中国経済新論:実事求是

緩和される一人っ子政策

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では、労働力不足と高齢化に伴う問題が深刻化しつつある中で、一人っ子政策を見直す機運が高まっている。それに向けた一歩として、2013年11月に開催された中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)において、夫婦双方または一方が一人っ子である場合、二人目の出産を認めるという方針が決定され、その影響が注目されている。

産児制限の実態

一人っ子政策は、人口抑制のための産児制限の一環として1980年に導入された。政府は一人っ子の家庭に対する優遇奨励政策(一人っ子に対する補助、学費や医療費の減免など)を進めると同時に、それに違反した家庭に対して、国家公務員の場合は行政処罰、一般の場合は罰金など、厳しい罰則を設けている。ただし、現行の制度では、一人っ子政策を基本としながらも、すべての夫婦がその対象となるわけではなく、次のように、各種の例外規定が設けられている(「新聞背景:我が国の生育政策は実践を通じて漸次に改善されている」、新華社、2013年12月28日)。

  • ①一人っ子政策
    ほとんどの都市部(城鎮)住民及び北京市、天津市、上海市、江蘇省、四川省、重慶市の6省(市)の農村住民は、夫婦一組に子供一人しか認めない。
  • ②一・五人っ子政策
    河北省など19省(自治区)の農村住民は、夫婦一組の一人目の子供が女児である場合、二人目まで認められる。
  • ③二人っ子政策
    a)すべての省(市、区)において夫婦の双方とも一人っ子である場合、二人目まで認められる。
    b)海南省、雲南省、青海省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区の農村住民は夫婦の双方が一人っ子であるかどうかに関係なく、二人目まで認められる。
    c)天津市、遼寧省、吉林省、上海市、江蘇省、福建省、安徽省の7省(市)の農村部では夫婦の片方が一人っ子ならば、二人目まで認められる。
  • ④三人っ子政策
    一部少数民族の農民遊牧民は子供三人目まで認められる。①青海省、寧夏回族自治区、新疆ウイグル自治区、四川省、甘粛省の少数民族の農民遊牧民、②海南省、内モンゴル自治区などの地域の先に生まれた子供が二人とも女の子である少数民族の農民遊牧民、③雲南省国境の村、人口の少ない少数民族の農村住民、黑龍江省にいる人口の少ない少数民族住民が、その対象となる。
  • ⑤特別政策
    チベット自治区では、チベット族の都市部(城鎮)住民は子供二人まで認められる。チベット族及び人口の少ない少数民族の農民遊牧民に制限はない。

第6回全国人口調査(2010年)のデータをベースに推計すると、各政策の適用対象は、一人っ子政策が総人口の37.5%、一・五人っ子政策が同52.8%、二人っ子政策が同5.8%、それ以外が同3.8%となる(前掲記事、新華社、2013年12月28日)。

今回の政策調整による経済効果は限定的

一人っ子政策の緩和によるマクロ経済への影響を考える際、それに伴う生産年齢人口(15歳~59歳まで)と潜在成長率の変化が焦点となる。

中国における生産年齢人口は2010年頃をピークに低下し始めており、その一方で、高齢化が加速している(図1)。高齢化は、一般的に先進国で見られる現象であるが、中国は豊かにならないうちにこの段階を迎えるという厳しい試練に立ち向かわなければならない。農村部における余剰労働力の枯渇(いわゆる「ルイス転換点」の到来)も加わり、労働力不足が顕著になってきた。労働力の供給に制約されて、潜在成長率は低下してきている。一人っ子政策の緩和の狙いは、まさに労働力供給を増やすことを通じて潜在成長率の低下に歯止めをかけることである。

図1 中国における年齢別人口の推移
図1 中国における年齢別人口の推移
(注)予測値は一人っ子政策の緩和を考慮していない
(出所)United Nations, World Population Prospects: The 2012 Revisionより作成

しかし、多くの国の経験が示すように、経済発展と所得向上に伴い、少子化が進む傾向がある。中国はすでに中所得のレベルに達しており、一人っ子政策が緩和されても、出生率の大幅な上昇はもはや見込めない。その上、中国では、地域格差が大きく、出生率の上昇は、すでに経済が発展し先進国の所得水準に近づいている沿海部と都市部よりも、遅れている内陸部と農村部の方が顕著であろう。その場合、中長期的に労働力の量が増えても、教育や健康のレベルから見た労働力の質は逆に低下する恐れがある。

また、仮に今回の政策調整の結果、出生率が短期間で上昇しても、新たに生まれる子供が成長し、労働市場に参加するまでには長い歳月がかかる。その間の、年少人口の増加に伴う扶養比率(年少人口と老齢人口の合計/生産年齢人口)の上昇は、家計の貯蓄率を低下させることを通じて、むしろ潜在成長率を押し下げかねない。

このように、一人っ子政策の緩和による経済効果は限定的であり、過大な期待は禁物である。

2014年2月5日掲載

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