表2 混合所有制改革に伴うチャイナユニコムの株主構成の変化(シェア、%)
分類 株主 改革前 改革後
大株主 チャイナユニコム・グループ 62.7 36.67
戦略的投資家 金融グループ 中国人寿 - 10.22
インターネット企業 テンセント - 5.18
バイドゥ - 3.30
京東 - 2.36
アリババ - 2.04
ニッチ企業 蘇寧雲商 - 1.88
光啓互聯 - 1.88
淮海方舟 - 1.88
産業ファンド 中国国有企業構造調整基金 - 6.11
興全基金 - 0.33
従業員持株 - 2.70
その他の株主(主に公開市場で株式を取得) 37.3 25.40
合計 100.0 100.00
(注1)一部の戦略的投資家は、直接ではなく、子会社を通じて出資している。
(注2)四捨五入の関係でシェアの合計が100にならないことがある。
(出所)チャイナユニコム「チャイナユニコムの混合所有制改革に関連する状況の特定事項に関する公告」(2017年8月20日)より筆者作成

チャイナユニコムは「商業二類」に分類されるため、国有資本による支配の維持が義務付けられる。実際、今回の混合所有制改革を経ても、チャイナユニコム・グループは相変わらずチャイナユニコムの支配株主の地位を維持している上、中国国有企業構造調整基金と中国人寿の持ち分を合わせると、国有資本のシェアは過半数のままになっている。このため、戦略的投資家を含む非国有株主は、「小株主」の地位に甘んじざるを得ず、重要な意思決定において発言力が限られている。

今回の混合所有制改革で加わった戦略的投資家は、すべてチャイナユニコムの主要事業と関連性の高い企業で、互いの間に補完性が強い。チャイナユニコムは、クラウド、ビッグデータ、IoT、AI、家庭用インターネット、デジタルコンテンツ、小売りシステム、電子決済などの分野で戦略的投資家との提携を通じて、従来の業務分野を強化しながら、新しい分野の開拓とイノベーション能力の向上を目指す。

克服しなければならない課題

チャイナユニコムの事例にも当たることだが、一般的に、混合所有制改革により、次の効果が期待される。

まず、対象となる国有企業の業績が向上することである。非国有資本の導入は、コーポレート・ガバナンスの改善を通じて、企業の生産性上昇と収益改善に役立つ。

次に、国有企業による産業独占や非国有資本・企業の参入規制が打破されることである。今回の混合所有制改革の七つの重点分野は、いずれもこれまで非国有資本・企業がなかなか参入できなかった産業だったが、混合所有制改革により、進出の道が開かれたのである。

そして、国有企業が非国有資本を利用することを通じて、投資するための資金を調達できることである。これにより、国有企業の債務への依存度が抑えられる。

しかし、これらの効果を上げるためには、次の問題を解決しなければならない(劉興国「困難に正面から取り組み、コンセンサスを強化し、混合所有制改革を推進する」『上海証券報』、2016年8月20日)。

まず、体制とメカニズムの改革が後れている。上場企業の混合所有制改革は株主分散化にとどまっており、混合所有制企業における有効なコーポレート・ガバナンス体制は確立できていない。大株主の支配力が維持される混合所有制企業では、非国有株主は不利な立場を強いられて、利益が侵害されることもしばしばである。

第二に、民営企業が参入したい分野は、国有企業によって独占され、開放が後れている一方で、参入が許可されるようになった分野の多くは、収益性が低く、民営企業にとって魅力に欠けている。

第三に、国有資産監督管理部門は、民間資本が国有資本にとって依然として脅威であり、経済の不安定要因であると警戒していることから、国有株の民間への譲渡には消極的である。

第四に、有効な監督メカニズムが十分に整備されておらず、国有株の民間への譲渡に関する法律は整備されておらず規範化された手順も確立されていないため、混合所有制改革の過程において、国有資産流失の状況がしばしば発生している。

第五に、政府が混合所有制改革を進める根本的な狙いは、国有企業のコーポレート・ガバナンスの整備や活性化と業績向上にあるのに対して、多くの国有企業は混合所有制改革を通じて、不採算部門を民営企業に押し付けようとしている。

最後に、民間資本が混合所有制企業から退出するメカニズムは整備されていない。その上、民間資本の退出は、国有資産の流失につながる行為として批判される恐れがあるという。

求められる民営化の推進と独占の打破

そもそも、混合所有制改革の最大の狙いは、競争的市場環境の確立と国有企業のコーポレート・ガバナンスの強化である。しかし、混合所有制改革がその最も有効な手段であるかどうかは疑問である(左小蕾「混合所有制改革は純粋な資本運営を避けるべきである」『中国証券報』、2014年8月29日)。

まず、混合所有制改革の目的が非国有資本の導入を通じて、一部の業種における国有資本の独占状態を打破することであれば、最善の方法は、企業の混合所有制改革を行うことではなく、参入基準を引き下げ、あらゆる所有制の企業、特に民営企業が国有企業と同じ条件下で、公平に競争できるようにすることである。こうすれば、市場競争を通じて、国有企業のコーポレート・ガバナンスが向上し、生産性と競争力も高まるだろう。

また、混合所有制改革の目的が株主構造を変えることを通じてコーポレート・ガバナンスを含む経営体制に変化をもたらすことであれば、民営化を通じて、国は株式所有における支配的地位を放棄しなければならない(BOX参照)。政府が相変わらず独占的主導権を握ったままでは、国有企業の運営に根本的な変化は生じない、という。

進行中の混合所有制改革は、国有企業改革の最終段階ではなく、民営化に向けての一歩であることに期待したい。

BOX なぜ国有企業におけるコーポレート・ガバナンスの確立が困難であるか
― 北京大学の張維迎教授の見解 ―

中国では、国有企業改革を巡って、重要なのは所有制ではなく、コーポレート・ガバナンスの方であり、コーポレート・ガバナンスの整備ができたら、国有企業は民営企業のように効率的になると主張する人がいる。これに対して北京大学の張維迎教授は、「国有企業のコーポレート・ガバナンスの確立がうまくできるはずがない」と次のように反論している(張維迎「国有企業は有効なコーポレート・ガバナンスの確立ができない」『財知道』、2014年2月28日、第198期、鳳凰網)。

コーポレート・ガバナンスには二つの基本機能がある。一つは企業家の素質のある人を経営者にすること、もう一つは経営者への奨励と監督管理を行うことである。

民営企業では、主に「株主」がこの二つの役割を果たしている。情報の非対称性などの原因で、企業経営者の選択と監督管理はそう簡単なことではない。株主(特に大株主)は企業の所有者として、積極的にこの二つの役割を果たそうとする。なぜなら、もし企業経営者が企業家としての素質がなく、積極的に企業価値を高めようとしなければ、真っ先に損してしまうのは株主だからである。コーポレート・ガバナンスは、株主総会、取締役会、監事会、経営者に与えるストックオプション、従業員に支払うボーナス、市場での株式取引、M&A、各ステークホルダーの信用などによって実践される。

これに対して、国有企業は効果的なコーポレート・ガバナンスを確立できるのかというと、答えは否である。なぜならば、国有企業の所有者は個人ではなく、国家だからである。国有企業を任せられる政治家や官僚は、権力と責任が非対称的で、国有企業の経営者を選択・監督する際、民営企業の株主と同じ権利を持ちながら、同じ責任を取ることはない。任せられた企業がいくら赤字になってもまたは大儲けしても、彼らの収入にはほとんど影響を与えない。彼らは、株主のように積極的に企業家の素質を持つ経営者を選び、国有企業の経営者を監督するインセンティブが働かない。国有企業の経営者自身も、企業経営者としての自覚は乏しく、彼らが求めるのは官僚としての出世である。そのために、企業の短期利益を積極的に追求するが、成果を上げるのに長い時間がかかる技術開発やイノベーションに取り組むことには関心がないという。

「国有企業は効果的なコーポレート・ガバナンスを確立できない」という結論は、国有資本による支配が維持される混合所有制企業にも当てはまるように思われる。

脚注
  1. ^ 米『フォーチュン』誌が発表する2017年版の「フォーチュン・グローバル500」では、売上順で、中国移動は第47位、中国電信は第133位、チャイナユニコムは第241位にランクされている。
  2. ^ 中国国有企業構造調整基金は中国誠通持株グループ(主要発起人)、建信投資、招商金葵、中国兵器、中国石化、神華グループ、中国移動、中国交建、中車資本、金融街グループといった中央と地方の国有企業と金融機関の出資によって設立された。主に中央企業の発展や業界の統合と再編成、生産能力の調整、クロスボーダーM&Aなどのサービスを提供している。
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2017年10月20日掲載