中国経済新論:実事求是

景気循環と連動する中国における株価循環

関志雄
経済産業研究所 コンサルティングフェロー

中国では1990年に上海と深圳に証券取引所が設立されたが、上場企業の株の大半は政府によって保有され、流通が認められなかった。それ故に、中国の証券市場は、資金調達と運用といった本来の機能を果たすことができず、長い間、カジノと言われるほど、投機色が強く、株価も経済のファンダメンタルズと無関係の動きを示していた。しかし、2005年に始まった非流通株改革をきっかけに、証券市場の健全化が図られ、株価は、経済成長やインフレといったマクロ経済動向を反映するようになった。

株価循環と景気循環の関係

景気は、低成長・低インフレ(後退期)→高成長・低インフレ(回復期)→高成長・高インフレ(過熱期)→低成長・高インフレ(スタグフレーション期)→低成長・低インフレ(後退期))という順に沿って循環する(図1)。このことは、インフレ率が成長率の遅行指標であることを反映している。その上、過熱期において引き締め策が採られ、金利が上昇する一方で、後退期において緩和策が採られ、金利が低下することは、このような景気循環を持続させる力となっている。

図1 成長率とインフレ率の変動から見る景気循環と株価循環
図1 成長率とインフレ率の変動から見る景気循環と株価循環
(出所)筆者作成

一方、株価は、「金融相場→業績相場→逆金融相場→逆業績相場→金融相場」という循環を繰り返していく。まず、景気後退の状況において、インフレ、ひいては金利の低下を受けて、投資対象としての株の魅力が上がったことを好感して株価が上昇する「金融相場」が形成される。続いて、景気回復とともに、株価は好調な企業業績によって形成される「業績相場」へという次の上昇局面に向かう。その後、景気の過熱を背景にインフレや金融引き締めに伴って金利が上昇し、金融相場から業績相場へと続いた一連の上昇局面は終焉することになる。株価は、金利上昇による「逆金融相場」、企業業績の悪化による「逆業績相場」の調整局面を経た後、再び、金利低下による「金融相場」という上昇局面を迎える。このように、株価は、景気の底とピークを待たずに転換点を迎える傾向が強く、景気の先行指標として位置づけられる。

中国の株価変動のカギとなる成長率とインフレ率

このような景気循環と株価循環の関係は、中国においても、2006年以降、観測されるようになった。株価は、2006年第1四半期から2007年第4四半期まで、また2009年第1四半期から第4四半期まで上昇し、逆に2008年第1四半期から第4四半期まで、2010年第1四半期から第3四半期まで下落しているが、株価の上昇の二つの局面は、いずれも低インフレ(金融相場)から始まり、高成長(業績相場)を経て、インフレの上昇(逆金融相場)を受けた形で終焉を迎えた(図2)。

図2 中国における株価・GDP成長率・CPIインフレ率の推移
図2 中国における株価・GDP成長率・CPIインフレ率の推移
(出所)CEICデータベースより作成

株価と景気の関係をより厳密に確認するために、2006年第1四半期から2010年第3四半期のデータ(計19四半期)を対象に、上海総合指数(前期比)を被説明変数に、GDP成長率(前年比)とCPIインフレ率(前年比)を説明変数に回帰分析を行った。これにより、上海総合指数は、成長率が1%上昇すれば6.8%上昇し、逆にインフレ率が1%上昇すれば4.6%低下するという結果が得られた(なお、2001年第1四半期から2005年第4四半期を対象に、同じような推計を行っても、成長率とインフレ率の株価への影響は確認できなかった)。

この推計式は、2006年第1四半期から2007年第3四半期まで、また2009年第2四半期から2010年第2四半期までの計12四半期において株価が上昇し、残りの7四半期(2007年第4四半期から2009年第1四半期まで、2010年第3四半期)において株価が下落すると予測している。その中で予測が的中しているのは15回(うち、株価の上昇は10回、株価の下落は5回)に上り、外れているのは4四半期(2007年第4四半期、2009年の第1四半期、2010年第2と第3四半期)だけである。このように、推計式の説明力は極めて高いと言える(図3)。

図3 上海総合指数の推移(四半期ベース)
― 実績Vs.予測値 ―

図3 上海総合指数の推移(四半期ベース)
(注)
   ○:予測値と実績はともに上昇または下落
   ×:予測値と実績は逆の方向に動く
(出所)CEICデータベースより推計・作成

次の株価上昇期は2011年後半以降か

現在、中国は高成長・高インフレという「過熱期」から、低成長・高インフレという「スタグフレーション期」に差し掛かっている。株価循環に沿っていえば、「逆金融相場」の段階にある。今後、景気は「スタグフレーション期」を経て、2011年の後半には低成長・低インフレという「後退期」に向かうと予想される。株価循環も、「逆業績相場」を経て、株価の反騰を意味する「金融相場」の段階を迎えるであろう。

2010年12月28日掲載

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