中国経済新論:実事求是

台頭する民営企業
― 成長分野の担い手に ―

関志雄
経済産業研究所

中国では、近年、情報通信をはじめとする一部の分野において、民営企業は目覚ましい発展を遂げている。営業収入や輸出に象徴される企業規模が拡大しているだけでなく、ブランドの価値、就職先としての人気度、イノベーション能力に対する評価も高まっている。

民営企業の規模拡大を示す指標として、「中国企業上位500社」(中国企業連合会と中国企業家協会)にランクインした民営企業の数が2011年の184社から2015年には207社に、営業収入に占める民営企業の割合が17.2%から21.7%に増えていることが挙げられる。その上、輸出の分野において、長い間、外資系企業が主役だったが、ここに来て民営企業の存在感が増している。輸出に占める外資系企業のシェアはピークだった2005年の58.3%から2015年1-9月には44.1%に低下している一方で、民営企業を中心とする「その他」のシェアは1995年のわずか1.8%から2015年1-9月には45.1%まで上昇している(図1)。民営企業だけでも、外資企業との逆転はもはや時間の問題である。

図1 所有制別輸出構成の推移
―主役となる民営企業―

図1 所有制別輸出構成の推移
(注1)「その他」には民営企業が含まれている。
(注2)2015年は1~9月のみ。
(出所)CEICデータベースより資本市場研究所作成。

また、ブランドとしての民営企業の知名度も高まっている。英ブランド調査会社ミルウォード・ブラウンと英広告大手WPPが調査した「最も価値ある中国の上位100ブランド」によると、初回に当たる2011年の調査では、国有企業が上位5位を独占したが、2015年になると、1位はテンセント(騰訊)、2位はアリババ(阿里巴巴)、5位は百度(バイドゥ)と、民営企業は上位5位の中の三つを占めるようになった(表1)。

表1 最も価値ある中国の上位5ブランド
―2011年Vs.2015年―
順位2011年2015年
1中国移動通信テンセント
2中国工商銀行アリババ
3中国銀行中国移動通信
4中国建設銀行中国工商銀行
5中国人寿保険百度
(出所)Millward Brown and WPP「最も価値ある中国の上位50ブランド」(2011)、
「最も価値ある中国の上位100ブランド」(2015)より筆者作成

そして、民営企業は就職先としての人気も上昇している。中華英才網がまとめた2014年「大学生の就職先として最も人気の高い企業」に関するアンケート調査では、上位10社の中に、華為技術、百度、テンセント、アリババ、大連万達の5社の民営企業が入っている(表2)。

表2 「大学生の就職先として最も人気の高い企業」の上位10社(2014年)
順位企業名
1中国移動通信
2中国銀行
3華為技術
4マイクロソフト
5百度
6中国工商銀行
7P&G
8テンセント
9アリババ
10大連万達
(出所)中華英才網、「大学生の就職先として最も人気の高い企業」
(2014年7月)より筆者作成

さらに、民営企業のイノベーション能力も着実に高まっている。ボストン・コンサルティング・グループがまとめた2014年の「イノベーション企業ランキング・上位50社」において、中国のレノボ(第23位)、小米科技(第35位)、テンセント(第47位)、華為技術(第50位)の4社がランクインしているが、すべて民営企業である。

もっとも、営業収入の規模を基準とする米経済誌『フォーチュン』の「グローバル500」(2015年版)にランクインしている中国企業は94社(台湾と香港を除く)に上っているが、国有企業が依然としてその大半を占めており、民営企業の数は8社にとどまっている(表3)。しかし、多くの中国の民営企業は国内の市場化と世界の技術革新の波に乗り、やがて「グローバル500」に加わることになろう。

表3 「フォーチュン・グローバル500」(2015年版)にランクインした中国の民営企業
順位企業名2014年営業収入
(10億ドル)
業種
96中国平安保険86.0金融
156太平洋建設63.4建設
228華為技術46.8通信
234山東魏橋創業集団45.8紡績
247正威国際集団43.6非鉄金属
274江蘇沙鋼集団40.3鋼鉄
281中国民生銀行39.9金融
477浙江吉利25.0自動車
(出所)Fortune, "Global 500," July 2015 <http://fortune.com/global500/>より筆者作成

民営企業の台頭が最も目立っているのは、発展の著しいインターネットを中心とする情報通信の分野である。中国インターネット協会と中国工業情報化部情報センターがまとめた「中国インターネット企業上位100社」(2015年7月)によると、民営企業が上位10社を独占している。その中で上位3社のアリババ、テンセント、百度(いわゆる「BAT」)に加え、第4位の京東集団も、時価総額ベースで、Google、Facebook、Amazon.comと並んで、世界のインターネット企業の上位10社に入っている(表4、図2)。

また、ゲノム解析のBGIやドローンメーカーのDJI(大疆創新科技)など、他のハイテク分野においても世界市場で圧倒的シェアを持つ中国の民営企業が現れている。不況に陥っている資源や重工業といった分野における国有企業の低迷とは対照的に、成長が見込まれるハイテク産業における民営企業の躍進は、中国の経済発展にとってまさに明るい材料である。

表4 BAT 三社の概要
社名百度 (Baidu)アリババ (Alibaba)テンセント (Tencent)
創業2000年1月1999年9月1998年11月
創業者李彦宏 (1968年~)馬雲 (1964年~)馬化騰 (1971年~)
本社北京杭州深圳
社員数 (2014年)46,391人34,081人27,690人
営業収入 (2014年)490.5億元708.1億元789.3億元
純利益 (2014年)131.9億元269.7億元238.1億元
上場ナスダック (2005年8月)ニューヨーク証券取引所 (2014年9月)香港証券取引所メインボード (2004年6月)
代表的事業検索、広告、クラウドなど天猫 (T-mall)淘宝 (Taobao)といった電子商取引プラットフォームなどQQ (インスタントメッセンジャー)、Wechat (SNS)、オンライン・ゲームなど
(出所)各社のホームページ、Fortune「2015中国上位500社」などより筆者作成

図2 世界のインターネット企業の時価総額の上位10社(2015年10月30日)
図2 世界のインターネット企業の時価総額の上位10社(2015年10月30日)
(出所)Nasdaq, New York Stock Exchange, Hong Kong Stock Exchange データより筆者作成

2015年11月24日掲載

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2015年11月24日掲載