中国経済新論:実事求是

二つのバブル:中国の現状と1980年代後半の日本との比較

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

日本経済は、1980年代後半にバブルの膨張を経験したが、1990年以降、バブルの崩壊をきっかけに、長期低迷に陥った。現在の中国でも、不動産市場を中心に、バブルが膨張しており、その行方が注目されている。ここでは、両者の類似点と相違点を明らかにした上、中国が日本の経験から学ぶべき教訓について考える。

日本と類似するバブル膨張の背景

現在の中国とバブル期の日本を比較して見ると、次の類似点が浮かんでくる。

まず、1980年代後半の日本と同じように、現在の中国においても、労働力不足に制約されて潜在成長率が大幅に低下している中で、政府が無理して拡張的マクロ政策を通じて潜在成長率を超える高成長を目指そうとしたことが、資産バブルを招いている。

また、当局が為替レートの上昇を抑えようと、積極的に外為市場に介入した結果、流動性が膨張してしまった。日本では、1985年の「プラザ合意」を受けて円高が進行した。1987年2月にドル高是正という目標が達成されたという認識の下で、G7参加国間でドルの安定を目指す「ルーブル合意」が交わされたことをきっかけに、日本銀行は大規模なドル買い介入を行うようになった。これは、金融緩和とともに、流動性、ひいては資産バブルの膨張に拍車をかけた。中国においても、人民元高を抑えるための市場介入が不動産価格の上昇をもたらした流動性膨張の一因となっている。

さらに、従来の預金を原資とする銀行の貸出とは別に、当局の規制から逃れるための資金調達ルートとして、シャドーバンキングが使われている。バブル期の日本では、多くの不動産関連融資が、当局の監督が届かない「住専」といったノンバンクを経由した。このことは、不動産バブルの膨張に拍車をかけた一方で、バブル崩壊後の不良債権問題を深刻化させた。現在の中国においても、銀行が理財商品、信託会社が信託商品を販売することを通じて、資金を調達し、その一部を不動産市場につぎ込んでいる。

最後に、資産(日本の場合は不動産と株式、中国の場合は不動産のみ)価格が大幅に上昇しているが、物価は比較的安定している。これは、金融引き締めへの転換を遅らせている。

リスクの軽減に寄与すると期待される日本との相違点

その一方で、現在の中国と1980年代後半の日本との間には多くの相違点も見られている。

まず、バブル期の日本では、銀行の住専などへの融資はバランスシートの一部であり、焦げ付いた場合、銀行自らの不良債権となる。これに対して、現在の中国では、シャドーバンキング商品の大半は、銀行のバランスシートから分離されており、仮に債務不履行が起こっても、原則として、銀行は顧客に対して損失を補填する義務を負っていない。

また、日本では大半の銀行が民営であるのに対して、中国ではほとんど国有となっている。このため、いざという時に政府に支援してもらえると期待されている。

さらに、バブル期の日本はすでに変動相場制に移行しており、資本移動の自由化も進んでいた。これに対して、中国では、人民元レートが当局によって厳しく管理されており、資本移動も制限されている。その結果、人民元は投機の対象になりにくい上、資本の激しい移動による金融市場の不安定化が避けられる。

最後に、両国の経済発展段階には大きな差がある。バブルが弾けた1990年代の日本は、すでに成熟した先進国であった。これに対して、現在の中国は、まだ新興工業国の段階にある。従来と比べて、潜在成長率が低下しているとはいえ、「後発の優位性」を生かせば、6~7%という中程度の成長が当面維持されると思われる。特に、予想される都市化の進展は、不動産投資のみならず、経済成長を支える力となろう。

中国が日本から学ぶべき教訓

これらの相違点は、中国にとって、バブルの崩壊によって引き起こされかねない経済危機と景気の長期低迷を免れるための有利な条件となる。その上、中国は、日本の金融政策の失敗の経験から学べば、同じ轍を踏まずに済むだろう。

まず、資産価格の変動は、銀行の不良債権の拡大などを通じて、金融システムの不安定要因になることに鑑みれば、当局は金融政策を策定する際、CPIで見た物価だけでなく、株式や不動産価格の動向にも目を配るべきである。

また、バブルの拡大は信用の膨張を伴うが、当局はその量的伸び率だけでなく、不動産関連を中心に融資の構成の変化についても注意を払う必要がある。それに加え、銀行のみならず、シャドーバンキングへの監督も強化すべきである。

さらに、当局は、経済が抱えるリスクを極力、潜在的段階で把握し、先行きを展望した金融政策を実施すべきである。

最後に、中央銀行の政策の重点を為替レートの安定に置こうとすると、市場介入が必要となり、これにより金融政策の独立性が大幅に制約されることになる。特に、国境を越える資本の移動性が高まる中で、経済を安定化させるためには、為替レートに柔軟性をもたせることを通じて、金融政策の独立性を高めていかなければならない。

2014年5月8日掲載

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