中国経済新論:実事求是

住宅価格の上昇を抑えられるか
― カギとなる「土地財政」からの脱却 ―

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

住宅販売価格の上昇を抑えるために、中国政府は2010年以降、需要抑制を中心とする一連の政策を打ち出している。しかし、これは対症療法に過ぎず、抜本策として現在の土地制度の改革を通じて、供給を増やすことが求められる。

再燃する不動産バブル

中国では、リーマン・ショック以降の金融緩和を受けて、不動産市場は、主要都市の住宅販売価格が急騰するなど、バブルの様相を呈し、この現象は、特に沿海地域の大都市において顕著である。2011年の北京と上海の標準住宅(70平米)の販売価格は、それぞれ家計の平均年収の22.3倍と15.9倍に上り、東京の10.0倍を大幅に上回っている(IMF, 2012)。その結果、マイホーム実現の夢がますます遠のいてしまう庶民の間で不満が高まっている。その上、住宅バブルが一層膨張すれば、それが崩壊する時に銀行部門やマクロ経済が大きな打撃を受けることも懸念されている。

このような事態を避けるべく、2010年以降、中国政府は一連の対策を発表・実施した。需要抑制策としては融資規制、購入制限、不動産関連税制の強化、供給拡大策としては低所得層を対象とする保障性住宅の建設の加速がその主な内容となっている。金融引締めへの転換も加わり、70大中都市の新築住宅販売価格の前年同月比上昇率は、2012年3月から10ヵ月連続してマイナスで推移していたが、その後の金融緩和の再開を受けて、2013年1月から再び上昇に転じた(図1)。2013年4月には、70大中都市の新築住宅販売価格は前年同月比4.5%上昇しており、中でも、北京は同13.4%、上海は同10.2%など、大都市では上昇幅が大きくなっている。

図1 新築住宅販売価格の推移
図1 新築住宅販売価格の推移
(注)2010年12月までは新築住宅販売価格指数。
   2011年1月からは新築商品住宅販売価格指数、70大中都市は各都市の単純平均。
(出所)CEICデータベースより作成

不動産バブルを助長した土地政策

不動産バブルの本質は土地バブルである。中国では、地方政府が土地の供給を独占して、土地市場と土地価格をコントロールしている。農民は、請け負った土地を自由にデベロッパーに売ることが禁じられており、「収用」という形で政府に低い価格で売るしかない。

その一方で、政府は農民から購入した土地を、競売などを通じてデベロッパーに高い値段で売ることができる()。その差額は地方政府の財源となるため、地方政府には高い地価を維持するインセンティブが働く。しかし、その分だけ、デベロッパーの開発コストが増え、不動産価格も上がってしまう。

また、政府は食糧の自給率を維持するために、18億ムー(1.2億ヘクタール)の耕地を維持するという方針を採っており、その結果、農地の他の用途への転換がなかなか進まず、都市化のために必要である土地の供給が大きく制約されている。このことは、土地価格・不動産価格の高騰にさらに拍車をかけている。

求められる土地政策の転換

土地価格を抑えるために、次の政策の実施を通じて、これらの問題を解決しなければならない。

まず、土地の所有権を明確化しなければならない。理想としては私有化が最も望ましいが、イデオロギーが制約となり、実現がむずかしいため、次善の策として土地の使用権の年限を延長するべきである。さらに、土地の使用権を政府、集団、企業、個人に区別せずに、誰でも土地市場で取引できるようにすべきである。そうすることによって、土地価格は適正価格まで下がり、不動産バブルも解消されるだろう。

また、18億ムーの耕地を維持するという方針を解除すべきである。それにより生じかねない耕地不足の問題は、農地を集約化し、農業の生産性を高めることを通じて解決できるはずである。

さらに、地方政府は土地を売却する時に得られる収入(以下、土地譲渡金)に代わる財源を確保しなければならない。1990年代の税制改革を通じて、税収が中央に傾斜するようになった結果、地方政府はインフラ建設などの財源を確保するために、融資プラットフォーム会社を通じて借金を増やす一方で、土地譲渡金にますます頼るようになった。

土地譲渡金は、すでに地方政府の重要な財源となっている(表1)。地方政府の総収入は、税金を中心とする「公共財政収入」(日本の一般会計の歳入に相当)に加え、「政府性基金収入」(日本の特別会計の歳入に相当)と、中央政府からの財政移転からなる。土地譲渡金は「政府性基金収入」に分類され、その大部分を占めており、2012年には、2兆8,517億元に達している。これは、地方政府の総収入(14兆1,844億元)の20.1%、中央政府からの財政移転を除く「一次収入」(9兆5,281億元)の29.9%に当たる。不動産関連の税収を合わせると、広い意味での「土地財政」の規模はさらに大きくなる。財政部によると、2012年の城鎮土地使用税、土地増値税、不動産税(中国語で「房産税」、固定資産税の一種)、耕地占用税、契税による収入は合わせて1兆128億元に達している(「2012年財政収支情況」、「2012年税収収入増加の構造に関する分析」)。

表1 土地譲渡金に大きく依存する中国における財政収入状況(2012年)
表1 土地譲渡金に大きく依存する中国における財政収入状況(2012年)
(出所)財政部「2012年財政収支情況」より作成

しかし、中央政府の不動産価格抑制政策により土地売却が困難になり収入が減少し、低中所得者向け住宅の建設などの公共事業が増えたことにより支出が増加する中で、地方財政が悪化しつつある。地方財源を確保するために、抜本策として、中央政府と地方政府間の税収の比率を見直すと同時に、土地譲渡金への依存から脱却し、(すでに上海と重慶で試行している)個人の居住用住宅を対象とする不動産税の本格的実施を急ぐべきである。

2013年6月5日掲載

脚注
  • ^ 中国における土地は、都市部では「国有」、農村部では「集団所有」となっており、市場で売買されるのはあくまでも土地の「使用権」であり、「所有権」ではない。
文献
  • IMF (2012) "Global Financial Stability Report," World Economic and Financial Surveys, April.
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2013年6月5日掲載